重力と恩寵 (ちくま学芸文庫 ウ 5-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480082428

感想・レビュー・書評

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  • 重力とは悪しき惰性のことであり、
    恩寵は神から求められることなく与えられる奇跡のことだ。

    思想家というよりは
    はっきりとキリスト教に近い神学の特性を持っている。
    しかし、彼女はキリスト教者ではない。
    ユダヤ人の左派闘士であるという肩書すらついている。

    しかし、一神教の真髄をストイックに追い求めた彼女の姿勢は
    宗教家といって差し支えがない。
    それは神を問わない。

    自らを完全に放棄することは、宗教家にとって
    誤りの多い俗世から切り離すための基本であり、極意であろう。

    しかし、同時にこの滅私は誰を上に据えてもありがたくかしづくものであるかもしれない。
    これは不遜な物言いととられかねないが、
    自らを羊にしてしまう行為と紙一重だ。
    もちろん、愚かな重力には耐えなければならない。
    きちんと自らの足で立つことは大前提であるが、恩寵を一方に据えて
    その奇跡の光が大きく強く見える時ほど難しくなるように思う。


    >>
    知性ほどに真の謙遜に近いものは何ひとつない。知性を実際に働かせているときには、自分の知性を誇るなどということはありえない。そして知性を働かせているときには、人はそれにしばられていない。(p.212)
    <<

    >>
    人間は、エゴイストでありたいと思っているのだろうが、そうであることができない。これこそ、人間の悲惨の何にもまして胸をうつ特長であり、そして、人間の偉大の源泉である。(p.105)
    <<

    >>
    奴隷の状況とは、永遠からさしこむ光もなく、詩もなく、宗教もない労働である。(中略)それがなければ、強制と利得だけが、労働へとかりたてる刺激剤になってしまう。強制には、民衆の抑圧ということが含まれている。利得には、民衆の堕落が含まれている。(p.294)
    <<

    断章の最後は「労働の神秘」で締め括られ、実際の横顔を映し出す解題につづく。
    ここには彼女の思想がその形而上的な強度を
    つねに現実的な地平と結んでいたことを示そうとするものだろう。

  • 私はどうしてもこの女性が好きになれない。シモーヌ・ヴェイユはあまりにも清らかで純粋だ。彼女は生き急ぎ、死に急いでいた。常人の数倍ものスピードで生きた彼女は34歳で死んだ。

    http://d.hatena.ne.jp/sessendo/20100718/p6

  • エックハルトに続いて再読。文庫派なので、カイエは買わない。認識のレベルでなく、現実の苛烈な生活の中で魂の真空化=自己の蒸発を実践して行く様は壮観だけど、コワイよこの姉さん。高野悦子の「二十歳の原点」思い出してしまった僕はダメ男ですか。そうですか。ふと想像したんだけど、この徹底的に下降してゆくことで一発逆転して天上へ離脱していこうとする女性の、日々の生活のメモ群が、現在の日本のweb日記文化の中で展開していたらどうなったろう?故・南條あやのメールサイト(町田あかね時代の方ね)を超えるサイトになったんではなかろうか。おっと、妄想が過ぎたね。

著者プロフィール

(Simone Weil)
1909年、パリに生まれ、43年、英・アシュフォードで没する。ユダヤ系フランス人の哲学者・神秘家。アランに学び、高等師範学校卒業後、高等学校(リセ)の哲学教師として働く一方、労働運動に深く関与しその省察を著す。二度転任。34─35年、「個人的な研究休暇」と称した一女工として工場で働く「工場生活の経験」をする。三度目の転任。36年、スペイン市民戦争に参加し炊事場で火傷を負う。40─42年、マルセイユ滞在中に夥しい草稿を著す。42年、家族とともにニューヨークに渡るものの単独でロンドンに潜航。43年、「自由フランス」のための文書『根をもつこと』を執筆中に自室で倒れ、肺結核を併発。サナトリウムに入院するも十分な栄養をとらずに死去。47年、ギュスターヴ・ティボンによって11冊のノートから編纂された『重力と恩寵』がベストセラーになる。ヴェイユの魂に心酔したアルベール・カミュの編集により、49年からガリマール社の希望叢書として次々に著作が出版される。

「2011年 『前キリスト教的直観 甦るギリシア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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