市場の秩序学 (ちくま学芸文庫 シ 9-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480084170

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  • 経済学を学ぶ人から、経済学は人間の存在を合理化し過ぎているから現実と乖離していて、理論として一見それらしい事を言っているが意味がない、という発言を聞いた事がある。古典派経済学の事だろうが、本著はその経済学の課題に挑戦する。

    実態との乖離で気になった箇所。偶然を考慮した均衡論において経済家庭の調節を担うのは主に予想である。今日の天気やニュースに寄ってビールの在庫がどうなるかを予想すると言うこと。しかし実際の調節は在庫その他の緩衝装置によってなされる。経済が持つあそびの部分は緩衝装置となる在庫以外にも、有休容量あるいは余剰容量と呼ばれるもの。

    一般均衡論では、販売における知識と努力を無視して商人を考慮せず、運搬も考えられていない。また、二財の想定を多財と同様に扱い、二財ならば我々の注意領域にあるが多財に対し、全知全能な行動を取る事は不可能。コンビニで500から1200、スーパーで5万、百貨店で10万から15万の商品数。相対誤差1%で効用最大化を計算するとして、3分で計算可能なのは134品目まで。情報量だけでなく、計算量にも限界がある。

    それなのに、一般均衡論における消費者理論は、価格情報が所与であり全てが消費者に知られていると仮定されているのだ。

    インターネットやDXの浸透により、価格決定プロセスが徐々に全知全能化され、故に一強者への淘汰が進むような気がする。ただ、未だにインターネット以外の流通が存在するのは、やはり、情報のリアリティや安心感を求めての故であり、新車をネットでポチる勇気がない事と同義に、金額や調達の重要度によって商売人の存在の重要性は不変に残るのかも知れない。

  • Getting nowhere?

  • 「複雑系」というと、量子力学や近代物理学を連想するが、これはそれらで活用される知識や方法を、経済学にも応用しようという試みである。「複雑なものを単純化してはいけない」という表題にも顕れている。

    しばしばマクロ経済学、ミクロ経済学では、極めて単純化されたモデルをもとに、議論をすすめる。しかしそれは実体経済と大きく乖離した理論にならざるをえない。当たり前であるが、「貿易のない」「財が二つしかない」など、ありえないのである。
    そもそも、経済学は「合理的な人間」を想定しているが、我々はそこまで合理的な行動を日々しているのか、よく検討する必要するがあるであろう。オーストリア学派はそれに着目して、警鐘を鳴らし続けたようだ。

    著者は途中、囲碁や将棋などを例示しながら「必ず勝ち手はあるが、それを解析するのは宇宙が終焉するくらい時間がかかる」という例を持ち出す。これは実体経済にも云えて、我々経済人はすべての財の情報をもっているはずがない。それをきちんと踏まえたうえでないと、財政政策や金融政策は効果的なものになりえない。

    最近、囲碁や将棋でAIの活躍がすさまじい。我々の経済政策も、人ではなく、AIが行う時代も、そう遠くない未来にやってくるであろう。

  • 第1部 市場の秩序と無秩序(経済の自己形成秩序;市場のみえる手;局所的知識)
    第2部 急進客観主義への迂回(スラッファ『批判序説』の射程;ピエロ・スラッファ―ひと、分配、認識;不況の理論とスラッファの原理)
    第3部 人間と合理性の限界(経済学における人間;「計算量」の理論と「合理性」の限界;反均衡から複雑系へ)
    第4部 複雑系の理論(在庫・貨幣・信用―複雑系の調整機構;複雑系における人間行動)

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著者プロフィール

中央大学商学部教授 研究員

「2014年 『経済学を再建する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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