書物の出現〈上〉 (ちくま学芸文庫)

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制作 : Lucien Febvre  Henri‐Jean Martin  関根 素子  宮下 志朗  長谷川 輝夫  月村 辰雄 
  • 筑摩書房 (1998年11月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480084415

書物の出現〈上〉 (ちくま学芸文庫)の感想・レビュー・書評

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  • リュシアン・フェーヴルとアンリ=ジャン・マルタンによる出版史の草分け、上巻です。

    本書では15世紀の活版印刷の誕生から18世紀に至るまでの出版・印刷について、「誰がどのような本を著作し、どのような影響を与えたのか」という側面ではなく「本の出版に従事していたのはどのような人物であり、どのような環境で出版は行われたのか」という出版業の経済的側面、社会的側面、技術的側面が重点的に明らかにされています。特に上巻では主に書籍の制作についての諸問題が取り上げられています。
    上巻は以下の様な構成となっています。

    ・活版印刷誕生以前の書籍の生産について(序章)
    ・製紙・印刷・植字などの書籍生産技術の発展について(第1・2章)
    ・書体・挿絵・装丁などの書籍デザインの変遷について(第3章)
    ・出版業・印刷業の経営について(第4章)
    ・出版・印刷に携わる人々の社会的地位の変遷について(第5章)

    書籍生産について活版印刷誕生以前と誕生以後の連続性が明らかにされ、本をめぐる世界は活版印刷が誕生したからといって革命的に変化が起きたわけではないことがわかります。中世以来の写本による書物の供給はペシア制による効率的な生産体制と華麗な装飾によって当時の修道院や富裕層の需要を満たしていました。また庶民にとっては活版印刷によって制作された本よりも木版によって制作された挿絵入り本の需要が高い状態でした。つまり活版印刷は当時の書籍生産技術の中の一つに過ぎなかったのです。このため活版印刷による書籍は初期のデザインにおいて、写本並みの品質を目指すことになりました。そのために活版印刷初期の書籍では様々な書体が内容ごとに使い分けられ、人の手による装飾が施されたものが現存しています。この事実は、先ごろ読んだ「百年前の日本語」に記されていた木版から活版印刷へ移行する時期に見られた現象『印刷は手書きを再現するものとしてスタートした。』という事実と重なる部分があります。その一方で徐々に生産技術の向上やデザインの効率化が進むに従って印刷の規範が誕生することも近代日本の状況と似ている物があると思います。
    また、私が最も興味深く読んだのは第5章でした。印刷業者や書籍商といった出版業に参加した人々の仕事の様子や業界内外との交流、さらに出版人がどの程度まで文化育成に貢献したのかなど、社会史的なテーマが取り上げられています。そのなかでは印刷職人が(阿部謹也の著作で見たような)他業種の職人と同じような閉塞した状況にある一方で、知的生産に携わることを誇りにしそのプライドに見合う待遇を積極的に求め当時の労働運動の先端を行くという独特に役割を果たしたこと。また出版人の中には時に経済的な利益を踏み越えて自分の共鳴する思想についての出版活動を行なうために、政治的な迫害や処刑の憂き目に合っていたこと。こういった経済的なシステムに収まらない活動の実態が活き活きと描かれているように思われます。一方で、出版人の文化へのコミットは本業の経済的状況に左右されるという記述は文化と経済の不可分を改めて認識することも出来ました。

    私達が住む現代においては、新聞・雑誌・書籍と多くの印刷物が流通し誰でもそれを手にとって読むことができます。最近ではフリーペーパーも定着してきて、広告以外のコンテンツも無料で手に入れることができるようになりました。一方で人口減による市場の縮小や電子書籍の普及によって出版産業を取り巻く経済的環境は厳しくなっていくと言われています。このような状況の中で今後出版産業はどのように変化し、どのような本が出版されることとなるのか。そのことについて考えるための材料になるのではないでしょうか。

    最後に本書を読んで行くにつけて気になった点ですが、本書に描かれている内容は基本的にはフランスおよびオランダ・ベルギーの事例が中心となっています。技術史的な部分については西欧の中で大きく変わることはないと思われますが、第4章・第5章で取り上げられた出版を巡る社会的状況については、イングランドやドイツ地方と異なる部分が多いと思われます。ですので本書で描かれた出版に関する学際的で多様な視点を他の社会にあてはめてより深い理解を養っていく必要があると思います。

  • 何度目かを読んでいるところ。著者が語るように、読み終わって二度と読み直されない本ではなく、そばにあってまた繰り返し読まれる本でありたいとのことだが、十分にそうなっている。今回は、必要があって、一気に全体を見通せるように読んでいる。アナール学派の特徴を踏まえた、民衆の視点が活きて読み手を引き込む。(2015/10/19)

  • 久しぶりに再訪

  • 1018夜

    非常に読みたい。優先度高い。復刊を待つばかり。

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