身体の中世 (ちくま学芸文庫 イ 23-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480086662

作品紹介・あらすじ

どの時代にもまして、身体を媒介として世界と関わったヨーロッパ中世。この時代、身体の各部位には多彩なメタファーが盛り込まれており、また、身体表現・感情表現には極めて重層的な社会的意味がこめられていた。アナール学派の研究をふまえつつ、多数の図像を用いて、「からだ」と「こころ」に向けられた中世ヨーロッパの視線から、色鮮やかな人間観を緻密に描きだす。

感想・レビュー・書評

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  • 中世ヨーロッパの身体観について、主に社会史の観点から包括的に論じている本です。宗教的な儀礼の身振り、衛生観念や病、刑罰などのテーマについて解説をおこない、さらに感情や感覚にまつわるさまざまな事実を掘り起こしています。

    社会史的な観点からの研究は、一般の歴史愛好家にとっては、数多くの事実に歴史の大きな潮流が見えにくいと感じられてしまうのではないかという気がしています。すくなくともわたくし自身は、しばしばそのような印象をいだくことがありました。もっとも、細部の事実の探求を通じて、それまでの常識にとらわれていた解釈の枠組みが揺さぶられた体験もあるので、一概になじみにくいともいえないのですが。

    著者は「文庫版あとがき」で、「中世人の身体や感情・感覚についての、賑やかなパノラマを読者の前に繰り広げてみせる、というところに一番の比重があるのではなかった」と述べており、「ヨーロッパ中世の身体を体系的に把握してしまおう」という大胆な企図にもとづいています。そして、身体に焦点をあてることによって、中世ヨーロッパの精神史的本質にせまることがめざされています。

    こうした著者の意図そのものは興味深いと感じたのですが、たとえばフーコーの系譜学の試みなどに見られるような、中世の身体観の中軸的な枠組みについて、理論的な側面からの考察に踏み込んでほしいと感じました。

  • ●構成
    はじめに
    Ⅰ 身体コミュニケーション
    Ⅱ 身体に関する知・メタファー・迷信
    Ⅲ からだの<狂い>とこころの<狂い>
    Ⅳ 感情表現の諸相
    Ⅴ 五感の歴史
    おわりに
    --
     本書は、ヨーロッパ中世における多様な「身体」の捉え方を通じて、「時代と地域の特質を考察する」(p.9)ものである。
     人々の身振りやスポーツなどの動作、また衣服や化粧などの外面的な装いを、著者は「身体コミュニケーション」と定義する。これは、キリスト教教会に従属し規定されていたヨーロッパ中世の様々な生活共同体の中で、これらが表象する物や意味を与えられる。また、身体及び身体各部位をミクロコスモスと捉え、これらをメタファーとした、教会世界などのマクロコスモスとの対比を提示する。
     心身の異常、感情、感覚の各論においても、教会と世俗(宮廷)の倫理を中心に、両者の差異や対立の中で各コードの意味を解読する。「からだ」だけでなく「こころ」もまた、イデオロギーとなり得る。
     平易な文章で、類書に比べて読みやすいが、時折「アレゴリー」や「分節」といった学術用語が登場する。ヨーロッパ中世における社会史やイコノロジーに興味がある人にどうぞ。

  • どの時代にもまして、身体を媒介として世界と関わったヨーロッパ中世。この時代、身体の各部位には多彩なメタファーが盛り込まれており、また、身体表現・感情表現には極めて重層的な社会的意味がこめられていた。アナール学派の研究をふまえつつ、多数の画像を用いて、「からだ」と「こころ」に向けられた中世ヨーロッパの視線から、色鮮やかな人間観を緻密に描き出す。(裏表紙より)

    身体各部位のシンボリズム、感情表出(expression)について、また五つの知覚の歴史など。

  • 文章が読みやすい。簡潔な文章で、妙な言い回しも、気取った文句もない。ただただ、飽きさせることなく簡潔な文章を書いていくこの人の本は好きだ。これだけ中世の身体を通した世界観を語った本は本当に珍しい。中世の人々は、身体(五感、精神、身体の各部位)を通してどうやって世界を認識していたのか。世界の認識だけの本、あるいは身体的なメタファーやフォークロアを扱った本は沢山あるけれど、この二つを混ぜ合わせた研究書を私は読んだことがなかった。

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著者プロフィール

東京大学名誉教授

「2022年 『歴史学の作法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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