シュルレアリスムとは何か (ちくま学芸文庫 イ 24-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480086785

作品紹介・あらすじ

現実に内在し、ときに露呈する強度の現実としての超現実-シュルレアリスム。20世紀はじめに登場したこの思想と運動について、ブルトンやエルンストを中心に語り、さらに「メルヘン」「ユートピア」へと自在に視野をひろげてゆく傑作講義。文学・芸術・文化を縦横にへめぐり、迷路・楽園・夜・無秩序・非合理性などをふたたび称揚するとともに、擬似ユートピア的な現代の日本を痛烈に批判する。いま、"幻想を超えて生きるには"。

感想・レビュー・書評

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  • ミロ展を観に行って、なにやら可愛らしいけど全然分からないや、と思ったので本書を購入。

    美術で使われている言葉というイメージがあったので、もともと自動記述から始まったものだということに驚いた。

    「私」が記述の速度の中で溶けて、オブジェクトが並べられていく…好きな小説作品がそんな感じだなと思って、ミロを読み解く手がかりにするつもりが、意外にも自分の好きな作家に思いを致すことになった。

    自動記述には少し神おろし、神がかり的な印象を抱く。
    なんだろう、考え抜いて作り込んだもの…というよりはひと呼吸のうちにどこかから湧いてくる…というような。
    それが主観か客観か、というのは難しいなと思う。あくまで「書き手が」「見る」ものだなあと。

    並べられたオブジェクトって、なんなんだろう。
    速度の中でバラバラになった世界の断片が言葉やモチーフとして現れ出てくるかのような。

    すごく読みやすくて、はじめてシュルレアリスムの定義に触れる私にはありがたい1冊だった。
    『シュルレアリスム宣言』も読んでみようかなと思う。

  • 現存するシュールは,どうも「シュルレアリスム」とは別物のようで,じゃあ本物の「シュルレアリスム」は何かと言われても,なかなか明快な例は思いつかない。現代では幻想ばかりが摂取され,ブルトンのいう思想は淘汰されてしまったのだろうか,わからない。

    シュルレアリスムの解説書としては,明らかにわかりやすく易しい本である。実際にはシュルレアリスムの他に,メルヘンとユートピアについてもシュルレアリスムの延長線上に説明される。

    あえていうなら,わかりやすいゆえに危険な本に類いするものだと思う。シュルレアリスムの誤解を解こうというのは良い,しかしこの手の記述は著書の思う世界そのものへと引き込んでしまうことを念頭において読むべきだろう(ユートピアと現代日本の批判のあたりで大体気づくだろうが)。

    本書は入門書であるには違いないが,学術書としてはおそらく機能しない。本来の意味でのシュルレアリスムを知りたいのであれば,まずはブルトンの著書に目を通すべきであろうし(それで幻滅する可能性は大いにある),その派生系の流れを自分で辿る必要がある。その辺りは酒井健「シュルレアリスム」が一つの参考として挙げられる。

  • あとがきで巖谷さんも述べていますが、本書『シュルレアリスムとは何か』では、そのダイダロス的迷宮としてのシュルレアリスムにおいて、ミノタウロスの姿こそ見せたものの、その全貌は明らかにされていません(要は宙吊り)。
    確かに、語り始めるときっとキリがないのでしょうが、それでも十分にレリーフしてくれているので、とってもためになるしありがたい本でした。
    そして、なんと言っても特徴的なのは、この本が講義の内容を文字に起こしたものだ、ということで、その内容自体が幾分か「自動筆記」的であって面白いんですよね。「シュルレアリスム」「メルヘン」「ユートピア」と話題を転じて論じながらも、巖谷さんの言う連続性が垣間見えるような気がして、読み物としても興味深かったです。

  • とてもわかりやすく、読みやすい本だった。美術の知識がほぼ皆無の私にもよく理解でき、読み終わった後には良い満足感を味わうことができた。シュルレアリスム=超現実、この意味を様々な例を交えた上で説明されていたのでスッと頭に入る感覚で読み進められた。
    最後の章のユートピアについては歴史とかなり深く関係しているようで少し複雑に感じたが、それは私の理解力と知識不足。

  • シュールレアリズムではなくて
    シュルレアリスム
    分かりやすく、読みやすい本です。

  • ■シュルレアリスム
    ×写実的な表現を否定
    ○オブジェクティブ=客観を押し出した思想。
    ※シュール・レアリスムと思われがちだが、切るとすれば、シュルレエル=超現実、椅子無=主義とされるべき。なので、日本で使われる、「シュール」という言葉はもはや意味が違ってしまっているようである。ちなみに、超現実と言うのは、超スピードみたいなもので、過剰だというだけであって、現実とは別物といった意味合いではないようである。そのため、あくまで現実との「連続性」をもったものが、シュルレアリスムであるとされる。

    「自動記述」:シュルレアリスムの主要要素の一つ。アンドレブルトンなどが実践。ひたすら文字を書き続け、そのスピードを加速させてゆくとやがて簡潔かつ主語のなくなった文が出来上がる。ある意味、集合的無意識にでも到達したかのような一文である。

    「デペイズマン=転置」:シュルレアリスムのもう一つの主要要素。コラージュ、レディメイドのオブジェなど、既成のものを置き換える、といったことによってシュルレアリスムを表現している。

    ■メルヘン
    =フェアリーテイル=妖精物語=おとぎ話。
    ※妖精→運命の象徴。
    ≠童話
    ※童話とは、十八世紀以降の概念。そもそも、それまでは大人と区別されるべきでの子供がいなかった。いたのは小さな大人としての子供。そのため子供のための物語=童話はおとぎ話とは性質が異なる。

    ⇒メルヘンとはそれこそ集合的無意識による産物と言える。それこそ、狩猟時代や旅と言ったように、かつての我々の「記憶」が語り継がれているものである。ありふれた展開と表現しかないが、その分心理描写などもない。淡々と物語が物語られるわけだが、ありふれているのに消えないのはそれが我々の根底にある記憶だからなのではないか?世界各地に似たようなおとぎ話がある理由=集合的無意識=我々の太古の記憶。
    ※ちなみにメルヘンの特徴として、「非限定」というものがある。つまり、時代は昔であればいつだっていいし、登場人物も誰だっていい。昔々あるところに木こりがいました。というとき、昔はいつか特定されず、木こりも誰だか特定されえないのである。

    ≠寓話
    ※メルヘンには寓意=教訓はまるでない。

    ☆メルヘンの自我のなさ⇒シュルレアリスムの自動記述とリンクする?

    ☆フェーリックと、ファンタスティック。
    フェーリック:我々の世界とは完全に異なる仕組み。別の世界に行く。
    ファンタスティック:我々の世界と同じ世界に異質なものが生じる。目の前に、突然、化け物が現れる。
    ⇒そのため、フェーリックな物語を読んでも我々は驚かないし、ファンタスティックなものを読めば驚きうる。といった点で、おとぎ話=メルヘンはフェーリックな作品と言える。とすれば、この点はシュルレアリスムと異なる。シュルレアリスムはあくまで現実世界に異質なものが乱入するイメージなのでいくらかファンタスティック寄りとも言えるが、著者的には、もはやブルトンの自動記述によって記されたものはフェーリックとして捉えられるらしい。その点には納得できるが、そうすると、シュルレアリスムは現実とはまるで性質の異なるものとなってしまうわけだから、非現実的だという風に撮られてもおかしくない気が?


    ■ユートピア
    ちなみに、西洋と東洋で、性質がまるで違うようである。
    東洋:フェーリックな世界。つまり、まったりのんびりとした空気の桃源郷。⇒女性原理。
    西洋:管理社会。法や区画が整備された社会。⇒男性原理。
    ※著者は、西洋のユートピアが体現された社会こそが現代の日本社会だと考える。
    ※ちなみに、西洋のユートピアはトマスモア以前に、プラトンなどでも描かれている。
    ※ユートピアは管理社会なので、「個性」はあってはならない。数値などで均一化され管理される。
    ユートピア⇔迷路。
    ※実際には、プラトンなどが管理された国家という意味でのユートピアを唱えたのは、逆に管理国家が侵害される危機があったから、とも考えられる。

    ☆サドとフーリエ
    サド:悪い意味でのユートピアの体現者。管理社会を推し進めれば、人間は「部品」になる。人間が組み合わさって椅子になったり歯車になったりするが、これは明らかに嫌なものである。つまり、ユートピアも推し進めれば最低なものとなることを証明。『ソドムの百二十日』
    フーリエ:ユートピアをすべて徹底的に無邪気に肯定。すべてを宇宙的に捉える、さらには、性なども開放する、といった具合に、つまり、全てを徹底的に自由に開放してしまえばむしろそれこそむしろ徹底的に管理されているとも言える、自由であればあるほど自由はなくなるのである。という、二つの極みを貫いたのがサドとフーリエ。


    ■考察、感想。
    著者の視点は鋭くそういった意味では面白い。この一冊は、シュルレアリスムで統一されるようである。ユートピアを乗り越えるものとして、あるいは対置されるものとしてシュルレアリスムは考えられるし、シュルレアリスムの土壌としてメルヘンが考えられる、とすれば、この三つは繋がってくるという意味合いで三題囃は成功しているとも言えるが、著者は基本的にストーリーを考えずに話をされるそうで、そのせいでか知らないが、結局作者が何を伝えたいのかがさっぱりわからないという結果となっている。純文学ならこれでいいのだけれども、教養図書としてはたしてそのスタンスはどうしたものやら?と感じる、評価が真っ二つに分かれそうではある。まあ、シュルレアリスム理解の柱をくれたのはありがたいけれど。自動記述とデペイズマン。つまるところ、客観性による現実打破。だが、それが、フェリックに繋がっていくとしたら、連続性はどこへといくのか?だがそれが太古の記憶へとつながるのなら、確かに今の世界システムとは異なるがかつてあったであろう世界システムという意味で、歴史的に連続しているとも言えるのか?そしてそれは常に現在=ユートピアと対置されうる性質をもちうるのか?とまで考えるとなかなか面白味のある議論だよね。

  • シュルレアリスムに興味をもったときに一番最初に読んだ一冊。
    最初のシュルレアリスムの項目はとても分かりやすい。
    語り口調で書かれており、親しみやすい本だった。

  • 博覧強記の著者が、文学や美術に留まらずメルヘンやユートピア思想に材を取って、シュルレアリスムの解説を試みた書。シュルレアリスムに対する基本的なイメージはつかむことが出来た。

    「理性を介さない裸のままの自我/世界」(=超現実) i.e. 存在の全体性 を志向し、それを現前させようとする芸術運動。自らの理性を解除して生(なま)のままの世界に向かおうとする「自動記述」や、世界を覆う理性的秩序の被膜に驚異と共に裂け目を入れようとする「デペイズマン」(一種の異化作用)など、多様な実験的手法を試みた。非/前理性的な夢・無意識・狂気・幼児性・未開原始文化・オカルティズム etc. への関心を有する。

    個々の話に対する独立的な興味はそそられるものの、思想的なレヴェルでは、僕はシュルレアリスムに対して魅力を感じない。しばしばダダは美術史に於いてシュルレアリスムの露払いに貶められている感があるが、思想的な徹底性という点では、寧ろシュルレアリスムこそダダの中途半端な後退形態といえないか。勿論、シュルレアリスム運動の芸術領域に収まらぬ広範な影響力、及びそこから生まれた多くの魅力的な作品に対する評価は別にして。

    シュルレアリスム画家として分類されるマグリットだが、その作品に顕われる彼の「自己意識」に対するアイロニカルな構えは、多分にダダ的ではないか?

  • これは面白かった!シュルレアリスムについては本当に概要しか知ることが出来ず、十分に理解したとは言えないが、そこから広がりを見せ、メルヘン、ユートピアから様々なことを知ることが出来た。この一冊からさらに本の広がりを持つことが出来ると思う。

  • 「シュルレアリスムとは何か」、「メルヘンとは何か」、「ユートピアとは何か」について著者の語った講義記録。アリスのワンダーランドの様に入り口がある訳ではなく、「現実」と思い込まれているものと連続している「超現実」。強度にあまりにも没頭すると、何処か別の世界に連続し、そのままそちらへ行ってしまうかもしれず、死の欲求さえ生まれてくると言う自動記述。過去でも現在でもなく、物と物、概念と概念が脈絡なく併置されている状態という、謂わば無秩序なオブジェ世界が生まれる。アナグラムもそうだと思うのだが。客観が人間に訪れる瞬間を捉えるのが、シュルレアリズムの文学や芸術のあり方と言う事。アナグラムに興味のあるワタシは、日本語という文字は自動記述やアナグラムには向いていないのかな、と考えてしまった。

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著者プロフィール

1942年東京生まれ。東大大学院修了。仏文学者、批評家、エッセイスト。明治学院大学名誉教授。著者に『シュルレアリスムと芸術』他、『澁澤龍彦の時空』など、訳書にブルトン、ドーマル、エルンストなど多数

「2018年 『澁澤龍彦の記憶』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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