知覚の呪縛―病理学的考察 (ちくま学芸文庫)

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著者 : 渡辺哲夫
  • 筑摩書房 (2002年2月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480086808

知覚の呪縛―病理学的考察 (ちくま学芸文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 「S」と呼ばれる重篤な統合失調症患者の言葉を通して、彼女の住んでいる世界のありようを分析する試み。著者の理論上の立場については詳しく知らないが、本書を読んだ限りでは、ベルクソン哲学に依拠するE・ミンコフスキーの立場に近いように思った。

    Sは、自分を取り巻く知覚世界は実在性を持たない「ワラ地球」、そこに登場する人間たちは「ワラ人間」であり、本当の世界である「オトチ」に帰りたいと述べる。「オトチ」は、Sの知覚現場である今現在を超えた、いっさいの存在が位置する実体的な世界であるらしい。

    またSは、「オトチ」へと帰るために、直径2、3メートルの円環を描きつつ歩き回る「トグロ巻き」という行動をしばしばおこなう。著者はみずから「トグロ」を巻いてみることで、みずからの眼前に広がる平板な知覚的世界が流れ出し、知覚と運動の連続体に合流してゆくことを発見する。

    こうした著者の議論は、ベルクソンの「持続」に関する考察を思い起こさせる。ベルクソンの「持続」とは、瞬間的な知覚と連続的な運動を張り渡すような概念である。私たちはそのつどの瞬間的な知覚世界に生きているのではなく、「純粋記憶」という膨大な過去を背負いつつ、この現在の知覚世界の中にさまざまな力線を描き込みながら行為しているとベルクソンは考える。これに対してSを取り巻く世界は、彼女が「トグロ巻き」の運動をおこなうことで辛うじて持続の緊張が実現されるものの、それをやめてしまうとただちに弛緩した瞬間的現在の知覚世界に巻き戻されてしまうことになる。そうした平板な現在の中に閉じ込められた彼女にとって、純粋記憶は現在の運動との生き生きとしたつながりを断ち切られて、「死んだ世界」である「オトチ」へと変貌してしまったのではないだろうか。

    本書のタイトルである「知覚の呪縛」は、こうした平板な「現在」に閉じ込められてしまうことを意味しているように思われる。

  • ある精神分裂病患者と医者のやり取りを記した、個人的といえば個人的な文章なのだけど、その内容には普遍性を感じます。現実世界とは?常識とは?価値観とは?
    医学知識の全くない私にも理解でき、医学書というよりはまるで哲学書の様相。

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