筆蝕の構造: 書くことの現象学 (ちくま学芸文庫 イ 26-1)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480087348

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  • 烏兎の庭 第一部 書評 1.11.03
    http://www5e.biglobe.ne.jp/~utouto/uto01/yoko/hisshokuy.html

  • 私たちの書く文字は、いくつもの字画から成っている。それぞれの字画は、起筆・送筆・終筆によって形成されている。これらが文字を構成し、文字が語を構成し、句、節、文章へと連続している。だが、私たちが「文学」について語るとき、言いかえれば書かれた言葉の内容について語るとき、文字を構成している字画や運筆にまで議論を及ぼすことはない。「文字を書く」という行為は、美術的観点ないし人格的観点からのみ語られる。ワープロ・パソコンの普及は、こうした傾向にいっそう拍車をかけている。だが、ほんとうに「文字を書く」ことは、私たちの紡ぎ出す言葉の内容とは関わりを持たないのだろうか。

    著者は、私たちが「文字を書く」場面に生じている出来事を、〈筆蝕〉という言葉で表現する。私たちは、摩擦に逆らって尖筆で文字版を刻り込みながら、鉛筆の芯を紙に押し付けながら、あるいは毛筆に含ませた墨汁を紙に吸い取らせることで紙を穢しながら、文字を書く。私たちが文字を書く現場で起こっているこうした出来事、私たちが自然の抵抗に逆らって痕跡を刻み付け、自然を蝕む出来事を、著者は〈筆蝕〉と呼ぶのである。

    その上で著者は、私たちが意識的・無意識的に、紙の抵抗を感じたり、ペン先の引っかかりを覚えたり、毛筆のしなやかな運びを感じたりしている、この〈筆蝕〉の場面こそが、私たちの思考の成立現場にほかならないと主張している。

    そうだとすれば、文字・語・句・節・文章のレヴェルと、筆触・運筆・字画のレヴェルを区別して語ることは適当ではない。著者は、ふつう「文体」と訳されてきた「スタイル」(style)という言葉を「書体」と訳することで、〈筆蝕〉から生まれる「スタイル」が構成する表現の美質を論じる視座を切り開く試みをおこなっている。

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著者プロフィール

書家。京都精華大学客員教授。1945年福井県生まれ。京都大学法学部卒業。1990年『書の終焉 近代書史論』(同朋舎出版)でサントリー学芸賞、2004年『日本書史』(名古屋大学出版会)で毎日出版文化賞、同年日本文化デザイン賞、2009年『近代書史』で大佛次郎賞を受賞。2017年東京上野の森美術館にて『書だ!石川九楊展』を開催。『石川九楊著作集』全十二巻(ミネルヴァ書房)、『石川九楊自伝図録 わが書を語る』のほか、主な著書に『中國書史』(京都大学学術出版会)、『二重言語国家・日本』(中公文庫)、『日本語とはどういう言語か』(講談社学術文庫)、『説き語り 日本書史』(新潮選書)、『説き語り 中国書史』(新潮選書)、『書く 言葉・文字・書』(中公新書)、『筆蝕の構造』(ちくま学芸文庫)、『九楊先生の文字学入門』(左右社)、『河東碧梧桐 表現の永続革命』(文藝春秋)、編著書に『書の宇宙』全二十四冊(二玄社)、『蒼海 副島種臣書』(二玄社)、『書家』(新書館)、作品集に『自選自註 石川九楊作品集』(新潮社)、『石川九楊源氏物語書巻五十五帖』(求龍堂)などがある。

「2022年 『石川九楊作品集 俳句の臨界 河東碧梧桐一〇九句選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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