暗黙知の次元 (ちくま学芸文庫 ホ 10-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480088161

作品紹介・あらすじ

人間には、言語の背後にあって言語化されない知がある。「暗黙知」、それは人間の日常的な知覚・学習・行動を可能にするだけではない。暗黙知は生を更新し、知を更新する。それは創造性に溢れる科学的探求の源泉となり、新しい真実と倫理を探求するための原動力となる。隠された知のダイナミズム。潜在的可能性への投企。生きることがつねに新しい可能性に満ちているように、思考はつねに新しいポテンシャルに満ちている。暗黙知によって開かれる思考が、新しい社会と倫理を展望する。より高次の意味を志向する人間の隠された意志、そして社会への希望に貫かれた書。新訳。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は暗黙知の定義に始まり、それが新しい知を創造するシステムであることが説明され、最終的には生命の進化を司る基本原理というところまで議論を進めている。
    単に言葉に表されない知識というだけでなく、生命の進化、人類の倫理、科学の自律的発展という大きなテーマに関連づけるところに、哲学者マイケル・ポランニーの野心を感じる。本文150ページ程度なので、時間のある人は是非読んでみてほしい。

     マイケル・ポランニーはスターリン主義に心底ウンザリして暗黙知の研究に取り組むようになった。現在我々は資本主義の負の側面に心底ウンザリしている。マイケル・ポランニーのような偉大な哲学者が新しい思想を展開してくれることを期待する。

  • 知に対する暗黙的認識についての、著者の考えをまとめた、(たぶん)哲学の本。1967年に刊行された原書の2003年版訳。個人的趣向や集団認識が無意識的に最先端の科学研究に与える影響や、認識形態の上位概念・下位概念の関係が不可逆ではあるが上位概念はそれのみでは成り立たないこと、それらが複合的に合わさっている科学基盤、などなど。暗黙知を認識することが、見せかけの完全主義から脱却し、さらなる知の渇望へとつながる、らしい。

  • 本書は形而上学の復権を目指した本である。著者はスターリン時代のソ連において経験主義的唯物論が全体主義の道具になるのを目撃した。著者は新たな形而上学の基礎を存在論ではなく生命論に求める。物質的要素を総合する暗黙的な知が存在する。それは創造性の根源であり、生命進化の推進力となったものである。物質主義に対して生命的形而上学を措定しようとする試みは、ベルクソンの哲学と類似する。最後に著者は意識の発生や道徳の進歩の基礎を生命論に置こうとする。経験・実証主義哲学に対する異議申立てを試みた非常にラジカルな哲学書である。

    近代科学は中世神学と結びついたアリストテレス形而上学を論破することから始まった。しかし物質主義的経験論は人間の横暴や残虐を諌める力を持たなかった。宗教も形而上学も死んだ近代で、人類は何を拠り所として生きるのか?その答えの一つとして提示されたのが生命哲学である。

    本書は本来であれば数巻にも及ぶ大著となるべき内容をわずか100ページ余りに圧縮して記述している。これだけの内容をコンパクトに記述した知性とその熱意には感服せざるをえない。

  • 暗黙知を簡単に言えば基本的に言語の外にある理解、語れなくとも自分の中に内在化されている知の事だが、より詳細には私たちが何かを知ろうとする時、既に内在化された知と関連付けられ、言語外のうちに包括的に統合されていくそのプロセスそのものだと言う事ができる。暗黙知そのものは包括的理解であり、それは分析し明示的統合を目指す科学的方法と相反するものだが、暗黙知がなければ科学的発展の為の問題設定が行えないのだという指摘はゼノンのパラドクスを克服する。未だ理解の途中だが興味深い論点が多数存在しており、議論されるべき名著。

  • 「分かった」のが何故か「分からない」――そんな”知”の形に名前を与えるとしたら、まさに「暗黙知」なのかもしれない、と思わせる一冊。

    要旨をまとめれば、学問や研究のみならず、どのような分野においても「はっきりとは目に見えていない何か」を感知する能力(=暗黙知)を人間は備えており、それを信じ追うことで、わたしたちは新しい実りを得て社会を発展させてきた、ということである。ある意味で、「言語化できないもの/根拠づけや立証がされていないもの」を軽視してはいけない、という現代人への警告ともとれる。

    ほんの150ページ程度だが、哲学的エッセンスが凝縮されており、一読だけでは味わいきれない深みがある。
    個人的に読みながら思ったのは、外山滋比古『思考の整理学』と少し似た趣がある、ということ。学問とは、研究とは、焦ってはいけない、早急に成果を求めてはいけない、そんな、まさに手さぐりの繰り返しなのだということを、読みながら頭の中で反芻した。

    分野としては「哲学」に入るのだろうが、読みこめば、進化論であり宇宙論でありと、どんな風にも捉えられるテクストである。
    学問・研究に携わる人なら、おそらく必読。そうでなくても、具体例を引きながら説明している部分は、難しい理論なしに「そういうこと良くある!」と思えるところがきっとあると思うので、ぜひ読んでみてほしい。

  • 暗黙知というと野中郁次郎だが、同じ暗黙知を使っているとはいえポランニーと野中とではかなり認識がちがうのかなーと思う。

    野中の暗黙知の区分は、現時点で言語化されているかいないかというところにあるんじゃないかと思う。今は暗黙知であっても、何らかの操作によって将来的には(ある程度)言語化できるわけで、潜在的な形式知予備軍と言えるもの。だから、SECIモデルのようなサイクルが出来上がる。

    それに大して、ポランニーの暗黙知は、そもそも言語化が非常に困難なもののように思える。言語化されうる知識とは別の次元で、言語化されるどころか意識化すらもされない知識が知識が背後に控えていて、それが言語化された知識をささえている。そして、その背後にある暗黙知は常に更新されつづけていくし、暗黙知自体がさらなる知識を志向するというような考えでいいのだろうか。

    最近、経済・経営系の本ばかり読んで頭が慣れてしまっていたので、読むのにかなり苦労した。、この理屈がどの程度妥当な理論なのかまではよくわからないけど、知識がどのように志向されるのか、そしてどう獲得されるのか、という視点からは示唆が多くて面白かった。

  • 「暗黙知」や「創発」など、なかなかエヴィデンスの得られにくい事柄というのは、世間に認知されにくいのかもしれない。
    しかし、新鮮な視点を感じた。

  • 諸要素を包括して理解することが「暗黙知」の原理であり、それはより高次のものへ進化する基礎をなす。また高次に向かう志向性こそ進化の本質であるとポランニーは述べている。
    この志向性は今西進化論に通ずるものを感じる。

  • 人の顔全体は覚えているが、目や鼻などの各部位だけを見させられても、それが誰かわからない。しかし、その目や鼻が、その人の部位だということは(自覚できないにも関わらず)知っている。
    もし本当にその部位が誰のものか知らないのなら、それらの部位を組み合わせた顔全体を見ても、誰の顔か分かるはずがないからだ。
    この奇妙な状態を表したのが暗黙知だ。

    暗黙知は、言語化が困難で、場合によっては「知覚していることを知覚していない」ことすらある(本書ではそれを実証する実験例がいくつか掲載されている)。だからといって「知覚していないと思っていることは、知覚していないことと同一ではない」というのがポイントだろう。

    本書によると、暗黙知は、高次元の対象(顔全体)を知覚することによって「はじめて生じる」、1つ低次元の対象(目や鼻)の知覚のことである。
    「はじめて生じる」というところがポイントで、顔全体を見ようとしないと、暗黙知は生じない。
    もちろん目や鼻をそれぞれ「非暗黙知的」に知覚することはできるけれど、それは「顔」という全体性についての「意味の破壊」(≒ゲシュタルト崩壊)を引き起こし、顔全体の知覚を不可能にする。

    こういった暗黙知を解説しているのが第1部、暗黙知の働きを「創発」として論じているのが第2部、暗黙知から人間の探求活動そのものを論じているのが第3部だが、2部以降は難解。けれど、1部だけでも十分に読む価値はある。

    個人的には、個別単体は、組み合わせることにより「総和」以上のものを生み出すのだろう、という気がしているし、実際にそういったことは社会で多く起こっている。
    数学における「1+1=2」という最も根本的な理論が、生命や社会においても成り立つのかは疑問だ(本書でも、非生物と生物の問題がとりあげられている)。

  • tacit demensionについて勉強。ここはゲシュタルトとともに非常に納得だったが、そのあとのヒエラルキーや進化論、創出に対するナイーブさも目についた。量子力学みたいな概念の安易な社会科学へのアナロジーも、ソーカル以来の問題かと思う。でも、全体としては読み応えありました。

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