八月の砲声 下 (ちくま学芸文庫)

  • 筑摩書房
3.70
  • (12)
  • (19)
  • (23)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 304
感想 : 18
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (452ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480088680

作品紹介・あらすじ

1914年6月28日、サライェヴォに響いた一発の銃声がヨーロッパに戦火を呼びこんだ。網の目のような条約で相互に結ばれた各国指導者たちは、開戦準備に奔走する一方で戦争回避の道を探るが、戦火は瞬く間に拡大する。情報の混乱、指導者たちの誤算と過信。予測不能の情況のなかで、軍の用意していた戦術だけが既定方針として着々と実行され、世界は戦争の泥沼に沈んでいった。-第一次世界大戦の勃発に際し、政治と外交と軍事で何がどう決定され、あるいは決定されなかったかを克明に描いてピュリッツァー賞に輝いた、戦争ノンフィクションの傑作。下巻は戦局の転回点となったマルヌ会戦の後まで。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「歴史家はまず語り手でなければならない」と著者は言う。確かに、ただ単に歴史的な事実だけを並べても、それは歴史を語ることにはならない。もちろん、それには語り手の恣意的な解釈が入る余地もあるのだが、それも歴史というもののある一面であることにはまちがいはないのである。

  • SDGs|目標16 平和と公正をすべての人に|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/738271

  • タイトルの通り1914年の8月からの1ヶ月を中心に第一次大戦を描写する。マルヌ会戦のくだりも量は少なくその後は戦争は膠着していくと綴る。第一次世界大戦の概況を理解するには少し違うのかな。ただ戦争がどう始まっていったか、短期決戦を目論んだ両陣営がどう泥沼に進んでいくかのさわりは分かるかもしれない。どこがピューリッツアー賞なのかはあまり分からない。しかし前にも書いたがこの時代の戦争は難しい。技術がすごい勢いで進んでいく。この戦争の初期の頃は飛行機は主に偵察用でパリに数個の爆弾を落とすだけだったが、1945年には飛行機で原爆を落とすのだから科学の進歩は恐ろしいし、如何にすごいスピードで技術開発が進んだかもよく分かった。何万人という軍を動かすのは難しい。しかも無線などの装備が陳腐だと本当に難しい。兵の状況や敵軍の状況を理解して作戦を立て実行するのは難しい。

  •  本書『八月の砲声』は、ピュリッツァー賞を獲得したバーバラ・タックマンの代表作。

     上巻に続く下巻では、まず西部戦線の状況から描かれます。
     ドイツのベルギー侵攻を確認したフランスは、とうとう対独作戦計画「プラン17」を発動します。アルデンヌ地方を打通して一気にベルリンを落とす確固たる決意を固めたフランス軍でしたが、そこで見たのはなんと自軍を上回るドイツ軍の壁でした。

     それから舞台は東部戦線へ移ります。ドイツの総動員により兵力が続々と西部に移るのを確認したロシアは、フランスとの約定を果たすために「19号計画」を発動、レネンカンプフとサムソノフの率いる二個軍の大軍勢が東プロイセンに雪崩を打って攻め込みます。
     しかしそこでドイツにおける二人の将軍の歴史的な邂逅が果たされます。
     のちに参謀本部のトップとなりその後のドイツ軍快進撃の原動力となりつつも、最終的にドイツ帝国を「棺桶」に導くことになるヒンデンブルクとルーデンドルフの名コンビです。
     二人は東プロイセンはタンネンベルクで、ロシアに対する歴史的勝利をおさめます。

     その後舞台は再び西部戦線へ。
     ドイツ軍の大波に押されまくるフランス軍とイギリス派遣軍。フランス軍内では参謀長ジョフルと第五軍司令官 ランルザックとの作戦を巡る激しい論争が発生し、パリに迫るドイツ軍を前に政治家たちも大きく動揺・混乱します。
     イギリス派遣軍を率いるフレンチをはじめとした将軍たちは、迫りくる敵の大軍に殲滅される悪夢が日ごとに現実性を帯びる中で、本国に逃げ戻るか、それともあくまでフランスとともに戦い抜くかの選択に苦悩します。

     しかしドイツ軍の内実も順風満帆ではありませんでした。
     参謀長の小モルトケはフランス軍の動きから包囲殲滅失敗という不安な影に常に怯えます。
     そして神出鬼没でその規模もわからない不気味なイギリス派遣軍に頭を悩ませます。
     それに加えて、想定よりもかなり早いロシアの侵攻に大きく動揺。
     事前作戦計画においては「東プロイセンをロシアに取られても構わない」と割り切っていたものの、現実にロシアの侵攻を目の当たりにしたドイツ首脳たちは「ドイツ発祥の地」を奪われる可能性に大きく動揺します。

     「パリ失陥は避けられない・・・」、フランス政府がとうとう首都の遷移を決断する中、劇的な展開が発生します。ドイツ軍の最右翼で、フランス軍を殲滅させる「死神鎌の切っ先」であるクルック第一軍がパリを目の前に突如進軍方向を変更します。
     ちょうどパリ防衛司令官に任命されたばかりの「運命の人」ガリエニは、側面を暴露したクルック軍への総攻撃を決意。これに同意したジョフルは将軍たちに呼びかけます、「紳士諸君、マルヌで戦おう!」。

     物語の本編はここで終了します。「マルヌ奇跡」と呼ばれた、あの有名な会戦の戦闘経過は詳しく語られず、「マルヌ会戦後」という第一次大戦の概観を語った小さなサブタイトルで大まかに述べられる程度です。
     しかしそれでもこの下巻もかなり読みごたえがあります。
     訳者のあとがきでは、「・・・私は仰々しい説明よりも、小さな事柄を探求したい。哲学者であるよりは、語り手でありたい」というタックマンの言葉が紹介されています。このスタンスは上下巻通じて貫かれています。
     歴史的人物たちの一挙手一投足、その精神の揺れまでを詳細に語らんとしている筆致には異様な臨場感を感じることができます。そしてこれが「仰々しい説明」以上にドラマチックな印象を感じさせ、読者を作品にのめりこませる効果があると思います。
     
     上巻と同様に、やっぱり情報の恣意的な引用が散見されますが、それを補って余りある大変面白い名作だと思います。

  • 第一次世界大戦はドイツ軍の優勢で進んでいたが、ドイツ軍の進路が急に変わったことで、フランス軍に起死回生のチャンス・・・これがマルタ会戦。

    しかし、ドイツ軍のベルギーでの蛮行。
    第二次世界大戦がクローズアップされることが多いけど、いつの時代も戦争はろくなことがない。

  • とても面白かった!知的興奮,第一次世界大戦に対して認識を深める名著

  • 第一次世界大戦の発端から初戦を描いた戦記ドキュメント。上下巻で長いし、登場人物は多いが、とても読みやすくそして何よりも面白い。戦争の趨勢よりもその状況に陥った時に垣間見える、フランス人気質、ドイツ人気質、イギリス人気質の違いが何よりも面白い。

  • 歴史
    軍事
    戦争

  • え!?講和会議までいかないのかよ!?
    という衝撃が凄まじかった。
    何と、ドイツ軍が最初の撤退を行う会戦で終了とは…。
    ただし、その戦いがあったからこそ、イギリスもフランスもドイツも、そこから未曾有の大長期戦に巻き込まれていったのかということが良く分かった。

    ベルギー人はドイツ人のこと許せたのか…?と疑問に感じられるレベルで虐げられている。この後にナチスが生まれるんだから、20世紀中旬まで、ドイツは世界の悪役だったんだなあ…と思ってしまった。
    上巻よりはテンポ良く読めるが、歴史の続きが読みたい!!

  • 「ロシアは反動の典型であり、イギリスは利己主義と背信の、フランスは頽廃の、そしてドイツは進歩の典型である。」

    ドイツはマルヌで負けた。しかし、退却が素早く行われ完敗には至らなかった。そして、長い塹壕戦に突入する。一般民間人は戦争の影響外に置かれるべきではない。戦争の圧力を感じなければならない。

    モルトケは捕虜の少ないさに違和感を覚えた。進行しているはずなのに、捕虜が少ない。ならば、退却した敵兵はどこかにいる、と。クルックはパリ入場の希望を兵士に与えた。異常な行軍には希望が必要なのだ。しかし、クルック部隊はその側面をフランス軍に見つかる。

    各人の野心が入り交じった展開。

全18件中 1 - 10件を表示

バーバラ・W・タックマンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×