新編新宗教と巨大建築 (ちくま学芸文庫 イ 35-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (375ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480090812

作品紹介・あらすじ

天理教、金光教、大本教など19世紀に立教した新興宗教から、真光教、パーフェクト・リバティ教団などの戦後の新宗教にいたるまで。なぜ近代以降の宗教建築は、いかがわしく不気味なものと見なされてきたのか。その建築・都市計画を読み解き、神道・伝統仏教における建築や、海外新興宗教の都市計画とも比較する。建築批評の第一人者である著者が、日本の歴史・社会において新宗教という他者に向けられてきた視線を克明に描き出し、大きな話題を呼んだ表題作に、増補・書下ろしを加えた増補決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 7月に天理の街を見に行って「宗教建築とか宗教都市って面白いよなぁ」って思ったので読んでみた。

    19世紀以降に生まれた新宗教では、どんな時期に、どんな意図で、どんな建築が造られてきたのかを仔細に調査してまとめた本。私はただの好奇心で「奇怪な」宗教建築を見るのが好きなんだけど、この本の著者はそういう怖いもの見たさではなく、先入観を捨てて丁寧に取材している。

    天理教の聖地「ぢば」に建つ神殿や、瓦屋根のビル群「おやさとやかた」については特に詳しく解説されている。似たような時期に生まれた金光教や大本教についても、天理との比較を交えて語られている。

    「真光」系列の宗教の神殿はどこもかなり独特なそり返った屋根を持ち、不思議な形をしているが、これは真光が生まれる母体となった大本教の遺伝子を受け継いでいるらしいってのが面白かった。今の大本教の建築はわりとスタンダードな和風のものなのだけど、戦前に強い弾圧を受けて破壊される前の、出口王仁三郎が直接関わった建築はかなり独特だったらしい。…見てみたかったな。

    オウム改めアレフの建物についても実際に取材して紹介している。事件以降世間からの風当たりがたいへん厳しくなっており、意外にも取材や撮影については比較的オープンな姿勢のようだ。

    明治以降の神社建築や寺院建築の流れについても取り上げている。関東大震災の後、神社を耐火性のコンクリート造にしようという話も出たが結局木造のままだった、とか、寺院建築の方が新しい建築技法を柔軟に取り入れた、とか。

    海外についても、ベトナムのカオダイ教やアメリカのモルモン教の聖地を取材している。カオダイ教はホーチミンのついでにツアーで見に行ったことがあるのでとても興味深く読めた。アメリカのソルトレイクシティは「20年ぐらい前に冬季オリンピックやってたよね」っていうぐらいの認識しかなかったけど、砂漠の真ん中にモルモン教徒が一から作った街なのだと初めて知った。ここも一度見に行ってみたいな…。

    いろいろと好奇心を満たしてくれる、他にはないタイプの本だった。

  • 2007-00-00

  • 天理教やPL教団、大本教など国内の新宗教を中心に、教義や教団の沿革など参照しながら、彼らの建築や都市計画を、読み解いた一冊。たんに建築物を評論するだけでなく、社会と宗教の関わりについて切り込んだ内容になっている。

    いちばんページ数を割かれているのは天理教。その都市計画は圧巻で、天理市にある「甘露台」という聖地を中心に、約870m四方に68棟を建て巡らすという広大な「おやさとやかた構想」を1954年から進めているそうだ。2014年の時点で26棟ができているそうで、日本では宗教建築以外では考えられないプロジェクトではないだろうか。そりゃあ、天理市の名前の由来にもなるわな……。見てみたくなった。

    弾圧された大本教も面白い。建築物はすべて燃やされて、いまは残っていないものの、デザインはアッパーでやばい。出口王仁三郎のエピソードもいちいちテンションが高く、怪人ぶりが伝わってくる。あと、丹下健三が同時期に手がけたオリンピック競技場と創価学会の大石寺本堂を比較しながら、デザインの類似性と評価の違いを指摘しているのは、スリリングだったな。

    比較対象として、近代以降の寺社や戦前の植民地に建てられた神社、海外の事例としてモルモン教などが紹介されているのもよい。さまざまな新宗教の概観がざっくりと記されていて、新宗教のガイドとしても読める。オウムの施設に言及した章もあり、サリン事件の実行犯が死刑されたいま(2018年夏)のタイミングで読むのにぴったりだった。

  • 目の付け所が面白い!
    もっと最近の宗教も扱ってくれると、なおよかった。

  • 国内・海外の主要新宗教の生い立ちを建築を中心に書かれてる。
    文中に
    「単なる成金の豪華な建築ではなく施工の精度も高い」
    ってあったけど、なるほど確かに。

    各教団の「空間」のとらえ方は興味深いし、
    教祖を失った信者にとって、そういった空間、
    どこよりも豪華で統一感と個性のある建築が存在するというのは
    凄く心の支えになると思った。

    個人的に見てみたいのは
    天理の「おかえり」の空間はもちろんのこと、
    世界真光文明教団の主座世界総本山御殿、
    金光教の福岡高宮教会。
    んでハワイの金閣寺と平等院。

    モルモンの「白い夜」の儀式は衝撃的だったし、
    ヴェトナム行く前にカオダイ教マスターしとけばよかったーと思った。

  • 新宗教は何故巨大建築を創るのか?そもそも、建築史の世界では新宗教の創る建築物を殆ど評価していないではないか。何故か。「新宗教と巨大建築」(講談社現代新書)と「近代の神々と建築」(廣済堂出版)の二冊を一冊に纏めた本著は、建築の専門分野においても、あるいはマスコミレベルでも穿った見方しかされてこなかった新宗教について、建築の評論家が宗教の視点から考察した宗教と建築や都市計画の関係性を分析したもの。結局「新宗教は何故巨大建築を作るのか?」という命題には回答は無く考えるヒントが提示されている程度で終わってしまっているが、とにかく今までこのような視点から分析したものが無かっただけに面白い一冊でした。

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著者プロフィール

1967年パリ生まれ。東北大学大学院工学研究科教授。博士(工学)。建築史・建築批評。1992年東京大学大学院修了。ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2008日本館コミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術監督。
主な著作に『過防備都市』(中公新書ラクレ、2004年)、『建築の東京』(みすず書房、2020年)、『様式とかたちから建築を考える』(菅野裕子との共著、平凡社、2022年)がある。

「2022年 『増補版 戦争と建築』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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