日本語と日本語論 (ちくま学芸文庫 イ 11-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480090904

作品紹介・あらすじ

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」という『雪国』の冒頭を、ある訳者は"The train came out of the long tunnel into the snow country."と訳した。英語表現では汽車が焦点となるが、私たちは描かれざる主人公をイメージする。ここで「主客合体」の状況が起きるのだ。本書では、さまざまな日本語話者好みの表現を取りあげ、その背後にある「こころ」の働きに目を向ける。主観性や主語の省略現象、複数表現、「モノ」「トコロ」を軸とした事態把握などから、「日本語らしさ」とは何かが解き明かされる。認知言語学の第一人者が洞察する、日本語の本質。

感想・レビュー・書評

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  • 文庫本の割には難しい箇所もあるが、分からない箇所は流し読みして分かりそうなから読めば得るところはそれなりにあるだろう。

    とりわけ、単数と複数をめぐる議論は興味深く、elephantにも単複同形の用法があり得ることや、逆にdeersという規則変化複数の例など、要するに話者が対象を主体的にどう見るのかの問題に集約されることが明らかにされていく。

    最低限の英文法の知識は前提となっているし、使われる言葉には日ごろからこうした話題に接していなければ難しいものも含まれるが、一度目は分かるところだけ読み、二度目以降で流し読みした箇所を読み直せば理解できる内容だし、そのようにしても読む価値は十分にある良書。

  • 【書誌情報】
    『日本語論と日本語論』
    著者:池上 嘉彦[いけがみ・よしひこ] 言語学。詩学。
    解説:野村 益寛[のむら・ますひろ] 言語学(日英語を対象とした文法・比喩研究)。
    出版社:筑摩書房
    シリーズ:ちくま学芸文庫;イ-11-2
    定価:1,430円(税込)
    Cコード:0181
    刊行日: 2007/09/10
    判型:文庫判
    ページ数:384
    ISBN:978-4-480-09090-4
    JANコード:9784480090904

    備考:『「日本語論」への招待』(講談社 2000年)を改題・文庫化。
    初出:『言語』(大修館書店)1991年4月-1992年3月号 

     本書では、さまざまな日本語話者好みの表現を取りあげ、その背後にある「こころ」の働きに目を向ける。主観性や主語の省略現象、複数表現、「モノ」「トコロ」を軸とした事態把握などから、「日本語らしさ」とは何かが解き明かされる。認知言語学の第一人者が洞察する、日本語の本質。
    [https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480090904/]


    【目次】
    目次 [003-011]
    はじめに [015-020]

    第一部 日本語と日本語論 021

    外から見た日本語・内から見た日本語 023
      一 「日本語論」と「日本人論」 
      二 外から見た日本語 
      三 〈悪魔の言語〉としての日本語 
      四 「日本語論」 
      五 いわゆる「うなぎ文」をめぐって 
      六 「日本語論」としての「日本(語)論」 

    「談話」としての日本語〔人〕論と日本語〔人〕論批判 044
      一 「日本語〔人〕論」のストラテジー 
      二 「日本語〔人〕論」批判のストラテジー 
      三 「主張」と「批判」のすれちがい 
      四 「日本的」な〈説得〉のテクスト 

    言語類型論と言語の〈類型〉 056
      一 言語の〈類型〉 
      二 〈一般化志向的〉な類型論 
      三 〈分類志向的〉な類型論 
      四 〈個別言語志向的〉アプローチ 
      五 〈一般化志向的類型論〉と〈個別言語志向的〉 

    方法論の問題 075
      一 ベネディクトの文化の〈型〉 
      二 〈形態〉の規定に向けて 
      三 〈類型を挙げる〉という操作 
      四 〈具体の科学〉という彼岸 
      五 構造的概念としての〈相同性〉 
      六 発生的概念としての〈相同性〉 
      七 〈反例〉の重み 
      八 〈記述〉対象としての〈恣意的〉な言語 
      九 〈説明〉対象としての〈動機づけられた〉言語 
      一〇 〈恣意性〉と〈動機づけ〉のせめぎ合い 

    文法的範疇としての〈数〔すう〕〉 103
      一 〈数〉がないということ 
      二 〈双数〉の意味 
      三 〈数〉の対立の中和 
      四 客観主義的な見方の限界 
      五 〈数〉の用法の揺れ 
      六 〈個体〉の〈連続体〉化と〈連続体〉の〈個体〉化 
      七 メトニミー的過程(1) 
      八 メトニミー的過程(2) 
      九 〈部分〉‐〈全体〉と〈具体〉‐〈抽象〉 
      一〇 主体的把握としての〈単数〉と〈複数〉
      一一 〈数〉のカテゴリー化の習得 
      一二 〈名詞〉の本質的な〈不可算性〉
     
    〈名詞〉から〈動詞〉へ 155
      一 〈モノ〉の数と〈コト〉の数
      二 〈個体〉と〈回数〉の相互乗り入れ 
      三 〈出来事〉以外の〈コト〉
      四 基数詞と序数詞 
      五 〈基数詞〉の無徴性〈序数詞〉の有徴性 
      六 〈個体〉の複数〈回数〉の複数 
      七 〈量〉や〈程度〉に関わる複数 
      八 〈近似的な〉複数 
      九 日本語の複数表現 
      一〇 〈コト〉志向的表現としての〈数量詞遊離〉 

    第二部 〈モノ〉と〈トコロ〉――その対立と反転 203
      一 〈有界的〉な〈モノ〉と〈無界的〉な〈トコロ〉 
      二 〈無界性〉と〈部分〉・〈未完了〉 
      三 〈トコロ〉の二面性と〈身体性〉 
      四 〈モノ〉としての身体と〈トコロ〉としての身体 
      五 〈モノ〉としての概念化と〈トコロ〉としての概念化への反転 
      六 逆方向への反転――〈モノ〉から〈トコロ〉へ 
      七 〈モノ〉としての概念化と〈トコロ〉としての概念化の相対性 
      八 文化レベルでの相同性 

    第三部 日本語の主観性と主語の省略 259
      一 ラガナ氏の戸惑い 
      二 主語の〈省略〉ということ 
      三 主語の〈省略〉と美意識 
      四 〈文法的な主語〉〈心理的な主語〉 
      五 〈話題〉と〈既出情報〉 
      六 明示することの義務制と任意性
      七 言語学での扱い方――〈復元可能性〉 
      八 〈ダイアローグ的〉談話と〈モノローグ的〉談話 
      九 〈話し手責任〉と〈聞き手責任〉 
      一〇 〈話し手にとって復元可能〉と〈権威〉 
      一一 〈話し手にとって復元可能〉と〈自己中心性〉と〈甘え〉 
      一二 〈話し手にとって復元可能〉な典型的事例 
      一三 言語世界の頂点としての〈話す主体〉 
      一四 〈ゼロ〉表示の〈話す主体〉 
      一五 〈定冠詞〉と〈ゼロ冠詞〉 
      一六 〈一人称〉表現の特権的扱われ方 
      一七 〈感覚〉、〈感情〉の表現 
      一八 「行ク」と「来ル」 
      一九 〈主観的把握〉の拡張 
      二〇 〈メトニミー的〉拡張と〈メタファー的〉転移 
      二一 〈自己〉の拡大への制約 
      二二 〈主体〉と〈客体〉の融合 
      二三 〈主客合体〉の美学 
      二四 体験的な臨場感覚へのこだわり
      二五 〈環境論的な自己〉へ 
      二六 〈場所〉としての自己 
      二七 言語表現での人間の〈場所化〉 
      二八 〈コト〉と関わる〈トコロ〉 
      二九 〈身体性〉との関わり 
      三〇 〈場所化〉と〈自発〉――そして〈創発〉 


    あとがき(二〇〇七年六月 池上嘉彦) [339-343]
    参照文献 [344-351]
    文庫版あとがき(二〇〇七年六月 池上嘉彦) [352-361]
    解説 野村益寛(北海道大学大学院文学研究科西洋言語学講座准教授) [362-375]
    索引 [i-v]

  • 第1部 日本語と日本語論
     外から見た日本語・内から見た日本語
     談話としての日本語〔人〕論と日本語〔人〕論批判
     「談話」としての日本語〔人〕論と日本語〔人〕論批判
     言語類型論と言語の〈類型〉
     方法論の問題
     文法的範疇としての〈数〉
     〈名詞〉から〈動詞〉へ
    第2部 〈モノ〉と〈トコロ〉ーーその対立と反転
    第3部 日本語の主観性と主語の省略

  • 日本語と外国語(英語などのヨーロッパ語)を比較することで、日本語の特質や言語の普遍性をあぶり出す。入門書としては歯ごたえがありすぎるけど、面白い一冊。

    はじめは、「記号論への招待」や「文化記号論」のような入門書かと思って手にとったのだが、入門書としてはちょっと歯ごたえがありすぎた。でも、最後まで読んで行けば部分的にでも面白い話題は絶対に見つかるはず。

    例えば、英語学習を経た身としては可算名詞と不可算名詞の違いは一体何なのか?という話。受験英語だと闇雲に「これは可算、これは不可算」と暗記することもありがちだが、これは人間が認識対象をどのように認識するのかという認知の問題に関わる問題なのだということが鮮やかに説明されている。また、日本語文の一人称が<語る主体>と<語られる客体>を分化させず、両者が一体となったような叙述の仕方をするという議論も、英語と対象すると非常に面白い。

    他にも、日本語の複数表現について考えてみたり、本来は物を表す表現が場所を表す表現に転化する現象を分析したりと、豊富な分例で言語の世界っの奥行きを見せてくれる。もう少し文法について勉強してからまた読んでみたい一冊。

  •  難解な内容。おそらく4割くらいしか理解できていない。それでも、難しい内容を繰り返し読むうちに、日本語話者が好む言い回し、というのがなんとなく見えてきて、日本語話者のもののとらえ方などがみえてくる。これを認知言語学というけれど、人が認知するもの、もののとらえ方が言語にある程度支配されているということが、ちょっと見えてくる。
     かなり難しい文章ではありますが、読み応えは抜群。一節読み解くごとに賢くなった気がします。

  • 080816(s 081130)

  • 難しいけど役に立つ。なるほど!と思える日本語論。

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著者プロフィール

1934年、京都市の生まれ。東京大学で英語英文学、イェール大学で言語学専攻。現在、東京大学名誉教授、日本認知言語学会名誉会長。インディアナ大学、ミュンヘン大学、チュービンゲン大学、ベルリン自由大学、北京日本学研究センターなどで客員教授、ロンドン大学、カリフォルニア大学バークレー校などで客員研究員。Longman Dictionary of Contemporary English(3rd ed.),『ロングマン英和辞典』の編集で校閲者。著書に『意味論』『「する」と「なる」の言語学』(大修館書店)、『記号論への招待』『ことばの詩学』(岩波書店)、『〈英文法〉を考える』『日本語と日本語論』(ちくま学芸文庫)、『英語の感覚・日本語の感覚』(NHKブックス)など。言語学研究書の翻訳、論文多数。

「2022年 『ふしぎなことば ことばのふしぎ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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