横井小楠 (ちくま学芸文庫 マ 33-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480093189

作品紹介・あらすじ

幕末最大の思想家横井小楠。ペリー来航という欧米近代の外圧に対して、たんなる開国や攘夷ではなく、仁政という儒学的理想によって内外の政治的状況を具体的に批判し、政策を立案し実行しようとした。「堯舜孔子の道を明らかにして、西洋器械の術を尽くさば、なんぞ富国に止まらん、なんぞ強兵に止まらん、大義を四海に布かんのみ」。その目的のための実学思想は武家政権を根底から否定し、坂本龍馬や高杉晋作をはじめ、多くの人びとにはかりしれない影響を与え、明治日本の礎となる。幕末維新期の複雑な思想状況や込み入った人間関係のなかで、小楠の思想と生涯を見事に描き切った名著の決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 幕末の思想家、横井小楠の評伝。オリジナルは1976年刊で、それに補論を順次つけたしていっている構成。

    一応は名の通った人物ではあるものの、幕末では比較的地味な存在ともいえる小楠なのだが(よってオビも龍馬や晋作の思想的源流を謳ってアピールしている)、その考えていたことのスケールの大きさというか、ちょっと時代の枠をはみだしているところが面白い。あまりにも理想主義的な人物なのだが、反面、けっこう実際の政治のなかで折り合いながら活動しているところも興味深い。その人物の面白さもあるし、そんな人物が表舞台で腕をふるえた幕末という時代の面白さもある。ただ、肥後の下級武士で問題児にすぎなかった小楠が、なぜ越前藩の藩政に参画するまでの名声を得られたかがいまいち分かりにくい。その学問が評価されたということではあろうが、どうもそこがハラ落ちしなかった。

    著者はだいぶ粘着気質のようで、小楠のこまかな行動の日付にもこだわりを見せている。それ自体はこっちとしてはどうでもいいのだが、そういう粘りが地味な人物にスポットライトをあてる仕事につながるのだろうな。

    ・小楠は朱子より後の朱子学者に対して批判的であるし、後期にはその思想が朱子学の枠におさまりきらなくなるが、根本的には朱子学者である。「実学」を重んじ、学問と政治を直結させることを志していた。西洋の技術に対してもすごくオープンな態度。

    ・文久二年の松平春嶽を補佐しての幕政改革論議にて
    <blockquote>おそらくこの時、小楠だけが、地位も係累もなにも持たず、思想そのものとして動きまわっている(p220)</blockquote>

    ・朱子学の思想のうち「居敬」についてはほとんど関心を示していない。つきつめれば武士廃止論者であった。

    ・「実学党」というのは反対派(学校党)からの当てこすりだったが、小楠らが開き直って自称したのでますます反対派が怒ったというのが著者の見立て。

    ・朱子学は幕府の公式学問だったが、それをすなおに解釈・実践すると世襲否定=幕府否定につながる。

    なかなか一筋縄では解釈できない感じも残った。儒学とか明るくないし。『江戸の思想史』と照らし合わせてみたり。

  • 松浦玲 「 横井小楠 」

    幕末の思想家 横井小楠(しょうなん)の伝記。維新の英雄と比較すると かなり地味だが、武士でありながら 武家社会そのものを否定し、儒教による文治主義国家(王道政治)を目指した姿勢は もっと評価されていいと思う


    小楠は、攘夷か開国かの議論には入らず「有道の国とは交際せよ」という有道無道論を展開。天地の道に沿っているなら国境なんて関係ない というグローバルな視点を持っている。



    著者の論調は、明治維新以後の日本は ヨーロッパの覇道帝国主義に陥ったものであり、小楠の目指した王道政治と離れていってしまったというもの


    著者が維新の英雄たちでなく、横井小楠を取り上げた理由は、小楠の王道政治を実現できなかったことが、もしくは、小楠の路線を継ぐ後継者を育てられなかったことが、その後の日本を大きく変えたと思っているからではないか?


    儒教における士農工商の士の意味は 侍でなく、儒教を勉強した官僚であることを初めて知った。士が侍でないとすると、儒教国家のイメージが大きく変わってくる。






  • 横井小楠の生涯だけでなく、ややもすると分かり難い小楠の思想、歴史的な意義等を大変深く、また論理的に解説している。
    歴史の事実の押さえもあり、軸を外していない。まさに名著だと思う。

    『小楠は最後まで儒学者であり、その儒学的理想を日本に実現し、世界に広げようと念願し続ける政治家であった』

    小楠の『国是七条』や『国是十二条』は、坂本龍馬の「船中八策」や由利公正起草の「五箇条の御誓文」を先駆したものとして有名。
    また、越前藩のために『国是三論』も書き、「天・富国」「地・強兵」「人・士道」の三論を訴えた。

    以下引用~
    ・東方の文化は王道であり、西方の文化は覇道であります。(孫文)
    ・儒教でいう四民すなわち士農工商の「士」は、「さむらい」ではない。読書人であり読書人中から選ばれて官僚となったものを指す。
    ・小楠の実学は、儒教とりわけ朱子学を、その教えのとおりに研究し実践しようというのである。そうして、近世日本でそれをやれば、武士社会の否定の革命的大運動になってしまう。
    ・小楠は、はじめからしまいまで、有道・無道論であって、鎖国か開国かという二者択一論には一度も与していない。
    ・高杉晋作が奇兵隊を組織するのも、小楠的武士否定論の系譜を引くとみてほどんどまちがいないのではあるまいか。

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