東京の昔 (ちくま学芸文庫 ヨ 12-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 182
感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (242ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480093479

作品紹介・あらすじ

幾千年かの歴史の中で、人間というものはどれだけ進歩し、どれだけ洗練することができたのだろうか。下宿先のおしま婆さん、自転車屋の勘さん、帝大生の古木君、実業家の川本さん。いずれも味のある登場人物を相手に、おでん屋のカウンターや、待合、カフェーで繰り広げられる軽妙洒脱な文明批評。第二次大戦に突入する前の、ほんのわずかなひととき。数寄屋橋が本当に橋で、その下を掘割の水が流れていた頃の、慎ましやかで暮らしやすい東京を舞台に、人間と人間の社会を論じた、吉田健一最晩年の珠玉の一篇。

感想・レビュー・書評

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  • 『時間』を読んだ時にも感じたことなのだけれど、吉田健一という人はほんとうに鋭利な知性を持った書き手だと感服させられる。この『東京の昔』でも、その知性の持ち主だからこそなしうるダイナミズム溢れた思考を繰り広げ、狭い日本や人間の一生といったスケールを軽々と飛び越えた発想でこちらを魅せる。吉田健一自身が国際派だったからなしえたことと言われればそれまでだが、それ以上に彼にとってどこか(日本という島国・自分という肉体)に縛り付けられる発想はリアルではなかったのではないか。ゆえにこの本は読んでいてこちらを相対化させる

  • 問題が発生した。まさかの、小説、であった!
    読み終わって解説を読むまで小説だとは露ほども思わない。
    完全に随筆だと思い込む。
    ああ、これが「『私』小説」のトラップ!
    こういうの読んじゃうと、ホントどの「私」も信じらんない、私不信に陥ってしまいそうだ。
    また、このタイトルが。「東京の昔」って。完全にエッセイ臭を漂わせているじゃないか。トラップだよ、トラップ。

    随筆だと思って読んでいたので、この人(私が思い込んでいた吉田健一氏)のコミュニケーション能力の素晴らしさにあっけらかんとなってしまっていた。
    近所に住む自転車屋の勘さんや、自分より一回りも年下の仏文科の学生・古木君なんかと、ちょろんと出くわし、ぺろんと酒を酌み交わし、友だちとも知り合いとも違う、かといって呑み仲間でもない、なんとも言えない豊かな関係を築き上げる。
    そしてお金持ちで色々とやっている元雇い主(かつては家庭教師もしたことがある、『私』である)の川本さんにも勘さんの自転車の相談で会いに行ったり。
    気付いてみれば、季節の移ろいとともに、最後の方では彼ら四人で食事をし、酒を呑んでいる。豊かな関係。
    『私』が引き合わせ、広がっていく関係である。

    『私』たちは、人生を楽しんでいる。それもかなり意識的にだ。
    今を生きている、というようなフレーズが何回出てきただろう。
    『私』は仕事はしていない。時々コーヒーや紅茶を売りさばき、ちょっと前までは自転車を改造して売りさばいていた笑。
    羨ましい。
    何をするというわけでもない、「寂しかった池をもう一度見に行く」ことが予定になったりする。
    何をするわけでもない、けれど暇で退屈というのとは違うのだ。
    彼らは自分の時間を持っている。
    自分の人生の過ごし方をしっかりと心得ているのだ。

    すごく豊かな小説であった。
    吉田健一という人は吉田茂の息子だそうだけれど、何だか腑に落ちるような落ちないような感じ。
    「生活」が描かれていて、私はとても好きだ。
    こんな風に人の生活を感じたい。
    ので、吉田健一の戦後生活三部作的なもの(『瓦礫の中』『絵空ごと』『本当のやうな話』)を読んでみようと思い立つ。
    それから『交友録』というのも読んでみたい。
    マジコミュニケーションが分かるかも知れない。

    長い人生でちょいちょい付き合っていきたいと思える、良い作家に出会えたことに感謝!

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/738213

  • 作中、会話の端々に散見される外国と、『思い出す』ことで語られる"昔の"東京。その対比に物理的且つ時間的な距離を感じてしまう。
     街のことを考えている。街の上には営みがあり移ろう季節があり、過した歴史がある。むかし戦争で焼けた一軒の家で交わされた家族の会話は確かめようがないが、今俺が住んでるアパートの、向かいの家の庭で花をつけた植物の名前も知らない。知りようのない家族の会話と、俺の知らない植物の名前と言うのが俺が、ではなく君が、と言い替えることは恐れがある。ただその恐れすら乗り越えられるような気がする。
    これらを担保するのは安いロマンチシズムではなく、確かな実存をそこに見出す事ができるからではないかとそんな事を考えている。
    って俺が言うのが東京。君がいるのがフランス。昔俺が京都で作った歌の中には「フランスってのは一体どこにあるんでしょうね」から始まるのがあって、すごくそれを思い出した。
    そんな小説ではないけれど。

  • 幸福書房にて

  • 15/04/18、ブックオフで購入。

  • 国語辞典、漢和辞典、英和辞典で言葉を調べながら読みました(笑)。

    浅学な私としては、読み始めのころは、少々衒学的文章ではないかと思ってしまいましたが、日本とヨーロッパの文明・文化の比較を引き出すうえで、必然的にああいう書き方になったのだと途中から思いました。

    少ない登場人物のお酒を交えての他愛無い会話が、戦前の東京の風情をうまく醸し出されていました。

    効率・効果・成果主義と暮らしにくくなった現代人としては、こんな暮らしやすい時代が日本にあったのかと思い知らされました。

    講談社学術文庫の「あそびの哲学」で紹介されていた本ですが、吉田健一氏のあそびの本質がびっしり詰まった本を読むことが出来て幸せでした(笑)。

  • 時は二つの大戦の狭間、場所は東京本郷の信楽町(たぶん架空)。そこに住み集う者らの交遊録。のんびり豊かな時代を感じる。人情と機知もある。案の定吉田健一の文はヘンテコで「なんじゃこりゃ?」と理解が及ばないことがままある。けど読み進める。この流れに揺蕩う心地よさを寸断させるのは以ての外。酒をちびちび呑みながら読むがいい。一体どっちに酔っているのだか混濁を味わうがいい。自転車屋の勘さん、帝大生の古木君、社長の川本さん、下宿屋のおしま婆さんもすぐそこに居そうで、幽玄の彼方で朧にもなる。この酩酊感は病みつきになろう。

  • 「ゆるい読書会」の課題図書で。確かにユルいわあ。

    なんか煮え切らない初夏の天候と妙にマッチしてダラダラと読んでしまった。読点のないダラダラとした文でとりとめのない思想?夢想?妄想??が続く・・・

    飲むお酒の種類によって話の内容が変わる、って、うんうん。あるある。

    なのになぜか、ラストだけが妙に爽やかで。^^;;
    古木君、くたくたになるまでパリの空気を吸っておいで~
    bon voyage!

  • これといったストーリーがあるわけでないが、数少ない登場人物の語らいを通して、ひとの幸せってなんだろうかということを考えさせられた。夢を抱いてその夢の実現のために生きている人、いま住んでいる町が好きだから商売も大きくせずにじっとそこで生活をする人、高等遊民でいられる人、彼らがつかの間の幸せな暮らしができた、そんなひと時もこの日本にはあったようである。

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著者プロフィール

1950年生まれ
出生地 和歌山県東牟婁郡串本町大島
大阪芸術大学卒業
投稿詩誌等:大学同人誌「尖峰」「詩芸術」「PANDORA」
      わかやま詩人会議「青い風」

「2022年 『砂宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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