公共哲学 政治における道徳を考える (ちくま学芸文庫 サ 28-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480093875

感想・レビュー・書評

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  • このサンデルという人、昨年NHK教育テレビで放送されて話題になったとか。見てなかったし、全く知らなかった。
    最初一般的な倫理学を扱っているのかと思ったら、著者は政治哲学が専門なので、アメリカの政治状況が詳しく書かれている(第1部)。
    第2部では宝くじ、幇助自殺、妊娠中絶、同性愛といったテーマを次々に扱っていき、ここが一番興味深かったが、どれもごく短い文章で、著者の独自の考えはあまりストレートに伝わってこなかった。
    第3部でロールズが重点的に扱われる。
    ベンサム、ミルのような功利主義的考え方(最大多数の最大幸福など)がアメリカ人の根本にあるように思うが、ロールズはそこに登場し、個人の「権利」を重視する新たなリベラリズムを主唱し、アメリカ社会に多大な影響を及ぼしたらしい。というわけで、ロールズ、偉いらしい。
    ロールズについては『公正としての正義』という、日本オリジナルの論文集を読んだきりだが、『正義論』も今度読んでおこう。

    この本は総じて、期待したほどの内容ではなかったが、冒頭の部分に最も刺激を受けた。

    <政治が国民の人格を形成したり、美徳を涵養したりしようとするのは間違っている。そんなことをすれば「道徳を法制化する」ことになりかねないからだ。政府は、政策や法律を通じて、中立的な権利の枠組みを定め、その内部で人びとが自分自身の価値観や目的を選べるようにすべきなのだ。>(p.21)

    このような考え方が、日本人には欠けている。要するに個人を尊重しないので、リベラリズムが存在しない。いつまでも穏健、保守的な共和主義思想のような感じ。
    かくして日本では、「国旗・国家」の「強制」とか「道徳教育の推進」などという馬鹿げたことがまかりとおっているわけだ。この空気は「帝国」時代から変わっていない。

  • マイケル・サンデルの論文集。エッセンスはアファーマティブ・アクションや同性愛、幇助自殺等であり、取り上げられている理論も主にリベラリズムやリバタリアニズムなので、「白熱教室」等で書かれているものとほぼ同様の内容を扱っている。しかしながら、口語体でない分だけ印象が違うし、また、より直接的なサンデル氏の意見を知ることができる。

    サンデル氏のリベラリズムへの批判自体は説得力があると思うし、正義が道徳上の問題(善)に対して中立的ではあり得ないという点については大きく同意する。しかしながら、正義と善とは切り離せないものだ、というサンデル氏の見方は、理論的に力不足であるように思える。議論を重ねる、それは勿論良いとして、最終的に到達する道徳上の結論を導くための理論構成がもう少し明確にする必要があるのではないだろうか。リベラリズムの「中立的」(=何もしない)という取扱いがあまりに魅力的であるために、この「議論をする」メリットとその手法が明確でないと、リベラリズムの流れを止めることはできないだろう、というのが私の考えです。

  •  「ハーバード白熱教室」と「これからの「正義」の話をしよう」で一躍有名になったサンデル教授の小論集です。
     東日本代震災後に被災地でのモラルある行動や助け合いの精神が世界で評価されましたが、当の日本人からすれば「当然のことをしたまで」という感覚で世界の評価に対してピンとこなかった人も多いのではないでしょうか?近年、市場原理主義の弊害や格差の問題が日本でも話題になっていますが、本書を読むと本場米国での市場原理主義の先進性には驚かされます。また、英国の若者の暴動についても公共道徳が失われていることを原因に挙げる人もいます。
     日本には英米よりも公共性が比較的強く残っているとはいえ、身の回りの出来事をみると同じような道を追いかけているような気もします。サンデル教授の本が話題になったのもそうした風潮を多くの人が感じているからではないでしょうか。この本は主に米国の状況に論じられていますが、今後の日本の社会を考える上でも示唆に富んでいます。
     第一部「アメリカの市民生活」ではアメリカ政治史の中での公共哲学の位置づけの変遷が解説されています。どのように経済の拡大が公共性に影響を与えてきたかが論じられています。
     第二部「道徳と政治の議論」はCO2排出権取引、法廷での被害者の発言権、妊娠中絶等、対立しやすい議論を通じて、これまでの政治哲学の問題点を指摘しています。観念的な議論になりやすい哲学を身近な話題を通じて考えることができます。
     第三部「リベラリズム、多元主義、コミュニティ」は現代社会のベースとなっているリベラリズムの限界について解説するとともに他のコミュニタリアニズムとサンデル教授の違いについても触れています。
      やや難解な部分もありますが「これからの「正義」の話をしよう」を先に読むと比較的分かりやすいと思います。

  • 正義と善の関係性が問題のようだ。
    アメリカの問題ではあるが、そのまま日本の問題である。いろいろ考えさせられた。

  • 著者は、ジョン・F・ケネディ以後、アメリカの民主党はジミー・E・カーター、ビル・J・クリントンしか大統領を輩出していないことから話を始める。その間、民主党の大統領候補はウォルター・F・モンデール、マイケル・S・デュカキス、アル・A・ゴア、ジョン・F・ケリー…といたが、彼らは魂や道徳に関する議論を避け、ひたすら政策論争に時間を割いた。しかし投票者の多くは、魂や道徳に関して投票行動を行っていることを説明する。
    カーターは、前々大統領のニクソンのウォーターゲート事件の煽りで当選したとも言えるが、それ以後の大統領は共和党・民主党関係なく「魂や価値観」をちりばめた演説を行っている。特にジョージ・W・ブッシュが著しい。

    リンドン・ジョンソン大統領以後、「偉大な社会」を掲げて政策を行って来たが、それ以後「手続き的共和国」というように魂や価値観に関する議論に関し、国家は関与しないという姿勢を見せて来た。しかしそうすると、メディアは政治家のあら探しや原理主義者の台頭など、その意味では下らなく、センセーショナルな報道が多勢を占めるようになる。まさしく今の日本に当てはまる。そのような中、全体主義を肯定するような思想も出てくる。その意味でサンデルは、これを肯定して来た「リベラリズム」は貧弱な思想だとはいうが、また同時に不寛容な思想もまた「見当違い」であるとする。

    そこで彼がその一派であるとあるとされる「共同体主義」であるが、彼はそのロールズの正義論の偉大さを説明する。ロールズの生きた1970年代の英米圏の政治哲学は瀕死の状態であり、功利主義が多勢を占めていたそうである。しかし彼はそれは人権を侵害しているとはねのけ、生まれた地位による格差原理を肯定した。

    彼はコミュニタリアンであると云われるが、そのコミュニタリアニズムがその共同体で主流となっている思想を肯定するという意味においては、彼は賛同しないとする。実際「共同体主義」を辞書で引くと、そのように書いてある。
    彼は「正義と善」は連関していることについては肯定するが(相関していないと考えるのはリベラリストである)、そのコミュニティで広く支持されていることや共有されている概念を求めることは、サンデルは批判している。彼の主張は、さらに内在的であり、批判を広く支持し、その正義の目的に応じて正当化される、とする。それはアリストテレスの時代から云われていることである。

    信教の自由や表現の自由は、信じることまたは表現することそれ自体の自己を守ることがリベラリストの主張である。しかし彼らはそれが正しいと思っているから、その行動を行う。ゆえにその目的の判断から、国家は逃れることはできない。なぜならば、その行動によって引き起こされる問題が、他に起因する同じような問題も存在するからだ。

    この本は一部と二部は、「これからの正義の話をしよう」に焼き直しのような内容であるが、三部は彼の思想がそのまま顕れている。リベラリズムに関する記述は、ロールズ以外にもデューイなどの思想も紹介されているが、難解で理解に苦しんでしまった。

    彼がテレビや講義で「何が正義なのか?」と問い続けているのも、この彼の「共同体主義(目的論)」に基づくものであり、彼の姿勢そのものが、彼の信念に基づいた行動であると言えると、私は考える。

  • 少し難しいけどふつーに読める。1章は歴史絡みの話がカタイ(もっと池上さんの本とか読むかな~)
    小論集なのでいきなり2章を読んでも問題はない。ただし、アファーマティブアクションや幇助自殺やもろもろの問題提起がすぱっと明快ではあるけど、あくまでそれを知るだけじゃなく、一章に提示されてるような自己統治の問題に繋げて考えなきゃ意味がない。
    というか、アメリカの公共への市場進出は日本より先を行っててスゴイ。マクドナルドの教科書で学校の勉強…?日本もこうなる日が来るの?

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著者プロフィール

1953年、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリス生まれ。アメリカ合衆国の哲学者、政治学者、倫理学者。ハーバード大学教授。

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