現代小説作法 (ちくま学芸文庫 オ 1-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480096357

感想・レビュー・書評

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  • 1962年刊行というのも驚きだが、読んでもっと驚く。
    「小説に作法なんぞない」「何がいい小説かという基準は存在しない」と最初に語るものの、その解説は実に理論的でうなるほどだ。
    博学なだけではない。熱意にあふれた指南本に学ぶことだらけ。
    あの小谷野さんが褒めているらしいというブク友さんのお勧めで読んでみたが、いけずな私の気持ちは最初の数ページから思い切り吹き飛ばされた。
    大岡さん、失礼しました。あなたは素晴らしい書き手です。

    ノウハウの部分は「主題・書き出し・ストーリー・プロット・主人公・描写・文体」等々のテーマを立てて書いている。
    それぞれに世界中の名作と呼ばれる作品の引用をあげ、それは詳しく論拠を示す。
    日本文学は言うに及ばずフランス文学、ロシア文学、イギリス文学。。。
    え?これ全部読んだの?などと驚嘆の暇もない。
    著名な作品であっても、上手いとは言えない例が続々。
    もうね、ぐうの音も出ないとはこのことだわ。

    「ストーリー」と「プロット」の違いが分かりにくいかと思うので載せてみよう。
    「時間の順序に従って興味ある事件を物語るのがストーリー」で、「物語の順序をあらかじめ仕組むのがプロット」ということ。
    そして、この「仕組む」のが上手い作家を「優れたストーリーテラー」と呼ぶようだ。
    (でも技巧的なのはお好きじゃないらしいが)
    そして人間が組み立てた一番完全なプロットとして「オイディプス王」が紹介される。
    主人公は自ら進んで行動し、私たちにできないことを成し遂げて最期は悲劇で終わるということに、読み手自身も救われるというのが王道だそう。
    更に、主人公には「狡知」が必要で、民衆を満足させる理想型らしい。
    この陰惨な作品がなぜ日本では持てはやされないのか、そこも言及している。

    「文体」の箇所がちょっと興味深いのでそこも引用してみる。
    谷崎の源氏物語を引用した後の解説部分だ。引用の引用になるけど許してね。
    「谷崎潤一郎の文章は、もともと美文系に属し、疵がないのが玉に疵といった種類のものですが、かんでふくめるような平明な文章から、説明と敬語を取ってしまうと、あとには源氏の簡潔な原文が残るということになっているのは皮肉です。
    源氏には文体があるが、谷崎源氏にはそれがないからです。邦文和訳というものは、うかつにやるものではありません。」

    微苦笑が浮かぶというか、溜飲が下がるというか。谷崎かたなし。
    太宰の文体は手放しで褒めるが「甘ったれで子どもっぽい性格」そのままだからという理由。反論できないなぁ。。芥川作品の考察も素晴らしいから、ここだけでも読んでほしいくらい。
    さて肝心の小説作法はというと、主題を中心に置き何はともあれ作法など気にせず書けということに終始している。
    そもそも小説の技巧というものは、小説家という個性を求めなければならない社会的現象が競争した帰結でしかないらしい。

    です・ますの敬体で書かれており、一読すると優し気な口調だが時折鋭いパンチを食らうからなめてはいけない。面白さにご注意あれ。
    小説好きな皆さん、小説の読み方が変わるかもですよ。

    • nejidonさん
      夜型さん、ありがとうございます!
      古典文学レトリック事典は、実はずっと探しております。
      入手したらぜひ読んでみたいです。
      小谷野さんの...
      夜型さん、ありがとうございます!
      古典文学レトリック事典は、実はずっと探しております。
      入手したらぜひ読んでみたいです。
      小谷野さんのレビュー、ありがとうございます!
      これから読んでみますね。ちょっと楽しみ!(^^)!
      2020/11/29
    • 夜型さん
      nejidonさん
      「本にまつわる本」、こうしてnejidonさんに本を紹介して、継ぎ足されていくのが、うさぎがお餅をついてるみたいでたの...
      nejidonさん
      「本にまつわる本」、こうしてnejidonさんに本を紹介して、継ぎ足されていくのが、うさぎがお餅をついてるみたいでたのしいです。
      こねる担当と、臼に突く担当で分かれてますよね。息を合わせながら。

      継ぎの100冊もあっという間かもしれませんね。
      そうしたら、”日めくり愛書”みたいなのができるかもしれませんね。
      コアでニッチな大ヒットアイテムになりそう。
      2020/11/29
    • nejidonさん
      夜型さん。
      小谷野さんは「名著」だと絶賛しておりました!
      小谷野さんと同じで嬉しいという意味じゃなくて、嬉しいです・(笑)
      ああ、私は...
      夜型さん。
      小谷野さんは「名著」だと絶賛しておりました!
      小谷野さんと同じで嬉しいという意味じゃなくて、嬉しいです・(笑)
      ああ、私はお餅を食べてみたいです(*'▽')
      これからも気長に捏ねてついて成型して、大きなものにしていきたいです。
      大ヒットアイテムというにはまだまだお粗末ですが、そんな途方もない夢もみてみたいですね。
      私は次に読む本を迷わずに済むので大助かりです、ふふ♪
      2020/11/29
  • さすが論理明晰な名著
     小谷野敦がほめてゐたので、ちくま学術文庫のを買って読んでみた。
     名著である。
     私は文章読本のたぐひを、谷崎から井上ひさしまで一通りよんだ。たとへば、丸谷才一は、松浦寿輝が群像に書いたとほり《英米系の教養に偏し》てゐる。また、三島由紀夫の文章読本は、うはべだけ飾り立てることに主眼をおいて、中身がない。筒井康隆の『創作の極意と掟』は、技術的な工夫にしか目がない。
     しかし、大岡の小説作法にはそれらの欠点がない。より実際的に平明に書かれ、小説をつぶさに立体的に捉えた、優れた小説作法である。展開される小説に対する見地が的を射てゐる。たとへば、最終章の「要約」から挙げると

     すべてを知り、すべてを見下す作家の特権的地位というものは現代では失われています。文学における真実の問題もおびやかされています。小説家がいくら社会を描くと威張っても、彼の告げるところは、専門家から見れば、常に疑わしいものです。文章と趣向の必要から来る歪曲は、対象の忠実な「再現」とはいい難い。「彼がこう思った、こう感じた」と書いても「うそをつけ。実はあゝも、感じたろう」といわれれば、それに抗弁する手段は小説家にはないのです。(p.245)

    といふ具合。大岡が小説を、東西問はずひろく丹念に勉強したことを窺はせる。小谷野の《実に見晴らしのいい本である。》といふ評は、そのとほりである。
     地味な題名と装丁のために埋もれてしまってゐるのが、実に惜しい。

  • 実作者として。

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著者プロフィール

大岡昇平

明治四十二年(一九〇九)東京牛込に生まれる。成城高校を経て京大文学部仏文科に入学。成城時代、東大生の小林秀雄にフランス語の個人指導を受け、中原中也、河上徹太郎らを知る。昭和七年京大卒業後、スタンダールの翻訳、文芸批評を試みる。昭和十九年三月召集の後、フィリピン、ミンドロ島に派遣され、二十年一月米軍の俘虜となり、十二月復員。昭和二十三年『俘虜記』を「文学界」に発表。以後『武蔵野夫人』『野火』(読売文学賞)『花影』(新潮社文学賞)『将門記』『中原中也』(野間文芸賞)『歴史小説の問題』『事件』(日本推理作家協会賞)『雲の肖像』等を発表、この間、昭和四十七年『レイテ戦記』により毎日芸術賞を受賞した。昭和六十三年(一九八八)死去。

「2019年 『成城だよりⅢ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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