スモールワールド・ネットワーク〔増補改訂版〕: 世界をつなぐ「6次」の科学 (ちくま学芸文庫 ワ 16-1)

  • 筑摩書房
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480097378

感想・レビュー・書評

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  • ダンカン・ワッツはハヤカワ文庫『偶然の科学』の著者で、本書はあれよりもやや本格的・詳細だが、一般読者向けの書物ではある。
    ミルグラムによる実験で「6次の隔たり」と呼ばれ、半ば神話化した実験がある。遠隔地に居る、接点のない他者をターゲットに、人間同士の直接的コミュニケーションを使っていかにメッセージを届けるか。メッセージは「互いにファーストネームで呼び合う」ほどに親しい知人にのみ手渡していくことが許される。
    ミルグラムの実験では、その半ばはターゲットへのメッセージ到達に成功し、しかも起点からのコミュニケーションの最短距離は平均で「6人分」だったという。
    もっともこの実験は怪しかったらしく、本書でも途中で触れられている。被験者として集められた集団には、明らかに目的に有利になるような属性の者が多数含められていたとか。
    けれども、この「スモールワールド現象」は後の実験である程度確認されたようだ。ただし、常に「スモールワールド現象」が起きるわけではないらしい。
    まだ完成されていない、発展途上という感じの(もしくはそのまま忘れ去られてしまうかも知れない)理論ではあるが、興味を惹くものがある。
    関連して、疫病の伝播や、コンピュータウィルスの感染拡大、経済現象(ヒット商品など)、様々な社会現象の局面に応用することもできる。
    とはいえ、ヒット商品の誕生過程、流行現象については、単に「イノベーション的個人」が先駆けとなるというよりも、マスメディアの報道姿勢が重要ではないかと思うのだが、その点は触れられていなかった。
    この社会学的視点においては、個人は点=ノードではあるが、思うに、「光」と同様、群衆は粒子の並列であると同時に「波」でもある。その「波」の生成とスピードが、伝達・感染のキーワードということになるだろう、と思う。
    インターネットのSNSなどを介してのコミュニケーションに日常頼っている私としては、本書はとても重要な意味があり、示唆される箇所も多かった。

  • ミルグラムの「6次のつながり」から始まり、社会ネットワークが、社会学、情報技術、感染症、停電や災害、経済学、マーケティングなどを縦横無尽に巡りながら語られる。研究書かつ自叙伝のようなつくり。

  • 人と人とのつながりや情報、感染症の伝播、また企業のサプライチェーンといった様々なネットワークの特性を研究するネットワークの科学の先端を垣間見ることができた。

    「間に6人の知人を介すれば、世界中の人と繋がることができる」という話は、人間のネットワークの威力を示す話として以前から言われていることだが、そのような人間のネットワークの構造に関する研究は、比較的最近まで行われてこなかった。

    人間は、ある程度共通の属性を持つ人の集まりであるクラスターを形成しており、我々の人間関係は多くの場合このなかで作られることが多い。学校、職場、地域コミュニティや趣味のサークルといったものだ。これらの中では、わたしの知人同士もまたお互いに知人であるという閉じたネットワーク関係が形成されることが多い。

    しかし、これらのクラスターだけでは、冒頭に述べたようなグローバルな距離を持った人間同士が、短いパスで繋がることは起こりにくい。

    一方で、ネットワークのつながりが完全にランダムなものであれば、グローバルなネットワークは容易に形成されるが、自身の知人同士2人が相互に知り合いである確率は、全く無関係の人間同士が知り合いである確率と同じという、我々の日常感覚とは異なった世界が出来上がることとなる。

    本書が探究しているスモールワールド・ネットワークとは、この2つのタイプのネットワークの間にある。つまり、ネットワークの中にある程度の確率でランダムなリンクの形成を許容することで、一定規模のクラスターが存在しつつ、グローバルなネットワークのランダムなノードにも比較的短いパスで到達することのできるネットワークの状態が生成するという現象が、コンピューターシミュレーションにより発見されたのだ。

    より具体的にいうと、ランダムな接続の割合を徐々に高めていくと、離れた個人間をつなぐリンクが徐々に形成され始め、そのことにより離れた人間間を繋ぐ長いパスが形成され始める。そして、このパスの長さはある臨界点を越えると急速に減少し始める。ランダムなネットリンクの数が多くなることで、これまで比較的遠かったクラスター同士を直接繋ぐリンクが多く形成されるようになるからだ。

    一方、ランダムなリンクの増加は、当初はクラスター内同士のつながりも強化する効果を発揮するが、次第にクラスター外のリンクが増えていくと、徐々にクラスター内の繋がりを疎にし、ランダムネットワークに近い状態を形成するようになる。

    筆者らのシミュレーションによると、ランダムなリンクの増大に伴って、クラスター内の繋がりがそになり始めるタイミングより、パスの長さが臨界点を超えて急速に減少し始めタイミングの方が遅く、ある一定のランダムリンクの割合のときには、クラスターとしての一定のまとまりを保ちつつも、グローバルな個人間のリンクのパスは短いという状態が生成する。これが、スモールワールド・ネットワークと呼ばれる状態である。

    このようなネットワークの状態が、日常の世界の中に比較的多く見られる。本書の後半では、様々な事例を数値シミュレーションすることで、スモールワールド・ネットワークの事例を紹介している。

    例えば、感染症やコンピューターウイルスの広がりにも、基本的には特定の空間を共有するクラスターを中心にして伝播しながら、時に大きく離れた場所に急速に伝搬し、新たな感染地域を作り出すような現象が見られる。ある程度、スモールワールド・ネットワークの性質を持っているということが見て取れる。このため、ランダムなリンクを形成し、遠隔地同士のショートカットを形成する要因になりうるものに対して、徹底的な対策が必要となる。

    もう1つ興味深かった事例は、トヨタのサプライチェーンの重要な企業であるアイシン精機の工場で起こった火災事故の事例である。この事故により、トヨタのサプライチェーンはブレーキの唯一の供給源を失うという重大な影響を受けた。しかし、もともとその部品を生産してはいなかった200以上の関連企業の協力のもと、わずか3日で代替の生産体制が構築された。驚くべきことに、このプロセスはトヨタによる指揮なく、各社の横の連携によって実現された。

    このようなことが可能になった背景には、トヨタ生産方式の浸透によってベースとなる生産技術や方式が共有されていたこと、日々の人事交流により、各社の技術者間で横のネットワークが形成されていたことが挙げられる。特許やサプライチェーンの囲い込みによる分断ではなく、それらを相互にやり取りできる一定数のランダムなリンクの存在が、このような危機対応を可能にしたということである。

    このように、日常社会の中にも様々な形でスモールワールド・ネットワークが存在する。経済活動や自然現象の一見不連続な現象も、ネットワークの中のダイナミックな相転移によって起こりうるということを知ることができ、非常に興味深い本だった。

  • 少しゴタゴタしているように見えるけれども、プロ社会学者の訳者の感想とは違って、後半のほうが面白かった。産業組織論は、ヒント満載。

  • 時間があれば

  • 原題:Six degrees: The Science Of A Connected Age (2003)
    著者:Duncan J. Watts (社会学)
    訳者:辻 竜平、友知政樹


    【メモ】
    ・MS掲載のprofile
    https://www.microsoft.com/en-us/research/people/duncan/


    第1章 結合の時代
    第2章 「新しい」科学の起源
    第3章 スモールワールド現象
    第4章 スモールワールドを超えて
    第5章 ネットワークの探索
    第6章 伝染病と不具合
    第7章 意思決定と妄想と群集の狂気
    第8章 閾値とカスケードと予測可能性
    第9章 イノベーションと適応と回復
    第10章 始まりの終わり

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