東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480420213

作品紹介・あらすじ

教授は言った。「相手にとどめを刺しちゃいけません。あなたはとどめを刺すやり方を覚えるのでなく、相手をもてあそぶやり方を覚えて帰りなさい。そうすれば、勝負は聴衆が決めてくれます」タレントは唸った。「本物は違う!」今、明される究極のケンカ道とは?フェミニズムの真髄とは?20万人が笑い、時に涙し「学びたい」という意欲を燃えたたせた涙と笑いのベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • 女性が男性に対して意見で勝つこと、女性タレントが専門的な議論をすること、「結婚した意図思えない」という個人的な心情を表現することはタブーとされ、女性は若さと美貌と無知で評価される、という芸能界の構図を、一女性タレントとして社会に発信することに加担している責任を感じてフェミニズムを学び始めた筆者が、東大大学院に「留学し」、3年間で「ナショナリズムとジェンダー」、「不払い労働の理論」、「ジェンダー分析の理論と方法」+過去2年分のテーマに関する文献訳500冊多読した上で、知の特権化・独占・私物化している東大の現状を批判的に考察し、フェミニズム研究と娯楽を楽しむ一般市民を繋ぎ、上野千鶴子から得た知を共有するべく書かれた本。筆者は、「東大大学院での研究」という「権力」性、枠組みを疑い、パラダイムを転換する「暴力」性を自覚した上で、知は使用されなければ無意味であるからこそ、筆者がフェミニズムを学ぶことで何を得ることができたか、その経過を含めて開陳して学びへと誘うと同時に、読者は「フェミニズムがなんとかしてくれる、全て解決してくれる」という過剰な期待を捨て、自らの意思で自らの責任でフェミニズムを実生活にいかしていくかを考える重要性を説く。筆者がテレビ番組で異議申立て・反論できなかった援助交際に関する人々の一面的な理解に対して上野にその反論の仕方を請うていたところから、上野に社会学を語らせることはアンペイドワークであると自覚するに至るまでの変化、東大を笑い飛ばすまでの成長や、タレント業の裏話や学生との笑いを交えた会話の再現からナショナリズム、神話や記号論について文献を引用しながら紹介する読者の興味の引き方等、生き生きと鮮やかに描かれており、筆者の血のにじむような努力を含め、知を希求する全ての人に勧めたい。

    女性兵士に関する議論がフェミニズムの試金石になること、単一民族神話を含め、国家が国民を絡め取る仕組み、枠組み自体を壊すことの意味、権力参画への「許否」の意義、ある枠組みや言説に疑問を持ったとき、「それにより誰が利益を得るか?」を問う有用性や上野のアメリカ型研究者の育て方まで、社会学へと誘う入門書にもなる。解説がまた、感動。姿勢の認識の遅れと血の独占の構造に加え、筆者の業績を明解なメタファーが用を用いて説明している。更に欲を言えば、文献として読んだ500冊の書籍リストがあったら尚うれしかったなあ。

    筆者は知の特権化の構造を見抜き、知を使用しない研究者を批判しており、その批判は正鵠である。もっとも、その構造に気づくに至るまでの「知の時差」というものもあると思う。筆者が一般向けにこうして本書を書いても読まれなければその知の共有はできないからだ。そして、それらの変化し時差のある知がどのようにしてパラダイムシフトを引き起こすのかは、瀧本さんが書いているように、世代交代だと思う。あくまで議論の審判者は読者・聴衆であり、フェミニズム社会学を実践理論として使用する読者・聴衆が、それを認知しようとしない、理解しようとしない世代の人よりも多くなった時、初めてその知はパラダイムシフトを完成させる。それがまた「常識、自明なもの」となり、社会学者によって枠組みが疑われていくという連鎖を辿るのである。だからこそ、私たちの世代がその理論を認知し、理解しようとし、そして使用して発信することが重要な転換期だと感じる。もっと勉強しよう。

  • 面白かった。
    もやっとすることを言われて咄嗟に返せずもやもやを持ち帰る、
    それが嫌で議論とは何かを学ぼうとする著者の行動力、学ぶことに対する姿勢、
    どちらも興味深い。

    人の前で発言するということは、途方もない責任を負うこと。
    好き嫌いを含め、万人に受け入れられる意見はないし
    それをしようとしていたら何も言えない。

    上野教授が世間から見てどうこうということは置いておいて、
    とにかくこの著者は上野教授を信頼し、尊敬し、全力で学ぼうとしている。
    そして上野教授もそれを受け入れている。

    そういう相手がいることだけでもとても羨ましいことだと思う。

  • 『歴史は語る。目の前の良かれには慎重になれと。』
    『真理はひとつ、解はひとつ、幸せはひとつ、~~という学生の反応に悩まされてきた。そのような「学問観」がどうやって形成されてきたかの方が、私には謎に思える。』

  • 何歳からでも勉強を始めることができることに気づきました。おそすぎることはないですね。ただ、その時に素晴らしい伴走者がいるにこしたことはないですね。

  • 学問なしに己の気持ち悪さは理解できない、という言葉が、胸に突き刺さった。

  • 朝日新聞の悩みのるつぼというコーナーで見かけた著者、上野千鶴子。あの短い文章だけでも強烈なキャラクター性を発揮していて、いつか彼女の文章を読みたいなぁと思った矢先にたまたま見つけた本著。

    上野さんでなく、第三者目線で上野千鶴子さんのことを語っているので、多少のバイアスがかかっているかもしれないがバイアスのない!?ストーリーで読んでて快活な気持ちにさせてくれる。

    ケンカを学ぶ…とあるとおり、最後の章に「ケンカ十か条」があり、「上野節」を少しでも身につけられたような気がした。

  • ケンカ(議論)のしかた十箇条が最高
    以下備忘録
    1 守るための開き直り
    2 守るための質問<わからない>
    3 守るための質問<〇〇ってなに>
    4攻撃のための質問<そのまんま>
    5 広い知識をもつ
    6 ワクを超えた発想をする
    7 言葉に敏感になる
    8 間をあけない
    9 声を荒らげない
    10 勉強する

  • 論文の引用とかがあって難しかったけどためになった。

  • 『議論は知の格闘技だ。』と作中でも記されている。
    タイトルにある喧嘩とは、自身の直感から生み出された示唆を相手にぶつける際の実践的テクニックの総括だ。
    フェミニスト(社会学を学ぶ人々)は、学ぶことで積み上げてきた無数の引き出しの中から言葉を選び言語化する。
    そこで私たちは学術的な裏付けのある概念や枠組みをもって言説の強度を補強しようとする。だがしかし、それは初学者が陥る最初の落とし穴だ。

    正しさで人は動かない。
    怒りだけでは人は聞かない。
    悲しさだけで真の理解を得ることはできない。

    不条理で不平等な世の中がまかり通っていることを知り、初めて私たちは戦う姿勢をとれる。知識そのものは私たちを助けないし、幸せにもしない。なら、知った先でどうするか?

    『救える人は、救われる準備のある人だけだ。』という言葉が好きだ。
    私は私自身を救うために、今日も知を集積したい。
    とても素晴らしい書籍でした。遥洋子さんがこのエッセイを書いてから20年。あなたのおかげで、20年先の若者が指針を得られたことをここに残したいです。ありがとうございました。

  • 上野氏の著書を読む前に、まずこちらを、と思い手に取った。

    喧嘩の極意については最後の最後に、僅かに書かれているだけなので、ケンカを学ぶための本いうよりも、東大での3年間の中での出来事を書かれた本かと思います。ケンカを学ぶためだけでしたら最後だけ読めば良いかもしれません。

    しかし、そこに至るまでの話もなかなか面白い。登場する学生さん同様、私もテレビを見ないため、著者を存じ上げなかったのですが、本書の東大での3年間の生活の記載には大変な努力を感じる。

    幸いにか、娘の翼を折らないよう親に育てて貰った私は、社会人になるまで性差別を経験することは無かった。努力さえすれば何とかなると信じ、男社会に飛び込んだ無垢な私が直面したのは、数々の理不尽な現実。
    結婚、出産を経て、ますますその疑問は膨らむばかり。

    この本が書かれた年から、現在は20年ほど経っており、ほんの僅かに女性への扱いが変わってきたようにも見える。テレビ番組で明らさまな女性差別発言があると、ネットのニュースに挙げられるようになったのは、そうした変化の一端ではないだろうか。
    きっと著書や上野氏含め、多くの先人達の努力あってのことと思い有り難く思う。とはいえ、やはり私自身、未だに女性であることの辛さを感じない日はない。

    そんないつものように疑問を抱えていた最中に読み聞いた、上野氏の東大入学式辞がなんと心に響いたことか。

    ジェンダー学の世界を理解するには、まだまだ知識不足、手探り状態ではあるが、ジェンダー学の先駆者の残したものを理解していきたい。

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