つむじ風食堂の夜 (ちくま文庫 よ 18-1)

著者 :
  • 筑摩書房
3.66
  • (450)
  • (715)
  • (802)
  • (138)
  • (31)
本棚登録 : 6419
感想 : 794
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480421746

作品紹介・あらすじ

懐かしい町「月舟町」の十字路の角にある、ちょっと風変わりなつむじ風食堂。無口な店主、月舟アパートメントに住んでいる「雨降り先生」、古本屋の「デニーロの親方」、イルクーツクに行きたい果物屋主人、不思議な帽子屋・桜田さん、背の高い舞台女優・奈々津さん。食堂に集う人々が織りなす、懐かしくも清々しい物語。クラフト・エヴィング商會の物語作家による長編小説。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 月舟町シリーズの1冊目。

    出だしは、「その食堂の皿は本当に美しかった。」
    どんな皿だろう?と想像する暇なく、
    単に真っ白なだけで、よく見るとその皿は傷だらけだと明かされる。
    テーブルも壁もコップも傷が重なり合っている、そんな安っぽい定食屋にいる。
    そして、
    「傷は、そこに人が生きていた証ですから」
    という古道具屋のオヤジの言葉を思い浮かべる。

    最初の10行で吉田篤弘ワールドに包み込まれてしまう。
    あとは流されるがままに読むだけだ。

    つむじ風食堂も十字路にあった。
    先日読んだ「水晶万年筆」も十字路にまつわる物語を集めたものだった。
    吉田篤弘さんは十字路が好きみたいだ。
    十字路なんて要するに交差点で、どこにでもある風景なのだが特別な場所に感じる。

    食堂での常連さんたちの"自信"に関する会話になるほどと思った。
    「まだ若いんだから、自信をもって」
    「人間てのは、そもそも自信が持てない生き物なんです。」
    「なのに、無理やり自信を持とうとするから争いってもんが起きるんです。」
    「自信ってなんです?しょせんは他の人に優るってことじゃないですか。」

    ほかにも、
    太陽がなければ昼はない。夜があるだけだ。夜は宇宙だ。
    おー、なるほど!

    ここじゃないどこかに行きたい。
    ここにオレンジがある。
    「ここ」ってなんでしょう。「ここ」ってどこのこと?
    地球の外から眺めたら、月舟町とコペンハーゲンは隣みたいなもんです。
    ここは「地球」という一つの場所とも言える。
    「ここ」とはどこなのか、正確な答えはないんですよ。
    このようなちょっと哲学的な会話に何度も、おー、なるほどね、と思わされた。

    さて、シリーズ2冊目は「それからはスープのことばかり考えて暮らした」だ。
    14話あるので、1日1話くらいのペースで、のんびりと読むことにしよう。

    • yumiさん
      Kazuさん、
      いいね!ありがとうございます。
      Kazuさんの感想を読んでいたら、読み返したくなり、思わずコメントしてしまいました…!吉田篤...
      Kazuさん、
      いいね!ありがとうございます。
      Kazuさんの感想を読んでいたら、読み返したくなり、思わずコメントしてしまいました…!吉田篤弘さん、いいですよね。「それからはスープのことばかり考えて暮らした」も大好きな作品です♩感想、楽しみに待っています!
      2023/02/22
    • Kazuさん
      yumiさん、おはようございます。
      「自信ってなに」
      「ここってどこ」
      「哲学的な...」
      と、私のレビューと同じキーワードが出てきてドキッ...
      yumiさん、おはようございます。
      「自信ってなに」
      「ここってどこ」
      「哲学的な...」
      と、私のレビューと同じキーワードが出てきてドキッとさせられたのはyumiさんのレビューだったのですね。(私がパクったみたい♪)
      読んだ人みんな心をつかまれる場面なんだと思いたいです。
      月舟町シリーズもまだ3作品あるので、しばらくは吉田篤弘ワールドに浸るつもりです。
      2023/02/22
  • 吉田篤弘さんの描く世界…
    ひっそりとした夜の暗闇の中にぼっと温かい灯りがともっているような、そんな心地よさが好きです。月舟町の屋根裏部屋に住みたいなぁ。

  • すごーく良いお話でした。
    月舟町の、つむじ風食堂に集う人たちのお話です。(町の名前も食堂の名前もステキ)
    まず、表紙が真っ黒に星一つなので、そんなイメージで読み始めました。登場人物も少ないので、まるで舞台の上で薄暗いライトを浴びながらお芝居をしているのを見ているような感覚でした。みんな、どことなく哲学的な物言いをして、でもそれを押し付けてこない感じが心地よかったです。

  • 胸がきゅっと掴まれる感じ。
    忘れていた出来事をふと思い出す時のような、ノスタルジックさ漂う物語。

    ちょっと風変わりでとぼけた常連客達で賑わう、月舟町の十字路の角にある〈つむじ風食堂〉。
    気の弱い"先生"、無口な食堂の"あるじ"、食堂の手伝い"サエコさん"、いつも陽気な帽子屋"桜田さん"、背の高い舞台女優"奈々津さん"、果物屋の青年店主"イルクーツクの彼"、古本屋"デ・ニーロの親方"、体の半分が白もう半分が黒の食堂の猫"オセロ"。
    いつもの時間いつもの場所に集う彼らの会話が実にほのぼのとしていて、和やかな雰囲気がたまらなく好き。
    日常のストレス等で塞いだ心に一陣の風が通り抜け、後に残ったのは爽やかな心地のみ。
    今夜も〈つむじ風食堂〉でいつもの常連客達が賑やかにお喋りしながら食事をしているのかな。
    続編もぜひ読まなくては。

    • nejidonさん
      mofuさん、こんばんは(^^♪
      一番最初に読んだ吉田さんの本です。
      懐かしい~♡ なんとも不思議な温かい世界ですよね。
      この本を読ん...
      mofuさん、こんばんは(^^♪
      一番最初に読んだ吉田さんの本です。
      懐かしい~♡ なんとも不思議な温かい世界ですよね。
      この本を読んだときの時間を、取り戻したい!
      なんて、ちょっぴり感動してしまいました。
      2020/10/04
    • mofuさん
      nejidonさん、こんばんは。
      吉田さんの中で一番有名な本ですよね。
      私も知っていながら他の本を先に読んでいました。
      もっと早くに読んでお...
      nejidonさん、こんばんは。
      吉田さんの中で一番有名な本ですよね。
      私も知っていながら他の本を先に読んでいました。
      もっと早くに読んでおきたかった!
      このほのぼのとした温かい世界観がとても好きです(*^^*)
      この続編もぜひ読みたいと思います。
      コメントをありがとうございました(^^)
      2020/10/04
  • 月舟町に住むちょっと風変わりな人達の日常のお話。

    何だろう〜、この空気感。
    特に何かが起こるわけでもなくて、そこには少しクセのある住人たちの日常がゆるっと描かれてるだけなのに、なぜだかとても心地良い。←言い方(・・;)
    ノスタルジックな雰囲気もあったし、どこか空想的な感じもあった。
    夏に読んじゃったけど、イメージとしては秋の夜長に静かに読むのがぴったりだと思う。

    それにしてもイルクーツクって土地名が全然覚えられず、頭の中で噛みまくり笑
    吉田さん、初めて読んだ作品には苦戦してしまったけど、この作品はとても好きでした〜!

    シリーズ物なので、続編も時間のある時にゆったり読みたい♡♡

    • 1Q84O1さん
      なるほど~(・。・)
      少し待って秋の夜長にチャレンジですかねw
      なるほど~(・。・)
      少し待って秋の夜長にチャレンジですかねw
      2023/07/26
    • 傍らに珈琲を。さん
      mihiroさん、おはようございます。

      いいですよね、月舟町。
      町も住人たちも愛おしくて、そのゆるゆるとした中で私も暮らしたくなりました。...
      mihiroさん、おはようございます。

      いいですよね、月舟町。
      町も住人たちも愛おしくて、そのゆるゆるとした中で私も暮らしたくなりました。
      シリーズ、是非是非。
      mihiroさんも吉田ワールドに捕まりましたね♪
      2023/07/27
    • mihiroさん
      傍らに珈琲を。さ〜ん、こんばんは(*^^*)
      この作品の雰囲気、とても良かったですね〜♪
      ほんと、ちょっと風変わりな住人たちが愛おしく感じち...
      傍らに珈琲を。さ〜ん、こんばんは(*^^*)
      この作品の雰囲気、とても良かったですね〜♪
      ほんと、ちょっと風変わりな住人たちが愛おしく感じちゃいました。
      吉田さん、1作でやめなくて良かった〜笑
      また図書館本ラッシュ終わったら、ゆったり2作目のスープ読もうと思ってます✌︎(๑˃̶͈̀◡︎˂̶͈́๑)✌︎
      2023/07/27
  • いつぞや どなたかのレビューを読んで本棚に登録していた本。

    ふと読みたくなり、図書館で借りた。

    バタバタジタバタと日々過ごし、
    忙しくしている割には、何も残らない。
    そんな風に感じている自分に
    時が処方してくれた本のようだ。

    たまたま休みとなった平日の暖かい昼下がりに
    のんびりとした気持ちでページをめくり、
    なんとも言えない懐かしさと
    ゆったりとした時の流れを感じることができ、
    癒された。

    この雨降り先生のように
    本当にやりたいことを右の机に積み上げて、
    日々生活のための左の机にかかりきり
    という気がしてならない。

    月舟町の小さな食堂で
    常連客が掛け合うたわいない話が
    何か哲学的で、宇宙の謎をとくような
    不思議な味わいがある。


    「もし、電車に乗り遅れて、ひとり駅に取り残されたとしても、まぁ、あわてるなと。黙って待っていれば、次の電車の一番乗りになれるからって」

    というバリスタ、タブラさんの言葉が心に響いた。
    2022.3.14

  • 静かな夜。ぽつんとひとつ灯をともす食堂に集まる人たち。ひとつひとつの言葉が穏やかに紡がれ、優しく包んでくれる。答えはいらない。ただ、そこにあるだけでいい。そう思える。なんて心地いいんだろう。月舟町とは私たちのこころにある場所なのかもしれない。

  • なんか、いい感じなのです。

    月舟町の十字路の角にある、「つむじ風食堂」。
    メニューはフレンチ風に、コロッケではなく「クロケット」などと立派だが、こじんまりした店に常連が集う。
    店主は名無しを気取ったのだが、誰ともなくそう呼び習わしていた。

    雨を降らせる研究をしている学者先生がこの街のこれまた風変わりな建物に下宿して、店の常連になった。
    科学的な人工降雨というよりも雨乞いに関する書籍を集めることで人生を終わってしまいそうな暮らし。
    短文を書きまくっては糊口をしのいでいる。

    町の建物のひとつひとつや住人が個性的で、どこかファンタジック。
    隣町の帽子屋さん、デ・ニーロみたいな古本屋の親方、夜中も灯りをつけて本を読んでいる果物屋の青年、ちょっと口が悪い舞台女優の奈々津さん。
    奈々津さんと先生は同じ下宿の住人で、ささやかなやり取りから少しだけ近づいていく。
    雨降りの先生の父親は手品師で、舞台の幕から手だけを出して演技していた。

    丁寧に描かれた静かな雰囲気に、ふんわり包み込まれるよう。
    勝ち組とは決していえないが、負けという感じでもない穏やかな人々。
    夢のある、ほのかな温かさが心地よく、一緒にちょっとしたおしゃべりを楽しみたくなります。
    こんな町に住んでみたいような。
    どこにもないんだろうと思うような。
    どんな町もこんな目で見れば、小さな魅力や出会いがあるかもしれないと思うような。
    そんな気分に。

  • fukayanegiさんに吉田篤弘さん初めて読むなら推し本はこちらとのことでお取り寄せ。カバーデザインは吉田篤弘・吉田浩美の連名 装幀も手掛けているとのこと
    黒の背景に白地で題名、著者は薄青 金色の星は淡いほのかな輝く色合い☆
    あとがきで「筑摩書房の方と食堂のテーブルで話すうちにこの本はできあがりました。」ですって、素敵。
    つむじ風食堂常連さんのちょっと不器用だけど魅力的な登場人物達、程よい距離で見守っている感じがいい。独特な雰囲気をもったタブラさんのエスプレーソの香り、デニーロの親方の古本屋で立ち読み、屋根裏部屋で調べもの読書、試着用の円鏡のある帽子屋さん、奈々津さんの演技がみたい
    香りや味覚や触覚が刺激されたり台詞の言い回しが小気味よい
    「若いころのね、つまらない夢だの欲望だのが、ふっと消えちまう」「おのれが少し分かっちゃうってこと」「別れ際になって、急速に話が弾んでしまう」<二十空間移動装置>でどこまで行こうかな

    • ☆ベルガモット☆さん
      fukayanegiさん、こんばんは!

      コメントありがとうございます☆
      ご紹介くださったおかげで出会えました!
      こんな常連さんと過...
      fukayanegiさん、こんばんは!

      コメントありがとうございます☆
      ご紹介くださったおかげで出会えました!
      こんな常連さんと過ごす行きつけのお店が欲しいですな
      まさしく『ゆるくて穏やかな繋がり』ですよね、こんなご時世だから余計に素敵!ってなっちゃいます。
      吉田さんの本をまた読もうと思いまーす
      2022/12/15
    • fukayanegiさん
      ベルガモットさん
      返信ありがとうございます!

      もし次読まれるなら断然『それからはスープのことばかり考えて暮らした』をお勧めします。
      こちら...
      ベルガモットさん
      返信ありがとうございます!

      もし次読まれるなら断然『それからはスープのことばかり考えて暮らした』をお勧めします。
      こちらも小気味よさ全開で、ものすごく食欲を刺激されまくります。
      2022/12/16
    • ☆ベルガモット☆さん
      fukayanegiさん、ご助言ありがとうございます!
      『それからはスープのことばかり考えて暮らした』だなんて、この寒い季節にはぴったりです...
      fukayanegiさん、ご助言ありがとうございます!
      『それからはスープのことばかり考えて暮らした』だなんて、この寒い季節にはぴったりですね。こちらは雨でさらに冷え込んでいます。週末はぬくぬく読書タイムになりそうです。暖かくしてお過ごしくださいませ。
      2022/12/16
  • 大人の軽ーい小説、気を張らず読めて、独特の空気感がたまらなく心地よい

    日本の商店街の一角のお話なのに、外国の小さな町の洒落た小さなレストランのお話のような感覚さえした

    帽子屋の桜田さん、雨を降らせる研究をしている先生、女優の奈々津さん、古本屋のデ・ニーロの親方、果物屋
    つむじ風食堂で交わされる意味ありげで、実際のところ何の意味もない会話が楽しい

    それぞれの人が、ここが憩いの場なのだろう

    特に、父に連れられ訪れていたタプラさんのエスプレーソのお店、何十年かして訪れ、二代目タプラさんと対面する場面、最後タネも仕掛けもなく、父の舞台衣装の袖口が跡形もなく消え去った場面が好きだ

    「もし、電車に乗り遅れて、ひとり駅に取り残されたとしても、まぁ、あわてるな。黙って待っていれば、次の電車の一番乗りになれるから」

    一代目タプラさんの言葉、しみじみといいなと思う
    ガツガツ慌てたり、焦ることなんかないんだと

    小川洋子さんとクラフトエブィング商會共著の「注文の多い注文書」は読んだことがあるが、クラフトエブィング商會というのが吉田篤弘さんと奥さんの吉田浩美さんのユニットだったと、初めて知った

    吉田篤弘さんとしては、初めて読む作品
    この月舟町シリーズを読み終えたら他の作品も読みたくなった

全794件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉田篤弘の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
クラフト・エヴィ...
クラフト・エヴィ...
78
吉田 篤弘
クラフト・エヴィ...
吉田 浩美
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×