イギリスだより (ちくま文庫 ち 8-1 カレル・チャペック旅行記コレクション)
- 筑摩書房 (2007年1月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480422910
感想・レビュー・書評
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チェコのジャーナリスト、小説家であるカレル・チャペックがイギリスに滞在した際のイギリスに関するエッセイ。
カレル・チャペックについては、全然知らなかったのだけれど、「ロボット」という新語を世に広めた人らしい。へぇ。
カレル・チャペックの旅行記としては、他に、イタリア、オランダ、スペインなどがあるけれど、この「イギリスだより」は特に好評を得て、人気もあるとのこと。へぇ。
で、内容だけど、まぁこれが独特の表現で、ユーモアあり、奇抜な言い回しあり、でわかりにくいところも多々あるのだけれど、なんか楽しい。こういう文章をウィットに富むというのだろうか。イギリスやイギリス人に対して、ズバっと毒をはいたりした直後にめっちゃ褒めたりする(笑)
特に楽しかったところは、チェコという小国から出てきた彼が大都市ロンドンの交通機関やお巡りさんに驚いたりするところと、マダムタッソーろう人形館を訪れるところ。思わずプハっと吹き出しました。
結局彼は、イギリスびいきで、祖国チェコが大好きってことが、よくわかった。
本書の最後に収録されているイギリス国民へのラジオ原稿は、ナチス台頭による民主主義の危機と当時のチェコスロバキアへのファシズムの侵略を憂えたチャペックの、イギリス国民へ連帯を呼びかけたもの、とあとがきで知った。
今のチェコ、イギリスをチャペックが見たら、どう表現するのか、すごく興味がある。
機会があったら他の国の旅行記も読んでみようと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ほぼ100年前の旅行記。
筆者のカレル・チャペックはチェコ・プラハ出身の、ジャーナリスト・エッセイスト・小説家・劇作家。1924年の5月から7月にかけてイギリス国内を旅する。この間に書いた紀行文がプラハの新聞に連載され好評を博した。それを書籍化したものが本書。
「あいさつ」と題された、筆者による前書きがある。その中に心を惹かれた文章があったので、少し長くなるが引用したい。イギリスで見た光景を思い浮かべて、筆者が考えたこと、感じたことである。私には、筆者が「旅とは何か」についてを語ってくれているように感じた。
【引用】
わたしが思い浮かべるのは、ただ、ケントにある一軒の赤い小さな家である。なんの変哲もない家だった。わたしがその家を見たのは、列車がフォークストンからロンドンへ走っていたときで、ほとんど一秒かそこらである。
実際にはその家は、一面に茂っていた木のために、ちゃんと見えもしなかった。庭では、老紳士が生け垣を植木ばさみで刈っていて、緑の茂みの反対側では、平坦な道を少女が自転車で走っていた。ただそれだけだった。その少女がきちんとした格好に見えたかどうかも、わからない。その黒服の老紳士が、あるいはその土地の神父だったか、休息中の実業家だったか、それは問題ではない。
その家には、イギリスの赤い家がみなそうであるように、高い煙突と白い窓があったが、それ以上は語れない。それでも、わたしがイギリスのことをひとり考えるときにはすぐに、ケントにあるそのありふれた家が、園芸用のはさみを手にもった老紳士が、そして熱心にひたすら自転車のペダルを踏む少女の姿が、はっきりと見える。
そしてわたしはちょっぴりさびしくなりはじめる。わたしは、かの地で、他のさまざまなもの、たとえば、城と公園と波止場とを、イングランド銀行とウェストミンスター寺院を、そして歴史的な記念碑的なものを、あちこちで見た。しかしそれは、わたしにとってイギリスのすべてではない。
イギリスのすべて、それはただ、あの老紳士と自転車の少女のいた、緑の庭園の中のあの素朴な家なのだ。なぜなのか、それはわからない。わたしはただ、そうなのだと話しているだけである。
【引用終わり】
どこかに旅行に、観光に出かける。
どこでも良いが、筆者に敬意を表してプラハに行ったとしよう。旧市街を見物して、カレル橋を渡り、プラハ城に向かう。素晴らしくきれいな街並みに強い印象を受けるが、あなたがプラハについて思い出すのは、道に迷った際にホテルへの道順を教えてくれた地元の若い人だったり、ホテル周辺の小道にいた迷い犬だったりするかもしれない。そして、道を教えてくれる若い人は、あるいは、小道を歩く迷い犬は、今日もプラハにいるはずだ。そう思うと、家でじっとしているのがいたたまれなくなる。
私は、上記のカレル・チャペックの文章を読んで、そんなことを感じた。 -
1921年初演の「R.U.R」で名声を得たカレル・チャペックが、1924年にロンドン開催の国際ペンクラブ大会に招待され、大英博覧会の取材も兼ねて、イギリスを訪れた時の見聞録です。どす黒い工業地帯に眉を顰め、人口稠密の大都会にうろたえ、のどかな湖水や田園に息を吹き返し…皮肉たっぷりの語り口ですが、ご本人は大のイギリス贔屓だったとか。故国チェコが大国の野望に踏み躙られようとしている忿懣を滲ませています。自筆のイラストが味わい深いです。
巻頭には、山田詩子さん(そう、紅茶店カレル・チャペックの!)によるイラストマップ付き。 -
イラストが可愛いカレル・チャペック。
「長い長いお医者さんの話」「園芸家の12ヶ月」「ダーシェンカ」の著者としてしか知りませんでした。
ジャーナリストでもあり、旅行記も6点ほど出版されていて「イギリスだより」は2作目にあたります。
イギリスびいきということですが、独自のユーモアを交えながら行く先々で感じたイギリス(人)の長所・短所を率直に綴っています。
辛口批評のところもしばしばですが、旅の終わりに「イギリスにいたときはいつも、故郷はなんと美しいものかと考えていた。故郷へ帰ったら、たぶん、イギリスには他のどこよりも上等でよいものがあると考えるようになるだう。」と書いています。
日本の根付けにも興味を持ってくれていたようで、ちょっと嬉しい気持ちなりました。
その他の旅行記
1「イタリアだより」
3「スペイン旅行記」
4「オランダ絵図」
5「北への旅」(北欧三国)
6「チェコスロバキアめぐり」
何もそのうち読んでみたいです。
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カレル・チャペックの旅行記、エッセイのような一冊。
少し読みにくいような表現があるものの、イギリスのあれこれについて色んな感想、表現を駆使して書き綴っているのが読んでいて楽しいです。
交通機関についての話が個人的にお気に入り。 -
旅行に行きたくなります。
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カレル・チャペックのイギリス見聞録。挿絵も本人によるもの(なんと、絵も描けるのだ!)。ハイドパークの演説家に感心し、お巡りさんの大きさに驚き、変化のない街路に退屈する。心に響いたものを、その場所や事柄の知名度に関わりなく綴る文章は、ごく私的でだからこそ普遍的な、チャペックならではのものである。そして著者の目を通すことで、自分の知っているイギリスという国(もっとも、行ったことはない)が、とても新鮮に見えてくる。
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100年前のチェコ人作家カレルチャペックのイギリス旅行記。
軽妙な語り口でイギリスを自分の国と比較しながら語る。
時に称揚し時に皮肉ってみたり、どこか牧歌的な雰囲気が漂っていてのんびりと読むことが出来る。 -
今からおよそ100年ほど前にチャペックが訪れたイギリスの滞在記。多数の自筆のイラストも掲載され、ちょっと前のイギリスの古き良き時代が描かれている、とても楽しい作品だ。他の国の旅行記も是非読みたいと思った。
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チェコ語で書かれた原典など読むことはできないが、本書の訳文の多彩な文体を見ていると、翻訳大変そうだなあ、と想像できる。
飄々とした味わい、ちょっぴりの皮肉。
ペンクラブの招きでのロンドン行きだったそうで、当時のイギリス文人の錚々たる顔ぶれの戯画もある。
何でも、チャペックをそれまで高く評価していたチェスタートンは、本書p.206の戯画でかなり不愉快になったとか。
約100年前のイギリス。
ロンドンの様子は変わったに違いないけれど。
郊外や地方の町はどれくらい変わったのだろう。
そして、イングランドの人々が「私たちが行かない所」と言ったアイルランドは。
チャペックがアイルランドに執心したことにも、どんな思いだったのだろうと考えてしまう。
チャペックは大英帝国の文化的な支配力にも意識的だった。
イギリス人はどこへ行ってもイギリスを引きずっている。
世界各国に小さなイギリスを作ってしまうと。
外国で自分の文化から抜け出せないというなら、きっと私自身もそうだろう。
国の力が強ければ、単なる個人の嗜癖も、政治的な意味を帯びかねない。
難しい問題だ。
チャペックはイギリス人の島国根性も指摘する。
そして、無口で非社交的なくせに、時々ユーモアを発動する、とも。
逆に思う。
チェコの人はそんなにみんなおしゃべりなのか?
しかし、チャペックは、そういうチェコ人をとてもあいしているようだ。
チャペックには他の旅行記もあることを知った。
よし、じゃあ次はチェコ国内の旅行記を読んでみよう。
手に入ったら、だけど。