「読み」の整理学 (ちくま文庫 と 1-3)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480423801

作品紹介・あらすじ

取扱説明書や役所へ提出する書類を読んで、何がなんだか分からない、という経験はないだろうか?自分の知らないこと、未経験の内容の文章は読むのは難しい、それに比べ、知っていることが書かれている文章は簡単に読める。実は読み方には二種類あるのだ。論文など未知を読むベーター読みと既知を読むアルファー読み。頭脳を刺激し、読書世界を広げるベーター読みを身につける方法とは?リーディングの新しい地平をひらく書。

感想・レビュー・書評

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  • 既に知っている事を読むα読み、未知の事を読むβ読み、というふうに読み方を2種類に分けた上で、未知のことを読む読み方を鍛えるには?を考察した本。

    「知っていることを読んだってしょうがない」という意見には、頷ける時とそうじゃない時があるんじゃないの?と思いながら読んだけど、とは言え、未知の世界に手を伸ばすのは難しいし挫折することもあるけど、楽しい。

    実際には、著者も言うように、既知と未知が混在した情報を読むことが多く、割合としてどちらが多いのかで、いずれかの読みに寄るのだと思うけど……。うーん、確かに時間をおいて再び読むとわかるようになることもあるし、古典と呼ばれるものなんかも何度も読むたびに面白いと感じる部分が変わるけれど、それは人生経験を得て既知の情報が増えて、β読みからα読みになっただけのようにも思える。

    この本も、何度も「実はよくわからん所があるんだよね」と思いながら読んでいたら、いつか、丸ごとわかるようになるのだろうか。

  • 本書は、どういう読み方が本当の読みと言えるものであるか、われわれの精神をきたえ、真に新しい知識を獲得するにはいかなる読みをするべきかを追求したものである。
    既知を読むアルファー読みと、未知を読むベータ読みの区別と前者から後者への移行・考察がリーディングの新しい地平線をひらくものであるといっています。
    いわば未知を読む読書を考えようというもので、ベータ読みを考察するのが最終的な目的である。

    気になった点は、以下です。

    ・マニュアルがわからないといっても、読む側に読む力がないからである、と言った人はいない。
    ・ほぼ完全に未経験なことがらをのべた文章というものは、読み手にとって暗号のようなものである。一読してわかるように考えたら大間違いである。
    ・もともとわかり切ったことなど、読んでも役に立たない。
    ・(口にだして)読めることと、理解することが別々であるのが日本語である、読めても読めてない。

    ・難解信仰のたそがれ、わかりやすいことはよいこと、という平明の信仰である。そのために、当用漢字の制定や、新仮名遣いの導入などがある。
    ・まったく知らないこと(を書くこと)が、いかに難しいか、身にしみて感じた。
    ・すこしづつ慣れると、だんだんわかってくる。ことばは慣れであることがよくわかる。
    ・英単語はなるほど既知のものばかりであるが、それが綴りあわさって表現しているものは、多くの日本人にとって未知である。したがって、わからない。
    ・大人になって、文字が不自由なく読めるようになると、文字面だけ読んで、内容がはっきりしないことがおきる。それがひどくなったのが、論語読みの論語知らずである。

    ・学校の知的教育とは何か。それは人類がこれまで獲得、蓄積してきた文化を次の世代に伝承する営為である。
    ・未知を読むのは、二重の壁がある。①ことばと文字、表現が現れる。②文字や単語はわかっているのに、なお、何のことをいっているのか五里霧中である。
    ・未知を読むのは、登攀コースのきびしい山登りに似ている。

    ・この百年の日本が翻訳文化の時代であったのを物語る。難解至極な訳文と悪戦苦闘することが、とりもなおさず、読者にとって、知的活力の源泉となったのではないか。
    ・よい「悪文」とは、必然性をもって読みにくくなっている文章で、努力すれば必ず報いられる。

    ・社会に古典は覚えて口で言えるようにしておくのがいいという考えがないと、教育は何でもないことすらできなくなってしまう。
    ・正しい解釈、解決を得るのに、「時間」が大きな働きをすることを見逃してはならない。即座の理解では、時の働く余地がない。一度わからぬ文章を何度も何度も読み返す。その間に時が作用する。未知である対象も、わかろうとする人間も、ともにすこしづつ変化して、やがて、通じ合うところまで近づくようになるのかもしれない。

    ・まるで歯が立たない難解な文章もくりかえし読んでいると、いつのまにか、わかったというのでもなく、わからないというのでもなく、なんとなく親しい気持ちをもつようになってくる。

    ・われわれのことばには、2つの面がある。1つは、知っていることを理解したり、表現したりする活動である。もうひとつの言語活動は創造である。

    ・既知から未知を類推するのは、比喩の作用による。そもそも、われわれが、未知のことばがわかるのも、主として、この比喩の方法による発見があるからだと言っていい。

    目次

    はじめに
    序章
     1 未知が読めるか
     2 マニュアルがこわい
     3 論語読みの論語

    第1章
     1 わかりやすさの信仰
     2 スポーツ記事
     3 自己中心の「加工」
     4 音読

    第2章
     1 教科書の憂鬱
     2 裏口読者
     3 批評の文章
     4 悪文の効用

    第3章
     1 アルファー読み・ベーター読み
     2 幼児のことば
     3 二つの言葉
     4 切り替え
     5 虚構の理解
     6 素読
     7 読書百遍

    第4章
     1 古典と外国語
     2 寺田虎彦
     3 耳で読む
     4 古典化
     5 読みと創造
     6 認知と洞察

    エピローグ 「モモタロウ」
    あとがき

    ISBN:9784480423801
    出版社:筑摩書房
    判型:文庫
    ページ数:224ページ
    定価:560円(本体)
    発行年月日:2007年10月
    発売日:2007年10月10日

  • 冒頭に「言葉とその意味には必然性は無い」という文章が出てくるので、これゆる言語学ラジオで習ったやつ!という感動があった。知っていることを読むアルファ読み、未知の内容を頑張って読むベータ読みに区別。ベータ読みが足りないという警鐘。ひとによる解釈の違いや時代を経ることによる文章の古典化など異本論に繋がるところだと感じた。

  • 色々納得しました。すごくおもしろかった。読んでいて楽しい本、難しい本と感じる理由が一部言語化されたと言う点で、無意識の既知の本だったのかもしれない。
    言語に関する学習についての記述も豊富で、今井むつみ先生の著書にも繋がるなと感じました。未知の読書のために必要なことも示されていて勉強になったし、国語の授業で小説や評論を扱う意義についても納得しました。大人になって特に既知の読書に偏りがちなので、未知の読書もやっていきたい。
    学習の仕方にも繋がる話でした。

  • 久々の外山先生。昔、『思考の整理学』や『忘却の整理学』でお世話になった。

    また本文にて同じ本を何度も読むことを薦めていたため、本書は2周した。

    『読み』をα読みとβ読みの2種類に分類しβ読みの必要性を訴えた本。

    α読みとは、既知の事柄を読む『読み』。例えるなら、昨日観た野球の試合の新聞記事や映画を観た後に読む原作なと。

    β読みとは、未知の事柄について書かれた事を読む『読み』。例えば、哲学書、難しい評論、自分の知らない技術の本、使ったことの無い機械のマニュアル。

    α読みは坂道を自転車で下るが如くスイスイ快適に進むが、β読みは険しい道のりの登山の如く随所で躓き中々前に進めない。
    しかし、β読みこそが人間の知的活動であり、β読みを乗り越えた先の景色は壮観である。

    現代教育ではβ読みを習得させるために、先ずはα読みから入り、物語などの虚構が混ざった作品などで徐々にβ読みへの移行を促す。
    しかし近年、物語を読み続けβ読みに移行せずβ読みを知らない・できない大人が増えたことを作者は憂いており、本書にてβ読みの重要性やβ読みこそが真の人間の知的活動であると提唱している。

    読んでて頭が痛くなる文書や眠くなる本はβ読みが必要な本であり、それをα読みのテンションで読んでるから苦しかったのだとわかった。自転車で坂道を下るつもりが逆に坂道を登らされてたのである。

    次は難しめの古典でβ読みに挑戦しようと思う。

    読書をする人にはまじでお薦め。

  • ■ひとことで言うと
     読解を繰り返し、固有の解釈を創り上げる読書を

    ■キーワード
     ・読める≠理解できる
      →知っていることしか「分からない」
       →言葉や文字が分かる≠意味が分かる
     ・アルファ読み=既知を読む、ベーター読み=未知を読む
      →「読む」とはアルファ読みとベーター読みの混合
      →未知の物事を理解するための読書はベーター読み(例:教科書)
       →ベーター読みを繰り返す→アルファ的に理解できるようになる
     ・労力はアルファ読み < ベーター読み
      →ベーター読みは「つまらない」「しんどい」
       →書籍の易化=アルファ化が問題
     ・ベーター読みには長い時間と繰り返しが必要
      →解釈の繰り返し=「本質」の抽出=「普遍化」=「古典化」
       →作者が作品を生み、読者が解釈を創造する
       →「創造的読書」への移行が課題

    ■その他
     読書における意味解釈(意味創造)の重要性の主張は、平野啓一郎さんの「スロー・リーディング」と共通する。
     スロー・リーディング≒ベーター読み、と理解。

  •  本書は、読書のテクニックを紹介するハウツーものではなく、むしろ読書の「心構え」を説くものだ。
     著者の批判するように、たのしいアルファー読みに私は終始し、忍耐のいるベーター読みをいままで一切したことがない。大学生としてあるまじきことだ。恥ずかしい。
     しかし未知のものを学習するのが勉強なら、ベーター読みがなんとしても必要だ。示される方法は昔ながらの王道に徹している。すなわち古典を時間をかけてくりかえしくりかえし読むこと。生ぬるい読書しかしてこなかった私にはかなり忍耐力のいるつらいやり方だが、これしか道はないのだと覚悟を決めさせられた。
     ただ、著者の態度は独断的な懐古主義に映るところも多い。なぜなら読書をめぐる歴史的な記述にデータが一切示されず、著者の推測・仮説の域を出ていないと感じさせるからだ。またアルファー読み・ベーター読みと言語習得との関係については大変興味深いが、現代の発達心理学などの科学的立場からすると正しいのだろうか。真偽は不明だ。
     ところで、これから個人的に読もうと思った本は、大学の講義で知ったプラトンと荀子、あとは近代文学・古典文学・海外文学の名著だ。少なくとも1冊を3回は読まねばならないし、図書館で借りるのではなく自腹で買って、なるべくむずかしい岩波文庫などを選ぶべつもりだ。

  • 「思考の整理学」で知られている著者の作品。「読書の方法」の加筆、修正版になる。
    既知の読み「アルファー読み」、未知の読み「ベーター読み」の二つの読み方を定義づけ、子供の言語力の基盤、作品の古典化、本というのは本来、読み手がどのように学びを得るかが読み方ということがわかる一冊。
    この本もまさに繰り返し読むことで気付きを得られる「古典」になりうる作品と感じた。

  • 本書のもとになった原書の出版年を考えると、現在出ている読書術の本の大本の一冊が本書なんじゃないかと思えるほど、似通った内容を感じる。だから本書を後から読むと、なんだ、同じことが書いてあるじゃん、と思って評価を下げてしまいそう。
    しかし本書は"幅が広い"というか、「読み」を考える上で、いろいろな喩えが出てくる。本書の良さを表現するのに少し短絡的かもしれないが、著者の「読み」の深さがその辺りに表れている。

  • 少し難解な本だった。
    著者は読書には既知の内容をベースに読むアルファ読みと、未知の内容を考えて読むベータ読みという2種類の読みのフェーズが存在するとしている。
    近年では読者に優しい本が溢れ、無意識的にアルファ読みに慣れてしまっていることに著者は警笛を鳴らしている。
    意識的にベータ読みを取り入れ考える癖をつける必要があるというメッセージが読み取れた。
    自分の読み方や考え方を見直すことができる一冊だった。
    時間を空けてまた読みたい。

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著者プロフィール

外山 滋比古(とやま・しげひこ):1923年、愛知県生まれ。英文学者、文学博士、評論家、エッセイスト。東京文理科大学卒業。「英語青年」編集長を経て、東京教育大学助教授、お茶の水女子大学教授、昭和女子大学教授などを歴任。専門の英文学をはじめ、日本語、教育、意味論などに関する評論を多数執筆している。2020年7月逝去。30年以上にわたり学生、ビジネスマンなど多くの読者の支持を得る『思考の整理学』をはじめ、『忘却の整理学』『知的創造のヒント』(以上、筑摩書房)、『乱読のセレンディピティ』(扶桑社)など著作は多数。

「2024年 『ワイド新版 思考の整理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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