生き地獄天国: 雨宮処凛自伝 (ちくま文庫 あ 41-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480423979

作品紹介・あらすじ

現在、フリーター等プレカリアート(不安定層)問題について運動、執筆し、注目される著者の自伝。息苦しい世の中で死なないために。激しいイジメ体験→ビジュアル系バンド追っかけ→自殺未遂→新右翼団体加入→愛国パンクバンド結成→北朝鮮、イラクへ→右翼をやめるまで。文庫化にあたり、その後現在に至るまでを加筆。

感想・レビュー・書評

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  • いまや誰もが知る社会活動家、雨宮処凛さん。
    彼女の幼少期から人生の前半のお話。
    文庫化にあたり、その後現在に至るまでが加筆されている。

    オンライン読後会の課題図書に上がっていたので図書館でかりて読んだ。しかし、オンライン読後会に参加するかどうか、正直躊躇う。就職氷河期の人が対象なので、それなりに辛酸を舐めた人が多いわけだが、誰も我が身の経験を他人と比較なんてできないのだ。過去にあったことを認め、過去のお話にしてしまうには、時間もかかるし、それなりの技術も必要である。

    結果的に、就職氷河期と呼ばれる人々の群れを代弁する著作になってしまったという事実が、そしてこの本を選書した読書会の人々の鬱積した気持ちが慮られる。

  • 雨宮処凛が自身の半生を綴ったデビュー作。色んなものを大量に食った後のウンコのように、濃厚で味わい深い(ぇ

    子供の頃からずっと、理由のわからない、正体の見えない閉塞感や生きづらさの中でもがき続けてきた著者が、様々な人たちと出会ったり別れたり、様々な経験を経ながら、その「生きづらさ」の原因を突き止めていくと同時に、少しずつ解放されていく様が克明に記録されていて、非常に読み応えがある。そして、けっこう泣ける。

    今まで何冊か読んできた雨宮処凛の本の中でも、断トツにおもしろく、一気に読んでしまった。カバーのイラストが可愛いのも良い。

    少し話はずれるが、この本を読んで興味を持った人に、僕は以下の本を薦めたい。

    それは、小説家の村上春樹が地下鉄サリン事件の被害者にインタビューした「アンダーグラウンド」(この本は分厚いので敬遠している人も多いが、最後の村上による考察部分が非常に鋭く、おもしろい)と、その続編で、オウムの元信者にインタビューした「約束された場所で」の二冊である。

    そこでは、オウムが流行した90年代にあって「こちら側の世界」の物語(価値観)がいかにやせ細って、貧困に陥っているか、ということが何度も言及されている。一般的には、オウムの問題は「とんでもない価値観を提供する集団に若者が惑わされていった」と認識されているが、しかし、村上やオウムの信者たちが指摘するのは、それだけではない。「オウムの提供する価値観(物語)は滑稽で、それにはまる人々も滑稽であるかもしれないが、しかしそれを嗤う私たち(の社会)は、どれだけマトモな価値観(物語)を提供できているというのか」という疑問。

    これは、この「生き地獄天国」にも登場する元オウム信者Y君の

    「ホンットに、こっちの世界って、何にも魅力がないですね」(p132)

    という言葉ともオーバーラップするし、もちろん雨宮自身が抱えていた「生きづらさ」とも地続きであることは言うまでもないだろう。信じて、規範とするのに足りるような価値観が不在となっている、貧困なる社会。

    雨宮は、この本を書いた後、反貧困運動などに自分の居場所を見つけ、そして、本書の最後でうっすらと掴みかけた「世界の輪郭」を、さらにはっきりと捉えられるようになったのだとも思う。僕は、その方向性や認識は間違っていないと思うけれど、だからといって日本社会が劇的に変わったわけではない。閉塞感に関しては90年代よりかはマシになったのではないかと思うが、やはり若いころの雨宮のように葛藤し、苦しむ若者が後を絶たないくらいには、現在の社会の価値観は貧困だろうと思う。

    そのような不幸な時代状況がある以上、彼女のこの苦しみと喜びに満ちたデビュー作は、発表から10年以上経った今でも、まだまだその価値が減じることはないだろう。

  • こわれ者の祭典の会長でありワーキングプアの問題に取り組む雨宮処凛さんの自伝。
    アトピー性皮膚炎が原因のいじめに苦しんで楽になりたくて足掻いた日々親に言わないことでかろうじて自分を保っていた。
    ビジュアル系バンドの音楽に救われ音楽雑誌の読者投稿欄を通じてビジュアル系バンドのファンと繋がり自分の居場所を見つけビジュアル系バンドの追っかけにはまっていく日々。
    追っかけをやっていても出口が見えない中でリストカットや家庭内暴力に走り、天野可淡という人形作家の写真集に触発され人形作家を目指すもアトピーで挫折。
    地下鉄サリン事件をきっかけに右翼バンド結成、自分の中の漠然とした自分や世の中に対する怒りや違和感を初めて言葉で表現することが出来て生き甲斐を見つけるが、自分の価値観を右翼団体に委ね自分の弱さから目をそむけているだけじゃないか、本当に変えたいのは情けない自分じゃないかという迷いの中で右翼バンドを結成し映画「新しい神様」の撮影の中で借り物の言葉で自分の怒りを表現出来て、自分のことを少しは好きになれた。そして右翼団体の脱退。
    プレカリアート運動や反原発運動など絶賛世直し活動中。自らの正義感と生きる実感と居場所そして本当に信じられる物を求めて疾走する人生。
    青春が美しいなんて誰が決めた?
    汗まみれ涙まみれになって、コンプレックスや無力な自分にいらだったり、決して美しくないけど、良識や常識を疑い自分が感じる違和感と怒りに忠実に立ち向かう、そんなやり方でしか自分の居場所、生き甲斐は手に入らないことを教えてくれる熱い自伝です。
    「怒りを忘れ、意味のない理性や良識の中に逃げ込んで、無責任と無気力に浸かりきったオマエラ!オマエラがまずこの退屈な平和から脱却せよ!当たり前の怒りを言葉にしてみろよ!」

  • 雨宮処凛氏は元右翼の今は何か社会的な活動をしている人という程度の認識しかなくて、たまたま本屋でこの本があったから読んでみたら面白い。

  • 私はあまり読書をしない。本屋にはよく行くし、小説コーナーでは2時間くらいふらふら彷徨うことはよくある。だけど本を買いすらしないこともある。「私は映画でも演劇でも本でも音楽でも、"自分の気持ちと重なるか否か"でしか見れない(本著p106)」から、そんな作品を、そんな著者を見つけ出すことがなかなかできないからだ。しかし雨宮氏のこの言葉に同調できるのと、自分も中学あたりからサブカルに偏っているので知っている文化人や作品の名前が出て来て、ほくそ笑んでしまった、ああそんな作品と出会えた、と久しぶりに思えた。中途半端にサブカルに傾倒し始めて、全然同級生と馴染めなくて人殺しみたいな目をしてた自分に読ませてあげたかった。社会に出て行くのに不安しかなかったし希望も感じられなかったし、けれど若くて社会に属していないからこそできたことがたくさんあった。しかし中学、高校と卒業し学生である今でも重さは違えど彼女と似たような自傷行為や逸脱した性行動に走ったり何かに不満がある状態が不安定に続いていて、最近になってその問題に気づけたしこの本を読んで自分と重なるところがたくさんあり彼女の方が苦労しているし飛躍もしているから本当にリアルで個人的に面白かった。たくさん頁に折り目をつけた。また、読み返したい。

  • 著者の(現在の)政治的信条に共鳴する人もしない人も、一度は読んだ方がいい本。壮絶の一言。

  • 生きる意味が見つけづらい時代だ。いや、ただ余裕ができて「考える余裕」ができただけなのかもしれない。それまではそもそも「生きる」こと自体が目的であり、その「意味」を見つけようとする余裕なんてなかったのかもしれない。
    この世の中に、或いは生きることに意味なんてないと、そんな風に思う。この本は雨宮氏がどうやって意味のない自分に、意味のない社会に、それぞれ"意味付け"を行ってきたかという記録の本である。いじめにより心が空洞になり、空洞を実感したからこそ彼女は意味を求め続けた。ある時はミュージシャンに、ある時はサブカルに、そしてまたある時は右翼団体に。
    社会は自分たちに明確な意味を見出せていない。でもたとえ何らかの意味付けできたとしても、その意味に納得できない人は必ず出てくる。つまり、結局は自分自身で自分を、社会を、定義付けしていくほかないのだと思う。特定のプロパガンダが支配しない自由な社会を持ったその代償として、我々には自力での意味付けが求められる。現代版そのための思考力が強く求められているのだ。雨宮氏は少なくとも体当たりでその意味を模索していた。そのやり方に賛同、反対など様々な意見があるだろうが、少なくともその姿勢は悶々としている人たちへの強烈なメッセージになり得るだろう。

  • 特定のイデオロギーに傾倒すると何処かでなにか間違ってしまうような気がしてたが、雨宮処凛が同じことを言ってくれて、このまま行動してもいいのだと、勇気と元気が湧いた。

  • 蜜ひとが、全人類の中で唯一
    本当の意味で尊敬している人物
    雨宮処凛様の自伝

    蜜ひとの女神様による
    蜜ひとの聖書

  • 今労働問題など運動を繰り広げ、「プレカリアートのマリア」と呼ばれる雨宮処凛の自叙伝です。イジメ。リスカ。バンギャ。民族運動…。よくこんなにいろんなことを経験したもんだなと、最初はあっけにとられました。

    現在、貧困・労働問題などで、活発な執筆および労働運動を展開し、『プレカリアートのマリア』と呼ばれる雨宮処凛の自叙伝です。一読して唖然としました。壮絶な人生です。いろいろな意味で無茶苦茶です。イジメ。リストカット。自殺未遂。バンギャ。民族運動。そして転向して、プレカリアート問題と、本当に驚かされました。この前、某無料動画サイトで彼女が当時組んでいた右翼パンクバンドの『維新赤誠塾』のライブおよびドキュメンタリー映像を観る機会があったので、ここに今回彼女の自叙伝を取り上げてみました。

    彼女はバンギャ時代を経て上京後、キャバクラ嬢をしていたそうなのですが僕がその中で爆笑したのは『軍歌が歌えるキャバ嬢』というフレーズで、キャバクラ嬢という職業とのあまりのギャップに大笑いしたことを覚えています。この本は人によっては非常に不愉快な内容を含みますのであんまり人にはお勧めできませんが、ある1人の女性の軌跡というものを知るには悪くないとは思うんですが・・・。

    それは実際にこの本を手にとって読まれる方にお任せします。

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著者プロフィール

1975 年北海道生まれ。作家・活動家。「反貧困ネットワーク」世話人。フリーターなどを経て2000 年、『生き地獄天国』( 太田出版/ちくま文庫) でデビュー。主な著書に『生きさせろ! 難民化する若者たち』( 太田出版/ちくま文庫)、『相模原事件・裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』( 太田出版)、『コロナ禍、貧困の記録 2020 年、この国の底が抜けた』( かもがわ出版) など多数。

「2022年 『手塚マンガで学ぶ 憲法・環境・共生 全3巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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