続明暗 (ちくま文庫 み 25-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (417ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480426093

感想・レビュー・書評

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  • 著者、水村美苗さん、どのような方かというと、ウィキペディアには、次のように書かれています。

    ---引用開始

    水村 美苗(みずむら みなえ、1951年 - )は、日本の小説家、評論家。夫は東京大学経済学部名誉教授の岩井克人。

    米国に長く滞在。夏目漱石『明暗』の続編として『続 明暗』(1990年)を創作し話題に。評論『日本語が亡びるとき 英語の世紀の中で』(2008年)も高く評価された。ほかに『本格小説』(2002年)など。

    ---引用終了


    で、本作の内容は、次のとおり。

    ---引用開始

    漱石の死とともに未完に終わった『明暗』―津田が、新妻のお延をいつわり、かつての恋人清子に会おうと温泉へと旅立った所で絶筆となった。東京に残されたお延、温泉場で再会した津田と清子はいったいどうなるのか。日本近代文学の最高峰が、今ここに完結を迎える。漱石の文体そのままで綴られて話題をよび、すでに古典となった作品。芸術選奨新人賞受賞。

    ---引用終了

  • ある小説が絶筆になって、その先が知りたいほどおもしろいなら、
    書き継がれるものはおもしろくなくてはならない。

    とおっしゃる作者、説得力がある。

    読者は何を期待するかというと、登場人物がこのさきどうなったかということと、
    途絶したストーリーの先を知りたいということ。

    登場人物の性格が変わってほしいのでもなく、雰囲気が違ってもほしくない。
    人間のエゴイズムを追求している意図ならば、急に勧善懲悪を期待するのでもない。

    さて読んでの感想は

    「答えはすでに漱石の作品の中にあるのである」
    ということをまざまざと見せてくれるね。

    『明暗』と『続 明暗』通して読んでみて、むしろ違和感がないのが怖いほど。

    「夏目漱石読破ツアー」をしているわたしは
    「ああ、あの作品のあれがここだ」と何度楽しんだことか。

    楽しませてくれ、「そのさき」の興味が満足させられた。

    でも、人間のエゴイズムの複雑さに幕引きはない。
    小説は終わらないのだった。

  • さすが、ちくま。さすが水村美苗さん。

    1990年に筑摩書房から出版された、水村美苗さんの初小説だそうです。面白い。大好き。

    新潮文庫になっていたんですね。それが絶版になっていた。それをまた、ちくま文庫が出したんですね。まあ、新潮の方がメジャーですからねえ。でも、僕はちくま文庫さん、大好きです。ちくま文庫がそこそこの分量、置いてある本屋さんが好きです。

    閑話休題。
    水村美苗さんの本は、以前に「日本語が亡びるとき」(2008)、「母の遺産」(2012)、の二作を読んだことがあります。で、そのどっちも、大変に大変に、面白かったんですね。
    感じとしては、丸谷才一さんの本が好きなヒト、夏目漱石や芥川龍之介とか本が好きなヒト、津村記久子さんの本が好きなヒト、などには、おすすめだと思います。違ったらごめんなさいですが。
    他に、「本格小説」「私小説」などの本があって、僕はまだ未読です。楽しみです。
    リアルタイムで新作が期待できる小説家さん、というのは実に嬉しいものです。
    (個人的には、2014年現在では、他に「ほぼ必ず買う」レベルで言うと、小熊英二さん、津村記久子さん、伊坂幸太郎さん、原りょうさん、大沢在昌さん(の、「新宿鮫」シリーズ)…。くらい、でしょうか。一歩下がって、中村文則さん、池井戸潤さん、奥田英朗さん、萩原浩さん、内田樹さん、村上春樹さん…。少年時代に好きだった小説家さんの多くは(殆どが?)亡くなってしまったので。新作が楽しみにできるリアルタイムの、好みの小説家さん、もっと探さないと、愉しみが増えないなあ、と思っています)

    という訳で。「續・明暗」。
    夏目漱石さんの「明暗」は1916年の小説。

    意志の弱いサラリーマンの津田。
    上司であり恩人の吉川氏、そしてその強烈な奥さんの吉川夫人。津田は、この吉川夫人の言いなりになっている。

    津田はかつて、吉川夫人の紹介で「清子」という女性と交際した。
    結婚したかったが、振られた。
    その後、お延という若い、うぶな女と結婚。

    そんな津田が日々のお金のやりくりに苦労しながら。胃腸を病んで治療しながら。
    吉川夫人の言いなりになって生きている。
    新婚の妻・お延は、左程、吉川夫人に隷従しては、いない。
    吉川夫人は、自分に精神的に服従しないので、お延を疎ましく思っている。ところが、初心なお延はそんなことは何も知らぬ。
    なんとなく、吉川夫人がお延を精神的に貶めようとしている陰謀を感じる。

    津田は吉川夫人に、「湯治に行け」と言う。
    お金を出してあげる。仕事も休んで良い。
    その湯治場には、人妻になった清子が、今湯治しているから、会ってこい、と。
    会って、どうして自分は振られたのか聞いてこい、と。その代り、そのことを当然ながら、お延には黙っておけ、と。
    そして、津田が不在の間に、
    「お延は自分が教育しておいてあげる」
    と。何だか怖い。

     で、津田は湯治に行く。とうとう清子と会う。どうなるどうなる。お延の身には何が起こるのか。
    で、漱石死没、未完。

     水村美苗さんの「續・明暗」は、その続編。で、多分ですが、別段漱石のメモや遺稿があった訳ではなくて。水村さんの推測というか想像というか創造というか、のようですね。

     漱石もそうですが、水村さんも、とにかく文章がすごいですね。
     これ、なかなか一言で言うと安易ですけど、やっぱり凄いんですよ。
     無駄がない。品がある。けど気取ってない。読み易い。率直。でも含意含蓄がある。うーん、もっと印象論で言うと、日本語への愛がある。技術がある。思索の積み重ねがある。
     日本語と言う道具を、実に巧みに華麗に大胆に。
     …なんていうか、新体操の選手さんがリボンとかそういう道具を扱うように。ため息がでるような捌き。
     アートというのが芸術であったとして、それが技術なんであれば。成程、小説というのは畢竟、言葉の技術である訳ですね。

     そして、「明暗」と変わらぬ味わいの、心理サスペンス。これが強烈です。
     小心者の見栄っ張りの津田は、清子に言い寄るのか。
     吉川夫人はどう、お延をいじめるのか。
     無邪気に夫を信じていた若い女房お延は、プライドを汚されて、どうする。どのように壊れるのか。
     犯罪サスペンスのように、津田の精神的倫理的犯罪が進行する。悪漢小説。ピカレスク・ロマン。罪は実際に犯されるのか。
     そもそも、人妻になっている清子は、何を考えているのか。

     ある意味、夫婦ともども、破滅にずるずると落ち込んでいく。そう、ボヴァリー夫人なんです。タマリマセン。オモシロイ。フローベール、大好きです。
     ちなみに、フローベールの「まごころ」を漱石が読んだ、という批評文が残っているそうですね。「ボヴァリー夫人」は、フランスでの発表が1856年。日本語訳は、ネットの情報によると、1916年だそうです。漱石の死去は、その年の12月。明暗の連載開始が5月。漱石はボヴァリー夫人を読んだんですかねえ。フランス語は読めないにしても、ひょっとしたら日本語訳を待たず、英語訳で読んでいた可能性もありますよね。
     と、考えたりするのは愉しいことですが。

     まあ、ボヴァリー夫人のような、ある種の破滅していく粗筋で、漱石が考えていたかと言われると、違うような気がしますけど。水村さんが言及しているように、漱石の小説って粗筋、運びという次元で言うと、終盤に華麗に独特の破綻を起こすことが多いですからね。

     そう踏まえると、水村さんがあとがきで、「意図的に漱石のタッチよりもドラマチックにした」。とても納得。ああ言う「味のある華麗なる破綻」を真似してもしょうがないですもんね。
     と、いう訳で、「續・明暗」。終盤の怒涛の展開は、確かにドラマチック。僕は嫌いじゃないです。漱石の作品じゃない、水村さんの小説ですしね。堪能、脱帽、剛腕にして大胆、そして美味な文章を、ごちそうさまです。

     未読の水村さんの本、また楽しみにしたいですね。そして、何より新作が待ち遠しいですね。2014年、2015年かな。もっと先かも知れませんが。
     同時代を生きている水村さんが、何を書くのか。わくわくします。同時代進行形で楽しめるのが、いちばんの読書の快楽なのかも知れませんね。
     まあ、そう思える物書きさんは、そうそう簡単には、見つけられないものなんでしょうけど。

    ####################

     あらすじというか、備忘録で言うと。
     津田は湯治場で、人妻となった清子と交流する。清子は積極的ではない。けれども津田は未練と執着があって、近づく。
     お延は、吉川夫人から、「津田が独身時代に執着していた女と会いに行ってるぞ」とねちねち言われる。恥をかかされる。お延は精神的に打撃を受けて、湯治場に向かう。
     津田は結局、再度ふたたび、清子に振られる。清子には見透かされていて、意思が弱い、自分が無い、己の醜悪さを全て指摘される。がーん、となってるところに、清子とふたり連れの場面を、やって来た女房お延に目撃されてしまう。
     更に、お延の失踪に等しい湯治場への暴走が波紋を呼んで。東京の親族や関係者まで心配して湯治場に来る。夫婦は大恥をかくことになる。どうやら矢張り、全ては吉川夫人の自作自演の陰謀。自分の紹介なのに津田を袖にした清子。そして自分を尊重しない、お延。この二人を同時に辱めて、自らの優位を示すためなのか。
     夜半、お延は最早、自死しようと。滝に身を投げようと宿を出る。津田が気づいた時にはもう、居ない。その上、津田は胃腸が壊れて下血する。そんな中でようやく津田は、吉川夫人の悪意を実感する。もう言いなりになるまい、と思う。お延は滝まで行くが、山の自然を感じて、なんとなく自殺を思いとどまる。以上、終わり。

  • おのぶと吉川夫人の場面では、本当に自分が侮辱されたかのように、胸がカッとなった。
    清子の津田への怒り、おのぶの津田への失望、
    自分の中にある津田が、えぐられるような思いで読んだ。


  • 水村美苗 「続明暗」


    夏目漱石 未完の絶筆「明暗」の続編。結末は 自然をキーワードとしており、なるほど そうなるかも と思う

    不倫小説としては面白いので、続編というより スピンオフ的な小説として楽しんだ方がいいかも


    明暗と続編の違い
    *明暗を覆う 底なしの不安や圧迫感がない。明暗は 字で埋めつくされた文体が 読み手に圧迫感を与えるが、続編は読みやすく安心感を与える

    *明暗はワンシーンが短く、1つの場所で1つの行為が行われていたので筋はわかりやすかった。続編は冗長?

    *明暗は 津田とお延を取り巻く人間関係全体を動かしていたが、続編は津田と清子の不倫関係のみ

    *善にも悪にも変われる小林と吉川夫人だが、続編では存在感が薄れてしまった

  • 「一体何処から遣り直しがきかなくなってしまったのだろう」

    単行本が出版されてすぐに読んだ記憶があるので、1990年以来の再読となる。
    黒船的な登場は衝撃だった。
    明暗の続きをそのまま読みたいという願いが叶ってしまった。

    文庫の裏にもあるが、この作品自体がすでに古典。
    奇跡の一冊。

    個人的に集中して漱石全小説を再読した後に読むと、感無量としか言いようがない。

  • あとがきにある、「文士を押すのではなく、人間を押すことを望む」ことを、漱石から受けての続編。
    この書の批判に対しても、冷静に分析する水村美苗はさすが。メンタル強すぎる。

    個人的にこれじゃない感はあったけれど、未完のものへのひとつの答えとしてとても面白かったし、読んで良かった。
    読みながら、漱石は後世の私たちに楽しみを残す為、未完のまま終わらせるつもりだったのではないかとすら思えた。

  • 夏目漱石の本歌取りであるが、新人作家がそれにチャレンジした勇気と、その勇気に匹敵する内容の面白さに感服し喝采。
     登場人物のキャラで小林がずいぶん常識人になってしまったのと、妻お延がなんでかうつ性格になってしまったのは、ちょっとしたキズにもみえるけれども、それまでほとんど登場してなかったもと彼女の清子、温泉で親しくなった安永と貞子の性格創作は見事だった。津田と妹お秀と吉川夫人の性格描写はきちんと承継していたし、ストーリー自身が夏目漱石のそれよりも昼ドラみたいで抜群に面白くなってたわ。
     太宰治のグッドバイとか、山﨑豊子の約束の海とか途中で絶筆になってる小説を思い切って本歌取りするブームが到来してほしいね

  • 予想以上に自然な繋がり方だった。原作と最も自然な繋がり方を探った、とあとがきにあったが、よくここまで再現できたな、という感想である。
    何度も滝へ身投げした女性の描写があるので、お延の運命を暗示しているのかと単純に思わせておいて、最後はお延の自然に身を委ねる、吹っ切れた姿で終わるのがなんとも清々しくて良い。
    あとがきにあった通り、漱石は文明論を登場人物に語らせるので、どうしてもストーリーへの興味が失せがちだったのが、続明暗では、そのくだりが全くなかったので、漱石のストーリー性と人物描写の巧みさを抽出して読んだかのようで、とっつきやすかった。

  • 芸術選奨新人賞受賞。
    「明暗」は絶筆で未完成ですが、水村 美苗さんが「続 明暗 (ちくま文庫) 」で完結させてくれています。私的には納得のいく結末でした。良い着地点と思いました。お薦め。

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著者プロフィール

水村美苗(みずむら・みなえ)
東京生まれ。12歳で渡米。イェール大学卒、仏文専攻。同大学院修了後、帰国。のち、プリンストン大学などで日本近代文学を教える。1990年『續明暗』を刊行し芸術選奨新人賞、95年に『私小説from left to right』で野間文芸新人賞、2002年『本格小説』で読売文学賞、08年『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』で小林秀雄賞、12年『母の遺産―新聞小説』で大佛次郎賞を受賞。

「2022年 『日本語で書くということ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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