東大が倒産する日 (ちくま文庫 も 4-13)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480428004

作品紹介・あらすじ

二十世紀末、国立大学の独立行政法人化を前に「大学の未来像」について行った計十七時間のインタビュー。そこで語られた言葉は、二十一世紀に入り十年以上が経過した今も日本の大学教育や教員、学生への新鮮な指摘を含んでいる。教育に関心のあるすべての世代に贈る"森名言集"。-「カシコに教わるくらいアホでもできるがな。アホから教われるのが本物のカシコ」。

感想・レビュー・書評

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  • 教育

  • 読書録「東大が倒産する日」3

    著者 森毅
    聞き手 豊田充
    出版 筑摩書房

    p16より引用
    “どこ行ってもつぶしきくやろうという人の
    パーセンテージが高い大学がいい大学やけど、
    東大にはやっぱりそういう人は多い。”

    目次から抜粋引用
    “いいやないの、民営化
     課題自体がわからんのが課題研究や
     国立やからと思ってたら堕落する
     ソフトな学力が落ちている
     おしゃべりが文化を育てる”

     数学者と教育ジャーナリストによる、大学
    界隈の問題などについてのインタビューをま
    とめた一冊。過去他社刊行文庫版。
     2000年代に入ってからの大学改革について
    から学生からノートを借りての講義の話まで、
    一風変わった視点で語られています。

     上記の引用は、はじめにでの一文。
    和田秀樹氏の著作だったでしょうか、かつて
    大きい証券会社が倒産した時に、優先的に再
    就職先から声がかかったのは、東大出身者
    だったとか。その国の最高学府というものは、
    やはり値打ちのあるものなのですね。
     学部の新設やらで、大学についての揉め事
    が騒がれていましたが、一部の人たちが利益
    を確保するようなことにはならないで欲しい
    ものです。
     大学に行っていないと、いまいちよく分か
    らなかったり共感しにくい話題もあります。
    しかし、なんとなく面白く感じて読めてしま
    うのは、森氏の言葉の柔らかさと語り口の為
    せる業ではないかと。

    ーーーーー

  • 2011年(底本1999年)刊。著者は元京都大学教養学部教授。

     一見すると、挑戦的なタイトルだが、内容は全く違う。独立行政法人化前、大学改革論が喧しかった頃、大学機構改革・大学研究・講義論を鼎談形式かつ経験論的視点で著者流に叙述した書である。
     とはいえ、関西弁が生きる軽妙洒脱な語り口に爆笑させられる。

     例えば、
    「研究室には"抜群"とズッコケの両方がいた方が良い」
    「スカタン言いよるからズッコケの大部分はあかん…が、その中から抜群が"これ"というのを見っける」
    「ところが、受け止めてくれる"抜群"がいないとズッコケは諦めて"抜群"に化ける」
    「こんな化けた先輩の伝説ある研究室は明るい」
    と。しかし
    「ただし、大部分のズッコケは化けることなくズッコケっぱなしで…"抜群"の方が確率がいい」
    というようなオチを最後につけるあたりが見事である。


     もちろん本筋も振るっている。
    ⑴ 再任禁止の10年任期制。
    ⑵ 年間1億円出して目玉となるノーベル賞学者を大学で各々選抜し、自分の大学に呼んで講義(広告塔)してもらう。つまり事実上の広告塔とする。

     さて、大学生を含め、判らんことに対する堪え性のない点は致命的だ。すなわち、判らないことを頭の中に養う能力が大事だともいう。
     また、研究の失敗は、後続の失敗を回避させる価値があり、批判すべきでない。
     複数回の失敗を想定し許容すべきであり、10年位は安定した地位がないと、総体的な良結果にはならない。
    等々の、慧眼の数々。

     さらに一回の講義に対しては、その倍の時間の自宅・図書館での自学習が要る(90分講義なら180分)という至極マトモな指摘もてんこ盛りである。つまり、まともに講義を受けようとすれば、一日に何コマも入れられるはずがないのだ。


     補足。
    ①「カシコに教わるくらいアホでもできるがな。アホでも教われるのが本物のカシコ」。
    ② 京大でけったいな研究会に常に顔を出していたのが湯川教授。そこでけったいな質問を連発し、勿論8割位は愚問だが、残りの2割の妙な話が議論を活性化させる。その愚問を恐れず質問し続ける点が凄い。若手研究者や学生も見習ってほしい姿勢である。
    ③ 旧制の東大生は大概、大学や講義を当てにせず、社会からでも何からでも、自分が学ぶための材料を仕込む時期と考えていたよう。勿論、新制になってからもそういう姿勢はあったよ。でも今は…。
    ④ 進学した後に学生が伸びた大学は京大が一番という話が出たが、それは不思議だ。京大みたいなところは伸びるのと落ちこぼれるのとが両方いる。両方を見ないとその評価はしにくい。

     他にもまだまだ沢山あるが、大学生や院生、あるいは高校生、さらには自らの学びを続けようとする者にとって金言至宝と笑いが詰まった一書である。

  • 何と過激なタイトルか。倒産と言ったって、東大は国立じゃないか。でも、国立大学も民営化される日がやってくるかも知れない。(とっくにされましたね。)そうすると、うまく運営しなければつぶれる可能性だってある。実際、私立大学は近々学生が集められなくてつぶれるところが出てくるだろうとも言われている。(大学選びはしっかりしないとね。)さて、本書は別に東大のことばかりではなく、大学教育についていろんな観点から語られている。私自身は、高校時代、同じ著者の「数学受験術指南」(中公新書)を読んで以来の森毅ファンである。5年くらいは出る本出る本すべて買って読んでいた。30冊くらいにはなるだろうか。私の人生観、教育観は森毅先生によってつくられたと言っても過言ではない。最近はだんだん読む時間もへってきたので、同じ著者の本はずっと読んでいなかった。でも、本書はタイトルがなかなかよかったので、つい買って読んでしまった。やはり以前と同じように歯切れがよく、とてもおもしろく読んだ。何度も読んできた内容ではあるけど、とくにすきなフレーズを最後に書いておこう。「分からなさを頭に飼う。そして分からなさを楽しむ。」

  • 数年前に他界された森毅先生の大学教育論。

    腑に落ちるところと落ちないところが混在しているのは理系研究者の王道ならではという印象。

    まず一つ。外圧がないと変わらない。という部分。これについてはもう言うまでもない。政治的に自立していないことの証左が外圧の利用であって、問題外だというのは何人もの文系知識人層が指摘していること。

    今一つ、少人数指導が機能しないのではないかという点。ガラス張りにする逆効果として隠れる部分が無くなるのは危険ではないかという指摘。何でもかんでも根掘り葉掘り常に突っ込むわけでなない点と、所詮人間関係なので少しずつ関係を深化していくことで距離感をつかむため、必ずしも懸念するに及ばない。ただし自分自身を振り返ってみればの話である。

    全体的に一昔前の議論という観は否めないけれども学際領域での研究は京大がまだ分がある・東大の学生が明治に聴講に行かないという風潮はよくない、など興味深い指摘も。

  •  昨年に亡くなったおしゃべりなイメージのある数学者、森毅の対談を起こしたもの。大学法人化の前のものだけに、これからの大学はどうなるか、といったことを脱線しまくりながら森流で言いたい放題している。
     この人の著作はわかりやすいのかわかりにくいのかよくわからない。わかりやすいと誉れが高いので読んでみると難しい、というトラップを何回かくらっている。しかし、この本は数学の本ではなく、いわゆる大学論?といったものを語っており、その内容はわかりやすく独特な観点から眺めていることを感じさせられる。
     個人的には「大学街」という風に大学単体ではなく、地域との関連も考えていくというアイディアの重要性の再発見が一番印象に残ったが、他にもおもしろく、参考になる点は多い。しかし、口語体のよさが出ている反面、読み難くなっている部分もあるのは若干残念であった。

     ところで、この本の中で一番しびれたのが次の部分。ぜひこうありたいものだと思う。数学者の溝畑茂が言った溝畑語録:「この分野ははってんしそうですか」と言ったら「発展するかどうかはわからん。ともかくやるからには、おれが発展させると思うだけや」

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著者プロフィール

1928年東京生まれ。数学者。東京大学数学科を卒業。京都大学教養部で教鞭を執り、民間の数学教育運動にも参画した。京都大学名誉教授。数学科関係の主な著書として『数学の歴史』(講談社学術文庫)、『微積分の意味』(日本評論社)、エッセイ・自伝に『まちがったっていいじゃないか』(ちくま文庫)『自由を生きる』(東京新聞出版局)ほか多数。2010年7月逝去。

「2021年 『悩んでなんぼの青春よ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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