- Amazon.co.jp ・本 (356ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480429254
作品紹介・あらすじ
ヒロインは、なぜこの場面でこのように不可解な行動に出たのか。真実はひとつに見えるが、男女の間ではそう簡単にはいかない-男女の感情の行き違い、誤解、あるいは逆に思いやりによって引き起こされる思いもかけない言動の数々。日本近現代文学の恋愛小説の名作を取り上げ、著者自身の恋愛体験に照らしながら、主人公たちの謎に満ちた振舞いを解明する試み。
感想・レビュー・書評
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名著のおいしいところ、不思議なからくり、それぞれの作家の人物像、さらにはこの本の著者の私生活が垣間見える本。
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おもしろかった。最後の『藪の中』の読み解きが印象的だった。それまで話のマクラで使われていた、著者のまわりで起こる恋愛のような恋愛でないような話の本筋も、「嘘」という視点によって、はっきり輪郭をもったように思えた。
思い通りにしたいと思えば思うほどうまくいかず何も手に入らないのが人間関係であり、そのエゴを拡大した種類の小説というのがある。その中では道徳的規範が忌み嫌われる。苦しんでる自分に酔いしれてさらに苦しい、というような負のループにさらに酔いしれる人たち。現実にいたら大変めんどくさい。関わりたくないと思ってしまう。メンヘラともいう。しかしそれが日本文学のある種の一面なのだろう、それを人間らしさの本質だ、と言い切ってしまうのは結論を急ぎすぎている気もする。世の中はそれだけではない、と思いたい。しかし、これだけ面倒なだけの恋愛に没入できるというのはすごい。人間愛なのだろうか。自己愛な気もする。
さて、日本文学の著名な作品をチェックしたいと思い、本書を手に取る。面白そうな作品がいっぱい見つかって読んでよかった。作品だけではなく、著者や時代の文脈を知っておきたかったのでとてもよかった。
恋愛という軸で、著者があたかも一読者として、自身の恋愛話をしてくれるのが読みやすい。単純に文章もすごく上手く、するすると読めてしまう。(読んでいくうちにこの著者もふつうじゃない、と気づかされる)
恋愛というテーマは小説でも読ませるためによく使われていて、それとの親和性も高いのかもしれない。上手に嘘がつける人ほど、恋愛や人間関係がうまいのかもしれない。うらやましい。
解説書と思えない解説書。いちばんインパクトがあったのはいちばん最初ということもあって突然のキスの話、その衝撃を引きずりながら最後まで読みきれた。読みたい作品がたくさんできてしまった。どれから手をつけようか。えぐい恋愛とかグロい話とかこじらせた大人たちがいっぱいでてくるけど、これから名作とよばれる日本文学を楽しみたい人にちょうどいい本。 -
紹介本自体を読んでいたらもっと面白くなるだろうが、それに関連した著者の生き方は憧れる。
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すばらしいですこれ。日本文学での「ヒロインの不可解な行動」を読み解いた本。植島啓司さんの本はどれも、あることを語りながら、「いつでも-他の-何か」を示唆しているように読める。
「いつでも-他の-何か」。これが植島啓司さんの本の中で、片面で自分がずっと気にし続けている「宗教性」「超越性」に触れながら、他面で自分の苦手領域である男女関係、恋愛に関わっているのは驚くべきことだ。エロースとプシュケー。
紹介され読み解かれている作品の中でも、大庭みな子「三匹の蟹」、中上健次「水の女」、三島由紀夫「音楽」の三作は特に気になった。探して読もう。 -
面白かった。学者上がりの著者だけど、本のセレクトが偏っていない。