9条どうでしょう (ちくま文庫 う 29-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480429940

作品紹介・あらすじ

「憲法九条をどうすべきか」。護憲派にも改憲派にも言い分はあるでしょう。しかし、原理主義的に考えているだけではこの閉塞状態はどうにもならない。これを打ち破るには、「虎の尾を踏むのを恐れない」言葉の力が必要なのだ。「九条と自衛隊のねじれによる病の効用」「男は戦争が大好き」「現実性より方向性」「普通の国のチープさ」などなど、他では読めない洞察が満載のユニークな憲法論。

感想・レビュー・書評

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  • 前回図書館から借りて単行本の本書(2006年刊行)を読んで、手元に置きたくなったので買ってみました。前回の時は安倍が「戦後レジュームの転換」を言って、国民投票法を通そう(実際通した)とした時だったが、今回の刊行は2012年の10月である。安倍のアベノミクスが全面に出てくる直前である。よって、まだ民主党政権ということもあり改憲に対する危機意識はあまり高くはない。しかし、特筆すべきは四人とも、2006年も2012年も情勢にほとんど変化はなくて、ここで行われた議論は訂正の必要がないと言っている。驚くべき自信である。よって、彼らは本文には手を加えていない。まえがきとあとがきはあるが、目新しいことはまったく述べられていない。

    もちろん、一方で現実の情勢は緊迫度を増している。安倍は通常の改憲がむつかしいと見るや、96条改憲を言い出し、それも無理と見るや、集団的自衛権の解釈改憲を日程に組み込んだ。しかし、ここで展開されている、「言葉のアクロバットで護憲を言ってみる」という試み自体にに訂正がいらないのはその通りだろう。

    この本の価値は「ああ言えばこうゆう」タイプのネットウヨに「ああ言えばこうゆう」ネットサヨクを対置する武器になり得る、ということだけだろう。

    最初は四人の理論展開を整理しようと思っていたのだが、途中で意味のないことだと気がついた。言葉のアクロバットで攻撃してみても言葉のアクロバットが返ってくるだけと気がついたのである。

    それに実は生産的な議論は、奇しくも内田樹先生推薦文付きで松竹伸幸氏が「憲法9条の軍事戦略」で始めてしまった。

    ただ、ひとつだけ気がついたこと。
    内田樹氏は「自衛隊は憲法制定とほぼ同時に、憲法と同じくGHQの強い指導の元に発足した。つまり、この二つの制度は本質的に双子なのである。」(33p)と言う論理で憲法と自衛隊の両立について述べているのである。これは違うと思う。

    少し自衛隊の歴史をみると
    1950年に「米国の軍事的利益は最大限早い時期に(米国に)提供できるよう日本の(防衛)能力を向上させること」だとし、そのためには「日本国憲法の変更は避けがたい」(米国統合参謀本部への戦略調査委員会報告)という報告を受けて、警察予備隊(1950)→安保隊(1952)→自衛隊(1954)と整備されてきたわけです。
    1952年が旧安保条約の成立であり、むしろ自衛隊は本質的に安保と双子関係にあるというのが正しい見方だと思う。
    「言葉のアクロバット」で憲法と自衛隊を双子関係にするのはいいけど、この文章を見る限り肝心の安保条約を頭から抜かしている。それは大変な情勢認識の誤り(敵を見誤る)なのだと私は思うのです。
    2013年10月9日読了

  • 最初の二人(内田樹と町山智浩)のがわかりやすかった。

  •  とっても面白かったです。
     四人が書いていて、それぞれに興味深かったです。でも、筆頭の内田樹さんの文章がいちばん好きでした。それだけでも、みんなに読んでもらいたいですね。

     編集者が、柔らかいタイトルをつけたくなるのも分かります。とにかく手にとって読んでくれ!という本ですね。
     九条改変したい、日本再軍備、そうしないと日本人の精神はシャンとしない!・・・みたいな精神論に固まっている方は、何を読んでも何を聞いても、ホボ意見が変わることはないでしょうから(笑)、九条改変について、今ひとつ自分としてはかっちりした意見を持たない人に読んでもらいたいですね。ホント。何しろ、僕たちヒトリヒトリの判断が、子々孫々の歴史に良かれ悪しかれ刻まれる日が、早晩やってきちゃう可能性もありますからねえ。そうならんことを祈りますが。

     九条改変を希望するヒトが国会に大勢いて、世論を煽っている、というのは何だかいやーな気がしています。
     物凄く単純に言うと、「言った言わない論」に等しい、「誰が作ったか」議論とか、純粋な精神論とか、ほとんど酔っぱらい感情レベルでよく賛成する人がいるんだなあ、と思っていました。
     別に九条改変に限らず、なんにつけそうですが、大義名分はどうでもよくって、「ソレをすると、誰が儲かるのか?誰が損するのか?」ということダケだと思うんです。

     明らかなのは、喜ぶのはアメリカですね。

     だって、アゴでこき使える子分を、戦場にも投入できるわけで。お金、浮きますからね。あとは、兵器を売る人は儲かりますね。ほかは一体、誰が儲かるんですかね?少なくとも僕は儲かりません。むしろ、コレだけ将来に向かって国民の人数自体が目減りして、保険だ年金だって、カネが不安な国が、精神論で軍備にカネ使ったり戦争したりできるわけないじゃん、と。

     で、誰が変えたがってるのかっていうと、自民党政権ですよね。
     自民党政権っていうのは、戦後ずーっと、アメリカの子分であることを受け入れてきたんですよね。

     国粋主義的なこと、「美しい国」とか、看板として一部ヤンキー的みなさんの支持を受けてますけど、一度たりとも、

    「日米安保はもうヤメだ」とか
    「アジアで同盟しようぜ、アメリカは経済から締め出そう」とか
    「沖縄から出て行け米軍」とか
    「なんで在日米軍の家族とかの生活費まで日本国民の税金で出すんだよ。こっちも経済大変なのにふざけんな!」とか
    「なんで日本に輸出するアメリカ産食品は、アメリカ国内では禁止されてる農薬、ぶっかけてんだ?」とか

     って、言ったことないんですよ。
     ソコんとこ巧妙に隠してますけど、要はアメリカが自分の金を浮かしたいから、九条改変を望んでいるだけなんですよね。なんでそんな簡単なコトが一般に常識になってないんだか。

     と、いうようなことを思っていたわけですね。ぼんやりと。

     で、この本は、単純な平和主義九条賛歌、軍隊全否定のマザー・テレサ的観念ではないんですね。もちろん、一方でマッチョ的精神論に基づく改憲論でもありません。
     経済、文化、精神、国家とは?国民とは?アメリカとは?日本の未来とは?バブルとは?バブル後とか?自衛隊とは?憲法とは?と言ったような色んな見方から、九条改変問題を分析しています。そして、努めて平易に語ってくれています。チョットでも興味があればサクサク読めます。
     2006年の本ですが、全く古びてませんね。むしろ今こそ、読むべき本ですね。僕はケッコウ納得したり、ふむふむと思ったりしました。ですが、それ以上に、読んでよかったなーと思ったのは、いくつもの「へ~」があったことですね。モノの見方というより、その前提になる事実や事象。ちゃんと色んな本を読んで知識を積み上げた上で、それをどうつなぎ合わせて解釈するか、については独自の意見がある。そーゆーヒトの書いたものを読めるっていうのは、幸せですね。

     トップバッターの内田樹さんの文が僕はいちばん好きでしたけど、実は2番手以降の方がより平易な語り口だったりします。手にとってもし内田さんパートがとっつきにくくても、諦めずに二人目以降だけでも読んでくださいませ。

  • なるほどなって感じ、「普通の国」とはなんかのか考えさせられる。

  • これ!絶対みんな読んだ方がイイ!!
    全文引用して書き留めておきたい内容。

    憲法なんて、現実と乖離してていいんだって!
    そこ、共通の認識にしようよ。

  • ■内田樹
    ・そもそも法律は「よいことをさせる」ためではなく、「悪いことをさせない」ためにある。「人間は放っておけば必ず戦争をする。」これを前提に、「どうしたら人間に戦争をさせないようにできるか」を考えなくてはいけない。
    ・9条二項を改訂して「(条件付きで)武力を行使できる。」とすることは、どう考えても「戦争ができるようになりたい」ということ。
    ・改憲派も護憲派も、武力を持たないことと自衛隊の正当性の矛盾の解消を求めているが、9条こそが自衛隊の正当性の根拠になっている。
    ・自衛隊は、憲法制定とほぼ同時にGHQの指導のもとに発足した。つまりこの二つの制度は本質的に「双子」であり、両者が矛盾した存在であるのは、「矛盾していること」こそが、そもそもはじめから両者に託された政治的機能だったことを意味している。
    ・憲法9条と自衛隊はアメリカが日本を「従属国化」するために採択した政略であり、「奴僕」の立場に甘んじる限り、この二つの間に何の矛盾もない。敗戦国である日本人は、奴僕国家として「正気」であることよりも、「人格分裂国家」となる道を選択したことによって、独立国として生き延びることができた。
    ・この病気を直すことよりも、この病気に向き合い、病とともに生きるというあり方が日本人が選びうる最適なソリューションではないか。
    ・9条を改正しても、アメリカとの従属関係が改善されることはない。むしろ、アメリカは9条廃止を黙認し、増加した国防予算で米製兵器の大量定期購入を要求してくるはずだ。
    ・改憲しても、改憲派が求める「普通の国」には慣れない以上、確信犯的にあえて病み続けるべき。

    ■町山智浩
    改憲派の掲げる改憲目的
    1有事の際に迅速に有効に対処するため
    2海外に出兵できるようにするため。集団的防衛、国際貢献に必要。
    3憲法は時代にあわせて書き換えられるべき。
    4自衛隊は「戦力」。9条との矛盾を解消する必要あり
    5自国を守る権利を持つ「普通の国」になるため。
    6アメリカから押し付けられた憲法なので、日本人の意志で書き換えるため。
    7日本人の誇りを取り戻すため。
    ・1、2は口実でしかなく、改憲派の本音は6、7。
    ・「平和憲法があるのは世界中で日本だけ」は間違い。「平和」や「不戦」を謳う憲法は120カ国以上ある。ただし「すべての戦力の保有を否定」は日本だけ。
    ・「60年も改正されていないのはおかしい」というのも嘘。ドイツは、憲法5条「表現の自由」で、憲法批判さえ認めていないし、アメリカの独立宣言、フランスの人権宣言にあたる憲法の基本理念部分は、未来永劫書き換えることなどできない。
    ・軍隊には実は戦争よりももっと重要な役割がある。国民を作ることである。本来「国民」は「民族」ではないが、日本ではその認識が明確になっておらず、偏狭なナショナリズムが台頭する恐れがある。国民というアイデンティティが民族というアイデンティティを押しつぶさないよう、両者を分離して考える必要がある。
    ・改憲したとして、徴兵制のない、65歳以上が人口の4割を超える老人国で、だれが兵隊になるのか?
    ・欧米では徴兵制度の廃止に反対しているのは、日本とは逆に、リベラル派である。それは、職業軍人だけに軍隊を独占されるのは危険だから。国家権力の横暴を防ぐためのものでもある。
    ・「そんなに軍隊を持ちたいなら持てばいいが、その場合は自分もちゃんと兵隊やれ」それができないのであれば、別の方法で極東での地位を確立した方がいいのではないか。

  • 正直に告白します。私はかつて、かなり急進的な改憲派でした。しかも、憲法なんて、ほとんど読んだことがないにも関わらず、です。笑止千万で、今、考えても汗顔の至りです。
    10年近く前ですが、以前勤めていた会社で何度か同僚と憲法について議論したことがあります。メンバーは4人。私以外は、温度差はあれど、みんな、いわゆるところの護憲派でした。私は旗色が悪くなると、色をなして反論したのを覚えています。
    時代は変わりました。世論調査では、国民の過半数が「改憲は必要」と考えているのだそうです。かつての私よりも過激に「改憲」を訴える方も、体感に過ぎませんが明らかに増えました。私は徐々に冷め、今は憲法について考えることは年に15分ほどしかありません。
    ちなみに本書で平川克美さんは「憲法なんて意識しなくても、国を愛し、同胞を助け、隣人を敬って生きてゆけるのがまっとうな社会である」と述べています。同感。
    かつての私を含め、改憲論者が「改憲すべし」とする、その根拠は何か。恐らく、本書で町山智浩さんが列挙する以下の諸点に絞られると思います。
    ①有事の際に迅速に有効に対処するため。
    ②海外に出兵できるようにするため。
    ③現実に対応するため。憲法は時代に合わせて書き換えられていくべきである。
    ④自衛隊は「戦力」であり、憲法九条と矛盾しているので、「ねじれ」が生じている。その「ねじれ」を正すため。
    ⑤「普通の国」になるため。「普通の国」には自国を守る権利があり、軍隊を持っている。
    ⑥アメリカから押し付けられた憲法なので、日本人の意志で書き換えるため。
    ⑦日本人の誇りを取り戻すため。
    本書の著者たちは、これら全てに対して、「情理を尽くして」反論し、完全に論破しているように見受けられます。
    全てについて書くのは紙幅が限られて…というのは言い訳で、私も多忙な身なので詳しくは書きませんが、最も根本的なことと思われる問題として、憲法9条と自衛隊は果たして「矛盾」しているのかについて、内田樹さんは興味深い考察をしています。
    「憲法九条と自衛隊が矛盾した存在であるのは、『矛盾していること』こそがそもそものはじめから両者に託された政治的機能だからである。憲法九条と自衛隊は相互に排除し合っているのではなく、相補的に支え合っているのである」
    含意は深いものがあります。理路はかなり入り組んでいますし、かなり長くなるので、引き写すのは控えます。仕方ありません。「現実が入り組んでいる以上、それを記述する言葉がそれに準じて入り組むことは避けがたい」(内田氏)のですから。
    憲法について関心のある方はどうぞ。中途半端ですみません。

  • 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
    2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

    『9条どうでしょう』を読んで
    「第九条」が大変美しい響きをもったすばらしい文句に見えてきた。
    今まで憲法に対して特別な思いをもったことがなかったけれど本書ではいかにして9条ができていったか、そしてどうして大切にした方がいい(意見を押し付けてはいない)のかをいろんな方向から述べている。
    改憲、護憲にとらわれずとりあえず読んだ方がいい本。

    この本の内容を知っているのと知らないのとでは雲泥の差で
    読んだ後に自分の意見を持つのもいいと思う。

    とても印象深かった陛下のお言葉のエピソードの引用。

    東京都教育委員の米長さんが陛下に「日本中の学校で国旗を掲げ、国家を斉唱させることが仕事です」と話し、陛下が「やはり、強制でないことが望ましいですね」と応じられる場面もあった。(「読売新聞」2004年10月29日朝刊)
    ・・・つまり、この国の右傾化に歯止めをかけているのは、いまや天皇家の人々であるということだ。

    短い言葉だけれど、陛下の受け答えに大きな意味を感じられて感動した。

  • 祝!文庫化。私は改憲不要だと思っています。

    筑摩書房のPR
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480429940/
    単行本(毎日新聞社)のPR
    「超人気哲学者と知の刺客たちが改憲論にもの申す!
    戦後繰り返されてきたお決まりの論戦を根本からひっくり返す、
    まったく新しい九条論集。」

  • 護憲の立場を明瞭に掲げる4人の論者が、従来とはちがった切り口から憲法九条の改正を求める声に対する反論を提示している本です。

    著者の一人である内田樹は、「まえがきにかえて」のなかで、「どこかで聞いたような話」になってはあらたに本を刊行する意味がないといい、「これまでの論者たちとは違う視座からの論考」となることをめざすことを述べています。こうした意図は、かなりの程度果たされているといってよいと感じました。4人の論者のいずれも、改憲派も護憲派ともにおなじことをくり返すばかりで、スタック状態に陥っているかに見える憲法九条をめぐる議論状況に新鮮な空気がもたらされるのであれば、こうした著者たちの試みは歓迎するべきなのかもしれませんが、正直なところでは文体も含めて奇をてらっているかのように見えてしまう点もありました。

    わたくし自身は、内田の議論を読むことが本書を購入した目的だったので、その点にかぎって気がついたことを記します。内田の論考は、心理学者の岸田秀の考察を受け継いで展開されています。岸田は、ペリーの来航以来の日本人の集団心理を、「内的自己」と「外的自己」が分裂してしまったと考えます。この議論は、加藤典洋の『敗戦後論』に受け継がれ、それに対して高橋哲哉が批判をおこなったこともよく知られていますが、内田はそこには立ち入らず、岸田の議論にまで引き返して、精神分析的な方法にもとづいて考察を展開しています。そのうえで、集団心理における解離症状から疾病利得を獲得し、戦後の平和と繁栄をきずいた日本人の賢明さを、むしろ肯定的に受け入れようとしています。

    内田自身は護憲の立場を鮮明に打ち出していますが、憲法をめぐる議論がスタックしている現状そのものについての、いわばメタ的な観点からの解釈として理解することもできるのではないかと考えます。

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著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内田樹の作品

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