絶叫委員会 (ちくま文庫 ほ 20-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480430663

感想・レビュー・書評

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  • 詩人の穂村氏が、さまざまな日常の言葉の中に潜む詩情をすくい上げてプレゼントしてくれるような本。

    なんだか笑いが止まらないような言葉もあり、度々読んでいる。

    今日は初詣の電車内で読もうかなと思って持って行った。

    本当は長く電車に揺られて読書をするのも好きなので、もう少しあちこち気兼ねなく出かけられたらいいのにな、と思う。

  • 初期の川端作品でぐったりした脳を穂村さんで癒すことにした 笑
    それも、歌集ではなくエッセイで。
    疲れた時はこれにかぎる。

    『出だしの魔』に共感する人って多いんじゃなかろうか。
    壇上、全校生徒(+保護者?)の前で"出だしの魔"に襲われた校長先生は可哀想だけど、人気者になれそうだ。
    続く結婚式のスピーチは、凍りついた式場の様子がじわじわと面白味を増してきて、時間差で笑ってしまった。

    人前で話を進行する時って、喋りながら頭の中はその一歩先をゆくものだから、
    "出だしの魔"の恰好の餌食となる。
    私はマックのレジで「ポテトのフィレオ」と言った事がある。
    ポテトのMを注文するか、フィレオフィッシュだけ注文するか、迷っていたのだ。
    次第に自分の順番が近付いてくる。
    友人に「結局どーすんの?」と問われ、当時の私は「決めらんないから咄嗟に言った方にする♪」。
    で、口をついて出たのが「ポテトのフィレオ」だった。
    結局どちらを注文したのか覚えてないけど。

    まだある。
    職場での電話中、取引先の説明を聞きながら、そろそろ相槌を打たねばと思っていた。
    「はい」いや、ここは「ええ」か。
    そう、どちらでもいいのだが、ぼんやりそんな事を思っていた私の口から出た相槌は
    「へえ」だった。
    江戸の商人かよ。

    他にもある。
    「卒業したんだから、もうタメ語でいいよ♪」
    などと言ってくれた先輩に、そろそろ「そうだよ」って言ってみようかな?でもまだ「そうです」の方が無難かなぁ。
    どうしよう、どうしよう、どうしよ~!
    で、口をついて出たのは「そうだす」。
    村人Aかよ。

    『恋人たちの言葉・その2』で思い出したが、私はメーテルと、あっち向いてホイをしたことがある。
    子供の頃、成田空港そばのホテルであった、子供向けの催しで。
    そこには鉄郎やハーロックも居て、司会者らしき女性は、あっち向いてホイに勝てばプレゼントが貰えると説明した。
    「あっち向いてホイ、やりたい子ー!」
    みんなが一斉に歓声と共に手を挙げた。
    当時、引っ込み思案だった私は、隣に居た母親(だろうか?)にアンタも手を挙げろと言われて渋々手を挙げた。
    で、選ばれてしまった。
    相手はメーテルだった。
    「あっち向いて~ホイ!」の掛け声は司会者の女性だったのだが、メーテルのキャラ設定なのか、その動きは完全にリズムを崩したもので、私は負けた。
    司会者に「ざんね~ん!」と言われたのも恥ずかしかった。
    メーテルは後出しだったのに(と、今でも思っている)。
    人前に立つ恥ずかしさと、
    あのでかい顔(被り物&帽子だからね)と、
    長過ぎる睫毛と、
    子供ながらの神秘的な女性への憧れと、
    リズムを無視したじゃんけん。
    全てに負けた。
    おのれメーテル。
    大好きだったのに。

    『天使の呟き』。
    「鈴虫の匂いがする」って言葉を、穂村さんは天使の呟きと称していた。
    それなら「カメムシの味がする」って私の言葉も、同じく天使の呟きと称してくれないだろうか。
    私はパクチーが大の苦手だ。
    パクチー嫌いの皆さん、あれってカメムシの味ですよね?

    『天使の叫び』の「限りなく透明に近いブルー」の引用にも笑った。
    龍先生~パクられてますよ~。
    それに穂村さんのこの場合、フツーに限りなく黒に近いグレーだ 笑

    『天使の呟き・その2』。
    張り紙と言えば。
    最寄り駅へ向かういつもの道。
    小さな不動産屋の前に並んでいる鉢植えにネームカードが刺さっていた。
    「捨てんじゃねー タバコ」
    と書かれたそれは恐らく不動産屋の家主からのもの。
    鉢植えでタバコを揉み消す人が居るのだろうか、ひどいな。
    小さなカードに怒りが凝縮されているのを感じた。
    倒置法だもの。

    『美容室にて』には共感しかない。
    あ、最終行の冗談以外ね 笑
    それに耳については流石に聞かれたことがないかな。
    『理不尽の彼方』も『逆効果的』も『わが町』も『うっかり下手なこと』も、笑う。
    『第一声』の「阿保の阿、天才の天、坊主の坊」も大好きだ。
    『ルート「ありえない」』も『OS』も『天然』も、いい。

    あーだめだ。
    挙げだしたらキリがない程、ニヤリとクスリが連なってゆく。
    おまけに自分自身の似たエピソードも思い出したりして、ひとり笑いを耐えるはめに。

    それに穂村さんは畳み掛けるのだ。
    前章で笑ったネタを次の章でも持ち出したり、
    忘れた頃にもう1度同じネタを重ねてくる。
    IPPONグランプリで芸人が使う技だ。
    だから「流し足りないところはございませんか」に声を出して笑ってしまった。
    いや、今思えば大したことないのかもしれないけれど、
    穂村さんのエッセイを読み進めるほど、次第に笑いのラインが下がってゆく。
    すっかり穂村さんペースだ。

    『寝言たち』でも、思い出した自分のエピソードがあった。
    夕食後、パートナーが居眠りをしてしまっていたのだが、夜も遅い。
    そろそろお風呂に入らなくては…と思った私は
    「そろそろお風呂いれていい?」と声を掛けた。
    すると彼はハッキリと返事を返してくれた。
    「みんなに聞いた方がいいよ」
    いや、他に誰も居ないし。
    何の夢を見ていたんだろう。
    彼は元から寝言が多い。
    突如「右に曲がりまーす」と言われた時は、
    イビキをかく彼の横で、私は1人長いこと笑っていた。


    穂村さんのエッセイには、
    大笑いするほどではないけど、堪えきれずに口角が持ち上がってしまったり、吹き出してしまうような、絶妙の言い回しがある。
    けれど、ただ笑っていては通りすぎてしまうほどに然り気無く、物事の本髄を捉えた物言いが散りばめられているような気もする。
    直ぐにそう思ったことを悔やむほど、馬鹿馬鹿しい文章に出くわすのだけど 笑

    穂村さんのような感性で日常を見つめることが出来たら、いつもの生活も、いつもの街も、車内も、人間関係も、
    もっと不可思議な面白いことで溢れかえるに違いない。
    素晴らしい短歌を詠むには至らずとも、今の私の生活が、より一層、魅力的なものに思えるはずだ。
    なんだかワクワクしてきた♪
    川端疲れ、復活!
    (エッセイのレビューより私の思い出話が多くてごめんなさいっ!)

    • 傍らに珈琲を。さん
      5552さん、こんばんは。

      なんと!
      カメムシ味を分かってくれる方がいた!嬉しー♪
      でも、「と言って食べた」のですね 笑
      そぅかー、食べた...
      5552さん、こんばんは。

      なんと!
      カメムシ味を分かってくれる方がいた!嬉しー♪
      でも、「と言って食べた」のですね 笑
      そぅかー、食べたかー 汗
      私は食べられないです…。
      一時期、物凄い勢いでパクチーブームが来ましたよね。
      外食時、何度「これってパクチー入ってますか?」「…ごめんなさい、抜いてください」と言ったことか。

      ちなみに、どうでもいい情報として、私は牛乳も無理です。
      チーズも生クリームもバニラアイスも大好きなのに、
      牛乳が飲めないのです。
      2023/07/25
    • 土瓶さん
      おのれメーテル(笑)
      おのれメーテル(笑)
      2023/07/25
    • 傍らに珈琲を。さん
      根暗な幼少期だったの 笑
      根暗な幼少期だったの 笑
      2023/07/26
  • 以前、単行本でも読んだのに文庫を買ってしまいました…ほむほむ中毒者だなぁと思います。

    ポスターや広告のキャッチコピーを思わず二度見してしまったり。
    耳慣れないけれど、妙にリアルなオノマトペにびっくりしつつも納得してしまったり。
    電車の中や喫茶店で、知らない誰かの会話の断片が耳に飛び込んできてドキッとしたり。
    そんな経験、きっと誰にでもあると思います。
    日常の中から転がり出てきた「偶然性による結果的ポエム」が、ほむらさんによって掬い上げられ、1冊の本になりました。

    駅の窓口で同僚が「うわわ」と言い放った瞬間。
    その瞬間に、この世に「うわわ、きたうわわ、みなみうわわ、ひがしうわわ、にしうわわ、なかうわわ、むさしうわわ」が同時に出現した気持ちになった…というほむらさん…すてきすぎます。(うわわ、は浦和の言い間違いです…念のため)
    くだらなくも愛おしい言葉の数々にときめいてしまうのでした。

  • 読んでいる間ずっと、幸せでした。
    著者がまちで出合った言葉を掬い上げ、考察した本。
    まず、冒頭あたりにある著者の友人の短歌に感じ入りました。
    「『俺の靴どこ』が最後の言葉ってお母さんは折れそうに笑って」
    巧まざるユーモアに、思わず吹き出すものも。
    たとえば、姿を消して久しい駅の伝言板にあった言葉。
    「犬、特にシーズ犬」
    よく分からないのに面白い。
    談志のイリュージョンにも通じるところがあります。
    若い男の子同士の会話もいいなぁ。
    「俺さ、Tシャツないんだよ」
    「俺あるよ」
    「嘘まじ?」
    「うん」
    「Tシャツだよ」
    「うん、Tシャツ」
    「あるの? Tシャツ」
    「めちゃめちゃあるよ」
    「1個くれよ」
    「うん、やだ」
    「2軍でいいからさ」
    この他愛無さ。
    著者の言うように、「2軍」がいい。
    あと、やっぱりフレッド・ブラッシーの逸話ですね。
    母から「リングの上の怖ろしいお前と、私の知っている優しいお前と、どっちが本当のお前なの?」と聞かれた時のブラッシーの答えがこれ。
    「どちらも本当の私ではない」
    痺れる。
    痺れます。
    これらはほんの一部。
    意外性に満ちた言葉の数々に括目しきり。
    それらを拾い上げる著者の目線の低さにも敬服します。
    さて、本書でも、言及していますが、うっかり下手なことを言えない時代になりました。
    正論、正義が大手を振ってネット世界を闊歩しています。
    大変に息苦しい時代。
    そう感じている人にぜひ読んでほしい。
    世の中、捨てたもんじゃないと感じると思います。

  • 著者が採集した気になる言葉の図鑑的読み物。

    電車の中で親しげに話しかけてきた中年女性に戸惑いつつ曖昧な反応をしていたら、その女性は自分の顔を指差して「知らない人よ。あなたの知らない人」と言った、という不思議なエピソードが好き。

  • 日常に突如姿を現す「全ての天然成分が詰まっている(p156)」言葉たちとのシュールな邂逅集。「電車内で読んじゃいけないやつ」というネット上の読書評にも吹き出してしまった。

  • ヨクミキキシワカリソシテワスレズを地で行く人、穂村弘。
    身辺を飛び交う音をノイズと切り捨てず、面白がったり、訝ったり。
    電車でイヤホンを外し、喫茶店で耳を澄ませてみようと思えた。
    他人とは喋ればうるさく、黙れば恐ろしいものだと短絡していたようだ。
    敵、みたいに殺伐とした境界が消えて、肩の力を抜ける本。

    一つの言葉について一つ短篇を記すのではなく、同じ章でいくつかの言葉をゆるやかな流れに乗せて扱うのを見ると、穂村さんはきっと話して面白い方なんだろうなと、つくづく。「これ気になるよね」だけじゃなく、「そういえばあれも」と、あたかも燎原の焔(ほむら)のように次々と興味が飛び火して拡げられるような語り手に、ワタシハナリタイ。もちろん、次々、の程度や速度を聞き手に心地よく保つことは忘れず。

  • めっちゃ笑いました。
    ヘェ~とか、あー…なるほどって思うことから、あー!わかる!って思うこともありました!
    穂村さんの他の本も気になります。

  • 可笑しくて懐かしかった!宝石のような言葉たち。

  • 20150602
    ずっと気になっていた「絶叫委員会」あっという間に読み終えてしまいました。
    一番心に残ったのは、電車の中で話しかけてきたおばあさんの話かな。「知らない人よ。あなたの知らない人。」わたしもすごく素敵だと思う。もし、自分が同じシチュエーションを味わったとしたら、「知らない人よ。あなたの知らない人。」と言われる前までは、ポカンとして「なーんか変な人に絡まれちゃったかな。」と思うのだろうけど、「知らない人よ。あなたの知らない人。」この一言を言われたら、一気に素敵なことに変わりそうな気がするんです。
    あとはムロタくんの名言集。ムロタくん、好きだなあ。今なにしてるんだろう。

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著者プロフィール

穂村 弘(ほむら・ひろし):1962年北海道生まれ。歌人。1990年に歌集『シンジケート』でデビュー。短歌にとどまることなく、エッセイや評論、絵本、翻訳など広く活躍中。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、『ラインマーカーズ』、『世界音痴』『もうおうちへかえりましょう』『絶叫委員会』『にょっ記』『野良猫を尊敬した日』『短歌のガチャポン』など多数。2008年、短歌評論集『短歌の友人』で伊藤整文学賞、2017年、エッセイ集『鳥肌が』で講談社エッセイ賞、2018年、歌集『水中翼船炎上中』で若山牧水賞を受賞。

「2023年 『彗星交叉点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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