増補 夢の遠近法: 初期作品選 (ちくま文庫 や 43-2)

著者 :
  • 筑摩書房
4.04
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480432223

作品紹介・あらすじ

「誰かが私に言ったのだ/世界は言葉でできていると」。誰も夢見たことのない世界が、ここではじめて言葉になった。新たに二篇を加えた増補決定版。

感想・レビュー・書評

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  • この本に手をつけてから読み終えるまでに数ヶ月を要してしまった。山尾悠子の文章は流麗でこそあれ、難解でもなければ読みにくくもない。なのに読了に時間がかかった理由は、イマジネーションという点で、作者が読み手にかけてくる負荷がとんでもなく高いからだ。慌ただしい日常の隙間に読むということが難しい本なのである。

    読者は作品ごとに、いつの時代でもなく、地上のどこにも存在しない世界を、言語だけを頼りに創造しなければならない。圧縮されたファイルを復元する作業のように、作者がいったん言葉に還元したイメージを、眼前の光景としてどれだけあざやかに再構築できるか、読み手の力量が試されるわけだ。

    夢喰い虫の徘徊する円形劇場。
    千の鐘楼を持つ崩壊しかけた水上都市。
    垂直方向に無限に層を成す円筒型の建造物と、その内腔の〈腸詰宇宙〉。
    地の果てまで続く石造りの都の廃墟。
    死火山の麓、旅人を誘う月下の平原。
    ………
    活字からイメージを掬い取る作業は骨が折れるが、その作業の先には誰も見たことのない風景、活字を通してしか出会うことのできない世界が待っている。自力だけでは到達できない景色を見ようと欲するならば、読者は山路を這い登る気持ちで活字を辿ってゆかねばならない。

    "誰かが私に言ったのだ
    世界は言葉でできていると
    太陽と月と欄干と回廊
    昨夜奈落に身を投げたあの男は
    言葉の世界に墜ちて死んだと"
    (遠近法・補遺)

    滅びた種族の黙示録にも似た、残酷な幻想世界。それを支えるのは、音楽的な律動を伴って紡ぎ出される文章だ。読んでいるうちに次第に目的を忘れて、ただ言葉に導かれるままに読み進めること自体が快楽になってくる。世界最古の文学はたしかに歌と詩であった、小説もやがては進化の果てに歌と詩とに還るのだと、ぼんやり考えさせられるほどに。

    • 佐藤史緒さん
      お待たせしました(*゚▽゚)ノ
      いらっしゃいませ♪
      夏眠さんはハードカバーをお読みになったんですね。
      私は携帯できるように本は原則文庫...
      お待たせしました(*゚▽゚)ノ
      いらっしゃいませ♪
      夏眠さんはハードカバーをお読みになったんですね。
      私は携帯できるように本は原則文庫本で買うのですが、山尾悠子に限ってはハードカバーも欲しいと思いますね。装丁が綺麗ですよね♡
      保管スペースが確保できなくて実現してないのですが。
      (夏眠さんは推測するに物凄い量の蔵書持ってそうですが、保管はどうされてますか?)
      エッセイの内容も気になります。

      いま出先なので増補の内容が不明なのですが、帰ったら確認してみますね〜
      2020/02/11
    • 深川夏眠さん
      再びお邪魔します~|・ω・`)ノ

      収録作一覧を過去のレビューに書き足しました。
      https://booklog.jp/users/f...
      再びお邪魔します~|・ω・`)ノ

      収録作一覧を過去のレビューに書き足しました。
      https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/4336052832

      蔵書は数えていませんが、
      そんなに多くないはずです。
      実は……読んでみて、
      面白かったけどいつか読み返す予感がしない、
      と思った本には退出してもらっているので。
      近年は主に、
      居留守文庫さんという古書店さんの委託販売
      https://www.irusubunko.com/%E5%A7%94%E8%A8%97%E8%B2%A9%E5%A3%B2/
      #自著と蔵書の一箱委託販売
      に参加させてもらっています。
      2020/02/11
    • 佐藤史緒さん
      居留守文庫さんのHP見ました。
      こうゆう形態の古書店もあるんですね!蔵書を売りたくなったときは検討させていただきます。
      そのうちまた少し...
      居留守文庫さんのHP見ました。
      こうゆう形態の古書店もあるんですね!蔵書を売りたくなったときは検討させていただきます。
      そのうちまた少しずつですが夏眠さんの本も読ませていただきますね〜
      情報提供ありがとうございます
      (*´︶`*)╯♡
      2020/02/12
  • ハリセンボン箕輪はるか厳選 ページにびっしり付箋をつけた「オススメ本」〈AERA〉 | AERA dot. (アエラドット)
    https://dot.asahi.com/aera/2021110400061.html?page=1

    【書評】山尾悠子 『夢の遠近法』 / 五代ゆう「言葉による幾何学的幻想」 【Book Japan】
    http://bookjapan.jp/search/review/201101/godaiyuu/20110124.html

    夢の遠近法|国書刊行会
    https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336052834/

    筑摩書房 増補 夢の遠近法 ─初期作品選 / 山尾 悠子 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480432223/

  • 「誰かが私に言ったのだ 世界は言葉でできていると」
     もう、この帯の文だけでめろめろにされました。初期作品選、とのことで、短編から中編まで、みっしりと詰まった重たい宝石のような本でした。日本語って、こんなに美しいものだったのだ、とふるえるように読みました。感嘆。
     澁澤龍彦氏の「夢みたいな雰囲気のものを書けば幻想になると信じこんでいるひとが多いようだ。もっと幾何学的精神を! と私はいいたい。」という言葉は胸に刺さった。

  • 大人向けファンタジーな本。

    どのお話も独特な世界でグイグイ惹きつけられます。言葉の選び方もステキで、何度でも読み返したくなる。

  • 面白かったです。
    幻想的で残酷な、崩壊していく美しい世界に浸りました。
    「夢の棲む街」「遠近法」「透明族に関するエスキス」が特に好きでした。
    夢の~は、人でないもののグロテスクな描写が素敵で、そしてカタストロフィーへ…
    遠近法は、《腸詰宇宙》が圧倒的な存在感で構築されていました。絵画のようです。
    透明族~は、透明な侏儒がぱん!と弾ける様が目に見えるようでした。透明でぎちぎちと犇めきあうのを、踏み潰すと可視性の内容物(酷い悪臭をもつ)が現れるのがグロテスク。
    短編でも、残酷さがあって充足しました。
    ほとんど、わたしが生まれる前に書かれてるんだな…。
    この初期短編集のあと長い休筆期間に入られてたそうですが、最近は執筆されていて、山尾さんの新作が読めるのが嬉しいです。

  • 『山尾悠子作品集成』の選り抜き版として、6年ぶりに再読。まったく内容を忘れていた作品も多く、初めて読むかのように楽しめた。また、いままでより面白く読めたものもあり、将来の再読がいまから楽しみ。自分が変わっていくから、何度でも違う読み方ができる。今回よかったのは「パラス・アテネ」。黒と赤の豪奢なつづれ織りを眺める思いで読んだ(最強の土地神という中二心を刺激する設定もよい)。

    いつ読んでも最高な「夢の棲む街」と「遠近法」は、詳細は忘れていたもののその舞台となる街や世界の形状は覚えていた。山尾悠子は構造物の作家だなあと思う。

  • これは言葉という幻知が練成した、徹底して精緻に描かれた細密画だ。選び抜かれた言葉の一片一片が絢爛でありながら宝石のような輝きを持ち、硬質な文体が万華鏡さながらにイメージを乱反射させる。普段、読書中に視覚的印象が浮かぶ事は少ないのだが、本書においては完全に例外。陽光と月光を浴びて表情を変える廃墟の様に、溢れ出るイメージが次々と微細かつ緻密な美しい絵画的情景を産み出してゆく。幻想文学とは印象派のような淡い文章ではなく、明晰な幾何学的文体によってこそ説得力を持ち得るのだと思い知らされる。傑作中の傑作短編集。

  • 作品集成→厳選→それに足す、
    という軌跡が愛されている証拠。

    20101129mixiより
    間違いなく私の読書歴の頂点に位置する作家になりそう。

    『夢の棲む街』★
    『月蝕』★
    『ムーンゲイト』★
    『遠近法』★
    『童話・支那風小夜曲集』
    『透明族に関するエスキス』
    『私はその男にハンザ街で出会った』★
    『傳説』★
    『月齢』★
    『眠れる美女』★
    『天使論』★

    付録
    『人形の棲処』★
    『領春館の話』★
    『チキン嬢の家』
    『ラヴクラフトとその偽作集団』★

    記憶に強く残っている作品に星をつけようと思ったが、
    そんな試みもくだらないくらいにそれぞれが強い印象を残す。
    ここまで鮮烈で確固としたイメージを植えつけられるとは。
    驚愕に近い。

  • 山尾悠子の初期短編集が文庫に!現役大学生デビューでこのクオリティは本当に凄い。設定だけならSF的な作品も、このひとの文体だと昨今のライトノベル的ファンタジーのような印象は全く受けなくて、うまく説明できないのだけれど、なんというか「格調高い」幻想文学なのですよね。

    お気に入りは世界観がしっかり構築されていて別世界に連れていかれる感のある中編。夢喰い虫、薔薇色の脚、鳥籠の侏儒、屋根裏の天使、地下室の人魚、円形の劇場と幻想モチーフ満載の「夢の棲む街」、水没する都市の「ムーンゲイト」、円筒形の奇妙な宇宙、その回廊を機械仕掛けの神や天使が行き来する「遠近法」、糸を吐き繭になり変成する一族の「パラス・アテネ」あたり。いずれも最期には一種のカタストロフが訪れる。「パラス・アテネ」は続編があるようなので、いつか読みたいな。

    「童話・支那風小夜曲集」は、吸血鬼の話が切な怖くて好きでした。一種のドッペルゲンガーもの「私はその男にハンザ街で出会った」も面白かった。

    ※収録作品
    「夢の棲む街」「月蝕」「ムーンゲイト」「遠近法」「パラス・アテネ」「童話・支那風小夜曲集」「透明族に関するエスキス」「私はその男にハンザ街で出会った」「傳説」「遠近法・補遺」「月齢」「眠れる美女」「天使論」

  • 国書刊行会から出ていた『夢の遠近法』のちくま文庫版。文庫化に当たり、2編が追加されている。
    元々、『作品集成』のセレクション版といった性格だった『夢の遠近法』だけに、収録作はどれも名作揃い。こういった短編が昭和50年代に発表されていたことを考えると驚く。
    特異な想像力を緻密で硬質な文体で描いた『夢の棲む街』『遠近法』『透明族に関するエスキス』、谷崎潤一郎を思わせる『童話・支那風小夜曲集』など、読みどころは多いが、矢張りここは『遠近法』を推したい。

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著者プロフィール

山尾悠子(やまお・ゆうこ)
1955年、岡山県生まれ。75年に「仮面舞踏会」(『SFマガジン』早川書房)でデビュー。2018年『飛ぶ孔雀』で泉鏡花賞受賞・芸術選奨文部科学大臣・日本SF大賞を受賞。

「2021年 『須永朝彦小説選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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