ピスタチオ (ちくま文庫 な 41-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 1022
感想 : 78
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480432247

作品紹介・あらすじ

棚(たな)がアフリカを訪れたのは本当に偶然だったのか。不思議な出来事の連鎖から、水と生命の壮大な物語「ピスタチオ」が生まれる。

感想・レビュー・書評

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  • この物語を読んでいる間、地球に海が誕生した頃のことを考えずにはいられなかった。もしかしたら、知るはずのない太古の地球を「思いだした」のかもしれない。そんなことが頭の片隅で浮かんでいた。笑ってしまう。そんなこと決してあるはずなどないのだから。

    この世の常識や何者かの意思など、ヒトが誕生する上で何ら関係なかった。地球の巨大なエネルギーの渦に巻き込まれ、偶然の出来事の積み重ねによってヒトが誕生した。そう風や海と同じ。
    生まれた命はやがて死ぬ。
    ヒトも動物も植物も、星も何もかも。
    自然のなかで生まれたわたしたちは、ただ自然へと還るだけなのだ。わたしはひとつの分子となって、地球を宇宙を循環しよう。大地となり、風となり、雨となり、星となり、わたしは巡る。

    だけどそれは、わたしが無になることではないと思う。まだ大地が大地と、風が風と、雨が雨だと呼ばれていなかったころから、肉体は滅びても、そこに存在した数多の命の記憶は、やがて歌になり、言葉になり、踊りや呪術そして物語となって、ヒトから人へと受け継がれていく。
    そこにわたしは存在する。

    読み終えたとき、心のうちが静かな高揚感で満たされた。
    ああ、だからか。地球の記憶を感じてしまうのは。壮大な過去の記憶は、人という小宇宙の中で広がりつづける内省的な物語と、どこかで結ばれているのかもしれない。

    今にも消えゆこうとする、はじまりの物語。
    今もまだ、その小さき声をすくいあげる力を誰もが失っていないと、わたしは信じたい。

    • nejidonさん
      地球っこさん、暑い日が続きますがお元気ですか?
      ああ、私この作品大好きなんですよ。
      梨木さんのものでは一番好きかもしれません。
      今本棚...
      地球っこさん、暑い日が続きますがお元気ですか?
      ああ、私この作品大好きなんですよ。
      梨木さんのものでは一番好きかもしれません。
      今本棚を確認したら2010年に読んでいました。ブログ記事から貼り付けたものです。
      日ごろ何となく考えることを明確に言葉にしてくれる。そんな既視感がある作品ですよね。
      読んだ後は、あまりの満足感にしばらく読書を辞めましたもの・笑
      こういう作品が読めて、他の方のレビューも読めて、語り合うことも出来る。
      幸せなことです。ありがとうございます。
      2020/09/04
    • 地球っこさん
      nejidonさん、こんにちは。

      nejidonさんのレビュー、読ませていただきました。
      空を見上げ風を感じる。空気の流れを感じる。...
      nejidonさん、こんにちは。

      nejidonさんのレビュー、読ませていただきました。
      空を見上げ風を感じる。空気の流れを感じる。雲のむこうの光を感じる……
      とても共感いたしました。

      わたしは「家守綺譚」「冬虫夏草」が大好きなんですが、この本も大好きになりました。
      「家守綺譚」の世界へと続く向こう側、なんというか、もっと原風景に近いところにある物語なのかなぁと思いました。

      読書をはじめた頃、もっと若い頃に読んだら、もしかしたら、こんな風に余韻に浸るなんてことはなかったかもしれません。

      よい本を読んだなぁ……幸せです。

      ありがとうございました。
      2020/09/04
  • 梨木香歩 著

    この作家さんは、やはり凄い!何でも描ける作家さんだなぁと改めて感慨深く、この凄まじいまでの力量に心を持っていかれる。
    私が大好きな、心の書だと感じている
    「家守綺譚」や「冬虫夏草」の作品とは、
    また次元を超えたような世界観の中にあって不可思議な物語を綴っている。
    しかし、いつも自然の理がご自身の中に常に生息している作家さんだと思う。

    私は、速読は出来ないが、結構、本を読むのは速い方だと思っていたが、梨木香歩さんの本はいつも、その世界に浸ることに大きな期待と楽しみで、ゆっくり読んでいるものの、この作品について、最初読み始めた時は、その時の自分の体調か?倦怠感に苛まれていて、面白く、続きをどんどん読み進めたい気持ちと裏腹にすぐに眠気が襲ってきて、頁をめくる毎に勝手に、手が止まって、本を片手に眠りこけてしまい夢の中で続きを読んでる感覚に何度も陥ってしまった(-_-)zzz

    呪術医が現れた瞬間などは興味津々なのに、いやはや、取り憑かれたように眠っているか起きているか分からない世界を彷徨ってしまった(・_・;
    実際、取り憑かれていたのかな?
    途中からは目覚めたように、冴えた頭で読み切ってはしまったが…。

    作品の中の一文が妙に気になって…患者が、というより、患者のジンナジュが、本当に欲しがっているのは、ストーリーなんだって、、中略
    死者には、それを抱いて眠るための物語が必要
    ー死者は、物語を抱いて眠るー

    水と風が循環するように、生命と死の命も循環してゆく。
    物語の主人公、棚が書いた ピスタチオの話良かったなぁ…。

    ふと、自分に置かれている
        今の状況を考えたりしていた。
    前にも本の感想の時に、ブログみたいに自分の闘病中の癌に対する延命治療について触れた、
    自分のたった一例の臨床体験だとしても、誰かの…同じように病気と闘ってる人に役立つかもしれない 今はまだ認可がおりたばかりの治療薬にチャレンジ中なのだが…
    結構、道は厳しく(・_・;次々起こる予測してなかった副作用に負けそうになる事も度々。

    同じような病気に黙々と耐え、向き合ってる同士の心に少しでも、寄り添って生きようなんて、格好いい事を真剣に考えていたのだが、実は、同じような病気を経験してない人には、吐けないような弱音も、同じ体験をしている人には、ついつい吐露して、逆に、心に寄り添ってもらい元気をもらってる事に気付かされた、救ってもらってるのは実は自分の方なのかもしれないって…。
    いや、自分の方なんだ!って(^◇^;)

    今は、死に向かっての準備期間中だ、

    作中、今の自分に特に、いいなぁって思う箇所があった( ´∀`)
    「ーねぇ。人って不思議なものね。生きてる間は、ほとんど忘れていたのに、死んでから始まる人間関係っていうものがあるのね。
     その人が死んでくれて初めて、その人を
     トータルな人間として、全人的にかかわれ
     るようになる気がする 生きているときよ
     り、死んでから本当に始まる「何か」ー
     あなたふうに言えば「咀嚼」できるってい
     うか。
    ーやっぱり獰猛なやつだな。俺が死んでも、
     そういうふうに「咀嚼」してくれる?
    …あなたが私に、本気で依頼するのであれば
      ー死ぬ楽しみができたな、
      ーそれはよかった。
      ーまだ依頼してないけどね。
      ーそれもよかった。」
    私も、そんなふうに咀嚼してほしい 
       なんてね(笑)

    目の前にある逆境を乗り越えていこうと言うより…頑張り過ぎないように頑張ろう!
    自分の心身ともに限界を感じたら、踏ん張り過ぎないように潔くケリをつけることも大切だと思う。

    簡単にはいかない、心と体のバランス
    やる気になっても出来ないこともあるし、
    やりたくなくても、やってみなければ分からないことや、成し遂げなければいけないこともある 弱い、意気地のない人間なんだから、すんなりいかないことも多く、投げ出したくなったり、歯を食いしばって、己を奮い立たせたり、人はその時々で、色んな事情の中で揺れ動いて生きている。

    でも、梨木香歩さんの作品を読んでいると
    自然であることが一番って そっと風に乗って囁かれた気分になる。
    本当に素晴らしく、大好きな作家さんだ!
    そして、どの本もとても、大切な作品だ。

    PS. この本の表紙の絵画 何ともシュールな雰囲気
      持ちながら、懐かしく惹きつけられるような
      感覚を持って、
      何だかぼぉーと見入ってしまった
      安野光雅さんの装丁だそうだ、どおりで
      優しく懐かしいような、慎ましく
      すぅーと、心の中に溶け込んできた。
      

    • 本ぶらさん
      こんばんは。
      ご無沙汰です(^^ゞ
      hiromida2さんに「村田エフェンディ滞土録」を教わって読んだら、この著者のイメージと全然違う骨...
      こんばんは。
      ご無沙汰です(^^ゞ
      hiromida2さんに「村田エフェンディ滞土録」を教わって読んだら、この著者のイメージと全然違う骨太な内容に驚いて。
      続けて「沼地のある森を抜けて」を読んで。
      次にこれを買ったところで、息切れ中です(^^ゞ
      2021/06/09
    • hiromida2さん
      おはようございます。
      やっと、読了して感想を書かせて頂いたところです。やはり、ホント…骨太の作家さんですね(о´∀`о)
      おはようございます。
      やっと、読了して感想を書かせて頂いたところです。やはり、ホント…骨太の作家さんですね(о´∀`о)
      2021/06/12
  • 「ガダラの豚」を少し前に読んでいます。
    まったく違うお二人の小説から、科学ではけっして説明できない、同じお話が展開されたことに、驚きを隠さずにはいられません。偶然ではなくこうした事実があるのでしょう。

    確かにまやかしも多いけれど、100人に一人くらいは、恐ろしいくらいの力を秘めた本物が紛れている。そしてその力は計り知れなく、私たちの科学では全く説明できない。遠く離れたアフリカの地では、それは恐れるものでもあるけれども、それ以上に、生活になくてはならない存在になっている、と私は受け止めました。

    この本から逸れてしまいました。
    命のつながり、大地と、そして大事な存在となる渡り鳥。呪術師と予言。
    難しくてわからなかったけれど、つながっているのでしょうか?
    もう一度読ませていただきます。

  • 以前一度読んだのですが、そのときは時間に追われてあくせくした読書になってしまったため、いつか絶対に読み返そうと思っていた本書。
    今回読んでみて、やっぱりすごい作品だった…と静かな興奮を感じながら読み終えました。

    老いた犬と暮らすフリーライターの棚。
    彼女の周りで起こったさまざまな出来事が積み重なり、棚は誘われるようにウガンダへと旅立ちます。
    そこでもまた、何かの導きであるかのような出会いや経験を経て、やがて棚が辿りついた場所は…

    梨木さんの文章を読むと、自分の目で世界を捉えるスケールが変わるような感覚を味わいます。
    世界が、マクロにも、ミクロにも広がる感じ。
    本作では、物語に登場するアフリカの呪術医や精霊の存在によって、よりその感覚が濃厚に感じられた気がします。

    この旅から帰った棚が書き上げた、1編の短い物語。
    彼女の経験が凝縮された物語は、旅に出るまで、そして旅先での彼女を見守ってきた読者にとって、どっしりとした深みと安心感を感じさせるものでした。
    死を身近に感じた時に、また読み返したい1冊です。

    • nejidonさん
      すずめさん、こんにちは♪コメント欄ではお久しぶりです。
      すずめさんもこの本を読まれたというのが嬉しくて、即クリックしてしまいました。
      梨...
      すずめさん、こんにちは♪コメント欄ではお久しぶりです。
      すずめさんもこの本を読まれたというのが嬉しくて、即クリックしてしまいました。
      梨木さんの作品はどれも好きですが、これが一番好きです。(次は蟹塚縁起。)
      日ごろ何となく心に浮かんでは消えていく思いを、これほど鮮やかに文章化してくれた作品は他にありません。
      まるで自分のためにあったような一冊でした。
      って、殆どの方がそう思いながら読まれるのでしょうが(笑)。

      ところでワタクシ、少々疲れたので現在は非公開に設定しております。ごめんなさいね。
      夏休みには元に戻す予定ですが、それも定かではなく。
      でも、たまにこうして立ち寄らせていただきますね。
      2019/04/26
    • すずめさん
      nejidonさん、お久しぶりです!
      『ピスタチオ』、本当に良かったです。
      nejidonさんの書いていただいたとおり、私たちの中に浮か...
      nejidonさん、お久しぶりです!
      『ピスタチオ』、本当に良かったです。
      nejidonさんの書いていただいたとおり、私たちの中に浮かんでは消える思いを「あ、そうだった」と思い出させてくれる作品だと思います。
      いつか自分が死ぬときに、ピスタチオのような物語が寄り添ってくれたら…と、なんとも贅沢なことを思ってしまうのでした。

      nejidonさんの本棚をのぞいたら非公開になっていたので、「おや?」と思っていたところでした。
      私も生活のリズムが少し変わったため、たまにしかブクログをのぞけずにいます。
      お互い、自分のペースで気楽に楽しく本に親しんでいきたいですね(o^^o)
      また気が向いたときにのぞきにきてください!
      2019/04/26
  • 驚いた。予想していた物語とははるかに違っていた。前半は主人公の飼い犬が病気になる流れで、そのまま日常を描くのかと思いきや舞台は一路ウガンダへ。死んでしまった知人の足跡を辿り、土着信仰やアフリカの大地気候風土を踏みしめながら、エイズのキャリアである友人や双子の妹を探す女性と共に生と死を見つめる。
    最後に収められている、主人公の書いた物語がそれまでの内容とリンクし、最後の一編の文章が心にストンと落ちてきた。時間ができたら、もう一度ゆっくり読みたい作品だ。

  • 大好きな梨木香歩さんの本、久しぶりに読んだ。
    やっぱりこの文章好きーと読む幸せを感じながら読めた。
    外側で起こっていることと、自分の内側で起こっていることの繊細で緻密な観察と考察は深く感銘を受けた。
    主人公のなるべく自然の一部として生きたい、という想いと、人間として生活していく上でそうもいってられなくて、科学や文明に頼らざるおえないという矛盾と葛藤は私にもよくわかる。
    途中オカルトチックになっていってびっくりしたけど、そこは梨木さんらしい着地点。
    人間も自然の一部という地球規模、宇宙的視点が興味深く読めた。
    ピスタチオというタイトルの意味は最後の方に明かされる。

  • 前半の日本のパートの物語が動き出そうとする空気感がすごい。棚が日常に違和感を感じ、当然のような成り行きでアフリカに向かう話流れに引き込まれた。
    アフリカでのパートは、外国で過ごす上のあるあると、ダイナミックな展開の両方があり、リアリティとファンタジーが混ざっている独特な雰囲気だった。

    最後のピスタチオの話は、棚が体感した全体の話を総括したものなのだろうけど、まだ何が何を暗喩してるのか完全には理解しきれず、消化不良な感じ。もう一度ゆっくり読み直したい。

  • だいぶ前に読んで本棚登録してなかった本。

    生きているってどういう事なのかなと
    しみじみ考えながら読んだ気がする

  • 満足させてもらえる一冊だった。おそらくバランスが良いのだと思う。

    日本のパートとアフリカのパート。そして最後の物語。
    同じ人物が時系列通りに場所を移した。理由があってそうなった。だからもちろん日本の場面とアフリカの場面とで切り分けることは出来ないけれど、あまりに舞台だてが違うために、相互に独立している別の物語という印象がある。

    最後の物語は枚数にすると短いはずだが、あの世界観の小説をたっぷり一冊、ずっと読んでいたような充足した読後感に満たされる。実際に一冊分全部がピスタチオの物語だったら、冗長になってしまうだろう。あの物語だけを短編としてぽん、と差し出されても、「なんだか雰囲気のある不思議なお話」で終わってしまうだろう。
    日本とアフリカのそれぞれの描写があったからこその「ピスタチオ」であって、やっぱり全部で一冊の小説であったのだな、という、あまりにも当たり前の結論に至る。日本がアフリカに収束し、アフリカがあの物語に吸い込まれていく。場面が変わるごとに密度が濃くなっていくのだ。

    それにしても、ピスタチオの葉の、その鮮やかな色彩の描写と劇的な展開は見事だ。

  • 霊的な話で恐ろしいかと思ったけど、そうではなくて、読み終わったあと人生について考えさせられる、そんな本だった。『人生を生き切る。自分の人生の物語はどんなか。どんな物語でありたいか』そんな思いや淡い感動が残る本。最後に涙が出た。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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