木のことば・森のことば (ちくまプリマー新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480687210

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  • 高田宏(1932~2015年)氏は、京大文学部卒、光文社、アジア経済研究所、エッソ・スタンダード石油(現・ENEOS)に勤務し、其々で雑誌やPR誌の編集者・長を務めた。エッソのPR誌「エナジー」は、京大人脈で小松左京や梅棹忠夫に執筆を依頼し、会社のPRは一切せずに一冊一特集主義を取り、PR誌を越えた雑誌として評価された(その多くは単行本として出版された)。1984年から専業ライターとなり、木、森、島、旅などの自然を主たるテーマに多数のエッセイ・評論・紀行を執筆。大佛次郎賞、読売文学賞等を受賞。
    本書は、著者が長年、日本列島の北から南までの森を歩いてきて、そこで出会った木や森や、その森に生きている生き物たちについて、ジュニア向けに綴ったエッセイ集で、四半世紀に亘り通い続けた、信州・八ヶ岳の麓にある山荘で書かれた。
    エッセイのタイトルは、「木のことば」、「生存運」、「森のうた」、「八ヶ岳山麓の森で」、「雪の森で」、「山の風」、「森の怪異」、「大きな木に会う」、「縄文杉の下で」、「木の音・森の音」、「生と死のかたち」、「木を植えた人」、「木を植えた人びと・1」、「木を植えた人びと・2」、「森の生活者・1」、「森の生活者・2」、「草木と子供」で、一つ一つのエピソードや内容は決して派手なものではない。
    しかし、読み終えてみると、木や森が生と死を繰り返すものであること、更には、生物ではないものも含めた自然全てが循環の中にあることを、改めて思い知らされ、心に残るのである。
    特に、50を過ぎ、人生後半に入った私としては、白山の麓にある、国指定天然記念物となった推定樹齢1,300年のトチの巨木が、枯れ死しないようにパイプややぐらや支柱で保護されている(延命させられている)姿を見た著者が、次のように書いている一節が強く印象に残った。「余計なお世話だよ、と大トチが苦笑しているように思いました。・・・主幹の一本をなくし、あちこちに空洞ができ、雨水がたまって内部が腐り、もう力弱くなった枝々が強風であっさり折られる、という姿はまさしく老年の相です。ほっておいたら大トチは、その老年をしばらく生きて、やがて崩れ落ちるはずでした。崩れ残った部分の枯木には鳥たちが巣をかけ、倒れ伏した大枝には苔がつき、そこに落ちた種子を育て、ついには大地に還ってゆく、というのが生きもののたどる生と死のかたちです。生きものの生と死とは、木であれ人間であれ、そういうつつましいものだろうと、ぼくは思っています。」
    時代の風潮からは、「地球に優しくするために」とか「サステナブルな社会を実現するために」と言うべきなのかも知れないが、私としては、より本質的な、「生と死とは何か」を感じるために、読む意味のある一冊と思う。。
    (2023年1月了)

  • 今、読むべき本

    木と話すべき、
    いや、木のことばを聞くべき

    木はじっと、私たちが耳を澄ますのを待っている

    わたくしたち木は

    うことなく生きているのでございます

    強風吹き折られることもございます 雪の日 雪の重さで枝を折られることもございます

    それでもわたしたち木は

    しい大地に根を張って

    静かに生きているのでございます そよそよ風の吹く日明るい日ざしの下で

    たちや鳥たちが枝のあいだを飛びまわってくれるとき

    わたしたちは しんに幸せなのでございます

    目が回り雨が降り季節がひとめぐりするごとに

    わたくしたちはひとまわりずつ静かに大きく育つのでございます

    あなたがた人間は忙しく動きすぎるのではありませんか ときどきはわたしたちのそばにおいてになって

    静かに休んでみたらいかがでしょうか わたくしたちのように争わないで静かに生きてみたらどうでしょうか あなたがたがわたくしたちの幹に手を当ててくださるのを

    わたくしたちはいつも待っているのでございます

    反歌

    おとめらよ 木のごとく生き
    この星を
    やわらかき光でつつめよ この星を



    引用文献一覧

    64 頁 井基次郎「闇の絵巻」 旺文社文庫 「檸檬・ある心の風景」所収 一九七二年

    41頁 小山勝清「村の近世史」 聚英閣 一九二五年

    68頁 山尾三省 ショーがくれた石」 地湧社 一九八四年

    69頁 山尾三省「聖老人百姓・詩人・信仰者として』 野草社 一九八八年 ただし じょうもんすず


    71頁 高田宏「縄文杉の下で」 新潮文庫 「木に会う』所収 一九九三年



    89頁 アンリ・ファーブル「ファーブル植物記』(日高敏略・職枝訳)平原社 一九九

    91頁 若山牧水「みなかみ紀行』 中公文庫 一九九

    99頁 ジャン・ジオノ『木を植えた人」 (原みち子訳) こぐま社 一九八九年

    109頁 北原なお「ノアの住む国」 企画集団ぷりずむ 二〇〇一年

    127頁 ヘンリー・デイビッド・ソロー『森の生活――ウォールデン」 (神吉三郎訳)ワイド版岩波文庫 一九九一年

    131頁 野沢一「木葉童子詩経」 文治堂書店 一九七六年、文治堂新書 二〇〇五年



    1 28頁 鴨長明『方丈記」(川瀬一馬校注) 講談社文庫 一九七一年

    141頁 島崎藤村「配倉だより」 アルス 一九二二年

    142頁 島崎藤村「ふるさと」 実業之日本社 一九二〇年


    144 頁 ラビンドラナート・タゴール「ボライ」(牧野財士訳) 筑摩書房『大いなる自然」(鶴見俊輔ほか編、新・ちくま文学の森12) 所収 一九九五年

    14 7頁ラビンドラナート・タゴール「迷える小鳥」(藤原定訳)第三文明社「タゴール著作集 第一巻』所収 一九八一年

  • 森に息づく小さな気配を、言葉に置き換えて美しく表現されている本。特に詩の表現はとても繊細で、情景が目に浮かぶようでした

  • 2019/1/4 詳細は、こちらをご覧ください。
    『あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート』 → http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1239.html
     
    都会の真ん中にいても 公園の木、マンションの木、並木道の木。
     どれも それぞれ魅力があります。

    著者のように 八ヶ岳に住んでいれば、森や木々のパワーは神秘的かつ圧倒的なものでしょうね。

    ◆ 縄文杉の下で
    この本を読んで、屋久島へ行った時のことを思い出しました。

    ◆ 木を植えた人びと
    ジャン・ジオノの「木を植えた男」(木を植えた人) について書かれていた。
    一人で、荒れた山にドングリを植え続ける男の物語。
    「フレデリック・バックの映画」で見て 感動し、その後 展覧会にも行きました。

    実際に荒れ果てた土地に木を植え再生した例。
     愛媛県の別子銅山跡 伊庭貞剛

    大都会の真ん中に人間の手で作られた森 明治神宮の森

    ◆ 森の生活者
      森で暮らすのはちょっと〜、(^^ゞ  たまに訪れたい場所です。

    ◆ 草木と子供
    読みたい本が増えました。
    本を持って、山の小さな小屋で過ごす読書三昧の暮らしって、すてきでしょうね。

    2012/12/6 予約 12/12 借りる。12/22 読み始める。1/13 読み終わる。

  • 淡々と森や山について書いてある。
    大自然に癒されたい、でも森でのんびりやってる暇なんてないんだわ、という忙しい人にちょうどいいかもね。

    一番印象に残ったのはこの本の内容ではなく、その中で紹介されている「ノアの住む国」という絵本(?)。
    あらすじだけで泣ける。すごい発想だ。

  • 14/1/3読了

  • 勉強になりました。

  • 森へ行き、木に会い、そこで目を閉じ耳をすませて五感を開放し、森の生き物たちや風や水、そして『森の者』と語り合う。穏やかな文章に引き込まれながら、私もその場にいるような、ゆったりと楽しい時を過ごすことができた本です。

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著者プロフィール

高田宏(たかだ・ひろし) 作家。1932年、京都生まれ。石川県江沼郡大聖寺町(現・加賀市)に育つ。55年、京都大学文学部(仏文専攻)卒。光文社に入社し「少女」編集部で狩野川台風、伊勢湾台風などの被災地を取材。アジア経済研究所を経て、63年にエッソ・スタンダード石油で企業PR誌「エナジー」を創刊。84年より著述業に専念。主な著書に、日本初の近代国語辞書『言海』を生んだ大槻文彦の評伝『言葉の海へ』(78年、大佛次郎賞、亀井勝一郎賞受賞、新潮社)、『木に会う』(90年、読売文学賞受賞、新潮社)など。2015年没。

「2016年 『荒ぶる自然 日本列島天変地異録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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