キャリア教育のウソ (ちくまプリマー新書 197)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480688996

感想・レビュー・書評

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  • 学校でキャリア教育というものが始まって随分たつ。

    キャリア≒就職できる、正社員になる
    という価値観になっていることに、筆者は違和感を感じている。

    また、高校生ぐらいで将来のやりたい仕事を設定するが、その頃には具体的にどのようなことをすることをすることかイメージができないまま、なりたい仕事を思い描いている。
    また、夢は持てたとしても、仕事を選ぶ際には現実的な条件と折り合いをつけなくてはいけなかったりする。

    仕事をするということは社会の中の一つの役割を担う事、役割を自分に取り込むことであり、それは「やりたいこと」と「やれること」に折り合いをつけていくことなのだろう。

    やりたいことは具体的な仕事というよりも価値観であり、ある意味抽象的なものでも良いと思う。その中で選択肢の中から現実的な仕事を選択できるようになると成功なのではないだろうか。

    また、これからの時代、一つの仕事をずっとという傾向ではないだろうから、柔軟に仕事を変えられるように自分の価値観を見つめることはより大事になるだろう。

  • 著者を知っているので必ずしもフェアなレビューになっていないかもしれませんが、まあそういう前提でお読みください。

    そういう前提付きですが、私は、本書は総体的には、子どもたち・若者たちの将来への備えになるキャリア教育とは何か、を考える上で多くの示唆をもたらしてくれる本だと思いました。もちろん書かれているすべての指摘に賛成ではありませんが。

    キャリア教育の「ウソ」だなんてセンセーショナルなタイトルで、キャリア教育に熱心に取り組んでおられる関係者からすれば面白くないかもしれませんが、まあそれは編集サイドの思惑もあるでしょうし、著者自身も「からくり」や「(キャリア教育又は子ども・若者が陥りやすい)わな」といった意味で使っておられるようですし。ただしそこには、「現在行われているキャリア教育には、現実(社会の状況、若者の状況、労働の状況)を十分見つめ切れていない(ものもある)」という、たぶん正しい指摘が含まれているのだと思いました。

    本書を読んで(僭越ながら)自分と問題意識が共通している点が大きく分けて2つありました。

    一つは、著者が指摘している「やりたいこと探し」の重視についてです。私は「夢や希望を持てば皆頑張るようになる」的な教育観にあまり共感できないで来ました。成功した方はそういうことをおっしゃるのですが。自分はそうだった、それで頑張れた、子どもたちはみなそうに違いない、と。。。もちろん、子どもたちのためを思ってその学習意欲を高めるための考えの一つでしょうから、そういう風に考える方の気持ちは尊重したいですが。しかし夢や希望なんてそんなに簡単に持てるのだろうか?という気がします。またそんな簡単に持つべきものだろうか、とも思います。

    夢や希望を持ってストレートに仕事に結びつく人はほとんどいないわけで、別に「夢みたいなこと言ってないで現実を見ろ」というドラマでありがちな大人のセリフとして言っているわけではなく、夢が直接職業になるというのは特定の専門家の場合(スポーツ選手、芸術家、法曹関係、医療関係、教師・保育士、パン屋・花屋など分かりやすい小売業)であって、ほとんどの人は組織に属して給料をもらいジェネラリストとして生きていく。そこに大きな齟齬があるのに、それが隠れているのはリアリティがないというか、ちょっと嘘くさいというか。。。

    大学生の就職について「就職」と「就社」という言葉で指摘されている問題もありますが、その当否はともかく(どっちがいい悪いという問題でないように思いますが)、我が国ではまだまだ「就社」が圧倒的に多いわけですし、独立したプロになる人はまだまだ少ないです。

    著者も述べておられますが、職業選択に限らず人生というのは、自分の思いと社会の中での自分の位置(社会から求められる役割や自分の能力・特性が役に立つ場所など)とのせめぎ合いなのだと思います。それは単に希望と現実(能力)の折り合いというさみしいだけのものではなく、自己と他者との関係性を理解するという意味もあります。また、私は自分の職業選択の時から、仕事というのは「やりたいこと」「やれること(又は得意なこと)」「やるべき(だと思った)こと」の狭間での迷いもあり、そういう意味での選択もあると思います。十年ほど前に中学生にそういう授業をさせてもらったこともあります。全部が重なれば最高に幸せかもしれませんが、なかなかそうはならないでしょう。

    もう一つは、キャリア(≒人生)教育と言っていながら、職業や就労だけに焦点が当たっている(「ライフキャリア上のさまざまなイベントや転機に対応できるための準備も必要」)という問題意識です。この点についてはこれまでもたびたび書いたことがありますので、簡単にしておきますが、特に人生上で、就職の後に続く、結婚、妊娠・出産(女性だけでなくパートナーである男性にとっても大事)、子育て(乳幼児期の様々なイベントや、就学、進学など)、地域等仕事以外の役割(PTAなど学校支援、自治会、地域によっては消防団)、親の介護などなどについても、結論は出せなくても若い頃から考える機会を持つべきだと思っています。また、近年「働き方」そのものも社会的な話題に上ることが多いですが、「どのような働き方を選ぶのか(場所、形態、忙しさ、などなど)」、ライフスタイルについても考えていいはずです。目先の就職・進学に比重がある程度偏るのはしょうがないとは思いますが。

    他にも著者は以下のような非常に有益な(と私は思う)指摘をしておられます。
    ・「標準(=新卒就職→そこに長く勤める)が崩れてしまった時代」なのに、標準な就職だけを念頭に置いた指導が行われている。
    ・キャリア教育と教科教育とを別物だととらえている
    ・自己理解、職業理解、プラン作成など、深く考えないでもやってしまえるワーク的学習の問題点
    ・正社員モデルや生涯賃金比較による指導の限界、、、などなど。

    最後に。本書のプロローグは、児美川先生の教え子の卒業後について書かれているわけですが、先生の愛が詰まっている気がしました、ちょっと泣いてしまいました。キャリア教育の本で泣くのは私ぐらいでしょうか(笑)。

  • これからやるであろうキャリアカウンセリングやキャリア教育に非常に役に立つ考え方の一つ

  • 教採の面接対策にと一読。
    教える側はもちろん,生徒や学生にも非常に読みやすい一冊でした。
    社会構造から一昔前とは異なる雇用環境,崩れる終身雇用制,右肩上がりの非正規雇用。読者である私も非正規労働者です。大切なことは「この仕事」よりも自分の軸を持つこと。

  • 社会構造が変化している現代において、これまでのキャリア教育が当てはまらないものとなっている。

    キャリア教育とは、社会の中で自分らしい生き方を実現していく過程であり、個人の特徴を受け入れながら社会の役割に応え貢献していくこと。
    なので、よくある、やりたいこと探しや職業理解のようなものは断片的なもの(狭すぎるキャリア教育)である。

    ①自己理解→②職業理解→③キャリアプラン、といった流れで行われることが多いが、アメリカで生まれたこの理論が当てはまるとも限らない。

    ①について、そもそも現実的な仕事の種類や内容を知らずに、やりたいことを見つけることは難しい。「なりたい職業ランキング」みたいなものも、聞いたことがある仕事やテレビで露出しているものなど、イメージや憧れでしかない。
    また自己理解を深めたとしても、そもそも学生の経験などバイトくらいであり、その狭い経験の中で見つけられる仕事などたかが知れている。

    なので、自己理解よりも先に仕事を知ることが重要となる。
    やりたいことを見つける→その仕事を調べる、という決め打ちではなく、仕事について調べて興味がなかったら次に行く、という繰り返しが重要。
    そしてやりたいことは価値観や軸に基づくので、これらをある程度知っておく必要がある。

    ③について、20年後のキャリアプランなどを作らされることもあるが、志望校合格のような明確な目標がないのにプランを作ることは難しい(作ること自体はやるべきことを意識してもらうためにいいかもしれないが)
    これまでになかったような仕事が生まれることもあり、キャリアを考えることは難しく、途中で変わることもあり偶然出会ったものがマッチすることもある(クランボルツによると18歳の時に考えたキャリアを実現してるのはたったの2%!)
    キャリアプランを考えるには単にやりたいことだけでなく、給与や転職、税金といった社会について知っておく必要がある。
    自分が知ってることだけで決めてしまう「常識」といったものが正しいのか?広い視野を持っていろんな仕事や人に出会うことが大切。

    そして、正社員が是とする教育の見直しも必要。親の時代とは違うし、企業の寿命も30年と働く年数よりも長い。
    またどうしても非正社員になる人は一定数いるため、それを頭ごなしに否定するのではなく(生涯収入なども転職が当たり前になる今のご時世当てにならない)、そこからどうやってキャリアアップするかという教育が必要(それを見据えた知識経験を積んでもらう)

    【感想】
    やりたいこと探しや仕事の理解などを断片的に行うのではなく、連続的かつ継続的にやることが重要だと感じた。
    そのためには自分自身が知識や経験を蓄え、価値観や軸を明確にしていき、理想となりそうな仕事を選り好みしないで見ていくことで理想となるキャリアがん見えてくるのかもしれない(もちろん就職してから変わっても問題ない)

  • 2017年2月

    私たちは様々な教育機関や社会に出てからの転職活動で、キャリアについて考える機会がある。ただ、そのキャリアに対する考え方は間違ったキャリア教育の影響を受けていると考える筆者の主張はとても興味深かった。

    特に共感する点としては、中高などで考えさせられた自分のやりたいこと、ということだ。結局はその自分視点のやりたいことを追いかけることは、確かに素晴らしいがそれ以外の選択肢を知るということができないことに問題がある。また、社会との関わりという視点も大切だと思う。多くの中高生は将来的に自分のやりたいこと、とは懸け離れた職業に就く問いう事実を忘れてはいけない。自分の子供がどのような時代に生きるかはまだ想像がつかないが、広く様々な仕事があることを知ることも大切だろうと思うし、柔軟に仕事を選ぶ考え方を身につけたいと思う。

  • キャリア教育を実践する者として必読の本。
    今般のキャリア教育が抱える課題と、今後の方策をわかりやすく示唆している。
    勤務している学校に照らし合わせると、その改善点が見えてくる。

    特に、リアルな社会を見せ、その対応策を考えさせるという点は、
    決定的に欠けている。
    なりたくなくても非正規雇用になるという現実は、
    学校現場では扱いにくい。

    学校現場ってのは、前年踏襲が基本であるからして、
    なかなかドラスティックな改革は難しいのであるが、
    着実にその歩みを進めていく必要があるだろう。

  • 私はキャリアコンサルタントの資格を持っていますが、キャリア教育に関するもやもや感を本書は見事に暴いてくれています。

    手取り足取り人生について教えることが必ずしもキャリアを育む力にならないのは当然でしょう。

    その意味で、職業を含めたこの人生を乗り切っていく上で、本書はあらゆる世代にある種の心構えを持たせることに成功していると思います。ソクラテスの産婆術的な方法で。

    ・やりたい仕事を見つけさせたとしても、その選択の根拠は底の浅いものになる可能性が強い
    ・「やりたいこと」「やれること」「やるべきこと」
    ・価値観や自分の軸を明確にする
    ・①学校卒業後も、生涯学び続けていく姿勢を身につける
     ②就職出来たら終わりではなく、自分の人生を引き受けていく「キャリアデザイン」のマインドをもって行動する

  • 登録番号:1027163、請求記号:366.29/Ko64

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著者プロフィール

1963年生。法政大学キャリアデザイン学部教授。法政大学文学部教育学科専任講師、助教授、キャリアデザイン学部助教授を経て現職。専門は教育学。法政大学大学評価室長、日本教育学会理事、日本キャリアデザイン学会副会長。
著書に、『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、『「親活」の非ススメ──"親というキャリア"の危うさ』(徳間書店)、『若者はなぜ「就職」できなくなったのか──生き抜くために知っておくべきこと』(日本図書センター)など、編著に『これが論点!就職問題』(日本図書センター)、共著に『キャリアデザイン学への招待──研究と教育実践』(ナカニシヤ出版)など多数。

「2015年 『まず教育論から変えよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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