揺らぐ世界 :〈中学生からの大学講義〉4 (ちくまプリマ―新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480689344

感想・レビュー・書評

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  • そうそうたる大人による執筆。
    コンセプトは、中学生向けに大学並みに深いことを伝える、というものだろう。
    第4巻は、「世界の変化」がテーマ。昨今の環境変化は、凄まじいものがある。これをどうとらえるか。自分の立ち位置を決めるために、世界をどうとらえるかが重要。

    揺らぐ世界の例として、
    ヒロシマ、ナガサキ、アウシュビッツ、パレスチナ、オウム、フィリピンからエジプトまでに加え、民主化、3.11、フクシマ
    が挙げられる。
    最後はグローバルに考えるという点で終わっている。

    ボーダーレスなドライバーによるグローバル化で、ボーダーレスというよりボーダーフルになっているというのが東西冷戦以後の状況。宗教ごとの観点や様々な「リージョナルなもの」が、グローバルの視点により相対化される。一見、宗教に始まる数多の「線引き」による対立が世界を揺るがせているように見えるが、実は、技術という「ボーダーレスなドライバー」の影響により、対立の「インパクト」が幾何級数的に拡大している。人間が生み出した「概念」がリアルを破壊しているともいえる。

    客観的にみれば、自分で自分の首をしめている。愚かしいとしか言いようがない。

    本書にある「揺らぎ」とは、そういうことだろう。ここをどう理解するかが本書のテーマか。

    立花隆 ヒロシマ・ナガサキ・アウシュビッツ・大震災
    ・第一の敗戦:太平洋戦争、第二の敗戦:バブル崩壊後、第三の敗戦:東日本大震災と津波の影響
    ・戦争の記憶
    ・100万人
    ・メルトダウン
    ・PTG

    岡真理 ”ナクバ”から60念ー人権の彼岸に生きるパレスチナ人たち
    ・アラブ人=アラビア語が母語
    ーイスラームの信仰
    ーキリスト教徒のアラブ人
    ーアラブ人のユダヤ教徒
    ・パレスチナ=アラブ世界=キリスト教発祥の地
    ・パレスチナ問題
    ーユダヤ人とアラブ人が数千年にわたって民族対立をしている、は間違い
    ー聖地エルサレムをめぐってユダヤ対イスラームが宿命の宗教対立をしている、は間違い

    ーエルサレムを含むパレスチナがイスラーム世界になったのは七世紀。以降1400年近い歴史でエルサレムは3つの信仰の聖地
    ーユダヤ人の国を作ろうとする運動=シオニズム運動=19世紀→ユダヤ対アラブ

    ・キリスト教による差別
    ・人種という概念の発明:ユダヤ教徒=セム人種=アジアに起源
    ・「ニュルンベルク法」
    ・ドレフュス事件→シオニズム運動=ベン・グリオン
    ・1947年11月29日:国連総会でパレスチナ分割案が採択=ユダヤ人がパレスチナ全土の52%へ
    ・→民族浄化
    ・1948年:イスラエルの独立宣言
    ・70-100万人が難民に=ナクバ
    ・1948年12月に国連が難民となったパレスチナ人の即時帰還の権利を確認 vs イスラエルは認めず


    橋爪大三郎 世界がわかる宗教社会・・・最低限これだけは知っておこう
    ・一神教=ユダヤ教、キリスト教、イスラム教
    ・イスラム教のアッラー(神)=ユダヤ教のヤハウェ(永遠の存在)=キリスト教のゴッド(神)≠名前=神
    ・なお、名前は、いくつかあるものを区別するためのもの
    ・3つは信じ方が異なる。
    ・預言者の働き=神の言葉を聞く人
    ・神の言葉をまとめたもの=聖典。イスラムの場合=コーラン(ムハンマド書)、キリスト教の場合=聖書(新約+旧約)、ユダヤ教の場合=旧約聖書というかタナハ(トーラー=モーセ五書、ネビイーム=預言書、ケトヴィーム=諸書)
    ・新約聖書=福音書4つ、パウロの書簡、ヨハネ黙示録。人間が書いたものだが、聖霊がいて神の言葉になっている
    ・ムハンマドは「最後の」預言者。モーセ、サムエル、イザヤ、エレミヤ、エゼキエル、イエスなどの預言者がいた。なので、イスラムは、キリスト教、ユダヤ教を「啓典の民」として信仰の自由を認める
    ・ユダヤ教とキリスト教は、コーランを聖書と認めない、ユダヤ教は新約聖書を聖書と認めない
    ・安息日はいつか:一週間は日曜日から始まる。ユダヤ教は土曜日、キリスト教は日曜日、イスラム教は金曜日
    ・人間が死んだらどうなるか:ユダヤ教は土に環る。キリスト教とイスラム教は復活(審判の日)
    ・宗教改革:キリスト教の原則をもう一度徹底すること:マルチ・ルター(働く=隣人愛の実践、浪費しないで投資、禁欲→資本主義)、ジャン・カルヴァン(ピューリタン→アメリカ入植)
    ・利子をとってよいか:ユダヤ教とイスラム教は(同胞に対してはNG,キリスト教はとってはいけないという決まりはない
    ・仏教と儒教:神々は重要ではない。
    ・仏教では、仏>神(神々=「仏様の応援団」)
    ・儒教では、人間主導での、よい政治が目的→「怪力乱神を語らず」


    森達也 世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい
    ・オウム以前と以後:悪と善の二分法。厳罰化
    ・死刑の廃止と存置
    ・人が罪を犯す理由:愛情不足、教育不足、貧困
    ・罪と罰の概念の違い:ヨーロッパ対アメリカ対日本。日本お応報刑論

    藤原帰一 民家とピープルパワー フィリピンからエジプトまで
    ・民主化するとは、
    ・フィリピン:ベニグノ・アキノ対マルコス。コラソン・アキノ対マルコス
    ・ピープルパワー革命対近代革命
    ・ピープルパワー革命=政府分裂+人が集まる+争点が権力者の退陣
    ・近代の革命=独裁的な政権獲得過程。フランス革命とジャコバン派独裁、ロシア革命とボルシェビキ独裁、中国革命、イラン革命


    川田順造 人類学者として、三・一一以後の世界を考えるー異文化から学ぶもの
    ・グローバル化の3つ=15世紀にはじまる大航海時代+19世紀後半の産業革命がもたらした非西洋社会の二重の搾取体系+ソ連崩壊以後の東西対立解消
    ・国民国家は諸悪の根源
    ・人類学者の使命

    伊豫谷登士翁 グローバルに考えるということ
    ・2つの極端=世界戦争+大量虐殺
    ・膨大なエネルギーを消費する豊かさ
    ・新たな課題=環境問題+(恐怖にもとづく)帰属意識の崩壊
    ・男女間や人種間の格差の見落とし
    ・先進国と発展途上国の格差の見落とし
    ・安い物を手に入れたい vs 高い賃金を得たい
    ・格差が生み出した不安をどう表現するのか=自分の居場所が見えない
    ・ボーダーに身をおく。ボーダー=家族、共同体、国家、ボーダー=学問領域

  • パレスチナとイスラエルの問題について少しは知ることができたと思う。自爆テロを進んでやってるのではなく、何も希望が見えない、生まれてから死ぬまで塀に囲まれて、最小限の食料しか無い、何もない。絶望の一手なのだと知った。自爆テロを認めることはできないけれどそこまで追い込んでいる問題に目を向けていなかった事に気付いた。
    国の情報統制の恐ろしさ。日本でも統制されていることに気付かず日々過ごしていることにゾッとした。
    数々の一神教の数々の信じ方。それによるいさかい。宗教の問題は人間の思想に関わるものだから殊更難しい。更にそこに政治や地理に資源の問題も重なるから、もっと難しい。人間が自分たちでめんどくさい事を増やしていっている。
    1995年に起こった地下鉄サリン事件によって、日本で変わったことがたくさんあった。当たり前のことだと思っていることが事件後に変わっていった所で驚いた。
    人の犯した罪の償い方についても考えた。罪人もずっと塀の中に居るわけには行かない。いずれ社会に出ないといけない。その為には強い罰ではなく、社会への適応能力を養うことではないか?厳しい罰を与えても結局社会に出てどうすればいいか分からなければ再び同じ事をするしかその人には道が無い。
    罪を憎んで人を憎まず、難しいけれどこれが一番人間社会では大事なのではと思った。

  • 紛争、格差、環境問題…。グローバル化が進んだ世界は、多くの問題を抱えて揺らいでいる。これらの状況を理解する視点は、どうすれば身につくのか? 多彩な先生たちがヒントを示す。読書案内も掲載。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40270686

  • 「紛争、格差、環境問題…。グローバル化が進んだ世界は、多くの問題を抱えて揺らいでいる。これらの状況を理解する視点は、どうすれば身につくのか?多彩な先生たちが、ヒントを与えてくれる。」

    目次
    ヒロシマ・ナガサキ・アウシュビッツ・大震災(立花隆)
    “ナクバ”から60年―人権の彼岸を生きるパレスチナ人たち(岡真理)
    世界がわかる宗教社会学(橋爪大三郎)
    世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい(森達也)
    民主化とピープルパワー―フィリピンからエジプトまで(藤原帰一)
    人類学者として、三・一一以後の世界を考える―異文化から学ぶもの(川田順造)
    グローバルに考えるということ(伊豫谷登士翁)

  • 一番印象に残ってることはフィリピンの独裁者を政治家の人が諦めずに国民と一体となって倒した事と、アウシュビッツや原爆には人々が理不尽に殺されると言う共通点があることを知り看過された

  • 知った上でなお、倫理的であろうとするにはどうしたらいいのか。中高生と共に考える、シリーズ第4弾。先行世代の負の遺産から立ち上がること(立花隆)、「人権」概念から遠く隔てられたパレスチナ人(岡真理)、宗教から世界が見えてくる(橋爪大三郎)、オウム報道が変えてしまった日本社会(森達也)、ピープルパワーの前後では何が変わったのか(藤原帰一)、アフリカが照射する日本社会(川田順造)、グローバリゼーションが投げかけているもの(伊豫谷登士翁)。何かをする一歩手前での、知って考えるということを問うている。中高生向けに編まれているが、侮ってはいけない一冊だと思う。

  • とても面白かった
    宗教の話が面白かった

  • 中学生や高校生向けと書いてあるが、自分に取ってはもう一度読み返す価値のある本と感じた。世の中で何が起きているのかを自分で考え、感じることの重要性を再認識させられた。

  •  学術と中高生が交流できる機会が乏しい日本で、このような取り組みや本がもっと増えてくれるといいなーと純粋に思いました。イギリスでは大学教授が街中で一般人に向けてブースをつくって教えるという機会があると耳にしました。特に学生は良質な研究成果や質の高い問いを与えられることで知的好奇心が高まっていきます。大学教授は誰にでも分かりやすい教えようと思うと、それなりに知識を整理して色々と頑張る。お互いに知識やスキルが高まっていく、社会全体も高まっていきますね。
     この本は中学生からの大学講義というテーマになっていますが、大人が読んでももちろん勉強になります。これから大学を目指す子どもたちは「どこの大学に行けば就職に有利か」が目的ではなくて「大学で何を学びたいのか、学ぶのか」を目的にして大学を選んで欲しいと思います。大学教授はその分野のプロフェッショナルだということを知っていれば、学ぶ質や学ぼうとする熱意、学ぶ量が変わってきます。それを感じる大学教授はより頑張ります。
    良き本に出会いました。ちくまプリマー新書さんは立派な出版社です。

  • 妻が買って持っていた本を借りて読む。
    大変素晴らしい。
    特に、森達也さんの章が良かったです。
    また、藤原帰一さんの若者に向けた言葉が、鋭く厳しいのも印象的。
    彼らに真剣に対応しているのだということがよく分かる。

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著者プロフィール

評論家、ジャーナリスト、立教大学21世紀社会デザイン研究科特任教授

「2012年 『「こころ」とのつきあい方』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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