ピスタチオ

著者 :
  • 筑摩書房
3.52
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804280

感想・レビュー・書評

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  • 武蔵野に実家アパートに11歳の犬と暮らす棚(たな)。「棚」はライターを生業とする彼女のペンネームで、ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーから思いついた。本名は山本翠。ターナーから、タァナァ、そして棚を連想して、ペンネームとしたようなのであるが、海洋風景画の作品で知られているターナーの作品のイメージは、私の知る限りグレー。本作タイトルはピスタチオ、表紙はグリーンで何となくペンネームと作品タイトルが一致しないなぁと1ページ目にして思ってしまった。

    本作の前半は、後半につながる丁寧な仕込みが沢山ある。

    気圧による頭痛(気圧による変化)、公園池にいる渡鳥たち、渡り鳥が、愛犬・マースの子宮にできた腫瘍。
    「もしも何かの意志で、『ダバ』に似た類のものがマースに入り込んでいるのだとしたら。いつのまにか棚が受け取るはずの『ダバ』を、マースが代わりに受けっていたとしたら。」アフリカ伝統医が言及している「ダバ」という「症状」と「原因」。医療技術が発達している現代社会において、エビデンスのない非科学的な医療法は信じることができないくらいが、それでも、科学では解明できない現実がもしかしたらあるのではないかと、この文章がとても神秘的、霊力的に思える。

    アフリカに住む友人・三原の病気。日本でのこの病気に対する社会的な制裁。大体の社会において受ける、人の道を踏み外した人間に対する軽蔑…生理的嫌悪感。もしくはそんな扱いをしないように意識するあまりのわざとらしい親切。それがアフリカではない。だからアフリカにとどまる三原である。棚が片山海里と出会い、海里のジンナジュが棚をウガンダに導くことになった時に、三原が棚を助けることになることも病気が三原を襲ったことに意味があることになる。

    前半のこれらの出来事が偶発的ではなく、読者に必然的な結果と思わせるようになっている。後半にアフリカ取材の話が舞い込み、アフリカへ行くことになる棚。内戦の記憶の残るアフリカで、生と死、水と風、森と緑、精霊と死者の声が循環する中に意識的、暗示的にアフリカの壮大な魂の物語として進んでいく。
    霊的なるものの存在を匂わせる展開と結末。
    アフリカで知り合ったナカの双子の妹・ババイレの霊がピスタチオとなって自分の死を姉に伝えているような感覚に陥る。

    そして、棚が書き上げた念願の小説「ピスタチー死者の眠りのために」が本作の終わりに掲載され、すべてが繋がっていく。同時にタイトルになった「ピスタチオ」の意味を理解する。

    -ピスタチオ ピスタチオ いい一生を生きた 安心してお休み

  • 偶然なのか、それとも必然なのか。
    一つ一つ繋がっていく不思議な話。
    最後にやっと出てきたピスタチオ。
    なるほどね。

  • 【内容】
     ケニアに数ヶ月いた縁からか,山本翠,ペンネーム:棚のところにアフリカ ウガンダの取材企画が来る.
     ちょうどアフリカに関する本を読んでいたことやその本の著者がケニアで知り合った片山海里であったこと,彼がすでにこの世に居ないと知り,彼の遺作を通して死因にも興味が出たことから,企画を受け,並行して彼の足跡をたどろうとする.

    【感想】
     物語がアップダウンなく,トントン拍子で進んでいくところ,最初から神妙な気持ちで読んでしまいました.

     最後に棚が言った,「死んでから,本当に始まる「何か」がある気がする.別の次元の「つきあい」が始まるのね,きっと.」という言葉が印象的でした.
     死者の物語…鎮魂曲であったり,考古学的に足跡をたどることだったりと,故人と生きている自分の関わり方が出てくるのは後半からですが,この関係は過去から流れてきた伏流水だと考えれば,前半からすでにこの神妙な感じがにじみ出ていて,影響されてしまったのかなと思いました.

     誰のレビューか忘れてしまいましたが,「沼地のある森を抜けて」が生の物語で「ピスタチオ」は死の物語,という感想があって,そういう対比も面白いなあと思いました.

  • アフリカと死者のはなし。

    「ピスタチオ」がどう関わってくるのかと思ったら、
    ドラマチックな結末が待っていました。

    作品中に出てくる民話みたいにメッセージ性はなかった。
    と、思う。
    全てが、何か大きなもの(ジンナジュ?)の存在に動かされた経過の記録でした。

    「ゲド戦記」と「ガダラの豚」を足して、
    男くささとエンタメを引いた世界観。

  • 地球レベルのとてつもなく大きな物事も
    個人レベルの小さな小さな物事も
    全てはつながっている

    ー死者は、物語を抱いて眠る
    「物語」抱くということが「癒し」につながる
    その「物語」は生きている人間のためにもきっと紡がれなければいけないのだろう。

    正直少しスピリチュアル感が全面に押しだされている感じが否めない。「物語を物語ることからの癒し」読み手の状況によって大きく変化するように感じた1冊。

  • 梨木さんらしい話でした
    いちばん印象に残ったのは胸に抱いて眠る物語
    わたしも欲しいと思いましたが、今は一緒に歩いて行く物語を考えよう

  • なにか世界のもう一つの顔を見せてもらった気がした。
    やっぱり梨木さんは、魔女か妖精か、そんな生き物だと思う。
    こういう世界、とても好きだ。

  • なにがどうしてピスタチオなんだろうと思ったけど、ちゃんとピスタチオでした。
    梨木香歩といえば日本的なものと決めてかかっていたけど、アフリカの、この地球上の土地に宿るものは国境を越えて不変のものなのかもしれない。
    シャーマニズムとグローバリズムが絡み合ってできた新しい時代の話なのかもしれない。

  • 待望久しかった梨木さんの長編小説。今回の物語のメイン舞台はなんとアフリカ・ウガンダ。女性ライターである主人公・棚(ペンネーム)の日々の暮らしを描いた序盤は、梨木さんが趣味とするバード・ウオッチングやカヌーなどの話題がいくつも織り交ぜられて落ち着いた描写。 年老いてきた飼い犬が、突然の変調を来たすあたりから徐々に不穏な空気が漂いはじめ、暗示の如く以前滞在したアフリカの話題が身近に溢れ始める。やがて依頼された取材旅行がウガンダへの旅。何者かに導かれるように棚はアフリカに向かうことになるのだが、、、 スピリチュアルなものを扱った小説だけれど、似たようなものを書く「よしもとばなな」との大きな違いは、描写の節度だろうか? 対象となる呪術や憑依にしても、ある一定度の距離を置いた扱いで、主人公が巻き込まれていく様子も淡々としていて混乱が少ない。 精霊とでもいうべきものの存在が確かに感じられるようないくつもの符合。壮大な自然に囲まれたウガンダでの、行き当たりばったりに見えて、実はあらかじめ仕組まれていたかのような出会いと行程。不思議な偶然性はいつもの梨木ワールド。なかなかタイトルとなった「ピスタチオ」が登場しないなと、やきもきするのだけれど、そのピスタチオと終盤で思わぬ出会いを迎える衝撃。 すべての事件が解決した後に、棚の手により書くべくした書かれた神話『ピスタチオ―死者の眠りのために』が印象的。鳥の観察者としての梨木さんの一面が、この小説を産み出したのだなと納得。

  • (2010.11.02読了)(2010.10.28借入)
    梨木さんは、亡くなった人の霊、動物や植物の霊を扱った作品を割と書いているように思います。今まで読んだ中で、以下の作品はそのような物語です。
    「りかさん」梨木香歩著、新潮文庫、2003.07.01
    「家守綺譚」梨木香歩著、新潮社、2004.01.30
    「沼地のある森を抜けて」梨木香歩著、新潮社、2005.08.30
    「f植物園の巣穴」梨木香歩著、朝日新聞出版、2009.05.30
    今度の作品は、アフリカの呪術師に関するものですので、体調が悪いのは、その人の身体に何かがとりついているとか、誰かの呪いによるもの高いう考えに基づいて治療するという考えですので、今回も同じようなテーマということになります。

    今回の主人公は、物書きの女性です。名前は、山本翠。もうすぐ40歳。ペンネームは、棚。イギリスの画家、ターナーから思いついたということです。名字と名前という形にはなっていなくて、単にたな(棚)です。ある時期以降のターナーの絵には、緑が使われていないのだそうですが、そうだったですかね。ターナーの作品をたくさん集めた展覧会があったら覚えていて、確認することにしましょう。
    山本翠さんは、独身ですが、彼氏はいるので、都合のいい時に会って一緒に過ごしたりしています。結婚しないで、お互いにあまり拘束せずに暮らすということがこれからどんどん増えて行くのでしょうか。子供がいらない、生命の連鎖を断ち切る、ということであれば、それでもいいのでしょう。
    山本さんは、犬(名前は、マース)を飼って、11年経つのですが、最近頻尿のようで、ときどき粗相をしてしまったりします。医者に診てもらったら、膀胱に腫瘍ができていることがわかったので、手術で取り除いてもらいました。少し調子を取り戻しています。
    山本さんに、アフリカのウガンダへの取材旅行の話が舞い込みます。丁度、アフリカの呪術師の話を取材しつつ、アフリカの民話も集めていた知り合い(片山海里)が死亡し、現地のガイドも死亡した、ということがあって、彼らに何があったのかついでに調べてみたいと思っていたところだったので、引き受けることに、出かけて行きます。
    亡くなったガイドの弟が、ウガンダでの案内を引き受けてくれて、取材を始めます。
    依頼されたウガンダ観光の取材を進めながら、亡くなった知り合いの会っていた呪術師にもたどり着きます。山本さんの知り合いは、その呪術師のもとで、呪術師の修業をしていたことがわかります。しかもその知り合いは、呪術師としての最初の仕事で、人探しをしていたのですが、日本からやってくる女性が、行方不明の女性の亡くなった場所を教えてくれると言い残していたのです。
    山本さんがその人です。ウガンダでは、反政府ゲリラが、幼い子供を誘拐し、兵士に育て上げるということが行われており、反政府ゲリラが、月の山(ルウェンゾリ)の向こうへ逃亡したという情報をもとに、ルウェンゾリ観光の取材も兼ねて、言ってみたら、霊感のように行方不明の女性が埋められている場所がわかりました。
    ピスタチオの樹の下だったのです。
    呪術についてのそれなりの理屈は書いてあるので、興味ある方は、本を読んでご確認ください。このあたりに興味を持てるかどうかで、この本の評価が決まってきそうです。
    物語の最後に、「ピスタチオ―死者の眠りのために」という物語が挿入されています。一読では、内容が読み取れませんでした。この辺も・・・。

    ●雨季と乾季(93頁)
    ウガンダの雨季と乾季のことを調べてもらった。現地の関係者によると、最近はいつからいつまでが雨季というような明確なことは誰にも言えなくなっているという。長期的な見通しの立たない、旱魃か洪水。雨季と乾季というシーズンそのものが消えつつある、と。いわゆるラニーニャ現象の影響らしい。
    ●オーダーメイドの物語(94頁)
    学生時代から、棚は文章を書くことが好きだった。牧畜でチーズやバターを作って市場で売り、その金でその日の生活に必要なあれこれを買って生活していくように、自分も一つの作品を売って、その金で質素な生活をする、というのが棚の夢だった。石屋が墓石を作るように、誰か、その人のためだけの物語を、心をこめて作る。
    (この本の最後の「ピスタチオ」がこのことらしい。)
    ●ジンナジュ(107頁)
    ジンナジュは、中東からアフリカ全般に広がる、精霊・ジンのバリエーションの一つらしい。(アラビアン・ナイトにはいっぱい出てくる。)
    ●物語が必要(237頁)
    患者と、患者のジンナジュが、本当に欲しがっているのは、ストーリーなんだ。特に人の恐ろしがる病の場合は、なぜ、自分がその病気になったのか、納得できる物語が欲しい。死者には、それを抱いて眠るための物語が本当に必要なんだ。

    ☆梨木香歩さんの本(既読)
    「りかさん」梨木香歩著、新潮文庫、2003.07.01
    「家守綺譚」梨木香歩著、新潮社、2004.01.30
    「村田エフェンディ滞土録」梨木香歩著、角川書店、2004.04.30
    「沼地のある森を抜けて」梨木香歩著、新潮社、2005.08.30
    「水辺にて」梨木香歩著、筑摩書房、2006.11.20
    「f植物園の巣穴」梨木香歩著、朝日新聞出版、2009.05.30
    「『秘密の花園』ノート」梨木香歩著、岩波ブックレット、2010.01.08
    「渡りの足跡」梨木香歩著、新潮社、2010.04.30
    (2010年11月4日・記)

著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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