虹色と幸運

著者 :
  • 筑摩書房
3.27
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本棚登録 : 325
感想 : 58
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804341

作品紹介・あらすじ

どうするかなー、今後の人生。そろそろなにか決めなきゃいけないかも。そんな年頃の同級生3人。明日に向かって一歩ずつ。三人三様の一年間。

感想・レビュー・書評

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  • 大学職員のかおり、イラストの仕事をしてる珠子、雑貨店店主(3人の子持ち)の夏美。家族構成も環境もバラバラな30代目前の女性の一年。
    大きな事件は起きないし、日々の細々したこと、細々した人間関係の話。どこへ向かうともわからない話。でも満足。
    かおりに共感しながら読んだけど、他の登場人物も好き。

    夏美の弟の彼女のレナちゃん、いいな。気づくと何時の間にかどこにでも溶け込める人、どこでも受け容れてもらえる人。珠子はその逆なんだけど、この二人が最後のお茶をするところが好き。

    団地萌え、工場萌えの男に珠子が腹を立てるとこも好き。住んでないくせにあれこれ口出すなっ、て光絵と居酒屋で話してるとこがいい。

  • 『「かおりちゃん、今日何してたの?」かおりは振り返って、なんて答えようかほんの短い間考えた。洗濯、掃除、本読んで、ごはん作って、マヤ文明のミイラのドキュメンタリー見て、あ、ストレッチもしたなー、といろんな言葉が浮かんだが、こう答えた。「なんにも」換気扇に空気が吸い込まれていく音が響いていた。かおりは笑って、「なーんにも、しなかった」と言った』ー『七月の土曜日 とにかく暑い』

    ああ、このニュアンスだ。自分の人生観、などというと大袈裟すぎるけれど、不幸に満ちているでも、幸せで一杯でもない、ふつうの一日があって、それをいろいろと思い返してみても結局は大したことも起こらなかった一日だったなあ、と思いながら、それでもそれをやっぱり幸せなことなんだと受け止められる人になる。きっと自分はそういう人になりたいし、そういう風に一日一日を過ごして行きたいんだなあ。柴崎智香は、自分をそんな気持ちにいつもしてくれる。だから好きなのだ、と思う。

    柴崎智香を読む人の中には、何が言いたいのかはっきりと解らないという感想を持つ人がちらほらいるのだけれど、それを自分は残念だなあ、といつも思う。確かに物語のようなものは柴崎智香の書くものにはほとんどない。物語の流れにのって楽しむような読書を求めている人には彼女の面白さは見えにくいのかも知れない。でも、柴崎智香の書く物はふわふわとしていてリアリティがないと感想をもらす人には、そんなことはありませんよ、とはっきり言いたい。柴崎智香の書くものには、現実感がないような素振りで、絶妙の現実味があるんです、と。そこが嘘くさくなくていいんです、と。

    普通に生活をしていると、文句をぐちぐちと言いたくなる自分がいて、そんなことをしている自分を自分は好きではないなあと考えていて、もう文句は言わないと宣言してみるのだけれども、気付くとまた文句を言っていてさらに落ち込む。でも柴崎智香を読んでいると、それを一歩引いて見る視点をいつも思い出すことができるように思う。例えば、思い通りに仕事が進まなくても、嫌なことがあっても、ちょっとした幸せがあっても(そうだ、しろくまのアイスバーを食べよう)、それでも、(ああ、このしろくま一回解けてまた固まったなあ)そんなこと大したことではない、と思って過ごしたい。そういう気持ちを、柴崎智香は思い出させてくれる。それもこれも、柴崎智香の、多分他の作家の人にはない独特の視点のせいなんだと思う。

    ウェブ上で連載されていたものには、さげさかのりこさんの挿絵がもっとたくさんあってそれも楽しかったけれど、各章にタイトルがついて時間の流れが整理されたのはよかったなと思う(ちょっと今連載中の「よう知らんけど日記。」みたいな感じのタイトルだけど)。あの徐々に広がっていく扉の相関図、あれって紙の媒体には載りにくいけれど、この本の中で柴崎智香がやろうとしていた新境地みたいなものが、うまいこと表現できているなあ、と感心してただけに惜しいなあ。ああ、こんなことを書いていると、なんだお前ただ単に柴崎智香のファンなだけやろう、だから星五つなんやろう、と言われそうだけれど(そうかも知れないけれど)、この本は「きょうのできごと」の柴崎智香であって、結局のところ自分はその小説の描いている、ふつうの日常の中にある奇跡のようなこと、を丁寧に掬い上げる柴崎智香の身体能力の高さに、いつも感心しているのだ。久し振りに柴崎智香的柴崎智香の作品だと思う次第です。

  • 表紙が気になったが、あまり物語に入っていけず。
    うまく進まなかったので、きっとこのタイミングじゃないんだと思い、返却。
    また違う機会で出会いましょ☆

  • ★★★☆☆
    淡々と淡々と。
    【内容】
    珠子とかおりは大学の、夏美とかおりは高校の同級生。かつての仲良し、アラサー3人が各々の人生を選択していく様を描く。

    【感想】
    まるで日記のようだ。
    彼女たちの日記を読んでいるかのように、淡々と1年が過ぎていく。

    学生のころのように、恋に一喜一憂したり、体制に反抗したりすることはない。それが大人なんだと言われればそれまでだが、ある種の「諦め」があるんだと思う。
    「諦め」ることが大人になるということ。それを退屈だと思うか、自分の小さな幸運を見つけて、今の自分に正直に虹色のような人生を送るかは人それぞれ。

    【引用】
    ・他人の幸運はくっきりと良く見えるけど、自分の幸運はもやにつつまれたように、いやもっと濃い、雲の中にいるように、手探りで確かめるしかなくて、そこにあるのに、すぐに見えなくなってしまうのかもしれない。

    ・愛想がいいとかやさしいとかも生まれつきで、努力したってどうにもなんないんじゃないかって思う。でも、足が遅い人が百メートルを十秒で走れなくても文句言われないのに、人に接するのが怖いとか不安だって言うと誰でも出来ることなのにおかしいって怒られる。深く考えないで適当なこと言ってへらへらしている人が性格が明るいとかいい人とか思われるなんて、不公平だよ。

    ・誰々のため、とか思っても、それはうまくいかないことが、自分でちゃんと人生を選ばないことの言い訳にしているのかもしれない。

    ・なにかを実行すると、なにかが変わる。いい方向なのかどうかは、わからないけど。

    ・「十年後って、わたし、なにしてそう?」
    「わからないよ。好きなことしてるんじゃない?だれでも、好きなことしかできないからね、結局は」

    ・まだ、どうなるかわからない。でも、きっとどうなるかわからないのは、どんな状況のときだって同じだと思う。わたしにわかるのは、今の自分の気持ちだけだ。

  • 柴崎さんらしい、日常のささやかな風景を切り取った作品。主人公の女性三名に、取り立てて大きな事件が起きるわけでもなければ、人生のターニングポイントが訪れるわけでもありません。が、変にドラマチックに仕立てないところがリアルです。女三十歳、たぶん、この作品に描かれた程度の波風が、人生の大きくはないけれど、ちょっとした転機になるものではないでしょうか。

  • 柴崎友香さんは、毎度ながら本当に「何もない日常」を書く力がすごい。
    特に本作は、これまで以上に力が強くなっている。
    何もない、というのは事件がない、という意味。私やみんなに流れている毎日をちょこまか拾いあげて繋げたら、こんなに素敵な話になるんだ!という驚き。
    主人公は三人のいわゆるアラサー女子。子持ち、独身、同棲中、と立場も考え方もさまざまな三人と、彼女らを取り巻く仕事仲間や家族、微妙な関係の男の子。
    視点のタッチも鮮やかで、いつのまにか色んな人からの目線で話がすすむ。まるで映像を見ているかのよう。
    しかも今までの作品にはなかなか見られなかった、怒りの感情も出てくる。
    これまでは軒並み淡々としていた主人公が多く、それが柴崎さんの持ち味とも思っていたんだけど。
    いやいや、このエネルギッシュさ、いいじゃないですか。
    読んで元気になりたい人、是非手にとってみてほしい。

  • 見上げると、松本竜馬がポスターみたいな笑顔で立っていた。
    「これ、できました!今日はいい天気だし、やる気出ますよね!」
    かおりはそのまま竜馬の顔を見つめ、ほんとうは竜馬が言ったことが合ってるのかも、と思った。いい天気だし、やる気出るのかも。(p.209)

    「友だちがきちんとした大人じゃないとか、悪い意味じゃないの。なんていうか、いつかちゃんとした大人になったら、って思っていたいつかはずっと来ないって言えばいいのかな、いつかちゃんとしたらとか考えてたら、なんにもできないのかもしれない、って」(p.218)


    世界に積極的にコミットして変えようとする人がいて、それはそれで良いのかもしれないけど、結局はなるようにしかならないというか、自分が落ち込んでいても時間は過ぎ世界はあり続けるのだというポジティブな諦めみたいなものが読んでいて芽生えてくる。

    過去最多の登場人物だと思うけど、全員が小説の世界で確かに生きている。小説に描かれた期間の前からちゃんと生きて来たし、その後も生き続けて行くのが分かる。作者の主張の為の駒になっていない。だから彼らがどんな人なのか簡単に把握出来ない。他人の事は一部しか分からないということを分かっている。

    他人と関係を取り結ぶというのは、分からない事を、無駄かもしれないけど、分かろうとすることにしか無い。それはさっき言ったポジティブな諦めにも通ずるかもしれない。

    「わたしも迷うから、そうしたら、いっしょに考えよう」(p.251)

  • 物語の設定そのものは良いものでしたが、大袈裟に言えば、月イチで集まる友達との女子会の話を、12カ月分繋げたような感じ。私個人の友達との会話や関わりとも似ていて、個人的には共感を越えて、逆に面白みが減ってしまった。そして読み終えてふと、こんな30歳になりたくないなぁと感じてしまった。他の方の感想でも見受けられる通り、登場人物が多くて覚えられない。一度軽く登場したら、以降説明も無いままに当たり前に会話に混ざってきて馴染んでいるイメージ。長編でもない1作の中に20〜30人出てるような。えっ誰だっけ?となるし、どの人物も喋り方がそこそこ似ていて、こんがらがります。

  • 30歳過ぎの3人の女性たちの日常生活を描いているこの小説は、まるで朝ドラを見るような軽快な感じ。まさに女性の視点からのこの年代の女性の感覚そのものなのだろう。かおりと珠子は高校の級友、そしてかおりと夏美が大学の級友。3人の誰が主人公というわけでもない。3人珠子と夏美も友人になっている。その3人のそれぞれの仕事、家族模様、恋人たちとの関係などが自然に描かれている。

  • 自分に分かることは、今の自分の気持ちだけ。かおりのこの言葉が、じんわり染みてくる。
    30代になって、友人たちは結婚してる人、独身の人、仕事をしてる人、子育てしてる人、色々な人生を歩いているけれど、結局今の自分の日常をどう感じているか。
    3人の日常生活で「あー、幸せ」と感じている瞬間が、それぞれ書かれていて、それを読むだけで自分も幸せな気分になる。

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著者プロフィール

柴崎 友香(しばさき・ともか):1973年大阪生まれ。2000年に第一作『きょうのできごと』を上梓(2004年に映画化)。2007年に『その街の今は』で藝術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞、2010年に『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞(2018年に映画化)、2014年『春の庭』で芥川賞を受賞。他の小説作品に『続きと始まり』『待ち遠しい』『千の扉』『パノララ』『わたしがいなかった街で』『ビリジアン』『虹色と幸運』、エッセイに『大阪』(岸政彦との共著)『よう知らんけど日記』など著書多数。

「2024年 『百年と一日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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