黒蜜

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 56
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480804365

作品紹介・あらすじ

瑞々しくも恐ろしい子どもの世界。「倦怠を知ったのは、八歳のときだ」感情のみなもとに視点を注いだ14編。

感想・レビュー・書評

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  • 【収録作品】鈴/姉妹/ひよこにはならない/黒蜜/回る回る/九月の足音/黒い月曜日/雲雀/倦怠/砂のボール/馬足街/どよどよ/壁/おはよう

  • 不気味~「鈴」:--。「姉妹」:姉妹の許にピアノが結婚するために一台が不要となってやってくるがピアノと離れがたいと結婚を断念して引き取られると姉妹は池に潜ってカエルとなる。「ひよこにはならない」:休日で起きてこない父を尻目に栄養摂取の為に朝食から骨付き肉を調理する母は目玉焼きを作ろうとして迂闊に殻を割って黄身を吸うように食べると出来上がった目玉焼きの黄身を食べてはせっせと卵を割り続け僕は父の山のような形の布団の中に引き入れられる。「黒蜜」:天才子役の僕は撮影現場で母が転落死してから社長の家で暮らし今日は素人臭い少女と共演したが差し入れの蜜豆に黒蜜をかけるのを見て嵌ってしまっただけでなく又少女に会いたいと思っても名前も思い出せない。「回る回る」:カラスの多い烏森でデートクラブ経営で忙しい母から烏が鳴いたら帰ってくるように云われていたが盲目の祖父と暮らす少年の旧家に足を踏み入れ木に繋いだロープで盲目の老人が回す長縄飛びに興じていると止まらなくなってしまい烏の声を聞く。「九月の足音」:夏休みに公園にいるおじいさんと一緒に採集した昆虫の標本を私立学校に通う少女に見せたらどんな反応をするだろうか。「黒い月曜日」:--。「雲雀」:美声の持ち主の少年は日が暮れてからは通ることを禁じられていた公園に音痴の少女と足を踏み入れホームレスから気味の悪い言葉を掛けられて少女のためにずっと雲雀でいることを決意する。「倦怠」:50年以上前少女であった女はインターネットで注文を受けて肖像を描く商売をしているが健康紛い商売をしている両親が祖父母を薬殺してしまった家を訪れ建て売り住宅から出てきた少女に縄跳びを教える。「砂のボール」:南の島に撮影旅行に行くモデルの母に付いていく少年が砂に埋もれてしまったボールを拾い上げて砂を落とすと鮫が出るから気を付けた方がいいと云ったお爺さんの顔が現れた。「馬足術」:できれば橋の向こうには行かない方が良いと云われていたにも拘わらず早朝の教室の机拭きを一緒にやった少年にお好み焼きを食べに暗い赤色に塗られた馬足町に一緒に出掛け日が暮れて帰ってくるが小綺麗なこちらの世界よりも向こうの世界がしっくりくる。「どよどよ」:--。「壁」:末っ子の嫁である母を詰り続けた祖母が死んで皆の鬱憤を受けて汚れた壁を自宅での通夜のためにベージュのペンキで塗り隠す少女。「おはよう」:小学校4年の娘を持つ女が最初は嫌だったPTAの挨拶隊の活動に慣れ母が去った娘の幼馴染みに元気よく声を掛ける~内容を憶えているだろうかとページを捲らずに粗筋を書いてみたが案外書けるものだ。タイトル後付って感じはしないのだが,不気味に雰囲気で思い出す。思い出せなかった「鈴」:共に父が去った小学1年の男の二人は暗闇の会に出掛けて性格が入れ替わったようだ。「黒い月曜日」:国語で朗読をさせられるカナコは時々気があちこちに飛んでいき心配したトモコと友達になるが雨の日に窮屈なゴム長で靴擦れができて帰りは裸足で帰ることに。「どよどよ」:子どもに口から出任せのお話を寝物語で聞かせる母は登場人物に名前が付くと勝手に話が展開することに呆れるが良い結末を願っている。年齢を重ねてからの子どもとか,親が離婚して残された子どもというシチュエーションが多かった。高齢出産が増えてもいるものね。「どよどよ」といのがありそうな話で詩人の小池さんの真骨頂かも知れない

  • 短編集で、どれも読後は「さあこの続きは想像してください」って感じの終わり方。
    すがすがしい感じで終わる話がほとんどなかった。
    子どもという無邪気な素材が、妙に黒く味付けされてる感じ。
    でも実際子どもってそんな純粋じゃないよね、計算してるし。
    自分は単純明快なのが好きなんで、ドーンととことん落ちたいときくらいしか手が伸びなそうな本です。
    でも、面白くないわけではない。
    特にウヘェと思ったのは「姉妹」っていう話。
    愛人のピアノなんか絶対家に置きたくないわ。

  • 子どもとお年寄りの話が多かったような気がします。さらにすっきりしない終わり方が多かったような気もします。ゆえに余韻が残ります。かえるの王子様が待つところへゆく「姉妹」がいちばん良かったです。

  • 『「ひと」と「ひとでなし」とはどう違うのか。考えていると樹子は自分が、容易に「ひとでなし」のほうへ傾いてしまうような気がする。こうしてかろうじて、「ひと」と言われている自分がいまだにどこか信じられない』-『どよどよ』

    ああ、小池昌代は突き抜けたなあ。思わずそう思う。この短編集は物語に固執していない小池昌代の潔さがある。これは小説ではなく散文だ、詩だ。切り取られた瞬間が永遠に引き伸ばされる。その思い切り慣性を残して全停止する言葉。読み手を先へ、するどく放り出す。その感覚はまさに詩だと思うのだ。

    常々、普通の小説家とは異なって、小池昌代の小説は(特に短篇は)静止画を丹念に眺めるような趣きがあると思ってきた。それは瞬間を切り取る詩人としての目が深くかかわっているのだろうと。しかし、それは言葉の動きもまた止めかねない。物語が語られている時にそこに作家の思いと読み手の距離を作る。作家は自由に深く深く対象物の奥へ探って降りてゆく。時に対象物をメタモルフォーゼさせながら。読み手の息が足りなくなってそれ以上はついて行けなくなることも構わずに。そのことに小さな違和感もまた感じていた。

    しかしここにはその物語を言い尽くすことなくに語る、言ってみれば言葉の余韻が溢れている。言葉の限定したもの以上の広がりが自然と発生する。深みはもぐってみることがなくても間違いなく存在することが解る。そういう心の動きを起こさせるものは、やはり詩であると思うのだ。

    こんな短編集を読むと、言葉の不思議さを改めて感じる。同じ人が同じような言葉を使って何かを伝えているというのに、一つは緻密な静止画を鑑賞するように読む者の心をひとところにぐっと縛りつけ深くへと連れてゆく。そしてもう一つでは言葉どうしが危うく連なり目の前を通り過ぎるものをこの世に辛うじて繋ぎ止める。そうしておいて、その言葉の流れに懸命について来た者の目の前でふっと消え去る。そして読む者に浮揚感をたっぷり与えるのだ。

    この短編集に登場するのがいずれも少年少女というのは象徴的なことなのかも知れない。彼ら彼女らは変身する。いずれ今とは違うものに。その儚さは昆虫の成虫の儚さを思い起こさせる。成人になり切らない者たちを成虫になぞらえるというのはおかしな事かもしれないが、彼らには彼らなりの成熟があり「子供っぽい」などという形容とは程遠い、ある意味深遠な人生観を抱いている。その雰囲気を小池昌代は少々小難しい言葉を語らせることで上手く表現しているように思う。しかし、それはひと夏きりの成熟でしかなく、来年の夏にはそんなことがあったこともすっかり忘れてしまう儚さを内包しているのだ。

    その儚さと言葉の潔さが読む者に染み入ってくる。今一度、小池昌代の詩人としての才を思う。

  • 小池昌代さんの本は初めて読んだ。ほとんどの短編は子どもとお母さんの恐いリアルなお話し。

    夫の元恋人である女性がピアノをくれる「姉妹」という短編は、女とモノというかモノや男に対する不気味な執着が気持ち悪い。

    もひとつ、肉とかどろどろの卵なんかをやたらと強引に食べさせる母親と、辟易している息子と夫のある朝を描いた「ひよこにはならない」は風邪引いて魘されて見る夢みたいに気味悪い。

    女の不気味さ全開の短編集。

  • Wevちくまに発表された短編に紙媒体のものや書き下ろしを加えた短編集。
    14編あるが、それぞれ味わいがあり、どっぷり入っていける。子どもたちが登場する作品が比較的多かった。シュールな作品もいくつかある。街頭でいつもさわやかに声かけをしておられる方の印象とダブった「おはよう」。子どもにねる前のお話を聞かせる「どよどよ」は、言葉と向き合う詩人の感性を反映した好短編。

  • 子どもはいつも、今ここに在る世界と、見えないけれど在るかもしれない世界を、薄いヴェール1枚で行き来する存在だ。

    不思議が一杯なのに、矛盾はない。まるで居ないのに居るような、そんな空に浮いているような時間だった。
    老いている少女もあるよ。 子どもの老婆もいる。

    そんなあわいの中を漂いたくて小池さんの小説を読む。扉の絵もいい。

  • 子どもにまつわる、14編。

    「馬足街」がいいな。こんなことがあったような、なかったような。

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著者プロフィール

小池 昌代(こいけ まさよ)
詩人、小説家。
1959年東京都江東区生まれ。
津田塾大学国際関係学科卒業。
詩集に『永遠に来ないバス』(現代詩花椿賞)、『もっとも官能的な部屋』(高見順賞)、『夜明け前十分』、『ババ、バサラ、サラバ』(小野十三郎賞)、『コルカタ』(萩原朔太郎賞)、『野笑 Noemi』、『赤牛と質量』など。
小説集に『感光生活』、『裁縫師』、『タタド』(表題作で川端康成文学賞)、『ことば汁』、『怪訝山』、『黒蜜』、『弦と響』、『自虐蒲団』、『悪事』、『厩橋』、『たまもの』(泉鏡花文学賞)、『幼年 水の町』、『影を歩く』、『かきがら』など。
エッセイ集に『屋上への誘惑』(講談社エッセイ賞)、『産屋』、『井戸の底に落ちた星』、『詩についての小さなスケッチ』、『黒雲の下で卵をあたためる』など。
絵本に『あの子 THAT BOY』など。
編者として詩のアンソロジー『通勤電車でよむ詩集』、『おめでとう』、『恋愛詩集』など。
『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集02』「百人一首」の現代語訳と解説、『ときめき百人一首』なども。

「2023年 『くたかけ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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