- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480804716
作品紹介・あらすじ
「遠吠えを、ひろっているんです」彼は水色の左目を光らせた。……消えていった音、使われなくなった言葉を愛し収集する人たちと作家・吉田さんの小さな冒険譚。
感想・レビュー・書評
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せつなさにのみこまれそうになった、一冊。
まずページを開き、行き先さえもわからずに文字を追い始める。
吉田さんが描く世界、紡ぐ言葉に何も考えず、ただひたすらたゆたい、心地良さを感じていたら…この物語の終着駅とも言える場所で、一気にせつなさにのみこまれそうになった。
二人の、まるで二人だけのためにしか当てはまらない“偶然”という言葉がたまらなく心に襲いかかる。
この封印されたバッテンの言葉の音、声を永遠に聴けるのはそう、あなただけ…なんですよね。
そう思うと涙ひとすじ。
あぁ、こういう恋愛の時間、せつなくて最高に好きだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
導入文、写真、本編となっている構成が面白い。
ちょっと特殊な冴島君と吉田さんのささやかで透明な冒険、たまに茜さんも合流し遠回りしたり、言葉の巧みさに感嘆したりだと思って読んでいたら、最終章であまりの切なさと密やかさに泣きそうになりました。
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「音で小説を書いてみませんか」という辣腕編集者の茜さんの言葉をきっかけに、自分の書いた物語を録音することになった私は録音技師の冴島君と出会う。
やがて。恩師の死をきっかけに、彼も茜さんも、茜さんの友人の夏子さんも、みな恩師の弟子だと分かり……。
これは恋愛小説です。私はそう思いました。
遠吠えの主を探してみたり、天狗の話になってみたり、いったいぜんたいどこに向かっているのだろう?と思ってしまうのは、吉田さんの作品ではいつものことで、答えの出ないことも多いのですが、今回は最後の最後でキュンと来てしまいました。
せつなくて、でも優しくて。そして。いつも通り、ちょっぴり不思議で。
静かに穏やかに流れる時間を感じられる一冊でした。
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もしかしたら好きかもしれない。
うっすら分かっていたけど、そうではないかもと必死に押し留めてたのが一気に溢れ出てくるような。
最初は、美味しい本を探していた時に出会った。優しくて、疲れた時にもゆっくりじんわり包んでくれるようなぬくぬくとした作品だなぁと思った。
その時ぼんやり好きかもなぁとは思ってた。
この本はその時の本とは全く角度が違うのに、本当に突き刺さった。
どストライク。
言葉が好きな人、音を大切にしている人に是非触れてほしい。舟を編むが好きな人も歳の差が好きな人も、氷菓みたいな日常ミステリーが好きな人も、いやとにかく傷ついて癒されること間違いない本。
出会えてよかったです。 -
吉田さんの作り出す世界、好きだなぁ。表紙の雲の写真もイメージに合ってる。曇り空だけど、暗いのではなくて、ふわふわした雲に優しく包まれているような。辞書に載せられなかった言葉だけを集めたバッテン語辞典。ビルの屋上にいる代筆屋。遠吠えを集める男。音の狭間に紛れ込む過去の音。
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刊行記念のトーク&サイン会に参加したので、そちらはまた別途ですが、そこで聞いたこの本に纏わる話も混ぜながら。
最近はあまり吉田さんの著作全ては追えてないのだけど、いつも素敵な装丁と、素敵なキーワードが散りばめられているので、チェックは欠かさない。
トークでも「何故物語を終わらせなければいけないのか。大きな物語の中の一部を取り出しているだけ」というようなことをおっしゃっていたが、静かに丸く収まっている世界のどこかがぽろっと欠けて、それにつまずいて「おや?」とつまみ上げるような物語は、自分の中にその小さな欠片に集中できる余裕が無いと、なかなか最後まで辿って行きづらい。短編の集合体だと、より一層手の中からこぼれやすいので、今回は長編だし、と。
以下帯。
「消えゆく音と忘れられた言葉
それらを愛し収集する人たちの
ささやかな冒険譚――」
冒険譚というようなエンターテイメント性があるかはさておき(苦笑)、自分の中の吉田さん作品の中ではかなりテンポの良い感じだったので、スルスル読めまして。…自分のテンションのせいだけかもしれませんが。
まず本編書き出しの一文だけで、好みどストレート。
「彼の左目は、一見してあきらかに水色だった。」
ありがとうございます。これだけでドキドキする。
そんなオッドアイ冴島君という素敵なキャラクターが居るにも関わらず、あくまで「私」が進行し、いかなる登場人物にも無駄な感情移入はさせず「消えゆく音と忘れられた言葉」を黙々と追っていかせるのが、吉田さん作品らしい。
烏天狗がそこにぽつんとリンクするのかーとか、深入りはさせないけどそれぞれの人物にバランス良く自然に意識が注がれていることに気づいたり、章の分かれ目が写真(吉田さんiPhone撮影。表紙は浩美さん)の少し前からはじまるのがカバーそでみたいだなーとか、物語だけにとどまらない、他の本ではなかなか味わえないようないろんな発見があっておもしろい。
そんなこんなでスルスル読めて、「終わりをつけない」としても読後感に変なものが残ることもなく、久しぶりに100%吉田さん作品を享受できた自分もなんだか嬉しい。
しかし吉田さん、というかクラフトさんといえば筑摩書房という気がしていたけれど、筑摩で長編がものすごく久しぶり(10年くらい?)ということに衝撃。