地図と領土 (単行本)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480832061

感想・レビュー・書評

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  • 最も新しく面白いウエルベック。孤独に対する穏やかな諦めが読む者を慰撫する、美しい小説だ。また、現代アートや労働をめぐる記述は2010年代の現代性を感じさせるもので、説得力があった。

    ウエルベックの小説の歴代の主人公は、後になるほど外見がさっぱりし、お金持ちになり、いわゆる「スペック」が上がってきた。今回のジェドは超美人を落とせる大金持ちのアーティストで、もう無敵に思われる。それなのに、そんな彼でさえ人間関係を維持できないのだ。どう転んでも最終的には孤独、というウエルベックの憂鬱な世界観が沁みとおってきて、しんとした気持ちになった。

    まあでもいくら家族がいて友達がいてにぎやかな人生だったとしても最終的には孤独なわけで、「ではどうしようか?」と続けたい気持ちもある。ジェドの場合はそもそもつながりたい欲がなさすぎる。悪あがきバージョンのジェドが見てみたい。

  • アーティストのジェド・マルタンはある日ミシュランガイドの地図に感銘を受け、その地図と衛星写真を対照的に表示した現代アート「地図は領土よりも興味深い」を発表する。展示会は大成功を収め、ジェドは一躍セレブアーティストの仲間入りをするが…事態は思わぬ方向へと動いていく。

    ウエルベックが作中に重要人物として登場する。「とにかく、絵を掛けるための壁ならあります。人生でわたしが本当に所有している唯一のものがそれですよ。壁です。」と作中で彼が言うように偏屈で孤独な男として描かれている。彼が描いた自身の像は世間の持つ彼に対してのイメージ通りらしい。

    巻末の訳者である野崎歓さんによるあとがきが素晴らしかった。
    「芸術と資本の結びつきを鮮やかにとらえている。」「架空のアーティストの作品の数々を傑作として描き出すのは、小説家にとって大きな挑戦であり、また腕のふるいどころでもあるだろう。」と言っている。たしかにウエルベックの想像力と知性はとんでもないという印象だ。

    また「作品の誕生から流通、消費に至るメカニズムを総体的にとらえることで、物語は大きな広がりと魅力を獲得している。」と言うように、写真、絵画、建築、文学を鋭く批評的に論じながら、ひとつの世界として芸術が生まれる過程を描き出した、とても説得力のある小説だったと思う。そういう見方でひとりのアーティストの生涯をたどることができたのは特別な読書体験だった。

    でも個人的にはウエルベックはやはり「闘争領域の拡大」がもっとも私小説的で、身を削っていて、魂の叫びの発露な感じがして気に入っている。小説家としてはウエルベックは確実にパワーアップしてる感もあるけど、読むほどに作品のスタイルが似通っていて、もうウエルベックはしばらくいいかなという気になった。

  • フェルメールの天文学者の絵の一部ではないか!!と気づき手に取った本。ジェドという芸術家の人生の物語。食うに困らない程度の収入、芸術家なのか技術屋なのか境目のような仕事。しかし、そんな日々にも好機はやってくる。ヨーロッパからの芸術に対する見方が味わえた。本を読んで立場の違う考え方を知る、これこそ読書の醍醐味だ。

  • 現代フランスを代表する大作家となったミシェル・ウェルベックの最新作が、野崎歓の翻訳で読める!!1人の天才的な架空の現代芸術家を主人公に、作者自らが本名で作品内に登場し、主人公と交友を持つが、惨劇が発生して・・・。

    前半のテーマは「芸術と資本主義」の関係。冒頭には現代で最も成功したアーティストであり、それぞれ真逆の世界観を持つ2人のアーティストが登場する。1人は「生/性」をテーマとする作品群で知られるジェフ・クーンズ、もう1人は「死」をテーマとする作品郡で知られるダミアン・ハースト。この2人のセレクトから、本書の前半のテーマは明確に示される。この2人を触媒としながら、主人公の芸術観がその作品を通じて明確化され、ひいては「芸術と資本主義」の空疎な関係性が暴かれる。

    続く後半はうって変わって、モダンホラー/ミステリーの様相を呈する。テーマは明確ではないものの、芸術を通じた人間同士の繋がりの困難性なのだろうか。色々なものが主人公の周りから失われていきつつ、その喪失感は死ぬ間際の彼の作品として結実する。

    こうしたテーマが、極めてスリリングなストーリー展開と、衒学的な芸術論の間で繰り広げられる。まだ1月の半ばだけど、この時点で今年読んだ本のベスト3には入りそうな勢い。

    全ての芸術大学は、今日避けては通れない「芸術と資本主義の関係」のテキストとして、この本を用いるべきかもしれない。

  • 芸術と仕事と経済。写真家であり画家であるジェドの作品をこの小説によって堪能できる。

    ジェドは人物そのものよりその経済活動を、また人間が作り出した製品の美しさなどに着目する孤独でユニークな芸術家だ。
    ジェドが交流するのも孤独な人ばかりで、いつも切ないが心に染みてくる。

    恋人オルガの「ちびのフランス人さん」という呼びかけは優しい憐れみに満ちていて魅力的だし、建築家であった父親の遺した設計図を見つけた時は胸を打たれた。何となく、ああ人生だなと思った。そして作家ミシェル・ウエルベック。(作者自身が登場する)

    “ウエルベックは幸福そうだったのである”とジェドがいうように、孤独だが穏やかさをたたえたウエルベックを感じられた。

    急展開に驚かされるも全体的に静かで、でもとても情熱を秘めた小説。

  • フランス人の青年ジェドが、ミシュランの地図を写真に撮り加工して個展を開きアーティストとして生活していく話。1部、2部とも静かに展開していく。登場人物に対する視点が突き離されているというか遠い感じが読んでいてとても居心地良かった。現代フランス人の生活、恋愛、結婚、経済、死生観、を地図のように眺めた気分であった。何と言っても作中にウェルベックご本人らしき作家が出てきてその存在がとても面白かった。自らをパロディ化していてそして…w

  • ミシェル・ウエルベックは早く読んでみたい作家の一人。。。

    講談社のPR
    「孤独な天才芸術家ジェドは一種獰猛な世捨て人の作家ウエルベックと出会い、ほのかな友愛を抱くが、作家は何者かに惨殺される。目眩くイメージが炸裂する衝撃作。 」

  • 背景がわからないため十分消化しきれていないが、作品の中に現代フランス社会が描き出されていて興味深い。日本と同様国内需要だけではたちゆかず、ロシア人、中国人などのインバウンドに頼らざるをえない経済、パリ郊外伝統的地域住民の閉鎖性が、国家権力の手先としての警察に対する敵意など、様々な形で登場人物の生活に影響を与えている。

  • 新鮮。他の小説であればそれひとつで物語になっていそうな成功,情熱的な恋,別れ,親の死,殺人などがすべて通過点として淡々と描かれている。作者自身が登場して惨たらしい死に方をするのも…意味深。自分を殺してみたかったのか?意外性を狙ったのか?ジェドの最後の作品とされているビデオ、文字で見るだけでもとてもとても興味深い。「世界」って結局そうなのかもしれない、人生ってこういうものなのかもしれない。アートにもっと触れて、その作品の背景というのを考えてみたくもなったし著者の作品ももっと読みたくなった。

  • なかなか端的に評しづらいのは、本書の中の圧倒的な場面転換(Ⅲ部の冒頭)が小説全体の構成の中でうまく消化されていないように感じたからなのだが、本作が作者自身を含む作家やアーティスト、建築家等が抱えるどうしようもない孤独にかつてないほど肉薄しているのは間違いなさそうだ。
    ただ、農業への回帰や植物の勝利がイメージされる最終盤はどうも唐突としか受け取れなかった。

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著者プロフィール

1958年フランス生まれ。ヨーロッパを代表する作家。98年『素粒子』がベストセラー。2010年『地図と領土』でゴンクール賞。15年には『服従』が世界中で大きな話題を呼んだ。他に『ある島の可能性』など。

「2023年 『滅ぼす 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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