ウェブ小説の衝撃: ネット発ヒットコンテンツのしくみ (単行本)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480864406

感想・レビュー・書評

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  • 中学校図書室のリクエストにあがってくる、のいちご、ぼかろ、はにわ、なろう…
    少し前までは、メディア化するラノベのタイトルを追いかけていればある程度わかっていた中学生の「読みたい本」がどんどん変わっていく。
    実況動画で見ているホラーゲームの小説化、ボーカロイドの音楽の小説化、その世代でない層から見れば「???」なリクエストがいったいどんな本のことなのか、知るための本。(i44)

  • 2016/3/19読了。
    よく行く大型書店の行きつけの棚が、どれも判で捺したようにゲームのような異世界に転生する内容の本ばかりのレーベルに押されて、縮小されていった時期がある。僕はその書店にはあまり行かなくなってしまった。
    それから、表紙がイラストで著者名が匿名じみたライトノベルみたいな本がやたらに増えてきたな、と感じていたところ、それを大人が買っていく光景を何度となく目撃するようになった。
    そうした本の内容をぱらぱらと眺めてみるに、これはウェブに策源を持つユーザージェネレイテッドな本なのかなあ、とそこまでは容易に察しがついた。だが細かい事情がわからない。
    これはいったい何なのだろう、何が起こっているのだろう、と何年間も気になっていた疑問を、本書が解説してくれた。たいへん勉強になった。
    要するに、読者が好きなものを読者に書かせて読者に売るという営みの効率を、ウェブの技術を用いて恐ろしく高めた商売のやり方ということらしい。たぶんアメリカのKindleで起こっているセルフパブリッシングの爆発的な拡大とも通底する根を持つ現象だ。そのほかの出版以外の世の中一般が向かっている方向とも辻褄が合っているようにも思える。

    僕は、出版業界の延命に資する新たなセオリーの発見を心から願う者として、そして個人が自由に著を世に問うことができる世界を心から願う者として、「ウェブ発ヒットコンテンツ」が登場できる時代になったことを歓迎する。だが同時に、行きつけの棚を侵略された個人的な一読者としては、こいつはあまり歓迎できたものではないなとも思っている。
    本書で紹介されているコンテンツの中に、僕の知っている作品はふたつしかなかった。そのうちひとつは読むに堪えないものとして途中で放り投げた本だった。新たなセオリーが運用され始めてもう何年も経つはずなのに、そこから僕の読みたい本はたったひとつしか生まれていない。差し引きすると、これは今のところ僕の読書生活にとっては百害あって一利しかないものという計算になる。
    つまり僕の立場は総論賛成・各論反対的に引き裂かれていて、そのため本書の読後感もアンビバレントなものになった。著者の出版業界に対する挑発的な筆致に膝を打つような痛快さを覚えると共に、巻末の新聞記者との対話では記者の言い分にも何となく共感を覚えるのだ。これらの相反する感想が混ざりあった結果、本書の読後感はよく分からないグレーな色になり、一言で表すと、ただ「哀しい」となる。

    趣味の本好きとしての僕が、素人が書いた無料のウェブ小説ではなく出版社が作家に書かせた本をお金を出して読むことを好むのは、そして電子書籍よりも紙の本を好むのは、そこに本作りのプロとしての出版社の目と技と知が注ぎ込まれているはずだ、という幻想に基づく嗜好だ。
    もう幻想と書いてしまったが、それがだいぶ前からすでに幻想に過ぎなくなっていることは、僕だって嫌というほど気付いている(些細な話だが、筑摩書房ですらPDCAサイクルで校正ミスをつぶしていけばいいと考えるようになったらしい)。本書は、この幻想にお金を払うような読者や、彼らが考える「本」という商品の概念は、もはやエンターテインメント文芸においては完全なマイノリティであり、彼らを相手の商売などお話にならない、と宣告する。「彼ら」の中にはどうやら僕も含まれている。それがただただ哀しい。
    この哀しさは、お前が読むような本はもう時代遅れなのだ、お前が好きな本をみんなは好きではないのだ、と宣告された仲間はずれの寂しさだろうか。だがどうもそれだけではないような気がするのだ。

    希望が見いだせるとしたら、このような出版セオリーは従来の出版システムが認識できなかったマイノリティの需要を拾い上げるために働いたという点だ。やがてはこのセオリーによっても僕が読みたくなるような本が続々と生み出されてきたりするのだろうか。

  • 紙媒体の書籍は初期コストがかかり、作家育成やプロモーション能力をもたない版元に頼らざるをえない点でウェブ小説に劣後しているという論陣。紙媒体でインタビューをしてきた作者はよほど不愉快な思いをしたのか、メディア展開、二次創作がはかれるウェブコンテンツに日本サブカルの未来を見出したのか。iモード小説サイトであるベリーズカフェは2005年だが、小説家になろうサイト、ボカロ小説など既存の紙媒体に収まらないコンテンツ形式は2010年に日本でも発生している。電子書籍(ほとんど漫画)の売上も堅調だが、ウェブ漫画は韓国に追い抜かれているという各種メディアの概観が描かれるが、アニメ以外のサブカルメディアは停滞状態に陥っているのではないかという気がした。

  • Internet
    ノンフィクション

  • ビジネス

  • ありとあらゆる所で徹底的にバカにされ軽んじられてきた(なろう系を始めとする)ウェブ小説なだけに、ここまでそれを全面的に肯定して書かれている本を読むのはとても楽しかった。

    根拠の取り揃え、考察と、その説得力において非常に納得の行く内容で有り良書に感じる。2016年の書籍なので現在は更に状況が変わってしまっているのだと思うけれど、とても面白かった。

    私は特に、究極的に快楽追求型であり・その"高尚さ"において最底辺を走る「HARDCORE TECHNO」を作る人間なので、畑違いながら最後のQ&Aなどは痛快とすら言えるレベルだった。(周りの同好の士が、好き嫌いではなくその"低さ"や"多様性"を理由にこういった新興ジャンルを馬鹿にする光景はとても不思議に感じる。私達は、それが死ぬほど好きでなければ聴き分けられないようなとても良く似た音楽を毎日毎日好き好んで聴いていると思っていたのだけれど、私達の聴いてる音楽はそんなに"高い"のか?)

    面白い、何よりも深い愛を感じる。

  • ウェブ小説、と言うジャンルが確定して久しいが、このジャンルに属する小説が、なぜ売れるのか。
    そして、ウェブ小説のプラットフォームを、なぜ出版社が作ってこなかったのか。
    そう言う側面からの指摘、解説である。

    たしかに、紙のメディアとネットのメディア、これを混同する(混在させる?)事はほとんど無かったと言っていい。
    なぜなら、ユーザーが別々に存在すると信じられていたから。
    また、ウェブ小説のプラットフォームがあれば、『誰でも』書き手の側に回ることが出来るようになるということなど、が書かれている。

  • かなり、世の中は変わりつつある。

  • 「恋空」なる小説が世に流行ったとき、今の文庫棚のありさまを想像できた人がいただろうか?
     2次元のキャラクターが古典ともいえる文芸文庫の表紙を飾る時がくると予想したひとがいただろうか?
     恐らく、5年、10年後の書店の棚は、また今とは違っているのかもしれない。
     そんな変化が激しい出版界の今をよく分析されている。
     いくつかのウェブ小説サイトを愛用している者としても興味深いし、同時に、知ってる知ってる、まさにそれ、アタシ。と納得させられる。
     情報も書棚も速い時代に取り残されないうちに、読むなら早く早く読むべき本。
     ホント、1年経ったら過去の本になってるかもしれないから。

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著者プロフィール

ライター。1982年青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。出版社にてカルチャー誌や小説の編集者を経て、独立。マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャー、出版産業、子どもの本、マンガ等について取材、調査、執筆している。単著に『いま、子どもの本が売れる理由』『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ライトノベル・クロニクル2010ー2021』(Pヴァイン)など。

「2022年 『ウェブ小説30年史 日本の文芸の「半分」』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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