小津ごのみ

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480873569

感想・レビュー・書評

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  • 特に小津作品の着物の柄と背景との調和の分析が見事。あれだけ徹底して同じ柄でほとんどの作品を通しているのに、それを指摘する人間がいなかったのは不思議に思える。
    やたら性的な側面から小津作品を解釈する見方に対する異議申し立てにも同意したくなる。
    どちらも男性原理からは出てこない見解だろう。

  • 中野翠さんが好きなもの「だけ」について語った本だからつまらないはずがない。「斎藤祐樹くんと日本人」は勇み足だったけど。
    時事ネタを斬りまくるサンデー毎日の連載も好きですけどね。 

  • 小津監督に関して書かれた本は実に多いが、中野翠さん評を
    聴きたくて一読。タイトルの「小津ごのみ」ってつけかたがウマイ。
    そして小津ごのみは中野ごのみでもあるらしい。
    着物の柄や民藝調度品、器に関してたっぷりと書いてある。
    私は中野さんの「小津映画に出てくる女性感」を最も興味深く
    読んでみたが、やや物足りなかった。着物や民藝ほど熱心に、
    深くは掘り下げていないようで。そんなに関心ないことだったのかな。

  • 小津の風情をしっかりと味わえる一冊であると言える。
    僕は一度東京物語を観ただけだけれども、
    うつろに覚えている恐ろしさをしっかりと書きとめていてくれた。

    けれども、小津が好悪を基準に作品を発表することと、
    レビューにおいてそれを出していくことは
    やや、意味合いが異なるはずだ。

    なので、肝心なところで、踏み込み切れていない気もする。
    語らないほうがよい場合も何事によらずあるわけだが、
    彼女の場合、語れないことを率直に告白してしまっている。

    それもまた、ガールズトークらしいところを持っていて味わいではあるけど。
    僕は男の子なので、ね。

    自分の好き嫌いを確信を持って表明すること。
    それと、日々無常の世界観はうっすらとつながっている。
    無条件に世界を賛美などしないが、
    美しいものを拾い集めていくことは十分にできる。

  • 3位
    中野さんが語るのは、
    まず小津映画のファッション。

    「お茶漬けの味」のヒョータン柄浴衣、
    あれは私も大好き!
    しかし電気スタンドまでは
    気をつけて観ていなかった。

    ファッションを語ることは
    思想を語ることにつながる。

    感服したのはここ。
    「東京物語」では
    原節子、三宅邦子、香川京子の三人が
    全員、白いブラウスを着ている。
    とても不自然です。

    そこで中野さんは言う。
    「三人の女は結局一人の女に
     すぎないのではないか」
    この無個性な衣装こそが
    あの神話的な気配を生んだのではないか。

    そしてさらに言う。
    「晩春」「麦秋」「東京物語」の
    紀子三部作では
    あの小津ごのみの洋装は
    効果的なわざとらしさだった。

    しかしそれ以後は時代ズレしていて
    「なんだか空しくわざとらしくなっている」
    着物の方がかえって現代性がある、と。

    この「無地ファッションの女たち」
    そして「おじさまごっこ」「紀子のくすぐったさ」
    「小津と成瀬の原節子」「腑に落ちないこと」
    の数章は、こんな褒め方をしても
    中野さんは全然喜ばないだろうけど、
    感動的なフェミニズム批評になっています。

    「おじさま」と若い娘の
    父性を帯びつつも娯楽的な付き合い。
    「秋日和」にそれは顕著ですが
    「彼岸花」の佐分利信と山本富士子が
    たまらなく魅惑的。ほれぼれします。

    「「おじさま」と自分を慕う
     若い娘がいるということ。
     それは、妻や娘を相手にするのとも
     飲食店のおかみやマダムを
     相手にするのともちょっと違う、
     贅沢感のある愉しみだろう。
     年輩の男(しかし品のいい部類の)の
     夢かもしれない。
     黒澤映画とはまた違った意味で、
     やっぱり小津映画は「男の映画」なのだろう」


    中野さんは戦前の小津映画にも着目する。
    モボ魂炸裂の「淑女と髯」「非常線の女」、
    下町人情の「出来ごころ」「東京の宿」。

    紀子三部作に代表される小津ごのみ
    からすれば、どちらも異質に見える。
    しかしそうだろうか?
    あの独特のローアングルは
    確かに広重を思わせる、
    しかしパウル・クレーの絵をも連想させる!

    「小津監督はモダニズム全開の若い頃から、
     一見、「日本回帰」のごとき晩年まで
     実は全然変わっていないんじゃ
     ないかと思う。(略)
     あらゆる二分法がばかばかしくなる
     ような地点に立っている」


    「東京物語」への読みも鋭い。
    笠智衆と東山千栄子の老夫婦は
    失意や幻滅を表す言葉を
    周到に避けている。

    しかし自分の気持ちに嘘はつかず、
    非常にサスペンスフルな会話をしている。
    二人にそれをさせたのは
    残酷にして滑稽な現実。
    それを体現している杉村春子こそ
    「東京物語」の陰の主役だ!

    そうか、あの名画はミステリだったか。
    中野さんに真犯人を捜されちゃったなあ。

  • コラムニスト中野翠さんによる小津安二郎論。
    いままで男性による小津論しか知らなかったが、さすが女性である中野さんらしく、役者の衣裳や背景のカーテンの柄、小物に至るまで目を光らせ、独自の分析を展開する。特に、着物や女優の分析が鋭い。
    男性の評論家が場面や台詞を性的に解釈しているのに対して批判的な意見があり、頷ける。
    これまで小津の映画を観ていて、言葉にしづらいが感じていたものを、うまく書き表してくれたという印象。
    この本を頼りに、小津作品をあらためて観返してみたい。

  • 小津安二郎とか原節子などという名前がタイトルに付いているとおもわず手にしてしまう。中野さんは本当に小津ファンなんだなぁ。登場人物の着ているものを分析する。無地か柄物だったら格子か縞でブラウスはほとんど白。これは室内のインテリアにも言える。そうか原節子の清楚な淑女というのは監督が作り上げたものなのか?場面場面に出てくる小物を検証する。このスタンドは、この映画とあれにも登場する。また以前見た、監督の書斎にあったものとか。監督はしばしば私物を使っていたらしい。とにかく自分の気に入るものしか使用しない。それは俳優でも、茶碗ひとつにしても。筆者はまたそれを楽しく検証する。四畳半一間住まいの人に、こんな上等なものが着られるだろうかとか、いろいろ。小津作品というのはこだわりの映画なのだなぁ。とても贅沢な。私もちょっと探してみよう。

  • 新たな視点から小津安二郎作品を分析、評した一冊。黒澤作品とは違った意味での「男の映画」という指摘は興味深い。

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