この世は落語

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 65
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480873705

作品紹介・あらすじ

人間の愚かさの種々相を「ある、ある」と他人事ならず受け止め、笑ってしまう。そんな落語の登場人物のたまらない魅力をイラスト入りで紹介。巻末に、京須偕充氏との対談「日本のオトナ教育には「落語」がよろしいようで…」を付す。

感想・レビュー・書評

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  • 中野翠さんが、好きな落語について、そのあらすじや見所(聴き所か)を紹介したもの。落語への愛にあふれていて、しかもヘンに玄人ぶったりしないところが著者の面目躍如。楽しく読みました。

    出てくる落語は、よく知られたものから今ではあまり演じられないものまでいろいろ。面白いものが次々出てくる。人間の愛すべき愚かさを、練達の話芸で見せてくれるのが落語なのだなあ。中野さんご贔屓の文楽師匠の語りが無性に聞きたくなった。

    もちろん、著者ならではの世相への鋭い切り込みも随所に。いつもながら、そうそう!と拍手したくなる。

    某ヒット映画を見て中野さんは唖然とする。
    「話の芯になっているのは若い男二人だが、この二人の感情表現というのが『泣く』と『凄む』-ほとんどその二種類しかないのだ。世間を怨み自分を憐れんで、鼻水を流さんばかりに泣くかと思うと、今度は一転して猛々しく周囲を威嚇する。唖然として眺めているうちに、私はハッと気がついた。『これだこれだ、私が最も嫌いな男というのはこれなのだ。泣くか凄むかの二種類しかない男なのだ』」
    いやいや、よーくわかる。中野さんらしくて天晴れで、かつ、おかしいのはその続き。
    「私はあらためて自分の人生を振り返って痛感するのだった。『そうか、私の人生はそういう男との接触面を極小に抑えて暮らす、そのためには何でもします(よるべないフリーランスの文筆業だって、一人暮らしだって…)という人生だったのか』」
    こういう人物像に世間は「庶民性」を感じているらしいことを嘆いて曰く、「私の好きな『庶民』はどこにいってしまったんだ?『泣く』も『凄む』も、はた迷惑ではしたないと心得ていた人たちはどこに消えてしまったんだ?」
    懐かしく好もしい「庶民」に出会えるところが落語の世界に惹かれた理由の一つだと中野さんは綴っている。

    落語には吉原がよく登場するが、その「廓言葉」についてふれて、「私はかねがねテレビ芸能人-特にお笑い芸人のシャベリを一種の『廓言葉』だなあと思っている」と書かれていて、これには膝を打った。本当に、特に大阪の芸人さんたちの使う言葉はフィクショナルで記号的なものだ。で、これもその後が鋭い。いわゆる若者言葉も一種の廓言葉ではないかと中野さんは言う。
    「出身地の差異を飛び越えて『若者』という共通性の方を強調したり誇示したりするための言語文化なんじゃないか?カタギの女が吉原の女のマネをして、『ありんす』なあんて言うのはバカバカしいように、いい歳をした人間が『ハンパない』なあんて言うのは…うーん、やっぱりそうとう恥ずかしいことだよね」
    いやまったく。

  • 落語の魅力を解説した好著だ.でもよく聞いている人だ.いくつか覚えのある話が出てきたが,昔の庶民の生活が巧みに描写されているのが素晴らしい.話だけで,情景を想像させ,人情味を醸し出すのは,本当の芸だと感じる.

  • 落語は面白い。
    話し手の所作といい、着物の着こなしといい、
    ストーリーといい。
    人情も文化も、貧しくても笑いも粋も
    中野翠先生の解釈にうーん、、、と
    唸ってしまった。

  • 女豹は古今亭身長が大好きらしい。所々に褒め言葉がちりばめられている
    五重塔に限らず、露伴の小説を読んでいると、落語を連想することが多い 落語こそ日本文化最高最大の遺産だと断言したい。というのは、落語には日本人の生き方、美意識、それに広い意味での教養が凝縮されている

  • 【収録作品】壱 男と女(「明烏」「崇徳院」「お直し」「文違い」「三枚起請」「札所の霊験」「締め込み」「二階ぞめき」)/弐 江戸的人情(「刀屋」「湯屋番」「髪結新三」「佃祭」「夢の酒」「火事息子」「柳田格之進」「淀五郎」「中村仲蔵」「百年目」)/参 遊びごころ(「居残り佐平次」「五人廻し」①②「王子の幇間」「馬のす」「よかちょろ」「山崎屋」「穴どろ」「愛宕山」)/四 珍談奇談(「百川」「四段目」「真田小僧」「宮戸川」「粗忽長屋」「あたま山」「化物使い」「お化長屋」「元犬」「鴻池の犬」)/五 人生いろいろ(「駐車場物語」「死神」「鰻の幇間」「黄金餅」「富久」「鼠穴」「あくび指南」「片棒」「芝浜」「御慶」)/六 騒動勃発(「三方一両損」①②「こんにゃく問答」「酢豆腐」「二番煎じ」「大工調べ」「風呂敷」「紙入れ」「三軒長屋」)/対談・京須偕充×中野翠

  • 2016年5月7日読了

  • 雑誌連載を纏めたもの。様々な事象から落語を思い浮かべ、演者を示し、ネタの粗筋や印象に残るフレーズを紹介する。演者(文楽、志ん生、志ん朝が多い)やネタ、フレーズに対する筆者の思い入れがよく出ているが、押し付けがましくはないのでさらっと読める本。

  • うんかでばか、うんでばか!

  • 「今夜も落語で眠りたい」(文春新書)と仰言るくらい、お好きなんですね。。。

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    「落語は文化である。江戸庶民の日常生活が生き生きと笑いと共に語られ、その中には暮らしの知恵が詰まっている。その奥深い魅力と聞きどころをイラスト入りで紹介。」

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