- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480993052
感想・レビュー・書評
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こうもりがどんどん飛んでいる空を鼻血が出ないように見上げる
東 直子
通巻で1015号にあたる「早稲田文学」本年秋号(発売は筑摩書房)の特集は、「広島について、いろんなひとに聞いてみた」。大江健三郎談による「半世紀後の『ヒロシマ・ノート』」を巻頭に、小説やルポ、広島東洋カープの栗原健太選手へのインタビュー、さらに、「広島の書店・古書店・ブックカフェ」案内もあり、目配りの良い編集となっている。
あえて意外性のあるインタビューなどを盛り込んだのは、原子爆弾投下の地「ヒロシマ」と、今、まさに生活者が暮らしている広島とが地続きであることを再認識させる意図もあったのだろう。
掲出歌は、東直子のエッセー「広島の熱」に引用された自作歌。小中学生の一時期を過ごした広島での、暑い夏が原風景という。子どもは確かに、よく「鼻血」が出るものだが、この歌の中の「血」の字は重い。
特集に続けて、「メディアは広島についてどう伝えるか」という、4氏による談話と寄稿もある。過去形の「どう伝えたか」ではなく、現在形の「伝えるか」である点にも着目したい。たとえば、テレビ新広島では、被爆体験を伝える番組に英語字幕を付け、ウェブ配信も試みているそうだ。若い世代や、全世界に向けて、まさに「伝える」意志が濃厚である。
「文学」を媒介とした400ページ近い誌面だが、活字だけではなく、篠山紀信らの写真も印象深く組み合わせられている。総合芸術としての文学の可能性に、私も、空を「見上げ」たくなってきた。
(2015年8月30日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
暫くぶりに『早稲田文学』を購入。2号ぐらい間が空いたかな? 小特集の『昏い部屋の女たち』にアンナ・カヴァンの短編が載るというので楽しみにしていた。
そのカヴァンは『訪問』と『穢れた寂しい浜辺』の2編が訳載。どちらもカヴァンらしい静謐さと、不穏な空気に溢れているが、個人的な好みで言うと『穢れた寂しい浜辺』が良かった。
また、今号では第24回早稲田文学新人賞の受賞作も掲載。選者はマイケル・エメリック。『贄のとき』『小悪』のダブル受賞だったが、こちらは『贄のとき』の方が好み……というか、早稲田文学らしいんじゃないかなぁ。『小悪』はどちらかというと『群像』や『文學界』といった、大手文芸誌の受賞作っぽい感じ。
創作の3編も個人的に好みの作風が揃っていた。矢部嵩『処方箋受付』と神慶太『歯科医の語ったシマウマについての興味深い逸話』はどちらもシュールな光景の広がりが面白く、太田靖久『ヘイトフル』はディストピアSF風ながら、センチメンタルな雰囲気も漂う青春小説。
対談やコラム、エッセイの占める割合が多い号だったが、小説が面白かったので全体的な満足感は高かった。
……しかし、ホント判型だけは何とかしてくれ。大きすぎて読みづらいよ〜。