トヨタVS現代 トヨタがGMになる前に

著者 :
  • ユナイテッド・ブックス(阪急コミュニケーションズ)
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784484103167

感想・レビュー・書評

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  • 小林英夫『トヨタVS現代 トヨタがGMになる前に』は日本と韓国を代表する自動車メーカーのトヨタ自動車と現代自動車(ヒュンダイ)の競争力を分析した書籍である。トヨタ自動車はアメリカのビッグ3を圧倒するほどの企業に成長したが、日本での認知度は低いものの、ワールドワイドでは現代自動車が急成長している。『トヨタVS現代』は現代の躍進の理由を技術や販売戦略、企業文化などから多面的に分析する。

    ここでは特定企業をターゲットとしているが、日本企業VS韓国企業に一般化できる内容も含まれる。現実に「Made in Japan」が世界を席巻した家電でもサムソンがコストだけでなく品質やブランド力でも日本企業を圧倒している(林田力「日本はインフラ輸出に注力すべきか」PJニュース2012年3月16日)。『トヨタVS現代』を読めば韓国企業の躍進が当然であると理解できる。

    韓国製品を「安かろう、悪かろう」と決めつける心理は世界の現状を知らない島国根性である。かつては日本製品も欧米では「安かろう、悪かろう」が代名詞であった。「トヨタがGMになる前に」との副題が深い意味を持っている。

    『トヨタVS現代』ではトヨタの現状には悲観的で、現代自動車の強さを強調するトーンでまとめられている。このようなトーンに対しては「自虐」や「出羽守」であると感情的に反発するナイーブな層も少なくない。

    事実を歪曲してまでも「日本は優れている」と盲信することで自己の卑小な自尊心を民族的自尊心で代償するメンタリティである(林田力「若年層右傾化の背景と限界(上)」PJニュース2010年10月15日)。しかし、冷静に現実を直視しているからこそ、トヨタの現状に危機感を抱き、そのためにトヨタに辛口になっていることは明らかである。

  • モビス以外目新しいことはなかったが、、、恐ろべし現代モビス。

  • 現代自動車の強みをトヨタを鏡にして分析する。

    現代は急速に品質を上げ、それでいてそこそこの値段で売ってくるのが脅威。
    広く知られたことであるが、ここでもコストと品質が商品の競争力をおおかた決めてしまう。
    環境対応など先進技術のレベルもあるだろうが、この2大要素よりはややインパクトが小さいように感じた。

  • 日本で現代自動車の乗用車を見かけないのと同様に、韓国でトヨタ自動車の乗用車を見かけることはありません、若干レクサスは見ることがありますが。

    現代とトヨタはともに世界ベースで見れば有数の自動車メーカでありながら、お互いの国民にとっては存在感のあまりないメーカであると思います。

    トヨタが2009年にGMを抜いて世界一の生産台数を誇るようになりましたが、あと20年以内に現代自動車が世界一になると予想している人もいるくらい、現代自動車の伸びは凄いものがあります。この本では私が興味のあったトヨタと現代自動車の比較をしているので、手に取ってみました。

    どの指標で比較するかにもよりますが、ハイブリッドではトヨタ、生産台数では現代、利益ではトヨタでしょうか。次世代の自動車とされている、電気自動車はどちらに軍配が上がるのか、この10年程度の両社の競争をみるのも楽しみの一つだと思いました。

    ただ最近のトヨタのリコール台数が、累計数百万台に達しているのは驚きでした。またトヨタ生産方式であるジャストインタイム方式よりも、さらに発展させたジャストインシークエンス方式の導入の目的が、コストダウンではなく、品質管理と物流の効率化である(124)というポイントに現代自動車の強さを感じました。

    以下は気になったポイントです。

    ・現代自動車の躍進の秘密は、1)積極的な海外展開、2)品質の目覚ましい向上、3)現地生産方式(現代モビスが現代に代わって部品開発)、にある(p19)

    ・トヨタが強固な系列企業集団を束ねてピラミッド的生産体系を持つのに対して、現代は、現代と現代モビスの双頭の陣形で国内外生産を拡張した(p20)

    ・2009年6月にはGMは米連邦破産法の適用を申請して米・カナダ両国政府が3.3兆円の追加融資、72%の株式を有して国有化、クライスラーはフィアットと提携して再生(p28)

    ・世界におけるブランド別販売台数@2009は、トヨタ(771)、GM(719)、VW(649)、ルノー日産(569)、現代(515)、フォード(448)、Fiatクライスラー(383)、ホンダ(337)である(p29)

    ・欧米の企業の生産現場は、技術者とワーカーに分離されて、技術者が決定的権限を有している、日本の場合には設計図を書く生産技術者と、それを製造図におとす製造技術者がいて、製造技術者はワーカと一体となって改善指導をして、その成果を生産技術者に伝える役割もある(p67)

    ・部品を単品でラインにのせるのではなく、部品群を塊にしてライン外で組み立てて、ライン上で組み立てる工法をモジュール生産といい、欧州で開始され、日産や現代で取り入れられてきたが、トヨタは取り入れない(p73)

    ・トヨタは4極に開発拠点があるが、日本が基本設計を担当して、その他はその指示を受けて活動するが、デトロイトのみは次世代自動車に関する研究開発、情報収集の機能も持っている(p79)

    ・2009年1月に現代が実施した「アシュアランス・プログラム」は、購入後1年以内に失業して割賦金を払えなくなった場合には、その時点での中古価格との差額のうち、7500ドルを負担するもの(p85)

    ・1973年に現代自動車は、日本の三菱自動車と技術提携を結んで、三菱自動車のコルトエンジンを導入して「ポニー」を開発、1991年にはエンジンやトランスミッションの開発に成功した(p94)

    ・起亜自動車は、1971年にマツダと提携、サムスン自動車は、1994年に日産と提携、2000年にはルノーが80%の株式を買収した(p95)

    ・2008年の各社自動車生産能力は、現代:167(販売:57)、起亜:105(31)、GM大宇:81(11)、ルノー三星:18(10)、双龍:8(3)、である(p97)

    ・現代は品質向上に取り組むために、工程の省力化(ロボットやITによる自動化)、できない部分には、品質検査員を2倍配置した(p104)

    ・現代モビスは、単なる自動車部品企業ではなく、現代自動車の最大株主であり、それを支配する持ち株会社であるのが特徴(p115)

    ・現代自動車は、JIT(ジャストインタイム方式)から、JIS(ジャストインシークエンス:生産ラインと部品供給システムの同期化により、組み立て工程の完全同期化、完成車メーカーの生産に合わせて、モジュール生産)に変わった(p120)

    ・モジュールを導入した目的は、コストダウンではなく、品質管理と物流の効率化である(124)

    ・2010年9月には、量産型高速電気自動車「ブルーオン」が披露されて、2020年までに200万台(韓国内の乗用車市場の20%)を普及させる計画が政府によって打ち出された(p140)

    2011/3/21作成

  • Factをいろいろ集めてくれたという価値はあるが、分析は表面的で新しい視点はなかった。現代モビスの解説は面白かった。

  • 「2011年5月のアメリカ自動車販売で初めて現代グループがトヨタを超えた可能性がある」とAol.autosが伝えた。日本メーカーは東日本大震災の影響で生産に支障をきたしていたが、このニュースからこの本のタイトルが頭に浮かんだ。
    最近の現代の勢いは凄まじい。北米での好調もそうだが、インドではマルチスズキに次ぎ、中国でも地の利を活かした戦略でVW、GMと争っている。
    現代の創立は1967年で、その伸びは凄まじく、01年から09年で海外生産は19倍にも伸びており、最近でもインド、中国、スロバキアの新興国では30%以上の伸びを維持している。
    その勢いはリーマンショック以降各社がシェアを落とす中でも止まらない。この成功の要因は以下の3つに要約される。

    ・海外展開の成功
    ・品質の向上
    ・現代生産方式の開発

    海外は全てのリージョンでシェアを伸ばしており、北米はリーマンショックで市場の購買意欲が落ちている時に「アシュアランスプログラム=失業でローンが払えなくなった場合、残価との差額のうち7500ドルを保障する」という大博打が当たり、またウォン安が更に利益を押し上げた。中国は政府の1600CC以下の優遇策に体して小型車のラインナップが充実していたこと、インドでも小型車の充実と現地化モデルが受け入れられた。また足元の韓国では、ヒュンダイ・キアで国内シェアの80%を握っている。

    品質では北米や欧州のカーオブザイヤーを獲得するまでに向上している。その要因として、トップダウンでの厳しい品質向上への取り組みが挙げられる。品質に問題が生じれば早朝から会長をリーダーとした品質委員会が開催され、トップからの要求に応えられない責任者は解雇されることもある。過去に会長視察時に生産車のボンネットを開けられなかった工場長が左遷された例もある。

    現代生産方式はモジュール方式で、ITも駆使して、全ての生産タイミングを同期させている。この実現には、モジュールを納入する現代モビスの存在が大きい。モジュール方式は部品のブラックボックス化が進み、部品企業のコントロールが出来なくなる恐れがあり、日本では進んでいない。現代モビスは韓国最大かつ技術的にもリードしているティアワン企業で、現代本体との繋がりが非常に強い為に可能となっている。それにより消費者の多様な需要に応え、物流業の効率化が図れる。

    現代は今全ての歯車が上手く回っているように思え、それは強かな計画の上に成り立っている。環境対応車での遅れは指摘されているところではあるが、関連企業を巻き込んでの開発加速により、今後どのような製品を早期に投入してくるか注目すべきである。

    本書の半分はトヨタの分析であり、ニュースで報道されている域を超える情報は少なく、また全体的に客観的な裏付けに乏しい印象がある。ただ、現在勢いのある現代という会社を分析している本としては貴重な一冊と言えるだろう。

  • 早稲田大でアジアの自動車産業を研究している著者。課題を抱えるトヨタと、躍進を続ける現代について書いた本。
    トヨタ生産方式についての下りや、生産技術者、製造技術者の下り、若干用語の使われ方に違和感があったり、本当に自動車産業に詳しいのかと思う部分もあった。
    トヨタについての論評は、最近よく言われている内容。現代と、アジア特にインド中国の自動車産業の話はまとまっていて読みやすかった。

    現代についてメモ
    韓国の自動車産業
    シェア、現代50.4起亜29.6で現代グループが8割越え。
    現代グループは、現代自動車、起亜自動車、現代製鉄、現代モビス。
    現代モビスは元々現代精機で、部品部門を統括できる機能を持つ。
    インド進出で成功。30万台の生産規模。これを進出の基準と考えている。
    確かにこのボリュームがないと、部品含めて事業を成立させてやっていくのはむつかしい。一つの考え方として参考にしたい。

  • 現代および世界の自動車産業の状況は使える。
    現代のモジュール方式とか。

    分析はいまいち

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著者プロフィール

1943年東京生まれ。東京都立大学法経学部卒。同大学大学院社会科学研究科博士課程修了。駒澤大学経済学部教授を経て、現在早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。
著書に『「大東亜共栄圏」の形成と崩壊』(御茶の水書房)、『昭和ファシストの群像』(校倉書房)、『大東亜共栄圏』『日本軍政下のアジア』(以上、岩波書店)、『満州と自民党』(新潮新書)、『満鉄調査部―「元祖シンクタンク」の誕生と崩壊』『ノモンハン事件』(以上、平凡社新書)、『日本近代史を読み直す』(新人物往来社)、『日本の迷走はいつから始まったのか』(小学館)、共著に『満鉄調査部事件の真相』(小学館)、『一九三〇年代のアジア社会論』(社会評論社)など多数。

「2011年 『論戦「満洲国」・満鉄調査部事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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