忘却の声 下

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488010249

作品紹介・あらすじ

殺人の容疑をかけられたまま、認知症は進行していく。そして断片的に浮かび上がってくる親友との思い出。死んだ夫との会話。手がかりは、消えゆく記憶のなかにあるのか――。

感想・レビュー・書評

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  • 殺人事件があり、さてアルツハイマー病の主人公は犯人でしょうか?
    という話ではあるのだけど、動機とかトリックは問題にならず。真相とかね、どうでもいいのよ。
    重要なのは日々自らの記憶が削がれていく女性に最後に残るものは何か? ということ。
    断片的でぐらりとする文章にヒリヒリ焼かれる読書であった。

  • ある街で、1人の女性が殺される。死因は頭部外傷。遺体の右手の指は4本切断されていた。
    嫌疑を掛けられたのは被害者の親友であった元整形外科医。
    但し、よくある犯罪と違うのは、容疑者が認知症を患っていることだった。

    物語は主に、容疑者であるジェニファーの視点で語られる。
    彼女はいわゆる「信用できない語り手」である。
    彼女の語りは断片的であり、ときには残されたメモであり、ときには介助人の記録である。
    すくい取ろうとする掌から水がこぼれ落ちていくように、また掴もうとしても掴めない煙のように、小さなばらばらのピースをかき集めようと、彼女はもがく。
    あるときには「自分は親友を殺したのだろうか」と自らに問い、あるときには事件や、さらには親友自体の存在も忘れてしまう。
    読者も同時に、わずかな手がかりを拾い集めて、事件の概要を、そしてその背景を知ろうと試みる。

    彼女は徐々に壊れていく。
    ある部分が欠け、ある部分が崩れ落ち、ときには以前は働かなかった部分が修復される。一進一退を繰り返しつつ、しかし着実に、間違いなく、悪い方へと向かっていく。
    このさまは、かなりリアルに感じるだけに、身近に認知症を患う人がいる人などはかなり「堪える」描写かもしれない。
    それだけ著者の筆致が見事であるということだろう。

    これは家族の物語であり、ある種の友情の物語であり、不正とそれを糾弾しようとする「正義」のせめぎ合いの物語でもある。
    出てくる人物たちは誰もが欠点を持ち、いささか癖がある者揃いである。彼らはときに酷く傷つけあいながらも、互いに、関わらずにはいられないのだ。
    それはおそらく「愛」と呼ぶしかないものなのだろう。

    下巻の帯には、「ワシントン・ポスト」の評、「巧みでユニークなすばらしいフーダニット」が引かれている。確かに、これはフーダニット(誰が犯人か)の物語である。だが同時に、ホワイダニット(なぜ犯行に至ったか)の物語でもある。
    この2つが絡み合いつつ、螺旋状に互いに姿を見せつつ、また隠れつつ、次第に全貌を明らかにしていく。
    この犯罪の悲しさと人の哀しさが胸を打つ。

    そして読者はまた、呆然としながら、物語が問う声をおぼろに聞くのだ。
    「あなたの記憶が壊れていくならば、最後に残るものは何だろうか・・・?」と。
    物語の最後で、あなたが見るのは絶望か希望か。その答えはあなたにしかわからない。


  • 記憶の濃淡は濃霧の森。謎の事件と友人の歪みに対し何処から素顔で意図したのかと、気づけば消えては見える刹那の全てに疑心暗鬼だった。人間の本質と本音が一行ずつ地道に積みあげられ認知症の内側の視点が沁みる。母の愛は消えない。

  • 実験小説。

    主人公は、認知症を患った60歳代の女性。
    彼女と長い付き合いのあった隣家の老女が不審な死を遂げ、しかもその遺体からは四本の指が切り取られていた。
    優秀な整形外科医であった彼女が隣人の死について重要な何かを知っているのではないかと嫌疑がかけられる。
    が、その記憶と認識は不安定に漂うまま。

    小説は、主人公の主観に沿って展開していくが、その認知は比較的明晰なこともあれば、時に我が子を認識できないほど闇に包まれることもある。
    時制も遠い過去から現在まで行ったり来たり。
    自分も、身内(祖母)が認知症になっているので、この感覚(といっても外からしか見ていないのだが)はよくわかる。

    この認識の断片や噛み合ない会話が重ねられていく中で、主人公や周囲の人々の人となり、彼女ら彼らの積み重ねてきた歴史が次第にイメージとして確立していく。
    その手法がなかなか見事。

    小説が進むに連れて、時制どころか人称すらあやふやになっていく。
    ミステリとしての体裁はとっているが、明かされる真相はそれほど意外なものではない。
    が、その形式と、形式ゆえに醸し出される作品の印象は、きわめてユニークなものである。

  • 勢いのまま読了。
    犯人とか動機とか、そういう所にどんでん返しがあるわけではないのですが、結局の所描き方が秀逸です。

    原題 / "TURN OF MIND"(2011)
    装幀 / 中村 聡
    装画 / 米増 由香

  • どんどん深みに・・・
    蒔いた種だから
    親だから?
    外科医だから??

  • 配置場所:摂枚普通図書
    請求記号: 933.7||L||下
    資料ID:95140763

  •  ミステリとしてはともかく、認知症を内側から体験していくというのは、とても怖かった。登場人物誰もが何かしら不幸せで、それぞれ“普通”とは違う部分を持っていて、常に悲しい空気が漂っている感じがした。忘れてしまう怖さと、忘れてしまえる幸せと。明日は我が身か。

  • 上下巻に分けずに一巻で充分だったのでは?

  •  叙述トリックというものがある。簡単に説明すると地の文で[嘘]ではないけれど真実ではない言い回しをする書き方を用いたトリックのこと。

     これを叙述トリックの本と位置付けていいのか悩む。
     主人公はパーキンソン病の患者。書かれているのは彼女の日記と介護者たちの言葉。
     主人公は記憶を失っているし、物語が進むにつれ、症状は悪化していく。

     最初は読み辛いと思うのだけれども、不思議なリズムがあり、軽快に読み進められるのに、さっぱり訳が分からない。
     2回読んだけど、また読みたい。

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