神保町の怪人 (創元クライム・クラブ)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488012854

感想・レビュー・書評

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  • 文筆業を営む喜多が百貨店の古本展示即売会で出会った男・大沢真男は、古本屋業界では嫌われ者だった。ある日の展示会で事件は起こる。プロレタリア詩集が一冊紛失したのだ。すわ犯人は大沢か!?と見れば、コートや手荷物も持たない軽装。一体本はどこへ消えたのか?「展覧会の客」他、本にまといつく事件全3編。

    装幀 / 小倉 敏夫
    人形・写真 / 石塚 公昭

  • 古書の世界やその街神保町めぐるミステリーとして、事件の展開やトリックよりも、古書に関わる人々の生活や心情にフォーカスを当てた作品になっている。故にその世界に興味のある人には受け入れるだろうと思うし、逆に言えば読者を選ぶ本である。

    短編の三本目には女性が重要人物として登場するが、こう言った配役は「ビブリア古書堂の事件簿」にも見られるが今後増えていくのだろうか。
    業界として女性ユーザーを増やしたいという感じには思えないしメリットがあるのか分からない。

  • 神保町というタイトルに惹かれて、図書館で借りてみた。
    ミステリーと書いてあるけど、あまりミステリーっぽくはないです。
    古書にあまり興味がないので、ちんぷんかんぷんでしたが、こんな世界もあるのかと想像しながら読みました。
    ミステリーとしては、微妙だと思いますが古書に興味がある方は、読んでおいて損はないと思います。

  • 図書館で目に付いた「神保町」という地名に思わず手が出た。 リタイアするまで年に一度本社のある神保町に本の仕入に出張した。 
    「すずらんどおり」をとおって古本屋さんもよく観て回った。
    東京に行く事はなくなったが「神田神保町」は若い頃の懐かしい大事なところだ。

  • ひさしぶりに神田神保町を3日間かけて歩き倒して来ました。

    自分自身が本を買うことよりも、今さらながら、やっぱり本の街なんだなと、しみじみ味わい深い風景がいくつもいくつも垣間見られて、感動しまくってきました。

    蕎麦屋の出前のお兄さんが、帰路のほんの少しのあいだ自転車を止めて文庫本を物色する姿。大根とネギがはみ出した買物かごを抱えた老女が、大昔の芸能雑誌や源氏物語を数冊手にとって奥のレジにゆっくり歩む姿。へそと頬にリングを入れた、でもしごく知的な風貌のキャピキャピのギャルが、英語やフランス語の写真集や画集を両手いっぱいに抱きかかえる格好。明らかにセールスの途中でしょう、やたらと頻繁に腕時計を見て時間を気にしているようでその実、百円均一の書棚から目ざとく希少本を捜し出しては、すでに左脇に10冊以上もはさんでスーツがヨレヨレもお構いなしの熟年男性などなど。

    ぱっと、ほんの瞬時にグルリとひと回り見渡すだけで、いくつもの本との感動的なシーン(それはもちろん、よそ者の私が、勝手に思い入れたっぷりな目で見るからにすぎません)が眼の前に繰り広げられるのを、ただウットリと観るだけで、何だか幸せな気分になります。

    それだけでなく、そこからそれぞれの方の幾万通りの本の読まれ方、たとえば先ほどの登場人物に即していえば、出前のお兄さんは、わずかな仕事の合間に鬼平犯科帳の頁をそばつゆがついた指でめくりながら貪り読み、そして、一人暮らしの老女は、夜っぴて青春時代の自らの美貌と比べてもたいしたことのないスターたちの古びたグラビアを見て優越感やらざんきの念を抱いたり、また、光源氏に寄せる深い昂揚感を全身で味わうように、源氏物語に相対する様子などまで思い浮かんで来ては私の心を和ませたりします。

    ところでこの後、ん?待てよ、ひょっとして、もしかしたら、私と同じように今日のこの日、この神保町に本を探してあの人が来ているかもしれない、と思って偶然の邂逅を求めてさまようこともしました。

    ヨーロッパとりわけスペインに関する本や政治学とか、最近の著作では江戸時代の参考文献を探しているかもしれない逢坂剛との偶然の出会いを期待して、まずは彼が中央大学時代から通っている洋書の豊富な田村書店の2階に。

    英語と少しのフランス語しか理解できない私には、もちろん中を開いて見ることなど何の意味もないのですが、ドイツ語の本を手にとったりしてどうするのでしょう、今はその余裕もないはずなのに何をしているのやら、お店の方に聞くわけにもいかず、とにかく逢坂剛を探さなくっちゃ。

    次は、彼がよく行く軍事外交関連の本が専門の文華堂ですが、入るや否や、漢字の羅列の本のタイトルに圧倒されて、数分経たないうちにほうほうの体で退散しました。もしかしたら、いたかもしれないのに。

    ええい、面倒です。かくなる上はこうなれば、彼が事務所を構えている場所、カレー屋さんのマンダラの並びのビルを片っぱしから探して見つけ出して、迷惑でも執筆中の本人に会って握手くらいはしてもらわなきゃと、勝手なことを夢想し始めました。

    でもその後すぐに、ひょっとしたら今日は逢坂剛じゃなくて、あのわが敬愛する大哲人の紀田順一郎センセがお越しになっているかもしれないと考え直して、一念発起、書肆ひぐらしへと向かいましたが、残念無念、ここにはお姿は見えず、私もちゃっかりと古本の山から何冊かほしかったものを見つけた収穫を慰みに店を出ました。

    そうこうするうちに、時すでに3時を過ぎているのに気付きいたところ、そういえば空腹で目が回って魑魅魍魎じゃなくて意識朦朧としているからそろそろ何か食べよう、とかなんとか思っている、その目の前を、スーと白い髭を揺らしてパイプをくゆらせてJ・J氏こと植草甚一が歩いて行くのがはっきりと見えた時点で、自分がいかにいま幻想の世界に入り込んでいるのかが理解できて、ひとしきりゾッとして、それから我に返ることが出来ました。

    そういえば、以前この本を読んだことを思い出して、何だか自分自身が≪神保町の怪人≫になってしまったのかなどと思って、ひとり苦笑してしまいました。

    この本は、神保町を愛して、本と古本をこよなく愛する紀田順一郎だからこそが書ける古書ミステリーの傑作3編です。ここに登場する奇々怪々な人びとのひとりが、あなたであり私である可能性は大です。


    この感想へのコメント
    1.カーチャ (2010/10/11)
    神保町、いいですね!
    わたしもゆっくり見てみたいです。
    2.薔薇★魑魅魍魎 (2010/10/11)
    たしかに古本街なのですが、日常的な何気ない風景として、老若男女がさりげなく本と接している光景を見て驚きました。今までは本を探すことに熱中していて、全然気がつかなかったんですね。
    こちらもドキドキしながら、さりげなくいろんな人に話しかけて仲良くなって、一緒に珈琲を飲んだり食事したりしました。見ているだけじゃつまんないと思って、本を通した交流もやっちゃいました。
    3.カーチャ (2010/10/11)
    ますますいいですね! わたしもかつては獲物を追う狩人のような目をして本ばかり見ていたのだと思います。今ならおっしゃることの楽しさがわかるような気がします。

  • (収録作品)電網恢恢事件/「憂鬱な愛人」事件/展覧会の客

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 古本を巡る話。
     一言で言うなら、醜いです。(樓主がこう断じるのって珍しい)
    「欲しい古本(レア本)が出て、競り相手に心当たりがあるから、古本屋にその人の名前で電話をしてキャンセルする」とか「人が欲しがっている珍品古本を見つけてその人の目の前でわざわざ買う」とか。「故人にお貸しした本なので」と、嘘をついて貴重な蔵書を持ち出すとか。「万引き」「詐欺」「資料として借りたといいながら、返す気がない」とか。酷いもんです。
    「ウイスキーボトルを持参(貢物)して古本屋をまわる」なんかはもう、前述したのを見ると許せちゃいますよ。
     これは古書収集家には「変人」「詐欺師」「悪い人」しかいないんじゃあないか?ってぐらいの、主人公に絡む人たちのゆがみっぷり。

     ・・・・・・内容?
     推理です。本がなくなります。謎解きです。
     一人称。で、ちょっと文体が古い。語彙の選び方が難しいのと、古書に絡む情報が多いので、多少読みにくいですが。
     推理小説って、どうして作者当人かそうとしか思えない者を出したがるんでしょう。
     主人公は「喜多さん」です。
     最後は殺人事件も絡むようですが、二章までしか読めなかった。

  • 神保町を舞台にした、古書にまつわるミステリーの中編集。古書という分野の話を興味深く読みました。装飾の美しさや希少性に価値を見出す、骨董品収集に似たものかと思っていたのですが、読み物として楽しむものでもあるんですね。隠れた名作を探す、という側面が見えてき
    ました。文学的価値は個人の好
    みと一致するとは限らず、歴史のなかで淘汰されてしまった作品の中にも、もしかしたら自分にとって生涯に残る一冊があるのかもしれない。学問としても、研究対象についてもっと知りたいと言う資料的な価値がウェイトを占めるのだとわかってきました。「およそ最も思惟に乏しい種類の人間というのは、ただ書くだけ、読むだけの連中である。よみかき以外に何一つできないくらいなら、いっそそうしたことのできないほうがましだ。」と「学者の無学」を批判するハズリットの考えは耳に痛いです。

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著者プロフィール

評論家・作家。書誌学、メディア論を専門とし、評論活動を行うほか、創作も手がける。
主な著書に『紀田順一郎著作集』全八巻(三一書房)、『日記の虚実』(筑摩書房)、『古本屋探偵の事件簿』(創元推理文庫)、『蔵書一代』(松籟社)など。荒俣宏と雑誌「幻想と怪奇」(三崎書房/歳月社)を創刊、のち叢書「世界幻想文学大系」(国書刊行会)を共同編纂した。

「2021年 『平井呈一 生涯とその作品』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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