白の祝宴 (逸文紫式部日記 )

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488024734

作品紹介・あらすじ

平安の世、都に渦巻く謎をあざやかに解き明かす才女がいた。その人の名は、紫式部。親王誕生を慶ぶめでたき場に紛れ込んだ怪盗の正体と行方は?紫式部が『源氏物語』執筆の合間に残した書をもとに、鮎川哲也賞受賞作家が描く、平安王朝推理絵巻。

感想・レビュー・書評

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  • 紫式部日記に纏わる謎を描いた一冊。

    中宮彰子の若宮出産に向けて再出仕した紫式部が、女房たちが綴った出産までの記録をまとめ上げる傍ら白一色の宴に起きた数々の謎に迫るストーリー。

    今作はもの憂う女たちの巻といっても過言ではないほど。

    紫式部はもちろん、清少納言、赤染衛門、和泉式部ら女たちの心情と絡みが平安っぽくも現代っぽくもあり、スッと宮中絵巻に手招きされるようで楽しかった。

    そしてなぜ紫式部日記は面白くないのか…ストンと腑に落ちる鮮やかな紐解きもお見事。

    紫式部と道長ってやっぱり…なんて思える部分も含めて面白かった。

  • 主人公は前作『千年の黙』と同じ、紫式部に仕える阿手木。式部の出仕中、老いた為時と頼りない惟規と幼い賢子姫君と留守を守る、堤邸の家刀自に成長している。

    中宮彰子の初めてのお産。広大な土御門邸に白い布が張り巡らされ、皆が白装束。これってれっきとした密室じゃないの、〈雪の山荘〉の変形よ!
    そして式部は中宮女房だから、外を飛び回ったりしない。言ってみれば、安楽椅子探偵よね。舞台背景が平安時代なのに、何気にミステリの定石を押さえているんだな、これが。そして更にその上を行く、”全てをご存知”な、中宮彰子の存在感もバッチリ効いてる。(…で、中宮様。小少将に狼藉を働いた弟君には、ちゃんとお説教してくださったんですよね?)

    個人的には、皆に煙たがられる三位殿(源倫子)古参の女房、衛門の君がお気に入り。ちょっと作者におちょくられてるキャラクタ設定だけど、忠義者上等じゃないのー。『栄華物語』読んでみるか。

    あと、チョイ役だけどいい味出してるキャラクタ多し。和泉式部、藤原道長、藤原為時、藤原賢子、藤原公任、清少納言…。ドラマ化できそう。

    あ。また、一条帝、出てこなかったなー。

  • 紫式部が宮中で宮仕えをしてるときに起こった事件を、推理して解く平安時代のミステリ。
    シリーズ2作目。
    1作目は源氏物語に関するミステリで、今作は紫式部日記に関するミステリ。
    中宮彰子の絶世期に再び宮仕えをすることになった紫式部が、彰子の出産に関することを女房たちに書かせた日記をまとめて1つの書物にする役目を命じられる。
    その彰子の出産のときに事件が起こる。
    史実に基づいた登場人物が出てくるので、作り話とわかっていても史実なのではないかと思ってしまう。
    平安時代のミステリはあまりないので、それだけでなかなか面白い。

  • 彰子中宮にお仕えしながら「源氏物語」を執筆している紫式部さんが主人公の平安宮中のおはなし。
    「小袖日記」と時代背景は大体同じだけど、こちらは紫式部のもう一つの著作「紫式部日記」に焦点を当てたシリアスミステリーです。

    彰子中宮が帝のお子を出産する様子を女性目線で記すことが目的だったようで、雅で風流な生活や絢爛な祝宴の様子だけでなく、女の見栄や嫉妬やミーハーな部分も感じられます。
    これだけならば、「枕草子」の二番煎じといった感じだけど、その裏で起きる不穏な事件や人間関係がなかなかスリリングでおもしろかったです。

    中宮が出産の時を迎えると、お仕えしている女房の服装も御殿全体も真っ白にしつらえられ、出産後も白一色の中で祝宴が三日三晩つづく。
    まさにその最中に、斬られた賊が逃げ潜んでいるという事件が起き、屋敷内に血痕が見つかり、ついには死体まで。
    さらに、世継ぎに絡んでいろんな思惑が入り乱れ、思いがけず重奏的広がりがあって楽しめました。

    清少納言や和泉式部まで登場しちゃって、想像してるとおもしろい。
    「枕草子」についてのくだりや「紫式部日記」はつまらないというその理由、興味深い考察ですな。

  • 紫式部の書いたもう一つの書・紫日記。
    その中に名が出てくる女性の子孫が、一生懸命、日記を書き写すところから始まる。

    一度出仕した後、すぐに宿下がりしたきり戻らなかった紫式部。
    (当時はまだそう呼ばれてはいない)
    家に戻って療養しつつ、源氏物語の続きを書いていた紫式部こと香子が、再びの出仕を求められて、ためらいつつも応じる。
    1008年、夏。
    折しも中宮・彰子が天皇の子を産もうとしていた。
    十代前半に入内したので、結婚九年でやっと出来た初めての子。
    父親の左大臣、藤原道長の張り切り様はこの上もなく、土御門邸でのお産の模様を女房達に書き記すように求める。
    紫式部はそれをまとめることを求められたという設定。
    大量の原稿をつぎつぎに渡されて困惑する式部。
    女達の性格や人間関係も把握しかねて、苦慮する。
    名もない女達が記録を残すことの出来る珍しい機会。
    そうした苦手意識や遠慮は気にすることはないのだと彰子には言われるのだが。
    彰子はまだ若く、天皇に熱愛された中宮定子ほどの才気はなさそうだが、おっとりした人柄の大きさが現れていますね。

    紫式部日記が独りで書いたにしては冗長で、文体や視点にも矛盾があることから、こうだったのではないかと推測した内容。
    さらに、陰で起きていた事件の謎解きというミステリも。

    付き従う女官達はすべて白装束。
    お産のときには産婦と介添え役は白衣というのは当時の上流階級のしきたりだった。が、大勢の召使いすべてが何日も前から白装束というのはかってないこと。
    刺しゅうも白か銀、正装の時だけに着ける唐衣や裳まで白ずくめなのだ。

    「千年の黙」で登場した小間使いの女の子あてきが大きくなって、りっぱな人妻・阿手木として登場。
    といっても、別々に暮らすのが普通の当時の夫婦。
    阿手木は京極堤邸で仕える御主(おんあるじ)である紫式部の留守を守り、式部の弟、娘の賢子の面倒を見ている。
    夫の義清は、彰子のライバルだった亡き中宮・定子の縁に繋がる立場。
    定子の弟の隆家中納言に仕える郎党なのだ。
    定子は10歳になる一の皇子・敦康と姫宮の修子を遺した。
    定子亡き後は彰子が母代わりとなっていたが、出産のため実家に戻ったので、二人は隆家の邸に引き取られて、父である今上帝とも会いにくくなっている。彰子に男の子が生まれればさらにぐっと立場は弱くなるのだが。
    この子らの付き添いとして、清少納言もちらっと登場。

    中納言邸で狼藉をはたらいた賊の一人が、血を垂らしながら逃げ、彰子のいる邸に駆け込んだ…?
    阿手木は義清の頼みで、童の小仲を連れてその跡を探索に行き、賢い御主に事情を相談する。
    道長のほうからも式部は内々に探索を頼まれる。誰かが不逞の輩を手引きしたかも知れないということで。
    その後、土御門邸では、呪いに使ったと思われる札が床下から発見される。誰が何のために…?

    阿手木は夫の仕事に関わりのある謎を解くために行き来しつつ、陰に日に式部を支えることに。
    大人の女性の色々な悩みは、源氏物語もかくや?
    当時の色々な立場の人の思惑が入り乱れ、生き生きしていて、面白かったです。
    2011年3月発行。
    2003年発行のデビュー作「千年の黙」の続編に当たります。

  • 70:紫式部と、女房の阿手木(前作では「あてき」)が宮中で起こった事件の謎解きに挑むシリーズ第二作。源氏物語の作者として期待の眼差しで見られながらも、本人は位もそう高くなく、ぱっとしないという人物像で描かれる式部のほか、清少納言、藤原道長、中宮彰子など著名な人物に加え、近作では和泉式部や赤染衛門までが登場しており、歴史には詳しくなくとも登場人物だけでわくわくできます。謎解き自体はそう難しいものではないのですが、宮中の光と影、利権の絡み合いや人々の思惑、と重厚なストーリーに仕上がっています。和歌や用語もわかりやすく解説されていて、とても読みやすかったです。森谷さんファンはぜひとも!

  • 源氏物語を執筆中の紫式部が謎を解く平安ミステリー。

    「桂をおめしにならないと」
    これだけでちょっとした謎は解けるのに、平安の言葉や風俗を知らないので気づかずに読み逃がしてしまう。
    つくづく平安って不思議な時代だなと思う。

  • 源氏物語を読み直そうと思いまして、その助走がほしいなあ、と思って手に取ったこの一冊が、思いのほか面白く、源氏物語はもうちょっと先にして、この本は続編だそうですので、次は第1作を続けて(遡って)読んでみようと思いました。
    こちらを先に読んでしまったので、ひょっとしたら、魅力を読み取れていないのかもしれませんが、まず、彰子サロンの絢爛さはそのメンバーから想像していたのですが、考えてみると、あれほどの人物たちが一つ職場にいるってことは、大変なことだよなあ、とそれが読後の最大の感想です。
    描かれている人物ははっきりとした性格で、大変に楽しい。なんというか、起きている事件は、登場人物が考え込んでいる割には、読者としてはどうでもいい問題に思えてくる。むしろ、刻一刻と変わっていく人間模様こそが最大の事件のように思えます。
    歴史的というか、個人的には左大臣家に追いやられていく家隆だの公任だのが大変に好みだったのですが、ちょっと冷たい扱いかな。でも、仕方ないですね。彰子サロンだし。
    とにかく登場する女性がすべて素敵でした。

  • +++
    平安の世、都に渦巻く謎をあざやかに解き明かす才女がいた。その人の名は、紫式部。親王誕生を慶ぶめでたき場に紛れ込んだ怪盗の正体と行方は?紫式部が『源氏物語』執筆の合間に残した書をもとに、鮎川哲也賞受賞作家が描く、平安王朝推理絵巻。
    +++

    中宮彰子の出産日記を編纂するようにと、土御門邸に呼び戻された紫式部が、次々に持ち込まれる女房たちの日記にいささかうんざりしながら、小さな祖語に着目し、さらに大きな疑問を解き明かしていきながら、真実にたどり着く物語であるが、時代や人間関係の複雑さもあり、現代のようにすっきりと白黒つけられるわけではなく、後世を見据えての思惑も見え隠れするのがまた一興でもある。ミステリ部分はもちろん、雅な日常と、その裏に蠢く女房その他の思惑の生々しさや奔放さもまた独特で興味深い。謎を解き明かしながら式部自身の人となりをも解き明かすような一冊である。

  • 彰子中宮が初産を迎える際の様子を綴った『紫式部日記』はいかにして書かれたのか。

    言われてみて初めて気づいたが、そういえば『枕草子』に
    定子皇后の御子に関する記述は、ない。

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著者プロフィール

1969年静岡県生まれ。日本画家・屏風作家。筑波大学大学院芸術研究科美術専攻日本画分野修了。渦巻きをモチーフにした屏風制作を行う傍ら、神社、寺院,協会への奉納絵画をライフワークとして続ける。 主な奉納・収蔵作品大徳寺聚光院伊東別院 墨筆による「千利休座像」軸一幅/駿河総社静岡浅間神社四曲一双屏風「神富士と山桜」。主な出版物 絵本『おかあさんはね、』(ポプラ社)/絵本『メロディ』(ヤマハミュージックメディア)/絵本『サクラの絵本』(農文協)/詩画集『国褒めの歌巻一』(牧羊舎) 
自身の日本画制作に加え、寺社奉納絵画、絵本制作、コラム等の執筆、講演会等を行う。人と人、人と自然、人と宇宙が穏やかに調和する日本文化の特質を生かし、新しい世界に向けたパラダイムシフトを呼びかけている。静岡ユネスコ協会常任理事。

「2020年 『ジャポニスム ふたたび』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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