望月のあと (覚書源氏物語『若菜』)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488024871

作品紹介・あらすじ

紫式部が物語に忍ばせた、栄華を極める道長への企みとは?平安の都は、盗賊やつけ火が横行し、乱れはじめていた。しかし、そんな世情を歯牙にもかけぬかのように「この世をばわが世とぞ思う…」と歌に詠んだ道長。紫式部は、道長と、道長が別邸にひそかに隠す謎の姫君になぞらえて『源氏物語』を書き綴るが、そこには時の大権力者に対する、紫式部の意外な知略が潜んでいた。

感想・レビュー・書評

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  • 紫式部が良かった一冊。

    今作は道長の栄華を軸に源氏物語「玉鬘」と「若菜」にスポットを充てて描いたストーリー。

    作者が疑問に思う点を見事に創作という名の解釈に仕立て上げる技に今回もどっぷり魅了された。

    今や飛ぶ鳥も落とす勢いの道長をどんな想いで紫式部は見ていたのか。
    節々の二人の会話が含みを持たせながら、道長へのあっと言わしめる源氏物語という贈り物が実に痛快爽快。

    盗賊や火付け事件の多発の裏側に隠された謎、そこに自らの想いを馳せ、執筆に向き合う紫式部が良かった。

    物語が人を創る、そんなことを全体的に感じられた巻に満足。

  • 源氏物語の作者・紫式部が、侍女の阿手木(あてき)と共に、謎解きに挑みます。

    2003年のデビュー作「千年の黙」に続く「白の祝宴」に続くシリーズ3作目。
    デビュー作から2作目までは10年も開いているんですが、これは続けて出ました。
    その理由は後書きに。

    寛弘8年(1011年)5月。
    紫式部こと香子が、中宮の彰子に仕えつつ、「若菜」を書こうとしている時期。
    少女の頃から香子に仕えている阿手木は、宮廷に出仕している御主の留守を守って、香子の生家の堤邸に暮らしている。
    今では人妻だが、通い婚が普通な時代なので、夫は仕事先から夜になるとやってくる。
    夫の義清は武士なので、郎党を連れてくるため、治安の悪い時代に、安心で助かっていた。平安の都は盗賊や付け火が横行していたのだ。
    彰子の父で左大臣の道長はそんな世情を憂うこともなく「この世をばわが世とぞ思う望月の…」と我が身の栄華を誇っていた。

    源氏物語は人気を呼び、愛好者の間で年表が作られるほど。
    矛盾を指摘されるのではと冷や汗をかくことに。
    あまり書かれていない数年の間のことをもっと知りたいという要望も出される。
    物語の中では、これから光源氏が栄華を極め、その後に問題も出てくるあたり。
    書きあぐねている部分をじっくり書き上げるために、気楽な部分を作ってみたらと進言する阿手木。

    折しも、道長の使いを和泉式部に依頼され、東三条院へ赴くことに。
    道長が誰か由緒のある女性をそこに隠しているという噂が立った。
    実は、いわくがあって宮廷を離れた異母妹の、忘れ形見である瑠璃という姫。
    この時代、異母妹の娘となら結婚も可能で、道長も少々胸を弾ませているが、性急にそう求めるほど若くはない。
    香子はひそかに、彼女のことを調べ、「若菜」の前に「玉鬘」の章を書くことにする…

    「若菜」の章だけが上下二部に別れている理由に思い馳せながら書かれたのでしょう。
    玉鬘のモデルになった女性と近づきになり、幸せな人生を送れるように密かに手助けまでする女達のひそかな連携ぶりに、にっこり。
    喝采を送りたくなります。
    2011年12月発行。

  • (No.12-3) 源氏物語シリーズの第三弾。

    内容紹介を、表紙裏から転載します。
    『平安の都は、盗賊やつけ火が横行し、乱れはじめていた。しかし、そんな世情を歯牙にもかけぬかのように「この世をばわが世とぞ思う・・・・」と歌に詠んだ道長。
    紫式部は、道長と、道長が別邸にひそかに隠す謎の姫君になぞらえて「源氏物語」を書き綴るが、そこには時の大権力者に対する、紫式部の意外な知略が潜んでいた!
    紫式部が物語りに忍ばせた、栄華を極める道長への企みとは?』

    こんなに早く続きが読めるとは!嬉しくってわくわくして読みました。

    前半は「玉葛」後半は「若菜」。これらを紫式部が書いた動機と、書いていたときの道長の様子や宮廷の権力闘争が絡まりあって描かれています。
    研究者の間でも今まで指摘されてきた、物語中一人だけ名前がはっきり明かされている姫君のこと。しかもたった一度。本当に唐突で、私でも「何でだろう?」って思っちゃう。
    「紫上」とか「葵上」などは読者がつけたあだ名で(でも多分作者公認)、本文中にはそのあだ名さえ書かれていません。お姫様たちは「大姫」「中の姫」、結婚した方は「上」「御方」などと書かれてるんだから。
    名前は秘されるもの、それなのになぜ本名?その謎が奇麗に解かれていて、ああそういう訳だったの!と納得してしまいました。よくやった!香子。
    「若菜」が上下に別れていること、しかも上と下ではがらっと違ってしまう光源氏の姿。上下に分けたことに、そういう理由があったのね~。

    その間に、宮廷では大きな変化が起こり、彰子中宮も変わっていきます。母ですね・・・ちょっと恐い。

    私は森谷さんの書いたものの中では、この「源氏物語はなぜ書かれたのか」シリーズが一番好き。
    こんなに早く次が読めると思ってなかったので、すごく嬉しいです。
    あとがきで、物語の残りをひねくり回していると言っている作者。それが読める日が楽しみです。

  • 謎解き、面白かったです。
    現実と物語が折り重なって、何が現実で何が源氏物語なのか重なっていくところが楽しかったな。
    他にも源氏物語の本を出版されているみたいなので、読んでみます!

  • 源氏物語の「若菜」は、光源氏の栄華の絶頂と衰退の始まりを描いている。
    作中で、紫式部がその若菜の帖を執筆していて、それがまさに藤原道長が栄華を極めんとする趨勢と重なっていく様はいかにもありそうで面白い。

    道長といえば望月の歌が有名だけど、あれ別に自分の絶頂を驕ってるのではないという見解を読んだか見たかしてなるほどね~って思ったのが記憶に残ってて、さらになるほどね~ってなった。

  • +++
    紫式部が物語に忍ばせた、栄華を極める道長への企みとは?平安の都は、盗賊やつけ火が横行し、乱れはじめていた。しかし、そんな世情を歯牙にもかけぬかのように「この世をばわが世とぞ思う…」と歌に詠んだ道長。紫式部は、道長と、道長が別邸にひそかに隠す謎の姫君になぞらえて『源氏物語』を書き綴るが、そこには時の大権力者に対する、紫式部の意外な知略が潜んでいた。
    +++

    役職や人名の読み方を呑み込むのがなかなか大変で、初めのうちは現代もののようにスムーズには読み進められないのだが、次第にそれも気にならなくなり、物語の展開に惹き込まれていく。源氏物語が、刻々と出来上がり、周りに少なくない影響を及ぼすさまを見ていると、物語というものの力を強く感じる。影のフィクサーは実は紫式部、だったりして……、なんて。そして、いつの時代も、女たちの逞しさは変わらない。殿方の陰で、つつましやかにしているように見えて、その実、ほんとうに肝が据わっているのは女たちなのである。なかなかに痛快。副題には若菜とあるが、玉葛の印象が強い一冊でもあった。

  • 前2作は文庫化されてるのに、この3巻はもう何年も単行本のみで文庫化の気配なし。ようやく手に入れて読了。これも面白かった。道長が政争に明け暮れるのを冷めた目で式部は見てるけど、そうならざるを得ないのはしょうがないんじゃないかな。自分も一族も守るとなるといい人じゃやってけないと思うのよ。キープし続けるのは甘くないんだからさ。源氏物語ファンの女房方が年表を作ったりして研究して粗が発見されるのにドキドキしてる式部が笑えます。

  • 本作が一番面白かった。
    香子の謎解きはとても控えめで、世の春、藤原道長主観で進むのがとても良かった。
    華やかに見える都も裏があり、さほどいやらしくなく、それを垣間見せてくれ、良かった。

  • 図書館

    まず、久しぶりに頭使った〜
    誰がどこに住んでて、誰が誰の子供で、誰がなんと呼ばれてて…メモを取りながら読み進める。

    でも面白かった!
    特に玉鬘の絶妙な源氏物語とのリンク具合が良かった。時々ニヤッとしてしまうところがあったりして…。
    昔読んだ田辺聖子の源氏物語を読み直すと決意した。

    若菜は少し辛かったけど、宇治十帖は紫式部がこんな思いで書いたのかと思ったら、しみじみと…でも暖かい気持ちになった。

    瑠璃姫は最後かなりグッジョブ!

    道長の嫌なヤツ具合が、逆に生きたおっさん政治家って感じで面白く、ありそうな感じで身近に感じられた。

  • シリーズで一番面白かった。
    『源氏物語』の内容と、密接に絡み合ったストーリーが、楽しかった。
    香子も阿手木も、今まで出てきた登場人物たちが、生き生きと活動しているように感じた。
    副題の『若菜』よりも、瑠璃姫と玉鬘10帖の方が、印象に残った。

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著者プロフィール

1969年静岡県生まれ。日本画家・屏風作家。筑波大学大学院芸術研究科美術専攻日本画分野修了。渦巻きをモチーフにした屏風制作を行う傍ら、神社、寺院,協会への奉納絵画をライフワークとして続ける。 主な奉納・収蔵作品大徳寺聚光院伊東別院 墨筆による「千利休座像」軸一幅/駿河総社静岡浅間神社四曲一双屏風「神富士と山桜」。主な出版物 絵本『おかあさんはね、』(ポプラ社)/絵本『メロディ』(ヤマハミュージックメディア)/絵本『サクラの絵本』(農文協)/詩画集『国褒めの歌巻一』(牧羊舎) 
自身の日本画制作に加え、寺社奉納絵画、絵本制作、コラム等の執筆、講演会等を行う。人と人、人と自然、人と宇宙が穏やかに調和する日本文化の特質を生かし、新しい世界に向けたパラダイムシフトを呼びかけている。静岡ユネスコ協会常任理事。

「2020年 『ジャポニスム ふたたび』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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