ミツハの一族

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488027469

作品紹介・あらすじ

未練を残して死ぬと、鬼となって水を濁す。その者を常世に送る宿命を背負った2人。大正時代の北海道を舞台に、水辺を守る一族を鋭く描いた著者渾身の連作ミステリ。

感想・レビュー・書評

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  • 集落の水源を危うくする鬼を鎮める為、烏目役の清次郎は、不本意ながら、むくろ目の水守と鬼の強い未練を断ち切る。

  • 大正末期、北海道の札幌市近郊にある小村・小安辺村。かつて水源を失い、信州から村をあげて移住し、土地の開拓に励んだ人々が住まうこの村には、人々とともに持ち込まれた彼らの土着の信仰があった。
    未練を残して亡くなると鬼となって水を濁す。
    鬼を常世へ導けるのは、特殊な体質の烏目役と水守の二人のみ。

    血筋の役目から逃れようと医学部に進んだ清次郎の元へ従兄弟の庄一の死の知らせが。
    庄一の代わりに烏目役となった清次郎の前に現れた水守。
    毒草に当たった子ども、産後に亡くなった母親、開拓民の老人。彼らの未練とは。

    時代も空気も良いんだけど、水守への執着がイマイチ良くわからず、美人だから?
    それともそう言う体質なのか、そこに共感がもてなくて、結局、最後まで残念な感じに。
    好きなんだけどなあー。

    「悔いのない人生などない」
    おそらくこの世は、見えないだけで、死者が残した黒い小さな珠でいっぱいなのだ(略)
    「春先の、あの馬糞の埃のようにな」

  • 未練を残して死んだ者は鬼となり、井戸の水を赤く濁す。
    そのままでは水源は涸れ、村は滅んでしまう。鬼となった者の未練を解消し、常世に送れるのは、“ミツハの一族”と呼ばれる不思議な一族の「烏目役」と「水守」のみ。

    舞台は、大正時代の北海道の開拓地。
    当時は今より闇も深くて、「鬼」が出た、といわれても、そういうこともありそうだ、と思ってしまう。
    きっと、独特な因習が残っている地域も実際にあったのでしょうね。

    闇の中では目が見えない烏目と、
    光の中では目が見えないむくろ目。

    それらの目を持って生まれたがために、特別な存在である彼ら。それを、遺伝による目の病気なのでは、とますます眼科医になる意欲を高める清次郎の存在からもわかるように、時代がちょうど移り変わっていくのを肌で感じられました。
    制限の多い時代から、前例に縛られることなく扉を開いて進んでいく勇気のある時代へ。

    この物語のおもしろいところは、ミステリー仕立てにもなっているところ。
    まずは、鬼が誰なのかを推理する。
    そして、どんな未練があるのか、その未練を断ち切る方法を推理する。
    死は誰にとっても平等に訪れるけれど、私は強い未練を残さずきちんと死ねるだろうか、なんて思考をふわふわ彷徨わせながら読みました。

    そして、美しい水守の存在感が何よりも大きい。
    知の光を手に入れたことで辛いこともあるだろうけど、それでも光を手に入れたことを幸せと想い続けてくれたらいいなと、祈るように思いました。

  • 大正時代。
    北海道帝国大学医学部に籍をおく清次郎。彼は一族から烏目、と言われる目を持つ青年。
    彼らの一族は信州から北海道にやってきた開拓民。なぜなら、それは水が涸れたから。
    彼らの因習では、死人に妄執があれば、鬼となって水辺に立ち、放っておくなら水を涸らし、毒となす。
    なので、鬼を見る役目を背負ったむくろ目を持つ「水守」と「烏目役」と呼ばれる者が鬼を常世へと送る。

    鬼が水辺に立つと呼び出される清次郎。
    最初は義務感から鬼を送るが、水守の少女の境遇を知るにつれて同情し、愛しく想うようになる。
    閉ざされた環境から、少しでも自由を、と小学校の教科書を手に入れて教える清次郎。
    彼は、最初に少女に約束していた。
    「君の苦しみを、いつか必ず取り除く」と。

    烏目役が青年で良かった、というのが率直な感想でした。
    もしこれが、男女逆であったなら、女性は即決タイプが多いので、水守の目に包帯でも巻いて、
    「私と一緒に逃げましょう!」ってなことになりかねないな、と。
    そうなったらギャグだ…
    烏目役が清次郎だったからこそ、清らかな物語になったなぁ〜、と思う。

    静謐で、美しい小説でした。

  • 不思議な力を授けられた血筋に生まれてしまった宿命には抗えない。受け入れるしかないのだろう。
    そんな力があるばっかりに、かたやは夜目がきき、かたやは薄暗くなると見えなくなるという両極端な特徴が。
    凸と凹みたいに両極端なものが2つ揃うところに意味があるのか。
    時代が変わり、考えも変わってくる。
    不確かなものではなく確かなもので対処する時機が訪れる。
    そうよ、そうなっていかなければならない時というのは、何事にもあるはず。

  • どなたかのブクログ本棚で見かけて。
    「あ、私この本、好みだと思う!」と感じて、早速図書館で予約して借りました。

    ドンピシャ、好み!(笑。
    師走に、以前から予約していた本がまとめてきてしまい、いっぺんに読み進めて、ほいでもって忙しいのであまりきちんとレビュー書けないんですが。

    ラストが尻すぼみな感じなので☆3つ。
    でも、この世界観が好きです。
    同時期に読んだ、彩瀬まるサン(朝が来るまでそばにいる)とか、桜木紫乃氏(起終点駅)の本は、新年あけて落ち着いたら、また図書館で借りて読もうと思っていますが、こちらは二度読みはないかな・・・。とってもいい世界観なのに、何かいろいろ惜しい感じです。ほんと惜しい!
    でも、好きですが(照)。

    この本をブクログ本棚に入れているかたの本棚を漁って(苦笑)、また好みの本を探していきたいです。

  • 大正時代の北海道
    未練を残して死ぬと、常世へ旅立てずに鬼と化す。
    井戸の水を赤く濁す。
    池に鬼が立つと水が濁る。枯れる。毒が混じる。
    鬼となった者の未練を解消し、常世に送れるのは、
    〝ミツハの一族〟と呼ばれる不思議な一族。
    男の「烏目役」と女の「水守」のみーー。


    黒々とした烏目を持つ北海道帝国大学医学部に通う、八尾清次郎。
    烏目役の従兄・庄一が死んだとの知らせを受け、
    村に赴くが、すでに鬼が池に立っているという…。
    男の烏目は、暗くなっては、ほとんど何も見えず、
    女に出るむくろ目は、男と正反対で昼は眩しくて目を開けていられず、
    闇が深くなればなるほど見えて来る。
    水守は代々醜女との聞いていたのに、
    初めて目にした水守は、最も美しい顔だった…。
    水守に命令する事が出来るのは烏目役のみ。
    池に立つ鬼の姿を水守が見て、烏目役が未練をさぐり、解消し
    常世へと旅立たせる。

    過酷な運命を背負わされた二人。
    清次郎が抱いた気持ちと同じ様に、赤ん坊の時から、
    暗闇でただ生きてきただけのむくろ目の水守が可哀相だと思った。
    最初、嫌々烏目役をやっていた清次郎だが、美しい水守に惹かれ
    水守に沢山の事を学ばせていく姿は良かったなぁ。
    それなのに、最終章ではあまりもの出来事の数々に胸が痛かった。

    何ともいえない不思議な空気感。
    古い因習は消えて行くんでしょうね…。
    この一族は滅びゆくのでしょうね…。
    現世の千里は常世の一歩…。
    切なかったけど、きっと常世で会えるのですね。

  • 美しい世界

  •  乾作品色分けしてますが、これはグレーです。全体的に流れる妖しい雰囲気がいいですね。時代設定にあっています。烏目と水守。清次郎のまっすぐな想い、叶わぬと判っていてももどかしいです。

  • 完成度はイマイチだけど、それでもやっぱ小説は面白い......って、気付かせてくれる作品ヽ(・∀・)ノ

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著者プロフィール

乾ルカ
一九七〇年北海道生まれ。二〇〇六年、「夏光」でオール讀物新人賞を受賞。一〇年『あの日にかえりたい』で直木賞候補、『メグル』で大藪春彦賞候補。映像化された『てふてふ荘へようこそ』ほか、『向かい風で飛べ!』『龍神の子どもたち』など著書多数。8作家による競作プロジェクト「螺旋」では昭和前期を担当し『コイコワレ』を執筆。近著の青春群像劇『おまえなんかに会いたくない』『水底のスピカ』が話題となる。

「2022年 『コイコワレ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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