中井英夫全集 (3) とらんぷ譚

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (713ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488070038

感想・レビュー・書評

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  • 中井英夫氏の短篇集4作品を合本にした最高傑作。「虚無への供物」と並ぶ二大奇峰。単行本と文庫全集の形でしか完全合本になっていないので文庫全集は貴重。

  • 「火星植物園」の気持ち悪さ!
    素晴らしい落とし方です

  • 中井英夫というとどうしても『虚無への供物』に目が行ってしまうが、その本質はむしろ幻想小説家なのであり、その真骨頂たる連作短編がこの『とらんぷ譚』。実は『虚無』より好き。

  • 初めて読む方には、「虚無」ではなくてこちらをお薦めしたいです。
    凝った構成と描かれた世界の美しさが秀逸です。私はこの本のハードカバーをなくすというアホな事をしました。ばか、ばか。

  • 『虚無への供物』等で知られる中井英夫のキャリアの中で、決して忘れてはいけない傑作、『とらんぷ譚』がこの一冊で! ジョーカーまできちんと収録されているのはさることながら、あとがきや解説も収録されていて非常にありがたい。『とらんぷ譚』ではぶっちぎりで『幻想博物館』が好きですが、こうして一冊になっているものを読んでみると、感慨深いものがありますなぁ。

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    ♠《『幻想博物館』★5》
    幻想文学の金字塔、中井英夫の、とらんぷ譚Ⅰである!

    澁澤龍彦の解説と、建石修志の挿絵見たさに新装版を捜したが、現在ほとんど市場に出回っておらず、手に入れるのが大変だった。

    実は自分はかつて同著者の代表作『虚無への供物』を読もうとして、途中で挫折した記憶があるのだが、『幻想博物館』から入れば良かったと今更ながら後悔している。

    ・・・・・・それはさておいて感想を書き残したい。短編として各作品は仕上がっているのに、一冊を通してみるともう一つの話が展開されている、連続短編ならぬ連作小説の斬新さもさることながら、一話の完成度も高く、味わい深い作品たちばかりだった。わけが分からなくなる話、というよりは、やはりそれは、あたかも自分が流薔園に赴く一人で、幻想博物館に展示させられた奇異なスぺクタルを眺めて楽しんだことを述懐しているような、妙にリアリティを帯びた『リアル』な話。だからこそ、最後の『邪眼』には物凄い衝撃と充実、感動を受けた。本当に、特に後半の話からは、時間を忘れて幻想を彷徨していたように感じる。

    特に好きな話を5つ、私が挙げるとするなら、『地下街』、『チッペンデールの寝台、もしくはロココふうな友情について』、『蘇るオルフェウス』、『薔薇の夜を旅するとき』、『邪眼』だ! たまらん、最高!
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    ♣《『悪夢の骨牌』★5》
    幻想文学の金字塔、とらんぷ譚のクローバーに相当する今作の名は『悪夢の骨牌』である。『幻想博物館』と同様に連作短編として物語が動いていく。――ゴシック風の豪奢な洋館にて藍沢家の婦人、令嬢を中心に催されるサロンから、いささか突飛とも言える「戦後」の展開を踏み、やはり最後はどこか戸惑いながらも惹かれずにはいられない読了感を迎える。泉鏡花文学賞受賞作。

    個人的には、『幻想博物館』より難解で、時代的背景も掴みにくく(それは私の頭が悪いからである)、幻想というよりは「地」と「異界」の反転に翻弄され、ぐるぐると彷徨っていただけのようにも思える。しかし、四章に区切られたうちの二章「ビーナスの翼のこと並びにアタランテ獅子に変ずること」の話はどれも琴線に触れ、殊に「大星蝕の夜」は定期的に読みたくなるくらいお気に入りになっている。馨しき令嬢の柚香の欲望の好餌になってゆく男たちの翻弄ぶりが、そしてなによりもサロメじみた柚香の云為がコケティッシュで魅力的なキャラクターになっている。

    ところが、第二章から先の展開は、今までの流れから考えると、いささかの崩壊を見せ始める。今まで向けられていた夢魔の館は何処へ・・・次々と展開される「戦後」に「時間旅行者」、「戦後史の原っぱ」・・・・・・・と、その突飛さに最初は困惑した。ここの部分は読了後もまだよく分かっていないフシがあるが、解説で種村季弘が述べている通り、さながらそれは螺旋階段というか、エレベーターというか、ぐるぐるぐるぐると回ったり、上がったり下がったりと、その「地」と「異界」の変化に困惑し、不可能をこれでもかと押し付けてくる。が、それが中井英夫の小説の醍醐味であり、魔術であるらしい・・・・・・。この不可能を楽しめる余裕は、読書中の私にはあまりなかったかもしれない。

    ただ、中井英夫がとらんぷ譚の中に手放しに「戦後」のノスタルジックを織り交ぜたのに、今作の文学的価値があると思う。『彼方より』は未読なので、彼の戦争に対する思いを改めて知った時、私の中で『悪夢の骨牌』は再び驚くべき反転を見せてくれるのかもしれない。
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    ♥《『人外境通信』★4》
    人外(にんがい)。
    それは私である。


    幻想文学の金字塔的存在、中井英夫『とらんぷ譚』の三巻目である。ハートのこの巻は、『人外境通信』と命名されているが、これは江戸川乱歩の長編小説、『孤島の鬼』の中の「人外境便り」の章へのオマージュなのだろうか、とまず考えてしまう(実際、創元推理文庫版の『孤島の鬼』の解説文には、中井英夫の名前がある)。しかし、あくまでこの感想には関係がないので、ひとまず疑問のままにしておこう。

    感想としては、個人的大満足の『幻想博物館』にはやや劣るが、それでも幻想的で馨しい薔薇の馥郁たる香りが感じられる、やはり圧巻としか言いようがない珠玉の短編たちだと思う。連作小説みも薄れてはいるが、だからこそ却って際立つ薔薇への執着が美しい。

    そう、やはり『人外境通信』で際立ち、私を恍惚とさせたのが、中井英夫の「美少年✖️薔薇」の掛け算であろう。ここから連想されるのは山本タカト氏の平成耽美画や、皆川博子氏の小説『薔薇密室』であるが、ことに『薔薇の縛め』『薔薇の戒め』は素晴らしい! 同じ「薔薇」シリーズなら、個人的には『薔人』で見せたような、美しさと醜さの同居、中井英夫本人の胸中を披瀝したような大胆な作品はものすごく好みだった。全編を通して特に好きな話は『薔薇の縛め』、『扉の彼方には』、『薔人』だ。

    小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない──こう述べる中井英夫の神髄をとくと見せられた作品の一つに、『人外境通信』があるのは間違いない。
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    ♦《『真珠母の匣』★4》
    幻想文学の金字塔的存在『とらんぷ譚』も、ダイヤにあたるこの『真珠母の匣』にて、名残惜しくもついに完結である! 著者中井英夫のキャリアで最も有名なのは長編アンチ・ミステリ『虚無への供物』であるけれども、『幻想博物館』に始まる『とらんぷ譚』という短編傑作も忘れてはならないだろう。事実、ジョーカーも含めた54の短編を読んでみて私が感じるのは、短編こそ中井英夫の文学の真骨頂であり、その世界観が凝縮された傑作ばかりであった(中井英夫本人も短編という形式が好きだと語っているし)。

    さて、ダイヤの本書は、クラブにあたる『悪夢の骨牌』の構成同様、戦前と戦後の対比、その風景、「戦争とはついに何だったのか」を強く問う、短編連作というよりは一種の長編に近い作品になっていた(殊に『死者からの音信』、『絶滅鳥の宴』に顕著である)。そのため、テーマが一貫していたこともあり、比較的読みやすく業の深い雅馴な文章に浸りやすかったように思う。長編に近いと書いたが、短編によって細々と区切られながらも長編を完成させているのはいかにも『虚無への供物』的だと言えるし、その文体も腐るどころか燦爛とさえしている。

    ただ、これを「幻想小説」とするのかは、個人的には判断が難しくもあった。『真珠母の匣』の短編には所謂『幻想博物館』で見せたようないかにも幻想小説、と呼べるような作品は少なく、「戦争とはついに何だったのか」という主張が出すぎているように感じられなくもない。そのような個人的な考えによれば、『とらんぷ譚』における最高傑作はやはり澁澤龍彦と同じく『幻想博物館』になるのだろうが、『真珠母の匣』に収録されている短編は、ほかのどのエピソードよりも言葉の美しさ、重み、メッセージ性が秀でていて、圧巻なのだ。単純な形而上的、非現実な面白さも幻想小説にはあるが、ここでは新たな意味での幻想表現という点において、幻想文学の金字塔としての存在感があるのかと思った。

    また、ジョーカーにあたる二作が、今までの作品を凌駕しつつある程の面白さだったと思う。就中『幻戯』の終わり方は最高としか言いようがない。他にも『真珠母の匣』で印象深い作品は『死者からの音信』、『絶滅鳥の宴』だと思う。

    いよいよ読み終えてしまった『とらんぷ譚』。『幻想博物館』の衝撃に始まり、とても充実した幻想世界の彷徨を楽しめました! 小説は天帝に捧げる果物、一行でも腐っていてはならない――この読書経験は、私にとって決して忘れがたいものになりました。
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  • アンソロジーにも多く採用されている作品もあり、佳作揃いの『幻想博物館』。妖しい母娘に魅入られた人びとが時間のなかを彷徨う『悪夢の骨牌』。〈人外〉を名乗る語り手が渉猟した物語たち『人外境通信』。老いを感じつつある三姉妹が予言に導かれて新たな恋に出会う『真珠母の匣』。連作短篇シリーズをトランプの4つのマークになぞらえ、ジョーカーとして「影の狩人/幻戯」を加えて、カードと同じ54の物語で構築された絢爛たる世界。


    再読のはずなんだけど、『悪夢の骨牌』の内容を『人外境通信』だと思い込んでたり、『真珠母の匣』を読んだ記憶が一切なかったりした。読んだはずなんだけど……。
    一話ずつの完成度が高いのは『幻想』。どの話にもオチがついていて、それが軽くヒョイと捻っただけ、という風情がカッコいいのだ。文章もこの頃が一番美文調とエンタメ性の調和がとれているのではないかと思う。
    でも『悪夢』の「大星蝕の夜」「ヨカナーンの夜」辺りも倉橋由美子じみてて好きだし、『人外境』の「鏡に棲む男」「扉の彼方には」はミヒャエル・エンデの『鏡の中の鏡』収録作みたいだし、〈戦後〉というこの作家のオブセッションが作品とよく溶け合っているのは『真珠母』だと思う。『真珠母』は女性観が三島に近く、心地よいノスタルジアを感じた。
    一番好きなのはジョーカーとして収録されている吸血鬼譚「影の狩人」。綺羅綺羅しいペダントリーを散りばめて、誘惑する者とされる者の迂遠な合言葉が明かされるまでの待ちぼうけの時間をこんなに甘美に書ける人はやっぱりいない。

  • 2021.09.19

  •  『 虚無への供物』も難解であったが、『とらんぷ譚』も勝る劣らず難解である。レビューを拝見するとスラスラとコメントをしている方々は著者のコアなフアンなのだろうか。わたしはフアンにはなれない。改めてそうおもう。

  • 中井英夫の傑作連作短編集。
    『虚無への供物』と共に今まで読んだ小説の中で最高小説!

  • 『虚無への供物』と共に最高傑作短編集!

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著者プロフィール

中井英夫(なかい ひでお)
1922~1993年。小説家。また短歌雑誌の編集者として寺山修司、塚本邦雄らを見出した。代表作は日本推理小説の三大奇書の一つとも称される『虚無への供物』、ほかに『とらんぷ譚』『黒衣の短歌史』など。

「2020年 『秘文字』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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