毒入りチョコレート事件【新版】 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M ハ 3-1)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488123055

作品紹介・あらすじ

ロジャー・シェリンガムが創設した「犯罪研究会」の面面は、迷宮入り寸前の難事件に挑むことになった。被害者は、毒がしこまれた、新製品という触れ込みのチョコレートを試食した夫妻。夫は一命を取り留めたが、夫人は死亡する。だが、チョコレートは夫妻ではなく他人へ送られたものだった。事件の真相や如何に?会員たちは独自に調査を重ね、各自の推理を披露していく-。

感想・レビュー・書評

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  • 111108さんの「偶然の審判」への言及に触発されて。
    『第二の銃声』は読んだことある気がするけど、こちらは初読。

    小説家、兼素人探偵ロジャー・シェリンガムが立ち上げた犯罪研究会の面々が迷宮入り寸前の事件を題材に探偵演習。
    ロンドンの”レインボークラブ”の会員であるベンディックス氏の妻が、元々は別のクラブ会員ペンファーザー卿へ送られてきた毒入りチョコレートを食べ死亡した事件の真相を推理する。

    一週間の間、銘々が調査し推理した結果を一夜一人ずつ全員の前で披露していくという極めて限定的空間で繰り広げられる思考実験の応酬。
    ああ、これが多重解決の”型”なんだなぁと。

    ところどころにまどろっこしい理屈のこね合いはあるにはあるが、各人の見せる解決のパターンの多様さや最後に用意されたオチなんかは、最初に聞かされた比較的シンプルな事件のあらましから良くここまで万華鏡的展開を作り出したなぁと感心。
    「偶然の審判」でさらに別解があることにも興味深し。

    • 111108さん
      fukayanegiさん おはようございます。
      こちらにもおじゃまします!

      『偶然の審判』は短編として起承転結がすっきりとして楽しかったで...
      fukayanegiさん おはようございます。
      こちらにもおじゃまします!

      『偶然の審判』は短編として起承転結がすっきりとして楽しかったですし、この『毒入りチョコレート事件』はfukayanegiさんのレビュー通り思考実験の応酬でまどろっこしさもあるけど、それを楽しむ物語だと思います。
      両方とも私には納得できる真相でしたので、読み比べ楽しんでください♪
      2022/10/02
    • fukayanegiさん
      111108さん

      こちらにもコメントありがとうございます。
      『偶然の審判』収録のアンソロジー、図書館で見つかるかなぁ。
      こちらを知...
      111108さん

      こちらにもコメントありがとうございます。
      『偶然の審判』収録のアンソロジー、図書館で見つかるかなぁ。
      こちらを知っていると俄然楽しそうなので探索してみます!
      2022/10/02
    • 111108さん
      fukayanegiさん

      図書館にあるといいですね!乱歩編なのであるような気がします。
      fukayanegiさん

      図書館にあるといいですね!乱歩編なのであるような気がします。
      2022/10/02
  • 今までスルーしてきた名作を読もうかと。恩田陸さん推薦の帯見て即購入。「これは『毒入りチョコレート事件』だね」の意味がわかってとても嬉しい!はじめは訳がまわりくどく読みづらい感じがしたが、後半は推理合戦が面白くて一気に読んだ。

  • 『真実はいつも一つ』と言う探偵がいる一方で、自分の高校時代の恩師は『事実は一つでも、真実は人の数だけある』と話していました。現実世界の真実と、ミステリという虚構の中の真実は、言葉は同じでも似て非なるものなのだなあ、と思った記憶があります。

    『毒入りチョコレート事件』に登場する「犯罪研究会」の面々が挑むことになったのは、警察もさじを投げたチョコレートによる毒殺事件。会員たちはそれぞれが独自に調査を重ね、一人ずつ推理を発表していきます。

    『名探偵コナン』で小五郎が、麻酔銃を撃たれる前に推理を披露して、目暮警部や容疑者たちに散々ツッコミを入れられ、タジタジになったりヤケになったりするのが割と好きです。事件の都合のいい部分だけを推理に組み込んだり、思い込みが激しかったり。
    それでもパッと聞く分には辻褄が合っているようにも感じる。そこからコナンが眠らせて、真の推理が始まり「なるほど」となるのがだいたいのパターン。

    犯罪研究会の面々の推理も、パッと読む分には筋道が通っているように思えます。でもちょっと考えると「物的証拠なくない?」だとか「容疑者のこと嫌い過ぎてない?」だとか、色々ツッコミどころが出てきます。そして次の会員の推理で「なるほど」と思ったら、それもよくよく考えると、何かが足りなくて……

    そしてようやく良い推理が来たと思ったら、証言者が「会員が必死そうだったから」だとか「ここで話を合わせておけば、自分の店の商品を買ってもらえるかも」といった理由で、嘘の証言をしてそれによって推理の根本が崩れ去ったときは、ちょっと笑ってしまいました。

    そんなんやられたら、ミステリ成立せんがな……。でも一方で、ミステリのロジックというのは、そんなこと一つで瓦解してしまう、もろいものだということが明らかになるのです。

    警察、そして犯罪研究会のメンバーそれぞれの推理は、見事なまでに分かれます。そして最後を飾る推理を披露するチタウィック氏は、各人それぞれの推理や、思考法を表にまとめます。これを見るとまた面白い。

    それぞれの探偵の個性や考え方、事件のどこに重点を置くかで、一つの事件がこうも見方が分かれるかと、ある意味感心してしまいました。そしてそれはまさに、高校の恩師が言っていた『真実は人の数だけある』なのです。ミステリの抱えた現実との乖離、そして限界をこのミステリは明らかにするのです。

    こうやって考えると、今の本格ミステリはよくやってるなあ、と思います。嵐の孤島もので探偵はまずは絶対に外部犯の可能性を潰します。
    ミステリ小説を読んでる人間からしたら、嵐の孤島もので外部犯なんて興ざめなことはないだろう、と毎回思います。それでも、その可能性はきちんと作品内で探偵が否定しておかないと、ミステリはただの屁理屈をこね回し、現実から目をそらした都合の良い小説になってしまうのです。

    『人の数だけある真実』ではなく『たった一つの真実』のために。そしてほんの少しの刺激で方向が変わり、崩れてしまう緻密なロジックを組み立てるため、ミステリはどうあるべきなのか。『毒入りチョコレート事件』は、そんなことを後世に考えさせたアンチミステリなのかもしれないです。

    • 地球っこさん
      とし長さん、こんにちは。

      『毒入りチョコレート事件』は、恩田陸さんが影響を受けたミステリとして紹介されていたので、いつか読んでみたいな...
      とし長さん、こんにちは。

      『毒入りチョコレート事件』は、恩田陸さんが影響を受けたミステリとして紹介されていたので、いつか読んでみたいなと思っています。
      とし長さんのレビューのおかげで、ますます気になってきました(*^^*)

      さて、小五郎のおっちゃんの“迷”推理も、ミステリを成立させる上では必要不可欠な場面だったんですね。
      わたしもぼーと観てないで、ひとつひとつ潰しにかかっちゃおう。

      ミステリが屁理屈をこね回した都合の良い小説になったら、それはそれはガッカリですもの。


      2020/05/26
    • 沙都さん
      地球っこさん、コメントありがとうございます。

      恩田陸さんが影響を受けられた作品だということは、初めて知りました。

      『毒入りチョコ...
      地球っこさん、コメントありがとうございます。

      恩田陸さんが影響を受けられた作品だということは、初めて知りました。

      『毒入りチョコレート事件』は地球っこさんのコメントにあったように、一つの解決に対し潰しにかかった結果、回答が何通りも生まれてしまったミステリなのかもしれない、と思いました。

      だから、今の本格ミステリは長々と解決シーンを描いてでも、他の可能性を排除して、バークリーや自分や地球っこさんのような(?)読者に皮肉られないような作品を目指しているのかもしれないですね。

      ロジックが積み上げられ、たった一つの真実が立ち現れる瞬間。その影には、何者も寄せ付けないよう、本格ミステリ作家の努力と知恵が詰まっているのだなあ、と感じました。
      2020/05/26
  • 古典の名作。
    紳士淑女のための限定された推理倶楽部の会員たちが、日替わりで自分の推理を述べてくので、探偵小説の醍醐味であるクライマックスが6度も楽しめる。
    これはなかなか探偵小説を読む人への挑戦とも言える試みではないかな。ただ探偵役の推理を鵜呑みにするのではなく、その実証性や証拠の有用性を検証することが、冤罪や間違った推理を見破ることになる。

    各探偵たちの得意げに述べる推理が楽しくて、状況証拠でしかないような根拠で推理を進めていても、そうなのかー!じゃあそいつが犯人なんだな!って毎回思ってしまうからおもしろい。
    誰かに話したくなるような推理小説であると思う。

  • 犯罪研究会の6人が順番に毒入チョコレート殺人事件の犯人を推理していく。訳が私にはまわりくどく感じて、なかなか話に入り込めず、読み終えるのに1週間くらいかかってしまった。一晩に1人ずつ推理を披露していくうちに、だんだんと真相に近づいていき、ドキドキ感はあったものの、面白かった!まではいかず。もし今後別の翻訳が出たらもう一度読んでみたい本ではあるかな。

  • クラブの顔見知り、ユーステス・ペンファーザー卿に届いた箱入りチョコを偶然譲り受けたベンディックス氏。 ところが、大量に食べた彼の妻は死亡し、数粒食べたベンディックス氏はなんとか一命をとりとめる重体に。
    チョコレートにはニトロベンゼンが混入されていた。
    ベストセラー作家のロジャーは名探偵的人物だけで組織された「犯罪研究会」の六人を集め、迷宮入りしそうなこの事件の謎を解くことを提案。
    六人それぞれが推理を披露するが。

    かなり昔、児童向けの本(何かの付録?)で読んだことがあったはずなんだけど、かなりはしょられてたなー。
    1929年作なので、言い回しや当てこすり表現が難解で、ここのところライトな本ばかり読んでいたので読むのに時間がかかり、何度も睡魔に襲われる。。。
    事件はとてもシンプルなのに、推理が始まるとどんどん人間関係が複雑になっていく。推理する側の6人の人間性も見えてきてニヤニヤ。
    最後はあっさりばっさりと終わるのも、不思議な余韻を残す。楽しいー!

  • 多重解決の先駆けということで、発表当時はすごく衝撃的だったろうな…
    今やなんでもミステリと言えるくらい多様化した今からは、その衝撃度合いが羨ましい。
    とてもシンプルな事件から、6通りの推理が展開されるんですが、今もってなお、7つ目8つ目の解決アプローチが考え出されているとは。
    作者の恣意によって、解決なんて如何様にも、というのは今更ながら目からウロコ。

  • なるほど、これが多重解決。
    ミステリーの古典をやっと図書館で借りて読了。
    しかしやはり昔の文章だからなのか?それとも海外の言い回しだからか?
    独特な例え話とか、同じことをタラタラとずっと発言してたりがもどかしく感じてしまい、斜め読みしてしまった。
    話は面白かった!
    これを元にした多重解決ものがたくさんあるということなら、他にも読みたくなった。読みやすい多重解決求むー!

  • 連夜、各々の推理を順番に披露していくという設定が面白い。
    ただ、そこで提示される推理に個性がなく、読み応えがない(ただし途中の「いくつかの条件を満たすのは自分しかいない!犯人は私だ!」は傑作だった。こういった‪”‬個性‪”‬が全員にあると良かったのだが)。精鋭の集団らしいのだが、各々の推理はあまりに杜撰でみな蓋然性しか示さない。「探偵が収集した以外にも手がかりがある場合、推理の正当性は揺らぐ」という問題を作中でも指摘しているが、そもそもの推理が杜撰すぎて、本作を通してその問題について提起できているとは思えない。
    また隠し球的存在であるトリのチタウィック氏の推理までも他の人達と似たり寄ったりなので煙に撒かれたような印象を受ける。それだったらいっそのこと「私は偶然良心の呵責に耐え兼ねた犯人から告白を受けたんです」みたいなユーモアのオチの方が良かっただろう。

  • クリスティのミス・マープル・シリーズを読み返している関係で、同時代のクラシックをもう一冊と思って読み返す。1964年「カリブ海の殺人」がキャラクター造詣も鮮やかで一編の小説としても十分に読めるのに対し、1930年「牧師館の殺人」はそれほどでもなかった。ほぼ同時代に発表された1929年「毒入りチョコレート事件」も同様で、キャラクター造詣よりも推理の構成に重きを置いた実験小説といった趣きが強い。しかし、この「探偵推理カタログ」とでも言うべき「毒入りチョコレート事件」が純粋な犯罪パズル時代の頂点(というか限界)を示したお陰で、ミステリー小説と言えども徐々に人間描写に重きを置く時代へと移っていくのであろう。

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