夏を殺す少女 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (460ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488160050

作品紹介・あらすじ

酔った元小児科医がマンホールで溺死。市会議員が運転をあやまり事故死。一見無関係な出来事に潜むただならぬ気配に、弁護士エヴェリーンは深入りしていく。一方ライプツィヒ警察の刑事ヴァルターは、病院での少女の不審死を調べていた。オーストリアの弁護士とドイツの刑事の軌跡が出合うとき、事件が恐るべき姿をあらわし始める。ドイツでセンセーションを巻き起こした衝撃作。

感想・レビュー・書評

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  • オーストリアのミステリを初めて読みました。
    ドイツ語圏で数々の賞を受賞している人気作家のセンセーショナルなヒット作。
    アンドレアス・グルーバー日本初紹介です。

    オーストリアの若手女性弁護士エヴェリーンは、単なる事故と思われた事件を調べていくうちに、別な事故死現場に同じ少女がいたという不審な事実に気がつく。
    一見、何の関係もなさそうな事件だったが、私立探偵のパトリックと共に調べていくと‥?

    一方、ドイツでは、ライプツィヒ警察の刑事ヴァルターが病院での不審死の調査を始めていた。
    中年のヴァルターは、5年前に妻をなくして幼い娘を育てるために、定時に帰れる地方警察の仕事に移った男。
    ドイツでも警察官の間で格差があるらしく、州刑事局の若造に軽く扱われたりするが、実は殺人事件の捜査経験も豊富で、粘り強く仕事ができるプロなのだ(笑)

    二人の捜査が交錯する時、事件の全容がしだいに明らかに。
    背景はヨーロッパ的な陰惨さを感じさせますが‥
    テンポよく場面が変わる展開で、意外性もあって読ませます。
    若々しいエヴェリーンの勇気ある行動と、しぶといヴァルターの地道な捜査が効果をあげていくのが小気味いい。
    それぞれに胸に秘めた過去がある二人。
    悲痛な思いを乗り越えていくところも、読む者に希望を与えてくれます。

  • あぁ面白かった。終盤は読む手が止められず一気読み。少女たちの気持ちに胸が苦しくなる。でも点と点が繋がって行くのはとても興奮した。

    ふたりの主人公がなんだかとても好きだな。彼らの最後が未来を感じる明るい結末だったことが、救いのように感じた。

  • オーストリアミステリーは、初めて読んだが、なかなか面白い。
    過去に起こった事件が胸糞が悪いのと、人物のキャラをつかむのに時間がかかった。弁護士がドイツへ向かってからは、読むスピードが上がった。
    オーストリアは、旅行したことがあったので、記憶を頼りに風景を思い描いた。
    セールじゃなければ出会わなかった本かもしれないが、いいきっかけになったと思う。この著者の別の本も読んでみようという気になった。

  • オーストリアの作家「アンドレアス・グルーバー」の長篇ミステリ作品『夏を殺す少女(原題:Rachesommer)』を読みました。
    オーストリアの作家の作品は初めて読みましたね… この前まで読んでいたドイツミステリと同じドイツ語圏なのですが、この作品を読んだ限りではオーストリアミステリの方が好みかな。

    -----story-------------
    酔った元小児科医がマンホールにはまり死亡。
    市議会議員がエアバッグの作動で運転をあやまり死亡。
    一見無関係な事件の奥に潜むただならぬ気配に、弁護士「エヴェリーン」は次第に深入りしていく。
    一方ライプツィヒ警察の刑事「ヴァルター」は、病院での少女の不審死を調べていた。
    オーストリアの弁護士とドイツの刑事、ふたりの軌跡が出会うとき、事件がその恐るべき真の姿を現し始める。
    ドイツでセンセーションを巻き起こした、衝撃作登場。
    訳者あとがき=「酒寄進一」

    *第9位『IN★POCKET』2013文庫翻訳ミステリーベスト10/読者部門
    *第17位(新人賞第4位)『ミステリが読みたい!2014年版』海外編
    *第20位『週刊文春 2013年ミステリーベスト10』海外編
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    2011年(平成23年)に刊行された作品… 「アンドレアス・グルーバー」は、元々はホラーやSF作品を得意としていた作家のようですが、この作品のちょっと前くらいからミステリ作品も手掛けるようになったみたいです、、、

    ふたつの国で起こったふたつの事件、それを追う二人の人物… 二人の視点で目まぐるしく場面が変わり、その変わり目に事件の鍵が巧く埋め込まれていて、どんどん先が読みたくなり、惹きつけられる展開と、魅力的な二人の主人公が印象的な作品、面白かったです。


    ウィーンの弁護士「エヴァリーン(リニー)・マイヤース」は、少女時代に妹「ザンドラ」とともに誘拐・監禁され妹が命を失ったというトラウマを抱えていた… 彼女はマンホールに落ちて溺死した元小児科医「ルドルフ・キースリンガー」の事故の調査と、勤務先の弁護士事務所の共同経営者で先輩弁護士「ペーター・ホロベック」がマンションのベランダから墜落死した事故に奇妙な一致点を見出す、、、

    さらに「エヴァリーン」は、勤務先の弁護士事務所の経営者「クラーガー」の息子で私立探偵の「パトリック」の協力を得て、真相を探るうち、山道の運転中にエアバッグの作動で運転を誤り死亡した「ハインツ・ブランゲ」の事故にも関連性を見出す。

    ライプツィヒ刑事警察の刑事、喘息持ちでヘビースモーカーの「ヴァルター・プラスキー」は、妻の「カーリン」を病気で亡くし、娘の「ヤスミーン」を男手ひとつで育てている… 彼は入院中に自殺したと思われた少女「ナターシャ・ゾマー」の死に不信を抱き、捜査を進めるうちに同じ病院で入院していた少年「マルティン・ホルナー」が不審死していたことを知る、、、

    さらに「ヴァルター」は、同じ境遇の少年「ゼバスティアン・ゼンメルシュレーガー」が別な病院で不審死したことや、同じ病院に入院していた少女「レーシャ・プロコポヴィチ」が命を狙われる場面に遭遇し、彼らにの過去に共通するオックセンツォル精神病院へ向かう… 「エヴェリーン」も豪華クルーズ船フリートベルク号の10年前のツアー客名簿等の手掛かりから、事件に共通して登場する謎の少女が事件の鍵を握ると推理し、少女が入院するオックセンツォル精神病院へ向かっていた。

    入院している少女「リザ・グルジエフ」を護ろうとしている「ヴァルター」と、犯人として追う「エヴェリーン」の真逆の見解を持つ二人… オックセンツォル精神病院でふたつの軌跡はひとつとなり、別々と思われた事件が、ひとつの輪となって繋がっていく、、、

    二人がお互いの情報を交換し、徐々に恐るべき事件の真相が明らかになってきますが、ここからの展開も一筋縄ではいかず、なかなか愉しめる展開でしたね… ここからエンディングまでは一気読みでした。

    「ヴァルター」と「エヴェリーン」は、いずれも正しいと思う方向に向かい猪突猛進型で突き進むキャラで好印象でした、、、

    読後に冷静に考えると、年寄りとか細い女性が、この犯行が実行できたのか… という面では、ちょっとご都合主義を感じる部分もありましたが、読んでいるときは全く気になりませんでしたね、面白かったー


    以下、主な登場人物です。

    「エヴァリーン(リニー)・マイヤース」
     ウィーンの弁護士

    「パトリック」
     私立探偵

    「クラーガー」
     弁護士。エヴァリーンのボス

    「ペーター・ホロベック」
     弁護士。クラーガーの共同経営者

    「エドワード・ホキンスン」
     フリートベルク号の船主

    「グレータ・ホキンスン」
     エドワードの娘

    「ルドルフ・キースリンガー」
     引退した小児科医

    「ハインツ・ブランゲ」
     ミュンヘン市会議員

    「パウル・シュモレ」
     引退した船長

    「アルフォンス・ボルテン」
     元少年裁判官

    「リザ・グルジエフ」
     入院している少女

    「マヌエル」
     リザの弟。故人

    「ジュビル・ヴォスカ」
     リザの友だち

    「ヴァルター・プラスキー」
     ライプツィヒ刑事警察の刑事

    「ヤスミーン」
     ヴァルターの娘

    「ホルスト・フックス」
     ライプツィヒ刑事警察の課長

    「ナターシャ・ゾマー」
     病院で死んだ少女

    「マルティン・ホルナー」
     病院で死んだ少年

    「ゼバスティアン・ゼンメルシュレーガー」
     病院で死んだ少年

    「レーシャ・プロコポヴィチ」
     入院している少女

    「ゾーニャ・ヴィルハルム」
     ナターシャの心理療法士

    「コーラー」
     検察官。ゾーニャの元夫

    「クラウス・ヴィンターエッガー」
     ザクセン州刑事局の刑事

    「ラース・ゴタイニク」
     ザクセン州刑事局の刑事

    「コンラート・フォベルスキー」
     ブレーマーハーフェン病院の内科医長

  • オーストリアの作家が主にドイツを舞台にして描いたミステリで、児童虐待という重い主題を扱いながらもスピーディーな展開で読ませる秀作。謎解きの要素は薄く、サスペンスを主軸とした捜査小説で、飾らない文章は実直な著者の人格を表しているようだ。
    主人公は、やさぐれてはいるが経験豊かな中年男と、才気煥発だがまだまだ未熟な女性という二人。定石の設定ではあるが、中盤辺りまで別々に物語が進行するため、余分なやりとりが発生せず、くどさがないのが良い。真相が明らかとなる要所で二人の追跡行が交差するさまも自然だ。

    オーストリア在住で経験の浅い弁護士ヴェリーンは、元小児科医や市会議員らが連続して不可解な状況下で事故死した案件を調査していた。一方、ドイツ/ライプツィヒ警察の刑事ヴァルターは、精神病院入院中の少女らが相次いで不審死を遂げている事件を捜査していた。二人は、丹念な観察力と鋭い直感力によって、隠された事実への足掛かりをつかんでいく。だが、いまだに双方での殺人は続いていた。やがて、過去に小児性愛好の金満家らに拉致され、集団で虐待/性的暴行を受けた孤児らの存在が浮かび上がる。或る一点で結びついた謎解明の手掛かり。宿命的に二人は出会い、志を共有し、行動を共にする。

    立ち位置が入れ替わる加害者と被害者。卑劣な犯罪者と哀しい復讐者の実像。果たして、狂っているのはどちらか。ヴェリーンとヴァルター、それぞれの視点で見つめる深層は、悲劇的で残酷性に満ちたものだ。

  • 次々と場面が変わり、時間の流れも前後するので、
    話についていけるのか心配なぐらいだったが、
    場面の長さが短めで、
    主人公の刑事と弁護士の決断と行動の速さが
    心地よくそのスピード感を楽しめた。

    二人の主人公、リニ―弁護士とヴァルター刑事がそれぞれの事情を抱えながら、
    それぞれの事件を二方向からつき進んでいくのは面白かった。
    サイドストーリーの恋愛話もよかったし。

    贅沢を言わせてもらえば、
    もうちょっとくどく長く作り込んでもらいたかったかな。
    それと、ヴァルター刑事が救急車で運ばれそうになりながら、
    リニ―弁護士に恋愛のアドヴァイスをするシーンはもうちょっとかっこいい台詞にしてあげてほしかった。

  • [怨根の行く末]元小児科医がマンホールに落下して死亡。市会議員が運転ミスで死亡。そして、精神を患った少女が自らの体に薬物と酒を投与して死亡。一見無関係に見える事件をそれぞれに追っていた弁護士のエヴァリーンと刑事のヴァルターは、それぞれに事件の裏に隠された更なる闇に気付き始めるのであるが......。完成度の高さからドイツやオーストリアで高い評価を受けたミステリー。著者は、オーストリアミステリーの一翼を担うアンドレアス・グルーバー。訳者は、ドイツ文学の翻訳家である酒寄進一。


    純粋に、純粋に面白かった。割と細かい文字で400ページ超を数える作品なんですが、そんなことがまったく気にならないほど本書の世界に没頭させてもらいました。とにかく謎を明かすテンポと視覚的に訴えてくる描写の鋭さにやられっぱなし。オーストリアミステリーも本著者の作品も初めてでしたが、これは棚からぼた餅的にイイ本に巡り会うことができました。


    ストーリーを引っ張っていく主人公のエヴァリーンとヴァルターのキャラクター設定もこれまたお見事。特にヴァルター刑事の「足で稼ぐ」刑事っぷりには読者として応援を送りたくなります。登場人物に意識を重ね合わせながら謎解きを楽しみ、それに加えてその流れを視覚的に堪能できる……。ミステリーを読むのは結構好きなんですが、これはその中でも幅広い方にオススメできます。

    〜「なにか問題が起こるというんですか?」
    「わからない。しかし今回の事件では問題ばかり起こっているからな」〜

    映像化希望☆5つ

  • オーストリアの作家アンドレアス・グルーバーの本邦デビュー作。一気読み必至の佳作。
    なんでもない事故のために窮地に陥っていた叔父を助けるために、その案件に関わっていたエヴェリーンは、同じようになんでもない事故だと思われていた案件にも同じ少女の姿が映っている映像があることに気づく。
    一方、精神病院に入院歴のある子供が自殺している案件で不審な注射の後を見つけ、殺人ではないかと疑いを持ったヴァルターは、その犯人の後を追うように捜査を始める。
    一見、なんのつながりもない事故、あるいは自殺にまつわる、二人の視点で物語が展開する。いずれも心に傷を持ち、一方では真実のために脇目も振らない活躍をする。エヴェリーンなどは弁護士のくせに、家宅侵入と窃盗まで行って証拠を集めようとする。褒められたものではないが、その探究心と行動力には脱帽させられる。
    複雑に絡み合った物語がやがてひとつの大きな流れに収斂していき、そこから先を予想できない展開に入っていくあたり、ドイツ語圏で数々の賞を取っているという作者の力量が垣間見える。その作者のスピーディ且つ読者を引きつけてやまない物語を、これまた非常に読みやすく、ページを繰る手を止めさせないような臨場感溢れる筆致で訳された訳者の仕事もすばらしい。同じ作者・訳者が手がけた「黒のクイーン」も是非読んでみたいところだ。

  • 一見無関係に思えた二つの事故の影に同じ少女の姿があるのに気がついたオーストリアの弁護士エヴェリーンは独自に事件を調べ始める。
    一方、病院での少女の自殺に疑問を抱いたドイツの刑事ヴァルターは独断で捜査を始める。
    やがて二人は一つの事件へとたどり着く。

    人物像形は平凡。オチも良くあるもの。
    正直、この手の話はちょっと食傷気味なんだよなぁ。
    どうせならもう少し犯人がなぜそうなったかにページを割いて、話に説得力を持たせたらよかったのに。
    それでも二人が出会う辺りではおっ!と思った。
    それまでは場面転換があまり上手くなく、読み逃したと思ってページを戻ったりしたので、それがなくなるだけでもストレスなく読み進めることができるようになったしw
    いろいろ悪くはなかったけど、面白いかと言われたらちょっと首を捻るかな。

  • (No.13-16) ミステリです。

    内容紹介を、表紙裏から転載します。
    『酔った元小児科医がマンホールにはまって死亡。市会議員が山道を運転中にエアバックが作動し、運転を誤り死亡。どちらもつまらない案件のはずだった。事故の現場に、ひとりの娘の姿がなければ。片方の案件を担当していた先輩弁護士が、謎の死を遂げていなければ。一見無関係な出来事の奥に潜むただならぬ気配。弁護士エヴェリーンはしだいに事件に深入りしていく。
    一方ライプツィヒ警察の刑事ヴォルターは、病院での少女の不審死を調べていた。オーストリアの弁護士とドイツの刑事。二人の軌跡が出会うとき、事件がその恐るべき真の姿をあらわし始める。

    ドイツでセンセーションを巻き起こした衝撃のミステリ登場!』

    何人も死んでる事件が、片方は事故死、もう一方は自殺、であっさり片付けられそうになってて・・・・。
    日本でも現実に、保険金詐欺事件などで殺人だということが分かって、さかのぼったら何人も殺されてたという事件がいくつも報道されてますね。
    どこの国の警察でも面倒な捜査はしたくないから、事件じゃなくて事故、殺人じゃなくて自殺、で片付けたいという雰囲気があるのかな?
    エヴェリーンはそんなの弁護士の仕事じゃない、ヴォルターはそれを調べるのは地方刑事の仕事じゃない、とそれぞれの上司から厳しく咎められます。
    でもどうしても納得できないので暴走していく二人。何もなしでこの暴走状態だと違和感があったかもしれませんが、話の合間にちらちら出てくる彼らの過去があるため、自然な流れとして受け入れることが出来ました。

    エヴェリーンとヴォルターの話がそれぞれ無関係のように進んで行き、いつこれが同じ事件になるのかなあと興味津々で読みました。
    だって地続きとはいえ、別の国なのに。ただオーストリアとドイツはどちらも公用語はドイツ語なので言葉の壁は全くありません。
    エヴェリーンが国際電話をかけなければいけなくなったあたりから、いよいよだわ~と期待が高まりました。

    不満というか突っ込みどころとしては、こんなに簡単に殺人って出来るの?っていうことかな。犯人の思い通りにうまく行き過ぎてるんだもの。
    こういう話のパターンとして、出合った二人が協力して危機を乗り越えそして愛が芽生えるというのがあります。今回もそうなのかなと思ってたら、うまく外してくれてなおかつ良い感じだったの。パターンどおりじゃなかったことが逆に良かった!

    悲惨な事件ではありましたが、読後感はそれなりに良かったしとっても面白かったです。

    幅の広いエルベ川、ハンブルグ空港とか、行ったことがある土地のことが出てきてなんだか嬉しかったです。

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