暗い鏡の中に (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488168070

感想・レビュー・書評

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  • 精神科医ウィリング8作目。

    今回は、前にも登場したウィリングの恋人ギゼラが勤める女子寄宿学校に、
    他の先生のドッペルゲンガーが現れるお話。

    その先生が前に勤めていた学校の生徒が、
    今は同僚になっていると判った時点で、
    心霊現象ではないと見切るべきだった。
    殺されてしまったその同僚の元恋人が、
    「貴族的」な柳腰のほっそりとした体形だと書いてあることに
    気がついていたのに。

    ウィリングがどさくさまぎれに、プロポーズして、
    イエスという返事がもらえて良かった。

    印象的だったのは、来客に煩わされないために、
    朝の6時から7時の間だけ、
    来るものを拒まず面会する弁護士。
    共同経営者や秘書がいるからできる技ではあるが、
    なかなかユニークで面白かった。

  • なぜか男だと思っていたヘレン・マクロイ。読めば一発で女性だと分かる文章だった。推理のためもあるだろうが、容姿の描写が凄く細かい。そこまで書かなくてもいいんじゃないの、と思うくらい。ややくどかった。

    内容は、フォスティーナ・クレイルに起こったこと、ほぼそれだけである。それだけを描写して十分一冊の本になる、ということに感心した。あとがきを読んで、もとは短編だったと知り、なるほどな、と思った。

    ミステリー?幻想?と惑わせたいのだろうが、どう考えても○○だろう……と思ってしまったので、ラストは「往生際悪いな~」という感想。

    伏線も文章に書かれたことをそのまま回収するので、現代の小説に慣れているとやや古い感じがして物足りないかもしれない。

    ベイジル・ウィリングがある人物を追い詰めるシーンはカッコよかった。プロポーズの言葉遊びも面白い。

    凄く面白いってわけではないが、他の作品も読んでみたいと思わされた。

  • 私は海外の小説はほとんど読まないので、海外の文学コーナーの棚はいつも素通り。
    でもこの本は何故かパッと目について手にとったところ、裏表紙の作品説明が面白そうなので思わず読む事にしました。
    その作品説明がこちら

    『ブレアトン女子学院に勤めて五週間の女性教師フォスティーナは、突然理由も告げられずに解雇される。彼女への仕打ちに憤慨した同僚ギゼラと、その恋人の精神科医ウィリング博士が調査して明らかになった"原因"は、想像を絶するものだった。博士は困惑しながらも謎の解明に挑むが、その矢先に学院で死者が出てしまう・・・。幻のように美しく不可解な謎をはらむ、著者の最高傑作。』

    久々の海外小説、しかも今まで読んだ事のない作者の本。
    どんなもんだろう~?
    多分読むのにまた時間かかるぞ・・・と思いきや、読み始めると面白くて、先が知りたくて「あっ」という間に読んでしまいました。

    この本の解説にある、女性教師が突然解雇された理由というのは物語の早い段階で分かります。
    分かるんだけど、その理由がどうにも不可解で興味深い!
    そして、最初はオカルトチックな小説・・・?と思って読んでいると、物語の中盤に殺人事件が起こり、ミステリー小説へと様変わりしていく-。
    さらに登場人物のちょっとした言葉がこの不可解な出来事の鍵を握っているあたりは「なるほどね~」と感心しました。
    ラストもすごくいい!
    偶然出会えて良かったという本でした。

    • kwosaさん
      katatumuruさん!

      これ、面白いですよね。

      『暗い鏡の中に』はミステリマニアの間では名作と呼び声が高かったのですが長らく絶版。
      ...
      katatumuruさん!

      これ、面白いですよね。

      『暗い鏡の中に』はミステリマニアの間では名作と呼び声が高かったのですが長らく絶版。
      古書市場ではびっくりするほどの高値がついていた幻の本なのですが、東京創元社さんのおかげで待望の新訳での復刊。
      僕も発売後にすぐ買いましたよ。

      駒月雅子さんの訳文がいいのかもしれませんが ヘレン・マクロイは他作品もなかなかいいですよ。

      あと『暗い鏡の中に』がお気に召したのであれば、ディクスン・カーの『火刑法廷』もチェックしてみてはいかがでしょうか。
      2013/07/15
    • katatumuruさん
      kwosaさん、コメントありがとうございます(^^)

      詳しく教えていただき、参考になりました。
      そうですか。
      一度は絶版になってたんですか...
      kwosaさん、コメントありがとうございます(^^)

      詳しく教えていただき、参考になりました。
      そうですか。
      一度は絶版になってたんですか!
      こんなに良いミステリーなのに・・・。
      日の目を見てホントに良かったです。

      この本を読んで、この作者の本をまた読もうと思いながらそのままになってます。
      他の本も今度、読んでみようと思います。

      ディクスン・カーの「火刑法廷」もまだ読んでません。
      kwosaさんは読み終えてレビューを書かれているのかな?
      今度参考にしようと思います(^^)
      2013/07/15
  • 舞台は主に寄宿制の女子校。身寄りのない教師が巻き込まれた怪奇な現象。とてもゴシックの雰囲気が強いミステリです。
    「血の季節」や「八月の降霊会」の元が分かりました。「幻想ミステリ」という分野がどんなものかも。文中の言葉を借りれば「科学という宗教」の信者ですから、ウィリング博士の説をとりたい。けど読み方としては犯人を信じられた方が面白いと思います。驚きも恐怖もひとしおでしょう。犯人が確定したように思われる状況を作ったと思いきや、さらに深まってしまう謎。プライバシーなんてないに等しく、型に入れられるべく教育される生徒たちの閉塞感。このあたりは面白いのですし、得体の知れない謎はじわじわと恐怖をあおります。ただ、もしホームズがこの謎を解いてくれたらもっと驚かせてくれて、もっと納得のいく答えが出たんじゃないかなと期待してしまいます。

  • 女子学院の女性教師、キャメル色の床にふかふかのラグ、白いカーテン、山桃のエキスの緑色のキャンドル、メイド、料理人、宝石、レモンヴァーベナの香り…などの道具立てや、「フロントガラスのワイパーは一本足のバレリーナが二人並んでいるみたいに、一糸乱れぬ軽やかなリズムを刻み始めた。」などの表現が、実にエレガント。
    霧の中のように幻想的な雰囲気を醸し出しながら、品がある。
    クラシックな気品を持つ。

    突然解雇された女性教師の謎を追っていると、そうなのだ、「固い地面なのか流砂なのかわからずに、どろどろの沼地を歩」いているようなのだ。
    登場人物もそれぞれに個性があるし、謎があって経過があって、理由付けや説明もなされるので、決して曖昧でいい加減なのではない。
    ただ、いつも、実像そのものではなく、鏡に映った姿を見ているような、妖しさが漂っている。

    読後も、その妖しい余韻をひきずる。
    つまり、取り込まれたということか。

  • 理由も告げられず、突然女子校の教師をクビになってしまったフォスティーナ。彼女の友人ギゼラから相談を受けた心理学者のベイジル・ウィリングが校長に解雇の理由を問いただすと、フォスティーナは不可解な怪奇現象の元凶として気味悪く思われているとわかる。そんな折、学校で開かれたパーティーでフォスティーナたちの同僚であるアリスが転落死してしまう。だが、アリスを突き落としたのはそこにいないはずのフォスティーナだと証言する目撃者がいて……。


    怪奇現象VS現代科学。怪奇小説と呼ぶには伏線が見事に回収されるし、推理小説と呼ぶにはホラー色の強い両義的な作品。ドッペルゲンガーの扱いと読後にモヤモヤが残る感触に遠藤周作の『スキャンダル』を思い出したり。いや、あっちとは比べものにならないくらいちゃんとトリックでミステリー的な回収もしてくれるけど。(でもゴム底靴の消音効果に期待しすぎじゃない?)
    この小説が幻想怪奇方面で評価されている理由はよくわかった。開幕のフォスティーナ視点の解雇シーンから秘密が隠された不穏な空気に満ち満ちており、庭で絵を描くフォスティーナを見て女生徒が失神する一連のシーンで幻想味が頂点に達する。しかし学校を追い出されたフォスティーナはその後存在感を失ってしまい、次に実体がでてきたときには死んでいる。ベイジルが調査を進めるうち、フォスティーナに代わって主役の顔を見せはじめるのは、大昔に亡くなった彼女の母ローザ・ダイヤモンドである。
    人生の主役は自分だ、と思えたことがない女性の心理が現実世界に影響を及ぼす。そこに特権的な傍観者として心理学者が関わる。この構図はシャーリィ・ジャクスン『丘の屋敷』と同じであり、自身の介入が暴力であることに気づかぬベイジルの視点で幕を閉じる分、本書のほうがより残酷と言える。マクロイはその点に気づいていて、科学では届かない場所を示唆して物語を終えたのかもしれない。

  • 幻想小説かつミステリを絶妙に混ぜ合わせた作品。不気味な怪現象と、論理的な推理、しかししこりの残る終幕…とてもおもしろかった。

  • 美術の先生のフォスティーナの分身が現れる噂がたち、明確な理由を告げられず解雇される。彼女は前の学校でも同じようなドッペルゲンガー現象が原因で解雇されている。そして、フォスティーナがアリスを殺害する現場が目撃されるが、同じ時間帯に彼女と長距離電話をしているギゼラの証言があり、ドッペルゲンガーは本物ではないかと騒ぎになる。そして、当のフォスティーナも死亡する。

    一連の事件の犯人は、とても意外な人物だ(そうじゃないと面白くないんだけどね)。探偵役のベイジル・ウィリング博士(ギゼラの恋人でもある)がドッペルゲンガーのからくりを見抜いたのは見事だが、残念ながら物証がない。犯人と対峙し、おどおどしい雰囲気のままラストを迎える。ウィリング博士がすべての謎を合理的に説明できたのが見事。いろんな伏線はあったのだが見事に騙された。スッキリしつつモヤモヤも残るが、それが読後感の良さにつながっている。

  • じわじわとした、美しいけれど嫌な雰囲気が全編に漂う幻想ミステリ。あまり予備知識を持たずに読み始めたので。あれ、これってミステリだと思ったけど幻想小説だったの?→いやいや、やっぱりミステリじゃん→え、やっぱり幻想? 解決するのしないのどっち? という心境。どちらに取るかはその人次第ですが、私はこれはきちんと真相を暴かれたミステリではないかと思いました。でないとあまりに怖いし、哀しい物語になってしまうのでやりきれない心地がします。
    フォスティーナの感じる恐怖と孤独感がどうしようもなく淋しくて。こんな状況に置かれたら、たしかに精神的におかしくなっても不思議ではありません。実害はないといえばないんだけど……やっぱり嫌だよねえこんなの。そしてタイトルが表す、ラストで彼女が見たもの……これはたしかにとてつもなくショッキングかも。

  • 米国の大物女流作家ヘレン・マクロイが創造した素人探偵ベイジル・ウィリング博士は、ニューヨーク州検察庁の嘱託精神科医です。ウィリング博士が登場するシリーズは全13作ありますが、1作を除いて全て邦訳されています。この『暗い鏡の中に』は初訳はハヤカワのポケミス時代に出ており、創元推理文庫版は新訳となります。

    全寮制の女子寄宿学校ブレアトンの美術教師フォスティーナ・クレインは理由も告げられずに解雇されます。まだブレアトンに来て半年も経たないというのに。同僚のギゼラは恋人のベイジル・ウィリング博士に話します。ウィリング博士はギゼラのためか、自身の好奇心のためか、独自の捜査を始めます。

    この作品は幻想推理の傑作という評判が高いようですが、怪異現象の謎も含めてほぼ完璧な謎解きをウィリング博士が披露しており、幻想推理というのは違和感があります。

    但し、容疑者がウィリング博士の謎解きを一切認めないという意表を突いた展開になっており、そのため結末が尻切れとんぼのように思えて、あたかも超自然的解釈もあり得ると読者に思わせるようになってます。

    『暗い鏡の中に』は自作の短編を長編化した作品ですが、元の短編とはラストが違っているとのこと。短編の方も読んでみたいと思います。

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著者プロフィール

Helen McCloy

「2006年 『死の舞踏』 で使われていた紹介文から引用しています。」

ヘレン・マクロイの作品

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